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津田直士のトピックス

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津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介しています。

 

File06. 「白鳥」(作曲:サン=サーンス)

 

 

 

 

※動画内に表示される《X段目》という表記に文中の《X段目》が対応します。

 

 今回は サン=サーンスが生んだ名曲 「白鳥」をご紹介します。

 

 「白鳥」は1886年に作曲された組曲「動物の謝肉祭」14曲の中の1曲です。14曲の中ではチェロの独奏曲として特に有名で親しまれている名曲です。

 シャルル・カミーユ・サン=サーンスは、その名前でわかるようにフランス人の作曲家です。 この「白鳥」を生んだのが1886年ですから、クラシックといっても比較的最近の作曲家ですね。 「白鳥」を聴いているとその曲調からもう少し昔の世代の作曲家の様に感じますが、どうやらサン=サーンスは保守的な作風を大事にしていたようで、その理論的な音楽に反発した、彼より若い世代のドビュッシーやラヴェルが「印象派」と呼ばれる新しい音楽を確立していくことにつながったようです。 とはいっても、やはりこの曲が生まれた時代は1800年代の終盤、「動物の謝肉祭」の他の曲を聴くと、調性や音のとらえ方がベートーベンから始まったロマン派の中でも、新しく聴こえる部分がたくさんあります。 第7曲「水族館」や第8曲「耳の長い登場人物」などでは、映画音楽などでよく耳にする、機能和声の制約から解き放たれた自由で神秘的な音の世界を感じとることができます。 第11曲「ピアニスト」に至っては、聴いているとその遊び心に笑ってしまう程の自由さが展開されます。

 とはいえ、その一方でこの「白鳥」のように美しさに溢れた普遍的な名曲も生むのですから、やはり世界に残る天才といえるでしょう。 それでは早速「白鳥」の名曲性を見てみましょう。《1段目》

 

 伸びやかで美しく自由に上下するメロディーがこの「白鳥」の最大の魅力です。まさに水面を優雅に泳ぐ白鳥のように……。まず最初から(以降、移動ドで音階を表します) 「ドーシーミーラーソードーレーーーーミファーーーー」 と、シンプルでありながら誰もが心に快感を感じるメロディーが展開していきます。

 作曲をする私たちのような人間にとって、このメロディーは美しいメロディーの見本のような輝きをもっていると感じます。 高い音から低い音へ下がっていく最初の「ドーシーミー」を「ラーソードー」というメロディーが追いかけるように登場し、「レーミファー」と少し上がって終わる、この一連のメロディーを聴くと、私は美しいメロディーがどんな時代のどんな国の人にも伝わり、心を動かすという事実を改めて確信してしまいます。《2段目》

 続くメロディーも、下から上へ 「ラーシドレミファソラシ……」 と綺麗に昇っていくのですが、 最後が「ド」ではなくもう少し離れた上の「ミ」て着地するのです。 この瞬間、聴いている人の心はその音の高さの快感に打たれるわけです。《3段目~4段目》

 続いて再び 「ドーシーミーラーソードー」と 《1段目》と同じメロディーが展開しますが、その次の音は「レ」ではなく 「ミ♭」から始まるのです。 何故なら、この瞬間、キーが本来の「G」から5度上の「D」(=「Bm」)に転調しているからです。

 

 そして、それまで比較的穏やかな雰囲気を醸し出していた和音が、この辺りで少し悲しみを帯びた和音に変わります。 この和音の表情の変化も、この曲の素晴らしい魅力のひとつです。《5段目~6段目》

 その「D」のキーが2小節目でいとも簡単に「G」のキーへ変化します。 それはG/Bの次に来るB♭dimというコードのおかげです。 そして6段目では5段目と同じメロディー、同じコード進行がちょうど一度(全音)分、下のキーで展開します。 つまり移動ドで表すと、 「ドーラーファーラーシードーソーーーーラシーーーーー」 というメロディーが、一度分、下に降りてそのまま繰り返されているわけです。《7段目~8段目》

 このセクションは、それまで「F」だったキーがまた「C」に変わり、 「ミーラーシードーーーレミファ♯ーーーーーミーーーーー」といった暗さと明るさが中間で漂うようなメロディーと和音で展開し、8段目の2小節目で和音がAmの代わりにAというメジャーコードに変わることでドラマティックな雰囲気に変わり、その後のDmが続いてまたメジャーコードのDに変化することでさらにドラマティックになりつつ、ごく自然に「G」のキーに戻っていきます。《9段目~10段目》

 ちょうど繰り返しのように、《1段目~2段目》と同じメロディー、コード進行が展開するのですが、 最後の和音で一気にドラマティックな世界がに変化します。 それは、ちょうどこのキーの5度の和音であるというコードが本来「Em」であるべきなのに、マイナーコードではなくメジャーコードの「E」になるからです。 この和音は本当に不思議な力を持っていて、誰もが切なく感動的でドラマティックな気持になるのですが、それがここでとてもうまく使われています。そしてその後、優しいメロディーと落ち着いた和音に支えられて曲は終わりを迎えます。

