最新のトピックスへ Facebook Twitter

スペシャルコンテンツのトピックス

Tweet(ツイート)    

memories.png

 

「匠の記憶」第2回目のゲストは、2月18日リリース、ハイレゾ配信もスタートした工藤静香さんのベストアルバム『MY TREASURE BEST-中島みゆき×後藤次利コレクション』の作曲者・後藤次利さんです。
日本が世界に誇る超絶技巧のベーシスト・編曲家としても高名な後藤さんが、工藤さんの作品、そして自身について語る極めて貴重なインタビュー!
ソニーミュージックのA&Rディレクターとしてレコーディングの現場に携わってきた聴き手がお送りします。

 

goto_photo_01.jpg

後藤次利さん

 


 

全盛期を支えた「黄金コンビ」の名曲ばかりを集めた
スペシャルパッケージ!

My Treasure Best
-中島みゆき×後藤次利コレクション-

通常音源ハイレゾ

 

~後藤さんにCD音源とハイレゾ音源の聴き比べをしていただきました~

「慟哭」(1993年)

「FU-JI-TSU」(1988年)

単・純・愛 vs 本当の嘘(新曲)(2015年)

 


 

■ハイレゾ化によって「音の交通整理」がされた気がする

――本日はお忙しいところありがとうございます。まずは3曲聴いての感想をお聞かせください。まずは、大きな違いみたいなものを、感じられましたか?

後藤 正直もし、酔っ払っていたらわからないくらいの違いですよね(笑)。でも今の中では、最初の曲が一番音が違ってるような気がしたんです……。

――「慟哭」ですか?

後藤 新曲に関しては録音自体が悪くないから、あまり差がわからなかったです。さらに言うと、新曲に関しては、むしろCDのほうが音圧が塊(かたまり)になってて、いい場合もあるんじゃないかなと。結局はハイレゾは、解像度みたいなものですか?

――そうですね。映像でいうと、100万画素と400万画素の違いみたいな。

後藤 「慟哭」は、確かに最初のCD音源を聴いた時、ちょっとギターのカッティングのエッジとか音像があまり美しくなく見えたんですけど、そういう、エッジみたいな部分は良かったです。なんというか、ハイレゾ化によって交通整理された感じがちょっとしました。作品によって効果的なのか、効果的じゃないのか? ちょっとあるのかな?という気がしました。どうなんでしょうか?

――コンプレッサーとか、先程おっしゃった音圧とか、少しパンチの効いた音に聴こえるので、それを好まれる方は実際いますね。

後藤 どっちをとるかですね。特に(今回の)新曲のアレンジからいくと、低音の塊みたいなところを重視しているところがあるから……。

――「好み」みたいな話にもなってくるんですけどね(笑)。ハイレゾのいいところは、ちょっとマニアックにはなりますけど、隠し味に使っている楽器の音色が鮮明に聴こえてくる……とか、そういう部分になるのかなと。

後藤 これ、多分、僕はタッチしていないのでわからないけど、たぶんリマスターしてますよね。このCDじゃなくて、元の音源を聴くともっと違ったのかな、と。

――確かに今回、CDのリマスタリングもすごくいい仕事をされていると思います。

後藤 (最初のリリースから)何回もフィルター通ってきた結果(笑)。でも、3曲だけの印象ですけど、元の音源とですごく変化を感じる。これもハイレゾにする場合は、CDのマスタリングみたいに色々な調整をするんですか?

――基本的には、スタジオの音をそのまま表現する、というのを目指していますね。たぶんCDのほうがだいぶEQ(※音質の補正や改善すること)されてますし、コンプ(※コンプレッサー。一定の音量を超えると音量を抑える音響機器を使って、逆に音圧を上げたりすること)もされてますし。元の録音によってだいぶ変わるんですよね。70年代に録音したものと、デジタル全盛時代に録音したものと、やっぱり違うので。古い音源の場合はハイレゾに対応した調整を施すということもあるようです。

後藤 なるほど。今回の音源は全曲聴いてはいないですけど、年代によっても録音方法によっても違いますよね。新しい音源は完璧にPro Tools(※1990年代初頭に開発されたプロフェッショナル向けのハードディスクレコーディング・システム)の時代で、それ以前はたぶん、ソニーの48(※通称「ヨンパチ」。SONY製の48チャンネルマルチトラックレコーダー・PCM-3348のこと)じゃなくて……88~89年って、どういう録り方してました?

――48ですね。

後藤 48、ありました? でも、当然チャンネル数少ない場合は、もう1台のレコーダーを同期してチャンネルを増やしていたと思うのですが、もう1台はなんだったんでしょう。

――おそらくアナログレコーダーが多かったんじゃないでしょうか? 話は変わりますが、工藤さんのボーカルについては、聴き比べてどんな印象を持たれましたか?

後藤 いや、同じじゃないですか? 今日はハイレゾを褒めなくちゃいけないのかもしれないけど(笑)。だって、すごく解像度の高いテレビみて、肌こんなに映しちゃって可哀そうだなって思う時もあるし、いや、いいなっていう時もあるし、それぞれだからわからないですね。新曲に関しては、僕はCDのほうがいいなと思ったし。

――そうかもしれませんね。

後藤 いいんじゃないですか? CDとハイレゾ、両方のラインで走っていければ。

――工藤さん以外の音源も聴いてみましょうか?  ここにレッド・ツェッペリンの音源がありますので。

後藤 大元(の音源)がどうだったかな?……とはいえ、1stアルバム行きましょうか?

レッド・ツェッペリンの1stアルバムから、「Good Times Bad Times」のCD音源とハイレゾ音源を聴き比べてもらいました)

後藤 大体この(CDの)音自体が、僕らが高校の時に聴いてたアナログより全然良いです。この段階でもう違う(笑)。(ハイレゾは)ドラムの音とかが全然違いますね。カッコいいです。元のプレイヤーがプレイバック(※スタジオ録音時にプレイヤーが自分の演奏を聴いて確認する作業)で決めてた時は、こんないい音で聴いてなかったはずなので、びっくりするんじゃないですか?(笑) ハイレゾって結局、トータルの音源にその処理を施すわけですよね。バラの楽器で、全部作り直したらもっとすごいんでしょうね?