 

いかがでしょうか。 「動物の謝肉祭」という、曲によってはユーモラスだったり皮肉さに満ちていたり、全体的に生まれた時代を反映して「機能和音」から解き放たれ「全音音階」を取り入れる印象派的なアプローチも使われている組曲の中、純粋な名曲性が光る「白鳥」を聴いて、夢の中にいるような幸せを味わってみて下さい。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介しています。

 

File05. 「G線上のアリア」(作曲:J・S・バッハ)

 

 

※動画内に表示される《X段目》という表記に文中の《X段目》が対応します。

 

今回は J・S・バッハが生んだ名曲 「G線上のアリア」をご紹介します。広く知られているこの「G線上のアリア」は『管弦楽組曲第3番ニ長調』の第2楽章「アリア」が原曲です。1720年頃に作曲されたという説と、もっと後年だという説があるようです。

さて、「G線上のアリア」はバッハの没後100年以上経ってから再評価されました。 もともと『管弦楽組曲第3番ニ長調』の第2楽章「アリア」だった原曲を、アウグスト・ヴィルヘルミというヴァイオリニストが編曲してから世に広まったのです。
この編曲の際、キー(調)がDからCに変更されています。 この変更によりメインメロディーがヴァイオリンのG線(一番低い弦)だけで演奏することができるようになったことから「G線上のアリア」という呼び方が定着していきました。 (今回の私のアルバムではバッハへの想いから「D」のキーで演奏しています)

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。 曲を4小節または8小節ごとに分けて解説していきます。

最初の2小節間、メインメロディーはF♯(長3度)の音が動かずにずっと伸びていきます。 一方、メロディーを支える和声は、豊かな響きと共に低音がゆっくり下がって行きます。
この、低音(ベース音)が下降していく和声進行つまりコード進行は、響きの豊かさと心地良さからポップスの世界でも数多くの名曲を生み出してきました。このように低音の動きとそれに対応する和音の関係は「G線上のアリア」という名曲の素晴らしさを際立たせている、とても大切なポイントです。

3小節目からは、それまで動かなかったメロディーが一気に上へ跳ね上がって細かい音符を奏でながら降りてきます。 そして和声は、メロディーとは反対に、低音が半音で上がっていきます。 4小節目に入るとまた下がっていきます。

1小節目は、再びメインメロディーが音が動かずに伸びていきます(今度はA)。 そして和声もまた低音が下がっていくのですが、《1段目》が明るい表情だったのに対して、こちらはだんだん切ない表情を帯びてきます。 2小節目に入るとメロディーも和声もさらに切なさが増して悲しみの表情にまで変化していきます。

このように、聴いていると切なかったり悲しかったり感じるのにはちゃんと理由があります。 それは本来Bmであるべき和音がBというメジャーの和音になっているからなのです。 メジャーな響きの和音なのに切なさを感じるのは、マイナーである次の和音、Emへ向かわせる力が強く働く和音だからです。 しかもこの和音は本来、キー(調)であるDにはない響きなので、少し特別な響きであり、それが心により強く切なさを生み出すのです。

3小節目から4小節目にかけては、メロディーが1~2小節目とよく似た動きをします。 しかし和声は逆にどんどん明るくなっていきます。このように明るい、切ない、悲しい、といった和音が生み出す表情の移り変わりがこの曲の大きな特徴で、その移り変わりの美しさが、メロディーの美しさをさらに引き立たせているのです。

また、この《2段目》ではメインメロディーが伸びている間にカウンターメロディー(サブ的なメロディー)が2回とも登場しますが、このメロディーがメロディーを追いかけるような手法の美しさは、バッハの作品のいたるところに見られる、大きな特徴であり魅力です。

1小節目でキーのホーム的な和音(トニックコード=D)に落ち着くのですが、何と途中からAのキーに転調してしまいます。

このような一時的な転調をバッハは好んで使いますが、それによって曲がつまらない感じにならず、常に輝いて聞こえるのです。この部分は終わり方を除くとほぼ《1段目~3段目》と同じです。

1小節目で転調したAのキーからスムースにDのキーへ戻りつつ、2小節目からは《2段目》の2小節目と同じ和音の働きにより、メロディーと共にどんどん切なくなっていきます。 3小節目からは悲しい表情に染まり、メロディーはその切なく悲しい表情を強くしていきます。

そして《8段目》に入ると、悲しみ満ちたメロディーがどんどん上がっていくことで、悲しい感情がピークに達し、やがてBmというマイナーのキーで曲が一度落ち着きます。つまり、本来はメジャーキー(長調)の曲なのですが、ここでは一時的にマイナーキー(短調)の曲に変化しているわけです。

ところが一転してここからは再びメジャーキーに戻ります。 その大きな変化が唐突に聞こえないのは、さりげなくAのキーに転調しているからなのです。
1小節目に登場するEという和音は、本来のキー、DにおいてはEmというマイナーの和音であるべきなのですが、あえてEというメジャーの和音にすることで明るい響きを得ることができ、さらにEという和音は本来Aのキーの重要な和音なので、ごく自然にAのキーに転調しているわけです。

ここでは、和音が2拍ごとに変わり、メロディーがその動きに乗るようにして奏でていきます。 1小節目ではごく普通の和声ですが、2小節目で感情が高まる感じになり、3小節目ではさらに感情が高まり切なさも加わり、4小節目で悲しみに至ります。 この間、低音の動きは上へどんどん上がっていきますし、メロディーも同じように上がっていきますから、感情の高ぶりが見事に聴いている人に伝わります。 いわばここは曲のクライマックスだと言えるでしょう。 カウンターメロディーも美しく奏でながら和声と共に変化していきます。 ちなみに4小節間で変化していくこの表情は素晴らしく、その和声の移り変わり、つまりコード進行は低音(ベース音)が下降していく進行と同じように、後世の音楽でたくさん引用されています。 このコード進行が上手に活かされている曲で代表的なのは、「We Wish You a Merry Christmas」でしょう。

最後に《10段目》で展開した切なく、悲しく、高まっていった世界を、優しく収めるようにメロディーが大きく動きながら、和声も切なくなったり悲しくなったりすることなく、優しくおおらかな響きによって、曲は終わりを迎えます。 いかがでしょうか。 「G線上のアリア」の『アリア』というのは、叙情的で美しい旋律の、ゆっくりとした曲のことです。 まさにアリアの代表曲ともいえるこの曲を聴いて、心を優しく癒して下さい。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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今回から10回にわたって心が優しくなる名曲をご紹介していきます。ラインナップは次の通り。
(※表記は曲名/作曲者/曲の生まれた年)

 

1.G線上のアリア (J・S・バッハ) 1720年頃または1730年頃

2.白鳥 (サン=サーンス) 1886年

3.ムーンリバー (ヘンリー・マンシーニ) 1961年

4.アヴェマリア (シューベルト) 1825年

5.見上げてごらん夜の星を (いずみたく) 1960年

6.子守歌 (ブラームス) 1868年

7.Over The Rainbow (ハロルド・アーレン) 1939年頃

8.夜想曲 (ショパン) 1831年

9.ベンのテーマ (ウォルター・シャーフ) 1972年頃

10.LaLaLu (ペギー・リー & ソニー・バーク) 1955年頃

10曲が収録された安眠に特化したアルバム『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』はコチラ

 

 10曲に共通しているのは、メロディーに最小限の和声を合わせるだけで、その美しさが伝わるところです。そういった曲が僕は大好きなのですが、実はメロディーと最小限の和声だけで聴いている人の心を動かす、ということはそのままその曲の名曲性を表していることになるのです。まずメロディーが美しく、心を動かす力があります。そして作者がイメージして演奏者に指定した和声も、メロディー同様美しく、心を動かしてくれます。さらにその和声とメロディーには、実に深い結びつきと相関関係があるのです。

 これまでもこの連載で私は書いてきましたが、作品を生んだ作曲家は、メロディーと和声で自分の心の震えやうねりを表現しています。メロディーが上にあがる、下にさがる、同じ高さを持続させる、離れた音に飛ぶ、滑らかに動く、リズムを強調する、静かで動かない、などの様々な動きで、生んだ作曲家の心を豊かに表現しています。一方和声も、その種類によって, 明るい感じ/暗い感じ/切ない感じ/広がる感じ/不思議な感じ/複雑な感じ/緊張感のある感じ/穏やかな感じ……などを表現します。さらに和声では、和声つまりコード(和音)が順番に変化していくことで、さらに豊かな表情を伝えることができます。我々ポップス音楽の世界ではこれを『コード進行』と呼ぶのですが、このコード進行が曲に豊かな表情を与えつつ、聴いている人の心を動かすのです。

 そして、とても重要なことなのですが、その 『コード進行が醸し出す表情』と『メロディーが紡ぎ出す表情』が、どのように絡み合って人の心に届くのか……というところが、その曲が名曲であるかどうかを左右するのです。ですから、私がこのコラムでご紹介する名曲たちはみな、上記の絡み合った結果が本当に素晴らしく、人の心を打ち震わせてくれる曲ばかりなのです。