――そうですね。リミキシングしたら、ということですよね。

後藤 トータルでこれだけ違う。でも、これだけタムドラムの音像が違うっていうのは、その帯域を集中的に何かやるって、そういうことじゃないんですか?

――たぶん、EQなんかを上げてるということではなくて。元々入っている音の解像度を、ちゃんと上げてあげるというか。

後藤 よりクリアになる周波数、っていうのはあるんですか?

――たとえば今の曲でいうと、割とドラムセットのそれぞれのパーツの音程が違うから、そのレイヤー感はより出ます。あと、CDなどではカットされていた音域が、ハイレゾだと生かされるというのもありますね。

後藤 音源の、上から下までの周波数を細かく切ってやるような感じですか? 病院のMRI検査のような……。

――まさにそうです。ハイレゾだとより周波数をより細かく解析するので、原音の再現性が高くなります。

(再度、「Good Times Bad Times」を聴く)

後藤 これ当時、69年くらいのレーコーディングかな? テレコ(テープレコーダー)は何チャンネルくらいでしょうか?

――8、じゃないでしょうか。

後藤 これだけの楽器数を同時に録ったんですかね? それともピンポン(※録音作業方法のひとつ。 録音可能トラック数が足りない時などに、ボーカルや演奏などの音声信号を録音した複数のトラックから同一のテープ上あるいはセッション内の空きトラックにミックスをしてまとめることによって、トラックを稼ぐ手法)しながらだったんですかね?

――たぶんそうだと思います(※取材後調べたところ、1968年のThe Beatlesは『ホワイト・アルバム』から8トラックを導入。1969年の今作は過渡期だが、8トラックでピンポン録音ではない可能性が高いと思われる)。

後藤 頭のギターからスッキリしてますよね。タムドラムがクリアっていうよりも、前に出てきますね。ギターの間に、カウベルみたいな音が入ってるのもクリアに聴こえるし、音像は変わらないんだろうけど、立体感を感じます。

――当時は(テープレコーダーの)トラック数がとても少なかったために、ひとつひとつの楽器がエンジニアリングやマイキングの妙もあって、しっかりと録れています。ハイレゾになると、そうして録音されたそれぞれの楽器が、よりくっきりと聴こえるんですね。

後藤 女の人で化粧映えする人としない人と、それぞれタイプがあるじゃないですか(笑)。音楽によっても、そんな感じしますけど。

 

■ベーシストとして、作曲家/プロデューサーとして

――これまで後藤さんはプレイヤーとしても、様々なシンガーのバックで弾かれてますよね。これまで演奏された楽曲で、それがハイレゾになったら面白いんじゃないかというタイトルってありますか?

後藤 うーん、そうですね……なったらなったで嬉しいし、聴きたいけど、なきゃないで、まあ当時のもんだなと。あまり固執してないんで……。

――むむ、無欲ですね(笑)。

後藤 今日の工藤さんの、「FU-JI-TSU」とか聴くと、最近のは別として、88,89年から4~5年くらいの間だけど、やっぱベースの音、小さいですよね。「FU-JI-TSU」はシンセベース(※シンセサイザーで演奏されるベースパート)なんですけど、それでも小さい。コアのベース、低域の音のほうが、ハイレゾは出てるんじゃないですかね。

――今日はもちろん工藤さんのベスト盤、『中島みゆき×後藤次利コレクション』の取材なのですけど……後藤さんにとって「歌手・工藤静香」はどういう存在ですか?

後藤 そうですね~なんだろう……彼女は、一番最初に会った時は、制服でスタジオに来てましたからね、学校帰りに。たぶんシングル20曲作ったのですが、87年ソロデビューだから……当時は3ヶ月に一曲のペースでしたもんね。最初から、彼女の音域とか、手加減するとか、一切考えないで作れたんですね。こっちが100%力出しても、工藤静香はちゃんと応えてくれる。まだ10代だったのに……。

――ちなみに、中島みゆきさんと共作される場合って、詞先なんですか? 曲先なんですか?

後藤 みゆきさんに限らず、工藤さんのアルバム100曲近かったかもしれないですけど、曲先ばっかりですよ。メロディーを作って、スタジオで「ラララ」で坪倉唯子さん(※B.B.クイーンズのボーカリストとして有名だが、スタジオのセッションボーカル、ライブのサポートボーカルも多数務める)に歌ってもらったりしてたんですけど。今回の新曲も、僕が最初デモを録って、「ラララ」をやってもらったのは坪倉さんですね。それをみゆきさんに渡して詞ができて、アレンジャーの方へお願いして。ハイレゾの話とは関係ないかもしれないけど、この「仮歌」ってのが、とても大事なんですよ。そこでのメロディーの提示の仕方は、「ラララ」のほうが、シンセサイザーより伝わりやすい。肉声でのやり方を間違うと、間違って伝わる可能性もあるんで。そういう意味でも工藤静香さんの仮歌は坪倉さんと決めていて、「踊るポンポコリン」で忙しい日々でもやって頂きました(笑)。

――この時は、渡辺有三さん(※おニャン子クラブ等を育てたポニーキャニオンの敏腕プロデューサー。2014年に死去)は、もうそんなに現場にはいらっしゃってなかったんですか?

後藤 いやいや、最初にメロディーの段階で有三さんから発注を受けて、僕が作って、そこで吟味してからスタジオに入って、仮歌やって。僕はすごく有三さんに育ててもらった部分があると思います。自分でこの曲、いい曲だと思っても、客観的な耳とか眼を持ってる人と組むのはいいことですよね。それが、作家を「育てていた」時代だと思うんです。それからレコード会社のシステムも変わってしまったので、なんとも微妙なんですけど……僕は素敵な時代に生きさせてもらったなと。各社に、名ディレクター、名プロデューサーがいた時代でしたから。

――そうですね……いまは、ちょっと楽曲コンペ(※新曲のリリースに関して公募をかけて楽曲を集め、 応募のあった曲の中から、採用曲を決めるコンペティションのこと)の悪弊みたいなのが、正直ちょっとありますよね。話は変わりますが、音楽家としての後藤さんのこれからの野望は?