 今回選んだ10曲以外にも、私がその名曲性をご紹介したい曲はまだまだたくさんあります。ただ今回、私があるピアノアルバム(DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』)を制作することになり、それに向けて選んだのが、この10曲のラインナップだったわけです。そのピアノアルバムは『究極に優しいピアノアルバム』という趣旨で企画されたものでした。究極に優しいピアノで名曲を演奏すれば、聴いている人の心が癒され、豊かで幸せな気持になるだろう、という想いから生まれた企画です。このアルバムを聴くと、その名曲の魅力と優しいピアノ演奏によって緊張や悩みがほぐされて心が柔らかくなり、聴いているうちにウトウトとまどろんでしまうことでしょう。それほど優しい演奏を心がけたのですが、その結果『名曲性』はさらに明確になりました。なぜなら、究極に優しい演奏を心がけたため、演奏でリズムやダイナミクスがほとんど表現されていないからです。そのため、曲のメロディーとコード進行の関係だけが浮き彫りにされ、結果としてその曲がいかに名曲であるかがとてもわかりやすく伝わることになったのです。

 ですから、私にとっては、この『名曲の理由』で様々な名曲をご紹介する上で、今回の10曲がとてもその理由をお伝えしやすいわけです。 10曲はご覧の通り、曲を生んだ人もその人が生きていた時代も、曲が生まれた年もバラバラですが、それぞれの曲が持つ名曲性によって世界中の人に愛され、多くの人の心を打ち、震わせ、優しく包んできました。いったいこの10曲は、なぜそこまで人の心を惹きつけるのだろう? その理由の一部を、これから順番に解説していこうと思います。それぞれの曲の魅力に触れて頂き、名曲が持つ不思議な力を感じてもらえたら嬉しいです。

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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File04. 「ひみつのアッコちゃん」「魔法使いサリー」他(作曲:小林亜星)
 
今回は 小林亜星さんが生んだ「ひみつのアッコちゃん」他、複数の曲をご紹介します。
 
 
 
作曲家 小林亜星さんについて
 
小林亜星さんは、CMやアニメなどの曲を50年以上にわたって数多く生み出している、作曲家の大御所です。 初期の作品がレナウン「ワンサカ娘」やブリヂストンのCMソング「どこまでも行こう」だということでわかる通り、1960年代の初頭から作曲家として活躍を始められていますから、1961年生まれの私が幼少時代に小林亜星さんの曲に馴染んでいたのは、ごく自然なことだと思います。
 
ただ、多くの作品を手がけ、名を成している作曲家の大御所という方はたくさんいらっしゃいますが、幼い頃の私にとって、また、名曲マニアの私にとって、小林亜星さんの存在は、少々特別なものでした。(幼い頃の私にとって特別な存在であったことは、だいぶ後で分ったことですが……)
 
それが今回この名曲の理由で小林亜星さんをご紹介する根拠でもあります。

基本的にこの連載ではひとつの作品(名曲)を取り上げてご紹介する、という方針なのですが、今回は特別に、ひとつの名曲ではなく、その名曲の理由を探るためにいくつかの作品を見ながら、解説を進めていきたいと思います。

その、特別に複数の作品をご紹介するわけも、小林亜星さんの特別な存在にあります。
 
 
 
私の記憶 そして謎の魔法使い 小林亜星
 
記憶の限り、私が生まれて最初に「曲」で心を惹かれたのは、「バラが咲いた」でした。この名曲を生んだのは、やはり小林亜星さんと同じく私が心から尊敬する作曲家、浜口庫之助さんなのですが、「バラが咲いた」に惹かれてから、まだ小学1年くらいの私でも、「フォークソング調」というサウンドの印象は明確に胸に残ったようです。「自分はこういうものに心を惹かれるんだな」といった感覚は、当時、ちゃんとありました。
 
そしてちょうどその頃、テレビでよく流れていたのが、ブリヂストンのCM「どこまでも行こう」でした。
おそらく「フォークソング調」というところで気になったのでしょう、「どこまでも行こう」が「バラが咲いた」と同じように自分にとって「心惹かれる曲」だ、ということに気づくのに、さほど時間はかかりませんでした。
 
当時の私は小学1年くらいですから、当然子ども向けのアニメを観ます。
当時、いくつか観ていたアニメの中で、「スーパージェッター」や「キングコング」の主題歌が僕の心をつかんでいました。もちろんその頃の私は、そのうち「キングコング」の曲を生んだのが「どこまでも行こう」と同じ作曲家、小林亜星さんだとは知りません。
 
同じ頃テレビのCMで、なぜ自分がその歌に惹かれるのか不思議で、よく口ずさんでいたものがありました。「ブルーダイヤ」です。まったく明るいメロディーなのに、心に微かな切なさを感じていたのです。明るいのなぜか切なさを感じる、という意味では、ちょうど「バラが咲いた」「どこまでも行こう」「キングコング」と共通したものがありました。
 
しかしこれもまた、当時の私が「ブルーダイヤ」の曲を生んだのが小林亜星さんだと知ることはありませんでした。(これは何年か後のことですが、私は「チェルシーの唄」が大好きで、これもまた小林亜星さんの曲なのでした)
 
さて、ちょうどその頃、私の2才年上の姉が好きでよく観ていたのが、アニメ「魔法使いサリー」でした。まだ「巨人の星」や「タイガーマスク」が始まっていなかったからでしょう、姉と一緒に観るうちに、私も大好きになっていきました。
 
そうすると、またまた「キングコング」と同じようなことが起きます。
番組が始まると同時に流れ出す主題歌が、どんどん好きになっていくのです。
そして、この「魔法使いサリー」の主題歌で、今思うと私は『マイナーキー(短調)の曲の魅力』に気づき始めたのでした。そんな大きな役割を果たしたこの歌を作曲したのが、これもまた小林亜星さんだとは、やはり小さな私は知りませんでした。
 
やがて「魔法使いサリー」が終わり、新番組として「ひみつのアッコちゃん」がスタートしました。
この番組に、小学2年になっていた私の心は完全につかまれました。
 
極端なことをいえば、私は “アッコちゃん” を好きになってしまったのです。
 
そして同時に、その主題歌にも私は心を奪われました。

番組が始まり、主題歌が始まると、まるで初恋のように切なく、あたたかい、たまらない気持ちになって、真剣に主題歌を聴いたものでした。
 
そして、この「ひみつのアッコちゃん」の歌を通して、また再び私の知らないところで、目に見えない魔法の力によって私の心を奪い、ある音楽的な魅力を私に教えていたのが、「作曲家 小林亜星」だったのです。
(大先輩ですが、以降はいったん、通常の敬称略にて記載させて頂きます)
 

 
 
小林亜星の生む曲の魅力~名曲の持つとてつもない力
 
動画でご覧頂いたように、小林亜星という作曲家の生むメロディーは、実に滑らかで、ある意味とても素直です。
 
聴いている人のほとんどが、安心してそのメロディーが連れて行ってくれるところへ、安心して身を委ね、そこで出会う情景や生まれる感情を楽しむのではないでしょうか。

そう、その『メロディーが連れて行ってくれる』という力が圧倒的なのが、小林亜星の曲の特徴です。
 
淀みなく、どんどん心が幸せに、そして気持ちよくなるところへ、連れて行ってくれる。
 
では、力づくなのか、というと決してそうではない。
 
私の考えでは、聴く人の気持ちを代弁するかのように、多くの人が「次にここへ連れて行ってもらえたら嬉しい」というところへものの見事に連れて行っていってくれる、共感の強さみたいなものが、その理由なのでは、と思います。
 
その理由はきっと神様にしかわかりませんが、小林亜星が曲を生む瞬間の心の状態に、その答えがあることだけは、名曲を求め続け、自らも作曲家である私にはわかります。

そしてそれはきっと、メロディーが素直な感じがする理由でもあるでしょう。
 
ただ、それだけではそのまま名曲にはなりません。

そこには、やはり目に見えない情感の力が働いています。

その情感を生み出すのは、メロディーの高まりやメロディの持つリズム(譜割り)の微妙な変化と、メロディーを支える和声(コード進行)です。

「ひみつのアッコちゃん」でそのあたりを見てみましょう。
 
 
とても滑らかで、誰のこころにもすーっ、と入るきれいなメロディーが始まり、再びメロディーが繰り返すかと思うと、若干変化して次に進み、落ち着く。
その後、軽やかに高いところへメロディーが上がり、とても切なくなる和声と共にそのフレーズがゆっくり下がりながら繰り返され、その後、光が差すような和声の中、メロディー美しく上りつめる。
再び曲の最初に似たメロディーが始まるけれど、今度はたたみかけるようにゆっくり上へ上っていき、そのままきれいに終わりを迎える。

この曲はGなのですが、歌詞の「シンデレラ姫が現れた・・・」のあたりから、
C~F♯7~Bm~E7~Am7~D7~A9~D7
と展開していくコード進行が、実に美しく、切なく、輝きながらメロディーを支えていきます。
 
専門的な音楽理論でいうと、この辺りの切なさと美しさは、Gの調から一瞬、微かにDの調へ一時転調している効果もあるのですが、それは単なる結果論です。
 
大事なのは、このような瑞々しい音の響きとメロディーが一体となって、聴いている人の心に何ともいえない情感を震わせる、音楽の不思議な力、そしてそこへ滑らかに聴く人を連れて行く、メロディーの力です。
 
小林亜星が「ひみつのアッコちゃん」というアニメのテーマに沿って生み出した情感は、まだ小学2年生だった私の心を見事に揺り動かし、その音の響きの持つ音楽的な力すら、いずれ音楽家となる私に植えつけたのです。
 
これが名曲の持つ、とてつもない力です。
 
 
 