後藤 野望なんてないですよ。細々と、片隅で。ここまでいろんなことやってきましたけど、ベースに戻るという気持ちがすごくある。ギターから始めたけど、ベースを頑張ってきたら、そのプレイでアレンジャーっていうことにも声をかけてもらえて、作曲~プロデュースもそうです。自分が作曲した歌が、町を歩いてて聴こえてくるのは嬉しいですよ。でも、自分がやり終えて、汗かいて帰ってくるのは最終的にベースなんですね。自分の体とシンクロしてるっていうか。それで、いま大阪の専門学校で、ベースだけでアンサンブルやるようなプロジェクトを持っているんですよ。「Bass On Bass」っていうんですけど。ベースを主体にした音楽のプロジェクトをやっていきたくて。

――それは素晴らしいですね……ギタリスト、キーボーディストがアレンジャーになることはよくあるケースだと思いますが、ベーシストとしての活動がメインの方がアレンジまでやるというのは、後藤さんがたぶん日本で初めてじゃないですか?

後藤 でも、亡くなられた佐久間(正英)さんとか、亀田(誠治)さんとか、ベーシスト出身の方もいっぱいいますよ。

――現在はそうですけど、最も早く成功されたうちのひとりは間違いなく後藤さんだし、海外でもあまり類をみない。

後藤 どうですかね……でも、多少楽器の性格とかあるのかもしれないです。やっぱり話しやすいのはベーシストかドラマーなんですよね。誰かのサポートでベースをやると、ステージの後ろに居るからなのか、わりと客観視して見れる立場ではあるかなと。そういう癖がついているかもしれない。

――今回工藤さんの作品集を聴かせていただいて、年代とかも違うんですけど、統一感がすごくあるなと思ったんです。いろんな音楽のジャンルがある中で、言い方は難しいかもしれないですけど、サウンドとか、曲作りのコンセプトみたいなものって何かありますか?

後藤 この作品集には入ってないんですけど、シングルの3枚目に「抱いてくれたらいいのに」という曲があって、作詞は松井五郎さんだったんですけど。その時の「ロッカバラード」(※ロックのリズムや曲調を持ったバラード。8分の12拍子の曲が多い。3連ロックとも)っていうアイデアは有三さんだったんですね。アイドルでロッカバラードで、あそこで成功したっていうのは、その後の作曲においても、すごく幅が広げられましたね。最初は8ビートで16ビートが混じったものを作るつもりだったんですが、自由に作っていいんだ!って。そこからたぶん手加減もなく作れるようになった。あれが僕の中では、工藤さんを書いていた、一つの突破口のような曲でしたね。

 

■多様な音楽の楽しみ方を

後藤 改めて、ハイレゾの話に戻りますけど、音の解像度って、もっと極めていくとすごいことになるんだろうけど、なんでも使い方でしょうね。曖昧なほうがいいことがあるのも同じで。どんどん選択肢が増えるのは悪いことじゃないと思うけど、なんか蓄音機みたいなものがいい場合もあるだろうし。見えすぎて、良すぎて、疲れることもあるし。どんどんいい音っていうか、クリア度が上がっていくのはいいこと。でも、用途でしょうね。

――使い方と、あとは聴く時の気分なんでしょうね。

後藤 さっきもお話しした大阪の学校の卒業生がみんなバンドとかを組んで、関西圏で活動しているんです。そういう二十歳前後の子達と接するのも、楽しいですね。みんなが、インディーズなりで、頑張って作った音源とかCDをくれるんですよ。聴かせてもらって、感想送って、やりとりしてるのが幸せな瞬間でもあります。

――音楽の楽しみ方は一つじゃないと。では最後に、今回の工藤さんのアルバムについて、改めてお聞かせ願えますか。

後藤 僕もまだ、通して聴いてないんです。ドキドキしますね。人がどう見てるのかわからないんですけど、自分の中ではまだ、怖いなって思うんです。それってまだ、現役感があるってことなのかな?とも思うんですけど、「あ~こういう時代があったよね」とか思えない。ドキドキするんですよ。もっと、こうすればよかったったとか。ハイレゾと関係ないかもしれませんが、音質っていうか、音のバランスという意味で。だから基本、怖いですよね。でも作品としてひとつにしてくれたことは、とても嬉しいです。あと今回、タワーレコードが僕の78年の『オン・ベース』という教則レコードと、79年の初ソロ・アルバム『Mr.BASSMAN』をCD化してリリースしてくれたんだけど、それもまだちょっと聴けてないですね。自分自身の(作品)に限らずなんですけど、なかなか楽しんで自分の演奏を聴ける境地まで、まだ行けてないです。

――まだまだ記憶が生々しい、と。

後藤 生々しいし、未だに「こうすればよかった」って思いながら聴きます。でも今回、新曲を書かせてくださったのは、すごく大きいですね。

――本日は長時間にわたり、興味深いお話をありがとうございました!

 


 

●ゲストプロフィール

後藤 次利(ごとう つぐとし)
1952年2月5日生まれ。東京都出身。ベーシスト、作曲家、編曲家。
1977年、原田真二『シャドー・ボクサー』で初めて編曲を担当。その後、編曲家としての活動を開始。
八神純子、中島みゆきなどの楽曲を手がけ、1980年には沢田研二の『TOKIO』で第22回日本レコード大賞編曲賞を受賞。その他多数のアーティストへのサポートの傍ら、ソロアルバムを2枚リリース。
1980年代からは作曲家としての活動を本格的に開始。以降、シブガキ隊『スシくいねェ!』、一世風靡セピア『前略、道の上より』、工藤静香『MUGON・ん・・・色っぽい』『恋一夜』『嵐の素顔』『慟哭』など、シングル20作品など、おニャン子クラブの曲、国武万里『ポケベルが鳴らなくて』、とんねるず『ガラガラヘビがやってくる』、野猿の全楽曲(『Be cool !』など)を制作。特に、作詞家・秋元康とのゴールデン・コンビとして数多くのヒット作品を手がける。
1983年、CBS・ソニーにアーティスト兼プロデューサーとして、「FITZBEAT」レーベルを立ち上げ。レーベル・プロデューサーとして、レベッカ等を世に送り出す傍ら、ソロアルバムを3作を発表する。
2003年、ドラマー山木秀夫とインストゥルメンタルユニット「gym」結成。
2004年8月、CROSSOVER JAPAN'04での共演を機に斉藤ノブ、藤井尚之とインストゥルメンタルグループ「Non Chords」結成。
2006年には、井上陽水『love complex』、SMAP『Pop Up! SMAP』での中居正広ソロ曲にて作詞、作・編曲などを手がけ、同年5月には自身の新レーベル「TUTINOK(ツチノコ)」を立ち上げる。同レーベルよりsaxplayer klammy(クラミー)とのユニット「WAIP」としての1st album『WAIP』をリリース。
2013年、そのツチノコレーベルから音楽人生40周年を記念したソロアルバム「Significant Other(シグニフィカント・アザー)」を発売。現在も精力的に様々な音楽活動を続けている。
 