小林亜星が生む、他の曲
 
ここで今度は、「ひみつのアッコちゃん」が登場する少し前に、幼い僕の気持ちを揺り動かした「魔法使いサリー」を見てみましょう。
 
この曲は「ひみつのアッコちゃん」と違って、マイナーキー(短調)の曲です。
 
これは私の個人的な考え方なのですが、圧倒的で素晴らしい名曲を生む、いわゆる天才作曲家は、曲を生む時の心の状態が「赤ちゃん」のようにピュアで無邪気だと思うのです。
 
そうではないと、光のように輝き、生きもののように数多くの人を魅了し、それが永遠に愛されていく、という風にはなかなかいかない、と思うからです。
 
そして、もちろん小林亜星という作曲家も、選ばれた才能を持つ、圧倒的な天才作曲家です。
 
ロッテのガム「Fit's」のCMでもおなじみの、「オオカミ少年ケンのテーマ」のイントロの不思議な言葉や「魔法使いサリー」のイントロの魔法の言葉のように、子どもの心がそのまま歌になったような要素もそうですが、長調は長調らしく、短調は短調らしいのも、音楽に対するピュアさ、無邪気さの表れではないかと、私は考えています。
 
CMの「モクセイの花」は短調の曲で、短調のもつ切なさが光りますし、同じくCMの「酒は大関こころいき」は、メロディーに日本酒らしい雰囲気が溢れいていて、都はるみの「北の宿から」は、演歌の持つ美しさに満ちています。そして「この木なんの木」は校歌のような「正しさ・真っすぐさ」がメロディーと曲全体を大きく包んでいます。
 
これらは、生み出そうとする作品に向う際の小林亜星の、心の姿勢のようなものが、どれだけピュアで無邪気なのかが、如実に表れていからだと、私は感じます。
 
さて、話を戻して、そのマイナーキー(短調)の魅力に溢れた「魔法使いサリー」を見てみましょう。
歌の始まりは物語のテーマ(設定)に沿った、呪文です。そしてそのメロディーがそのまま繰り返され、曲が始まります。
 
そして、一度「サリー」という主人公の名前になるところで、一瞬明るい和音に支えられ、世界が明るく、強く光ります。これは聴いている人に鮮やかに「サリー」という主人公の存在が伝わる、素晴らしい展開です。
そして、すぐに同じような「サリー」という繰り返しで短調の感じに戻り、メロディーが短調の切なさを振りまきながら上っていき、そのまま短調らしく美しく収まります。
再び明るい「サリー」のところから繰り返し、「魔法使いサリー」と落ち着き、1コーラスが終わります。
 
テレビの主題歌では、続けて2番が繰り返されますが、歌の最後は「サリー、サリー、サリーちゃん!」という呼びかけにサリーちゃんが応える形で、歌の最後の部分だけ、見事に長調の和音に変化、明るく終わります。
 
「魔法使い」というイメージからおそらく短調の曲となり、けれども主人公のサリーちゃんが少女で明るいキャラクターであることから、「サリー」という言葉のタイミングで明るくなり、さらに最後も明るく締めくくられる、ということなのでしょうか。
 
いずれにしても、何ともピュアで素直な展開です。
 
作曲家小林亜星が、いかに赤ちゃんのような、こどものような、ピュアで無邪気な心によって名曲を生んでいるのか、手にとるように分る作品ですね。
 
 
 
 
小林亜星の作品からわかること、そして私の願い
 
このように見てみると、名曲というものがいかに作曲家の心の状態によって生まれるなのか、ということが分ってきます。
 
これはとても重要なことなのですが、この小林亜星のようにピュアで無邪気な心の状態で曲を生むことができるのは、「何かのマネや、他の作品の何かが伝染ってしまってメロディーが出てくる」のではなく「純粋にゼロから新たなメロディーを生む」ということができる、オリジナリティの溢れた人だけの特権なのです。
 
オリジナリティが薄かったり、ほとんど無かったり、という人が作品を創ろうとすると、なかなか無邪気にはできないものです。
 
そして皮肉なことに、オリジナリティが薄い作品は、結局その生命力が弱いからでしょうか、やがて人の記憶から薄れていき、いつしか忘れ去られてしまうものです。
 
残念なことに、名曲を生むことのできる天才作曲家は、そうなかなか簡単に世の中に現れません。
 
1960年台初頭から名曲を生み続けている小林亜星さん。たまたま私の父と同世代ですからご年齢は実感できますが、嬉しいことに、非常にお元気だそうです。
 
そして、あの名作ドラマ「寺内貫太郎一家」そのままの、強くてこわい、頑固親父そのもの、といったキャラクターの方だそうです。
 
幸い私の父も元気です。これからもどうか、頑固親父そのままで結構ですからいつまでもお元気で、こどものようなピュアさと無邪気さの溢れる名曲を生み出し続けて頂きたいと、心から願います。
 
小林亜星さんの生み出した作品で、知らないうちに音楽の心を育てて頂き、美しい音楽と名曲を愛する音楽家となった私の、感謝を込めた心からの願いです。
 
 
 

 

【津田 直士 プロフィール】

作曲家 / 音楽プロデューサー

小4の時 バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “ 音の謎 ” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX (現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュース。

‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony) や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS) 、BLEACHのキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書「すべての始まり」や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス『ソニアカ』の講義など、文化的な活動も行う。
 

 
 
moraで 津田直士の音楽を聴くことができます。
 
・プロデューサーとして作曲・編曲・ピアノを手がけた 
DSD専門自主レーベル"Onebitious Records" 『Gradation』 
http://mora.jp/package/43200001/OBXX00002B00Z/
 
・プロデュースを手がける
mora Factory アーティストShiho Rainbow の『虹の世界』『Real』『星空』 
 
 

 
 
津田直士「名曲の理由」バックナンバーはこちらから
 

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dsd_sp_JK.jpg なぜDSD音源によるアルバム『Gradation』を制作したのか?
類例を見ないコンセプトと、音源そのものが持つ美しさ。
その理由と作品の全貌を、本作のプロデューサーである津田直士氏にインタビューしました。 

 

~Track List~

Tr.1        メインテーマ ~ 過去と未来がつながる瞬間
Tr.2        My Love Song
Tr.3        友だち
Tr.4        懐かしい写真
Tr.5        Heart ~ 目に見えない大切なもの
Tr.6        午後の記憶
Tr.7        夕映え
Tr.8        Experience
Tr.9        無垢
Tr.10      Overture
Tr.11      Stay Gold
Tr.12      一日の終わりに
 

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『確かに、ちょっと普通の音楽じゃないかも・・・(笑)』

 

――DSD音源でのリリース、そして不思議なアルバムコンセプト・・・伺いたいことが色々ありますので、よろしくお願いします。

津田 はい、何でも聴いて下さい(笑)

――まず、今回配信がスタートした、アルバム『Gradation』は、"Onebitious Records" 第一弾作品となるんですね。

津田  そうです。今年の1月、mora内に設立されたDSD専門のレーベル"Onebitious Records" に、プロデューサーとして参加しまして。スタッフと話し合ったところ、第一弾として、まずはインストゥルメンタルの作品を、ということになり、今回のアルバムリリースに至りました。

――では、「DSD音源」とこのアルバムの「あなたのための映画音楽」という不思議なコンセプトって、どんな関係があるんですか?

津田  お! いきなり核心ですね。ちょっと語っていいですか?(笑)

――ええ、核心でしたら、ぜひお願いします(笑)

津田 あの……例えば代々木公園みたいなところで、フルートとかサックスの練習をしている音が聴こえたりすることってあるじゃないですか。あと、住宅街を歩いていてピアノの音が聴こえるとか。

――はい、あります、あります……。

津田 でね、今度は例えば繁華街を歩いていて、店先の小さなスピーカーから無理矢理大きな音で、めっちゃ歪んだりしながら、流行っている音楽がかかっていたりするじゃないですか。ああ、うるさいな、みたいな。

――ああ、それもよくありますね。

津田 結論言っちゃうと、前者は素人の音楽、そして生音という意味で良い音。後者はちゃんとプロフェッショナルが制作した音楽で、(制作者から見れば)歪んでいる悪い音(笑)

――そうですね。

津田 さらに、前者はその音を聴いている人が主人公で、聴こえている音はその人の人生にあくまで彩りを与えてくれる役割。 後者は、流れている曲には、その主体や背景、ストーリーがたくさんあって、聴いている人はその音楽が流れている場所をたまたま通りがかっているわけで、必ずしもその曲を聴いたひとが主人公とは限らない。

――なるほど。

津田 だから、今回のアルバムなんです。

――えっ……?

津田 あ、すみません、もう少しちゃんと(笑)。 DSDの音って、ほぼ原音そのものなんですよね。だから、リアルに聴こえる、空気の振動そのもの、みたいな音を、そのままリスナーに伝えることができる。だったら……っていうのがまずスタートでありまして。

――はい、それはよく分かります。

津田 じゃあ、自然の音とかDSDで色々出せたらいいな、とか普通に考えていたんですけど、ある日、突然閃きまして。

――閃きました?(笑)

津田 ええ。僕、人生って映画だと思うんですよ。常々そう思っていて、そういう考え方の配信チャンネルを持っていたりするくらいで……。 でね、人生は映画だから、自分はその映画の主人公。だから未来は自分で創るもの、って……。

――素敵な考え方ですね。

津田 そうなんですよ(笑) でね、さっきの、風景の中の生音、につながるんですけど。まず、いろいろな人の人生、つまりその人の映画のための音楽を提供したいな、と思いまして。ちゃんと美しい音楽をいくつも用意してね。で、もしその音が限りなく原音に近ければ、聴く人の人生というリアリティに対して、そのまま大きな力になれるんじゃないかな、って思ったんです。いや、閃いたんだ(笑) 閃いたんですよ。

――聴く人の映画音楽というコンセプト、美しい音楽、そして生音であればさらに活きる、ということですか?