 

 

 

 

Tweet(ツイート)    

takumi_bnr.png

松田聖子の1st『SQUALL』から5thPineapple』までのオリジナル・アルバム、およびバラードベスト『Seiko Matsuda Best Ballad』がハイレゾ音源(96kHz/24bit:FLAC)でリリースされた。本サイトでもチャートを席巻しているが、今回、松田聖子を発掘し、一時代を作ったプロデューサー若松宗雄氏にインタビュー。ハイレゾ化された音源を実際に聴きながら、豪華制作陣が参加する当時の貴重なレコーディング秘話を訊いた。

 

===

 

ハイレゾ配信開始! 松田聖子の作品リストはこちらから

 

===

 

●「聖子の特性がわかる」ハイレゾ音源を聴いてみた

――まず、気になる曲から聴いていただきたいと思います。

若松 個人的にはそうだね。デビュー曲「裸足の季節」か「赤いスイートピー」かな。『Pineapple』の中からだと「渚のバルコニー」と「ひまわりの丘」にしようか。(「渚のバルコニー」「ひまわりの丘」を聴く)

――いかがですか?

若松 すごい音だね。強力。すごくクリアで迫力があるし、イメージが強く伝わってくるね。音楽って部屋の中で聴いていても波の音とか風の声とか感じるじゃない。そういう景色や匂いが、部屋の扉が開いて一気に広がっていく感じかな。聖子の声も、より魅力的ですよね。伸びやかだし生々しい。彼女の持っている特性が出ている。

――もともと持っている特性ということですか?

若松 そう。もともと持っているもの。松田聖子の一番の特徴というと声の強さと質感と、あとは知性と品っていうのかな。それはデビュー前から持っていたもので、そういう特性がより強調されている感じがしますね。

――続いてデビュー曲を。(「裸足の季節」を聴く) 最後、エクボ〜の部分は、声がCDよりもクリアになっていますよね。

若松 メリハリとかエッジが効いているね。息づかいまで聴こえてきそうな(笑)。声もデビュー曲だから、よりフレッシュで臨場感がある。

 

●日本屈指のレコーディングエンジニアが「売れる」とつぶやいた初レコーディング

――この「裸足の季節」が、聖子さんの最初のレコーディングですよね?

若松 そうですね。この曲はオケ録りの時に彼女を呼んで、オケを録りながら別室で歌わせたんですよ。聖子はメロディを一度聴いただけで、ほとんど憶えちゃったね。「この子スゴいな!」って思いましたよ。ミックスは内沼映二さん(ミキサーズラボ)でしたが、ミックスダウンを終えた時に「若松さん、この子売れるかもしれないね」ってポツリと言ったことが印象的でしたね。当時、聖子の同期はたくさんいたし、新人の中の一人だったのにね。

――飛び抜けて光るものがあったんですね。

若松 当時の新譜会議で販売推進のチームに「こんなにスゴいなら、なんでもっと早く情報くれなかったんですか」って文句を言われたこともあるよ。「この子はスゴイって言ってただろう。みんな聞いてなかっただけじゃないか」って(笑)。

――それが時代を象徴するスターになるわけですからね。そのヒットを支えた要素のひとつが豪華な作家陣だと思うのですが、聖子さんはシングル曲だけでなくアルバムにも名曲が多いですよね。

若松 彼女は感受性が強くて表現力がとにかく豊かだったから、どんな作家の作品でも自分なりに歌う能力があってね。彼女の魅力が話題になってくると、作詞家、作曲家、アレンジャーも含めて、提供したいって声がどんどん出てきたんですよ。だから自ずといい作品が集まってきた。――スターとしての吸引力があったんですね。

若松 そう。聖子は聖子の匂いがあるし、松本隆さんとか三浦徳子さんの歌詞にもそれぞれの匂いがあって、メロディもそう。そして大村雅朗さんという天才アレンジャーがいて、結果として、いろんなことがプラスに作用していった。それでアルバムの曲がどれもシングル候補になれるクオリティになったんですよね。

 

m_seiko.png

インタビューの様子。(イラスト:牧野良幸)

 

●大瀧詠一作曲・編曲(多羅尾伴内名義)「風立ちぬ」の制作秘話

若松 大瀧詠一さんとは「風立ちぬ」で一緒にやったんだけど、大作に仕上がってしまいましたね。わたしは、堀辰雄さんの小説「風立ちぬ」が大好きだったから、大げさな感じがして。大瀧さんらしいというとそうなんだけどね。

――名曲の誉れが高い曲ですが、そうだったんですか。ちょっと聴いてみましょうか。(「風立ちぬ」を聴く)

若松 ハイレゾで聴くとすごい!いいねー!!こういうハイレゾのサウンドだと大瀧さんのサウンドが生きてくるね。

――気に入っていただけてよかった(笑)。「風立ちぬ」をはじめ、聖子さんの作品はソニーの最高峰の環境で録音していて、音作りの評価も高かったようですね。

若松 信濃町のスタジオだったけど、オーディオに興味ある人はそうだったでしょうね。スタジオミュージシャンも当時のトップミュージシャンでしたしね。

――だからこそハイレゾにふさわしい音源と言えますよね。「風立ちぬ」の制作秘話も気になりますが。

若松 「風立ちぬ」は時間がかかってね。最初にリズムから録るんだけど、遅いスタートで21〜22時くらいからだったかな。リズムは大体1時間くらいで録れるものなんだけど、大瀧さんがなかなかOK出さないの。リズムだけで2時間、2時間半とか。でもそれだけ作品作りに力をそそいでいたんだろうね。

――傍目には、どこかが違うのかわからないっていう。

若松 自分の中にこだわりがあるんだろうね。それと松本さんと大瀧さんがとってもいいんだよね。だから、大瀧さん自身のアルバムにも松本さんが詞を書いているでしょう。

――才能を認めあっていらっしゃったんですね。

 

●レコーディング当時よりスゴい!?ユーミン作曲「赤いスイートピー」

若松 ヒットする曲って、大体、ある瞬間にひらめいたものなんだよね。考えて作ると音楽的には立派になるだろうけど、理が立てば娯楽は後ろにいく。娯楽が前に立たないとヒット曲って絶対生まれないから。ロックでも演歌でも同じで、娯楽が前にくるにはパーフェクトに作るとダメなの。だから、聖子のボーカルも歌い始めて憶えさせるまで3〜5回。できるだけ練習しないように、間際になるまで曲を渡さなかった。彼女は本番も強かったしね。

――では、あまり煮詰まるようなことはなかった?

若松 そう、6回も7回も録ることはなかったよ。「赤いスイートピー」なんかは、多くの方々から支持されている聖子の代表曲なんだけど、すんなり録れてしまいましたね。

若松 実は「赤いスイートピー」は曲も覚えやすくて、とても素敵なメロディラインですよね。ユーミン(呉田軽穂名義)に書いてもらったんですけどね。I will follow you〜のところ、メロディが上がってるでしょう。最初は下がっていたんですよ。春の歌だし、どうも気分的に下がるとよくないなと。ユーミンは超多忙だったからコンサートのリハーサル会場にまでいって「気分としてアゲてくれますかね」って。

――なかなか言いにくいですよね。

若松 ユーミンにも言われたんですけど「わたし、直してって言われたことないです」って(笑)。「すみません」って謝ったら「攻めてるんじゃなくて参考になった」と言ってくれて。その後、ユーミンは原田知世さんに提供した「時をかける少女」が1位になったんですけど、「おかげさまで1等賞とりました」って電話があってね。この一言でユーミンの才能と人間性にほれてしまいましたね。

――では、「赤いスイートピー」を。(同曲を聴く) ハイレゾというと、レコーディングスタジオで鳴っているマスター音源の感触があると言われますが、当時を思い浮かべてみていかがでしょう?

若松 当時よりも、スゴいよ。こうやって聴いてるとまた楽しみ方が別格ですね(笑)。レコーディングしている時って意外と地味だからね。気持ちが日陰になっていないとうまくいかない。現場が華やかで、作品づくりは気持ちが浮いた状態だとダメなんですよ。

――そうやって、1年にアルバムを2枚、シングルを3カ月に1回で4枚と、作られていったという。現在のリリーススパンでは考えられませんが。

若松 それでも、聖子は常に感覚がシャープでしたよ。音楽が分からなくても、自分なりに吸収する勘のよさが天才的にあった。それに度胸があるからね。それってスターになる条件だよね。度胸がないと勝負には勝てない。デビューの時も、テレビの現場にも付き合ったけど、本番10分くらい前になって、スッと私の横に来て、「若松さん心配しないで。今日、わたし大丈夫だから」って言うんですよ。大したもんですよ。

 

●マーケティングなし!?「明菜ちゃんも意識したことはなかった」

――若松さんは総合プロデューサーとして、聖子さんをどのように売っていこうとしたんでしょうか?

若松 聖子の声質と色合いが大好きで、そこは誰にも負けないと思っていたから、あとは一過性のもので終わらないよう、音楽的にもクオリティーと娯楽性を高める工夫はいつもしていましたね。そのためにも優れた作家陣に書いてもらって……。

――アイドル+音楽性を具現化したわけですね。

若松 なんでしょうね。わたしは永ちゃん(矢沢永吉)をずっとアイドル的だなと感じていたんですよ。それはね、エンターテイナーとしての振る舞いとか、歌い方、表現……ひとを楽しませる要素を全て持っているなって。そこで、できれば音楽よりも、「この子スゴイなー!」って印象の方が残るような。それこそが娯楽なんですよね。

――なるほど。ニューミュージックという言葉が出てきていて、それを利用しようとか、他の方がやっていないことをやろうという意識は?

若松 うーん、利用というような意図的なものではなかったよね。結果的にそうなったのかもしれないけど、すべては自分の直感だから。ただひたすら彼女の特性を出したい。それだけですね。

――ライバルと言われていた中森明菜さんを意識したマーケティングなどは?

若松 それもないですね。わたしは聖子の最大限のよさを出しておけば、結果大丈夫だと思っていたから、明菜ちゃんがライバルだからとか意識したことはなかったね。誰かを意識する、競争するということがなかったし、世の中でこういう歌が流行ってるから同じ傾向の曲を作ろうとかも全くない。意外とすんなりと作ってましたよ。ひらめきでしたから(笑)。

――よくわかりました……ちなみに縦のラインで南沙織、天地真理、キャンディーズ、山口百恵というCBSソニーのアイドルの流れを意識したこともなく?

若松 それもない。ひたすら彼女の特性。聖子の持ち味の特性として春夏秋冬といういつも季節感を出しているところですかね。……それと、作詞家、作曲家、アレンジャー、関わってくれたみんなも同じ方向をめざいしてがんばってくれてましたね

――意識されていなくても、ハイレゾ化された初期5枚のアルバムを聴くと、時代の空気感まで感じられますからね。

若松 その空気感というのもね、狙ってないからだろうね……ミュージシャン方々もこの音聴いたら感動しちゃうだろうね。知っちゃったら、普通のやつ聴けないよ。音楽の聴き方も変わってくるかもしれないね。圧縮した音源しか聴いてきてない子たちにも、この音に気付いてもらえたらいいね。こういう音を感じると音楽だけじゃなくて、感動するということを憶えるよね。そうすると、人に対する優しさとか思いやりだとか、そういうものが深くなるよね。世の中って何かのきっかけで動いていくから、ハイレゾがきっかけになるといいね。

 

===

 

【プロフィール】
 

若松宗雄
福島県いわき市生まれ。慶応義塾大学卒業後、CBS・ソニーレコード(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)、CSアーティスツ(現ソニー・ミュージックアーティスツ)社長を経て、エスプロ社長。松田聖子のプロデューサーとして、発掘から『Strawberry Time』まで担当する。曲タイトル「裸足の季節」「青い珊瑚礁」「風立ちぬ」「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」「白いパラソル」「ピンクのモーツアルト」などは、同氏によるもの。