津田 素晴らしい、まとめましたね(笑) その通りです。 生音に近ければ、聴いている人の側で、常に生演奏しているようなものですから。そして、その音楽が聴いている人の心を豊かにできて、目に映る景色がいつもより鮮やかに、そして活き活きとしたドラマティックなものになったら素晴らしいな、と思いまして……。

――それは聴く側にとって、とても嬉しいことだと思います。

津田 そうですよね、ああよかった。だから、通勤通学の時、散歩している時、一人で自分と向かい合っている時とかに聴いてもらえると、目に映る景色が、あと音が良い分空気感みたいなものが、いつもと違って見えるはずなんです。そして、「ああ、自分の人生って映画なんだ……」と感じてもらえたらうれしい。

――それは素敵ですね。

津田 全体的に優しい音楽なので、音が何かを妨げたりすることはたぶんないと思うんです。おそらく癒されたり、幸せな気持ちになったりしてもらえるかな、と……。

――曲はすべて津田さんのオリジナルですね。

津田 はい。12曲、それぞれ聴く人の心に働きかける方向が微妙に違っています。タイトルでそのニュアンスは分かるかも。でも、共通しているのは、どの曲も聴いている人のための映画音楽、というところ。だから、受け取り方はまったく自由です。ああ……聴く人の、目に映る景色がどんな風にいつもと違うか、すごく興味が湧きます!!

――たしかにそれは楽しみですね……。そういえば、すでに2曲先行して配信されているんですね。

津田 そうですね。幸い、とても好評らしくて。

――脳科学者の茂木健一郎さんから推薦文を頂いているんですよね……。

津田 あはは、そうそう、あれ何でしょう? 推薦文っていうより、完璧、ポエムですよね。「耳を澄ませて、万物と……」 茂木さん、面白いね。

――全12曲入りのアルバム『Gradation』、DSD音源で、聴く人のための映画音楽、ということですが、読んでいらっしゃる皆さんにメッセージがありましたら、どうぞ。

津田 30年近く音楽プロデューサーをやってまして、とにかく何かのマネや二番煎じだけはやらないように心がけてきたんですけど、今回のアルバムもやはりオリジナルなものだと思っています。現時点での最高音質で、しかも聴く人が主体、何といっても聴き始めた瞬間、映画の主人公になるわけですから……普通の音楽じゃないですよね(笑) なので何はともあれ、ぜひ一度聴いて頂けたら嬉しいです。 良かったらまず、Tr.11 Stay Gold と Tr.2 My Love Song あたりを試聴してみて下さい。アルバムの感じが分かって頂けると思いますので。

――ぜひ聴いて頂きたいですね。最後になりますが、moraでは、他にも津田さんが関わっているプロジェクトがありましたよね。

津田 はい、「名曲の理由」という連載をしているのと、mora factory では僕のプロデュースするShiho Rainbowというアーティストが作品を配信しています。

――前回の連載では「制作中の作品」について、その過程をレポートしていらっしゃいましたが……もしかしてこの曲って……?

津田 そうそう、あの記事の《制作中の作品》が、この「Gradation」なんです。で、曲が生まれる様子を書きましたが、実はあれが、さっき試聴をお勧めした、「Stay Gold」なんです。曲が生まれた時、本当に嬉しかったんですよね。

――なるほど! 楽曲の制作風景をこうして見る機会というのはなかなかありませんから、とても新鮮に楽しませていただきました。

津田 ああ、それは良かった。あの記事の曲が何なのか、あれから結構聞かれましたね。やっと完成したので、ぜひDSDのきれいな音で聴いて頂けたら嬉しいです。

――ええ、もちろんです! 今回は貴重なお話、ありがとうございました。

津田 こちらこそ、ありがとうございました。

 


 

【津田直士 プロフィール】

小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに“音の謎”が解けて突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。
大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よりSony MusicのディレクターとしてX(現X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュース。
'03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、ION化粧品のCM音楽など、数多くの作品を手がける。
Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

 

・ドワンゴ公式ニコニコチャンネル   津田直士の「人生は映画 主人公はあなた」
http://ch.nicovideo.jp/tsudanaoshi

・mora readingsにて連載中 津田直士「名曲の理由」
http://mora.jp/special/mora_readings/tsuda_naoshi

・津田直士(@tsudanaoshi)公式Twitter
https://twitter.com/tsudanaoshi

 

 

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