 

古城久美子(インタビュー)
福岡・AI VISION PRESS編集長を経て、10年に上京し、現在フリーのエディター・ライター。『横浜ウォーカー』のアーティスト連載、『81JAPAN』『ぴあSpecial Issue ザ・ローリング・ストーンズ来日記念特別号』ほか

 

牧野良幸(イラスト)
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、 イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。 近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『牧野式高音質生活のすゝめ』などを出版。

 

 

Tweet(ツイート)    

更新座談会ヘッダー.jpg

宇多田ヒカル、デビュー15周年を記念して、数々の代表曲を収録したシングル集『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1』(2004年発売)と、『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』(2010年発売)のハイレゾ音源(96kHz/24bit:FLAC)がリリースされる。そこで、エンジニア界の巨匠テッド・ジェンセンによる最新マスタリングが施されたハイレゾ音源の魅力について、デビュー前から携わっているプロデューサーの三宅彰氏、ディレクターの沖田英宣氏、録音エンジニアの松井敦史氏、小森雅仁氏に聞いてみた。制作チームは、完成した作品をどんな視点で聴いているのか? 宇多田ヒカル秘蔵エピソードとともに、コアなトークをわかりやすく話されているので、“ハイレゾ音源入門講座”としてお楽しみあれ!

12/9(火)~moraでハイレゾ配信開始!*JK クリックでダウンロードページへ)

  

左)「Utada Hikaru Single Collection Vol.1(2014 Remastered)」(12/9~配信)

中)「Utada Hikaru Single Collection Vol.2 HD(2014 Remastered)」(12/9~配信)

右)「First Love [2014 Remastered Album]」(2014年3月~配信)

cdハイレゾ|FLAC|96kHz/24bit

 

●聴き比べて頂いたらスピーカーの位置が違って聴こえると思います。

——宇多田ヒカルのCDアルバムといえば、音楽ファンの間で音が良いことが知られています。

皆さんは、音や歌へのこだわりが強くあるチームだと思いますが、今回のハイレゾ化リリースの意義について教えてください。

 

沖田宇多田ヒカルは、今年がデビュー15周年です。なのですが、ご存知のように本人は活動休止中です。

そこで、ファンの皆様に対して15周年の感謝の気持ちを、ハイレゾ化であらわしたかったんですね。

 

——完成した作品をあらためて聴かれてみていかがでしたか?

 

沖田:今回のリマスタリング音源は、宇多田ヒカルの曲の90%くらいをミックスしている、渋谷のBunkamura StudioのCスタで、つまり僕らにとって一番なじみのあるスタジオでリファレンスを聴きました。

 

三宅細部にわたる細かいところがしっかり聴こえる感じがしましたね。テッドが、良いマスタリングをしてくれているのも、新たに楽しめるポイントです。わかりやすくいえば、空間の奥行きが出ていると思います。テッドに頼む理由は、歌を大事にしてくれるからなんですよ。

 

松井音域が上下に伸びた感じがしましたね。CDも持っている方は、聴き比べて頂いたらスピーカーの位置が違って聴こえると思います。ハイレゾ版は、流したときにスピーカーの位置がちょっとわからなくなる感覚がするんですよ。それくらい広がって聴こえますね。

 

小森今回のリリースは、新たにリマスタリングしたことによる良さと、ハイレゾというフォーマットによる良さの二つがあると思います。ハイレゾになったことによる良さは、スタジオでアーティストやスタッフが聴いていた音をそのままリスナーに届けられるという点です。初期のアルバムはアナログテープがマスターだったんですが、ハイレゾ化によりマスターテープに限りなく近い音をリスナーに届けられるというのは大きな変化だと思います。リマスタリングに関しては、オリジナルの『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION』よりもリミッターが弱めなんですよ。今回は、ちっちゃいところはよりちっちゃく、大きいところはより大きく、ダイナミックレンジを広く保って、ローエンドもハイエンドもレンジが伸びて、かわりに耳にキンとくる帯域がちょっと優しくなっていたりして、大きい音で聴いても耳に痛くなく、何回でも聴けるような音にリマスタリングされている印象ですね。

 

——なるほど、わかりやすいですね。

 

沖田僕らは、ハイレゾを念頭においたオリジナル作品は、宇多田ヒカルではまだ作ってないんです。ですけど、今後出口がここになるとしたら、音の録り方、ミックスの最終地点は変わってくる気がします。たとえるなら、温かいそばを出前で頼んだとき、今までは30分待ったそばしか味わったことないわけじゃないですか? それが、本当に出来立てが食べられるってことなんですよね。

 

——あ〜、ハイレゾが持つ距離感や情報密度の濃さって、そういうことですよね。

 

三宅僕はあまり気にしていなかったんだけど、沖田がハイレゾになる素材や記録を残しつづけてくれたのがえらいよね。

 

沖田宇多田ヒカルは、デビューして一年もたたずして、誰も成し遂げないようなセールスを記録してしまったので、これはすべてをアーカイブしておかないといけないと思ったんです。たとえばビートルズが「何月何日に何スタに入って何やった」っていう記録だけでも、僕のような後追い世代にとっては貴重な情報じゃないですか? 宇多田ヒカルも次の世代に向けて当時の記録を残していくことは意味があると思ってました。

 

 

●テクニックで勝負をしはじめると、あの繊細な感じがなくなっちゃうんだよね。

——宇多田ヒカルの歴史を追体験出来る作品『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION』収録曲で、音のこだわりをあらわすようなエピソードがあったら教えてください。

 

沖田どの曲も、ミックスにかける時間をとにかく長くとっていましたね。一日に2曲なんて絶対にやったことなかったから。

 

三宅そうだね。3日かかることもあったかな。クオリティを守るために、余裕を持ったスケジュールとバジェットを、常に用意してました。

 

——エンジニアとして松井さんは、初期から担当されていたんですよね? この個性的な宇多田チームを、どのように見られていますか?

 

松井純粋に音楽好きで、音楽ありきで産み出せるチームだと思います。レコーディング時に、何かをあきらめるとかそういう発想が無いんですよ。アイディアがあったら一回やってみようというのが必ずあって。たとえば、普通のレコーディングだと、宇多田ヒカル本人が自宅で打ち込んできたプログラミングを、生のプレイヤーで音源差し替えたりするんですけど、雰囲気が違ったら、戻すんですよ。普通のセッションだったら、せっかく演奏してもらったんだから不採用にはなかなかしないのですが。

 

——なるほど、小森さんはいつごろから参加したのですか?

 

小森僕は『ULTRA BLUE』というアルバムの制作の途中から、Bunkamura Studioに就職しまして、最初は松井さんのアシスタントとして活動していました。この仕事をはじめてから一番お世話になっているのが宇多田ヒカルさんです。

 

三宅はじめて現場で、宇多田ヒカルの年下ができたんだよね。現場では珍しく、ヒカルが「小森くん」って言って、小森が「ヒカルさん」っていう関係なんだよね(笑)。

 

小森最初はとてもプレッシャーを感じていました。ヒカルさんの現場は、歌録りのテンポが早いんです。

コーラスを重ねるのとかもめちゃくちゃ早くて、ついていくのが大変なぐらい(苦笑)。

 

三宅それは、僕がせっかちだからかな(苦笑)。あ、でもヒカルも似てて、同じ歌を何回も歌ったら飽きちゃうよね。ヒカルとか、一時間くらい歌うとだんだん歌がうまくなっていくの。うまくなりすぎて今度は伝わらなくなる。テクニックで勝負をしはじめると、あの繊細な感じがなくなっちゃうんだよね。だから極力100%にならない、8割くらいでね。でも、コーラスにはとても時間をかけます。

不思議なのは、コーラスはたとえ何十時間やっててもぜんぜん疲れないんだけど、歌入れは違う集中力が必要だから、一時間でもものすごい疲れる。

 

 

●同じ曲でも完コピ完カバーみたいに聴こえるんですよ。

——今回の収録曲で、ハイレゾをテーマに思い入れあるナンバーを教えていただけますか?

小森オリジナルと今回のハイレゾを聴き比べて、特に違うなと思ったのが「First Love」、「FINAL DISTANCE」、「SAKURAドロップス」ですね。ハイレゾ化もなんですけど、リマスタリングによる違いが大きいですね。ダイナミックレンジを広くとっているので、たとえば家にちゃんとしたスピーカーがなくても、ヘッドホンでも違いが楽しめると思います。現場で立ち会っていた曲でいえば「Hymne à l'amour 〜愛のアンセム〜」 ですね。あの曲は、他の曲と違ってシンセサイザーが全くはいってないんです。クリックも使っていないフリーテンポの曲で、音数もほかの曲より少ないので、他の曲よりサンプルレートをあげて録音しています。それを44.1khz/16bitのCDフォーマットに落とす事なくお届けできるのはハイレゾならではですよね。

 

松井僕は今回のハイレゾ化だと、「Beautiful World」、「This Is Love」ですね。一番オススメな「This Is Love」は、ものすごくクオリティがあがっていると思います。素直に音が良いなと思ったし、広がり感も良いなと。「Beautiful World」は、完コピの新録音といったらいいんですかね? 同じ曲でも完コピ完カバーみたいに聴こえるんですよ。これはちょっと面白いなと思います。

 

——それはとても聴いてみたくなりますね! 三宅さんは?

 

三宅ハイレゾに関していえば、ハイレゾという文字をみて思ったんだけど、ハイレゾってハイレグだなって(笑)。

 

一同:爆笑

 

三宅普通の水着と違ってハイレグはちょっと見えすぎちゃって恥ずかしいじゃん? 今回のハイレゾ化を聴いたときに思い出したのは、当時の録音の頃の風景ですよ。もちろん、歌のクオリティの良い悪いのレベルの話ではないんだけど、デビューした頃の、彼女は文武両道で忙しかったので、声の調子とかいろいろあったんですよ。それがハイレゾだと見えすぎて「あー、恥ずかしい!」って思い出しちゃって。なのでハイレゾはハイレグ!? 恥ずかしいところまで聴こえちゃう(笑)。

 

沖田ははは、それはあるかもしれませんね(笑)。今回の、ハイレゾ化の楽しみ方としては、時代的にマスターテープが、アナログのハーフインチマスターの曲と、Pro Toolsベースの96kHz/24bitという二つに分かれるんですよ。シングルコレクション1の方は、ほとんどアナログのハーフインチでした。2は、だいたい96kHz/24bitになってくる。今回、マスターは何を使っているというのを全部つまびらかにしているので、その違いも楽しんで欲しいですね。

 

 

●ショーウィンドウにあった絵が、ショーウィンドウのガラスが外されたっていう感覚。

三宅そうそう、誤解を恐れずにいえばハイレゾになったから急に音が良くなったワケではないんですよ。ショーウィンドウにあった絵が、ショーウィンドウのガラスが外されたっていう感覚ですね。手に届く距離感が近づきましたって感じ。ハイレゾはCDの3倍の情報量というのは、そういうことなんです。曲でいえば「traveling」で、汽車が走っている感じをコーラスで表現してるので、そのこだわりに注目して欲しいですね。

 

沖田あとは「FINAL DISTANCE」。やっぱりバラードは空間が違うんですよ。音の粒子が見える気がしました。「Flavor Of Life」もいいですね。「First Love」と「FINAL DISTANCE」は、マスターテープがアナログハーフなんです。「Flavor Of Life」は96khz/24bit。時代でいうとアルバム『DEEP RIVER』までがハーフインチです。でも、いくつかの曲は、当時からデジタルになってたんだよね。今回は入ってないけど「嘘みたいなI Love You」とかね。あの頃が過渡期で、ミックスエンジニアが変わったアルバム『ULTRA BLUE』からは全部デジタルフォーマットになりました。

 

——ちょうど宇多田ヒカルさん本人が、編曲も担当されてきた頃ですね。

 

沖田そうなんです。完璧にアレンジ込みで自分を表現することを宣言したのがアルバム『ULTRA BLUE』でした。

 

——今回このハイレゾに関して、宇多田ヒカルさんや、宇多田照實さんはどんなことを話してましたか?

 

沖田照實さんは「ハイレゾには未来がある!」と言ってました。ヒカルはもうちょっと感覚的というか「自分のようなポジションのアーティストが、新しいことにチャレンジしていく姿勢が大事だと思う」って。数日前に彼女から聞いたリアルトークです。

ぜひ、スタジオで鳴っていた音を、ハイレゾで楽しんでもらえると嬉しいです。

 

記事掲載宇多田ヒカルインタビュー.jpg

Utada Hikaru Single Collection Vol.1

01. time will tell -Alternate Version- (**)

02. Automatic (*)

03. Movin' on without you (*)

04. First Love (*)

05. Addicted To You [UP-IN-HEAVEN MIX] (***)

06. Wait & See ~リスク~ (***)

07. For You (*)

08. タイム・リミット (*)

09. Can You Keep A Secret? (*)

10. FINAL DISTANCE (*)

11. traveling (*)

12. 光 (*)

13. SAKURAドロップス (*)

14. Letters (*)

15. COLORS (*)

オリジナルマスター

・ 1/2 inch Analog Tape (*)

・24bit / 48kHz WAV file (**)

・24bit / 44.1kHz WAV file (***)

 

Utada Hikaru Single Collection Vol.2

◇Disc 1

01. Prisoner Of Love (*)

02. Stay Gold (*)

03. HEART STATION (*)

04. Kiss & Cry (*)

05. Beautiful World (*)

06. Flavor Of Life -Ballad Version- (*)

07. ぼくはくま (**)

08. This Is Love (*)

09. Keep Tryin' (*)

10. Passion (***)

11. Be My Last (****)

12. 誰かの願いが叶うころ (*)

13. Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix- (*)

14. 嵐の女神 (*)

15. Show Me Love (Not A Dream) (*)

16. Goodbye Happiness (*)

17. Hymne à l'amour ~愛のアンセム~ (*****)

18. Can't Wait 'Til Christmas (*)

オリジナルマスター

・ 24bit / 96kHz WAV file (*)

・24bit / 48kHz WAV file (**)

・1/2 inch Analog Tape (***)

・24bit / 192kHz WAV file (****)

・24bit / 88.2kHz WAV file (*****)

 

 

<宇多田ヒカル・スタッフ>

赤記事用.jpg

■三宅彰

宇多田ヒカル プロデューサー

株式会社アレグロ・モデラート

代表取締役社長

 

■沖田英宣

宇多田ヒカル ディレクター

ユニバーサル ミュージック合同会社

Virgin Records

 

■松井敦史

レコーディングエンジニア

 

■小森雅仁

レコーディングエンジニア

 

<インタビュー>ふくりゅう・・・音楽コンシェルジュ。

音楽ライター、エディター、音楽プロデュース、音楽プランナー,WEBプランナー、選曲家など多岐にわたり活躍。近著は「ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本」

<イラスト>牧野良幸・・・・大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、 イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『牧野式高音質生活のすゝめ』などを出版。

 

11/30(日)宇多田ヒカル先行試聴会レポートはこちら!↓

20141204試聴会ヘッダー.jpg

 

 

 

 

 

Tweet(ツイート)    

20141204試聴会ヘッダー.jpg

●繊細で生々しい高音質が、宇多田ヒカルの新たな魅力を引き出した。

宇多田ヒカルのベスト盤『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1』と『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』のハイレゾが配信される。

24bit/96kHzのWAVファイルでのリリースだ。

 

さっそく都内某所でおこなわれたハイレゾ試聴会にかけつけた。宇多田ヒカルといえば、デビュー時のショックが今も忘れられない。

その後も日本の音楽界をリードしてきた楽曲の数々を思い浮かべると、ハイレゾでどんな音に聴こえるか一刻も早く聴きたい。

そう思ったのはもちろん僕だけではなかった。会場では1時間以上も前から沢山のファンが席を埋めていた。

 

ステージにはプロデューサーの三宅彰氏、ディレクターの沖田英宣氏、録音エンジニアの松井敦史氏、小森雅仁氏という、宇多田ヒカルにもっとも近かったスタッフが登場。

4氏ならではの秘蔵トークを交えながら、ハイレゾを聴くという趣向だ。

 

そのハイレゾであるが、三宅氏が選んだ「traveling」が場内に流れるやハッとさせられた。会場はクラブのような広さなのだから、いくらハイレゾと言えども完璧なリスニングは無理かなと思っていたのだが、聴こえてきたのは実に繊細な音だった。沖田氏推薦の「FINAL DISTANCE」は音の粒子が見える感じ。

まさに「ハイレゾはCDの3倍以上の細かさ」という体験だ。エンジニアの松井氏オススメの「Beautiful World」には、滑らかな音に舌を巻いた。

 

これでハイレゾのスゴさを十分堪能したわけだが、最後に小森氏オススメの「Hymne a l'amour ~愛のアンセム~」にあらためて驚いてしまった。ヴォーカルがじつに生々しい。

サウンド、メロディ、歌詞、アレンジ、どれもが素晴らしいのが宇多田ヒカルだが、ハイレゾで宇多田ヒカルの新たな魅力が伝わった、というか再発見した思いだ。

 

試聴会の再生システムは、大ヒットしたハードディスクオーディオプレーヤーHAP-ZIESとステレオアンプTA-A1ES、そしてスピーカーはソニーが世界に誇るSS-AR1である。

しかしハイレゾの高音質は普通のステレオやウォークマンでも堪能できるはずだ。

僕も自分のステレオでこのハイレゾを聴いたのだが、「time will tell」が始まるや、繊細で広がりのある音がスピーカーから飛び出してきた。

宇多田ヒカルもスゴいが、やっぱりハイレゾもすごい。

文・イラスト:牧野良幸

 

宇多田ヒカルハイレゾ

12/9(火)~配信

cdUtada Hikaru Single Collection Vol.1(2014 Remastered)」

12/9(火)~配信

cd「Utada Hikaru Single Collection Vol.2 HD(2014 Remastered)」

好評配信中!

cdFirst Love [2014 Remastered Album]」

 

12/9(火)同時配信

cd宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-」

 

宇多田ヒカル・スッタッフ、ハイレゾの魅力を大いに語る!!

宇多田ヒカル『mora』ハイレゾ座談会 展開中!

相互リンク用ボタン余人の顔最終.jpg

 

<牧野良幸プロフィール>

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、 イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『牧野式高音質生活のすゝめ』などを出版。

 

 

 

 

mora TOPIC トップへ
moraに戻る
Facebookページへ
mora公式Twitterページへ
ページトップへ
▲ページの先頭へ戻る