最新のトピックスへ Facebook Twitter

津田直士のトピックス

Tweet(ツイート)    

tsuda.png

 

■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File13. 「ベンのテーマ」(作曲:ウォルター・シャーフ)

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

 

今回は ウォルター・シャーフが生んだ名曲 「ベンのテーマ」をご紹介します。

「ベンのテーマ」は、映画音楽やTVドラマ音楽、クラシック音楽などの作曲家、ウォルター・シャーフが1972年頃、映画「ベン」の主題歌として作曲しました。当初はドニー・オズモンドが歌う予定でしたが、彼がツアー中でレコーディングが難しかったことから、まだ若かった頃のマイケル・ジャクソンが歌うことになりました。

結果的に、この曲はマイケルジャクソンの2ndソロアルバムに収録され、アルバムは全米チャートで5位を記録、さらにシングルでは1位を記録、当時14才だったマイケルは、全米で3番目の若さでNo.1ヒットシングルを獲得したソロアーティストとなりました。(ちなみに1番目は13才でNo.1を記録したスティービー・ワンダー、2番目は奇遇ですが14才の誕生日にNo.1を記録したドニー・オズモンドです) また、「ベンのテーマ」は、1972年のゴールデングローブ賞 主題歌賞を受賞、そして翌年のアカデミー賞候補にもノミネートされ、マイケル・ジャクソンはステージでライブパフォーマンスを披露しました。

映画「ベン」では、ラストシーンでこの曲が流れます。動物が大好きで優しい心の持ち主であるマイケル・ジャクソンが、彼らしい気持ちを込めて歌う「ベンのテーマ」は、素晴らしい名曲として、世界的に有名なバラードとなりました。

 

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
※ メロディーは移動ドで音階を表します
※ 原曲のキーはF# ですが、コードについては参考音源のキーに合わせ、Eで説明します

 

動物(ネズミ)に愛情を注ぐ主人公の心情が反映された、優しい音世界がこの曲の特徴です。 その優しさは、どのようにして聴く人に伝わってくるのでしょうか。

 

【パート1】 (0:07)

まず、出だしのメロディーのリズムを見てみますと、「ターーン・タ/タ・タ・タ・タ/タ・タ・ターン」となっています。 前の「ターーン・タ」 と 後の「タ・タ・ターン」がほぼ対称形で、真ん中の「タ・タ・タ・タ」を挟んでいます。

また、そのメロディーは、「ソーーラ ソファ#ソラ ソレレー」です。リズムが対称形に近いため、安定したシンプルさが優しさを醸し出し、またメロディーの「ソファ#ソラ」の「ファ#」も同じく優しさを誘導しています。

この時、和音はどうなっているのか見てみると、E B/D#のくり返しであることがわかります。主要三和音のうちの2つで構成されているシンプルさに、B/D#、つまり低音が最初のEというコードの半音下の音を出すことで、繊細な優しさが聴く人に伝わってきます。

 

【パート2】 (0:16)

続きを見てみますと、メロディー最後の音程が「レ」ではなく「ファ」になっている以外、まったく同じです。

優しいメロディーと和音を繰り返すことで、子どもと動物というこの映画のもつ優しい世界が、聴く人に伝わってきます。

 

【パート3】 (0:24)

さて、次はこの曲の魅力とオリジナリティが強く伝わってくる、とても大事なセクションです。

こちらもまずメロディーのリズムを見てみますと、「ターーン・タ/タ・タ・タ・タ」つまり、この前のメロディーの最初の部分(1小節目)と同じリズムですね。これが続けて4回繰り返されます。ここでもまた「シンプルさが呼ぶ優しさ」が聴く人に伝わってくるわけです。

さて、ここから、この曲を名曲にしている、とても大事なポイントの説明を始めたいと思います。

先ほどから説明しているように、この曲はシンプルさに溢れていますが、シンプルなだけでは、単調になってしまう恐れがあります。しかしこの曲は、『半音の力』が、シンプルでも単調になることなく、むしろ聴く人に深い切なさと感動を与えてくれているのです。

すでに先ほどのメロディーでは、半音の力として「ファ#」が優しさを表現していましたが、このセクションでも、同じ場所、つまりメロディーの4番目の音がすべて半音になっています。
移動ドのメロディーで表記すると、「ミーーファ ミレ#ミファ」「ミーーファ ミレ#ミファ」「ミーーファ ミレ♯ミファ」「レーーミ レド#レミ……」となっています。4番目の音がシャープしていますね。半音シャープしている、ということは、「ドレミファソラシド」というシンプルなメロディー(音階)に『無い音』が鳴っているわけですから、聴いている人の心に何らかの「引っかかり」を生むのです。その「引っかかり」が、メロディーのリズムやメロディーのくり返しによるシンプルさに対して、特別な表情を与えているわけです。

さらに和音を見てみると、そこでも『半音の力』が強く働いていることがわかります。まず、コード進行はこうなっています。

E G♯sus4/D♯ G♯/D♯ D9(11) C♯7 C9(11) B

これだけを見ても、ジャズ理論に詳しい人でなければ、なかなかわかり辛いですよね。そこで、この和音の進行で『半音の力』が働いている音だけを取り出して移動ドで表してみます。

2小節目 / G♯sus4/D♯ G♯/D♯ ⇒ 『ソ♯』
3小節目 / D9(11) ⇒ 『ソ♯』
3小節目 / C♯7 ⇒ 『ド♯』
4小節目 / C9(11) ⇒ 『ファ♯』

となります。 さらに、ベース(低音)も E D# D C# C Bと、すべて 『半音ずつ下がっていく動き』 をしているのです。「メロディーの半音」 「和音の半音」 「ベース音の半音」と、3つの要素で『半音』の力が働いているわけですね。

 

【パート4】 (0:49)

さて、次のセクションではまた、さらにダイナミックなことが起きます。 それは、突然『長調から短調へ変化』することです。

最初の4小節間だけ、突然暗くて悲しい世界に変化します。メロディーも和音も、すべてが『短調』にチェンジしてしまうのです。長調だった元の世界が陽だまりのような優しい明るさに満ちていた分、暗くなった表情は聴いている人に強く伝わってきます(またこれは、この曲が流れる映画のシーンにもうまく合っています)。

そしてその後(1:05)に、もう一度 【3】 (0:24)と同じセクションが6小節間あり、続いて新たなセクションが展開します。

 

【パート5】 (1:29)

こちらは『半音』的なアプローチはなく、メロディーや和音の雰囲気もこれまでと違い、あっさり、ゆったりとした感じになっています。

メロディーは「ド」「レソソーー」「シミミーー」「ラレレーー」「ソドドーー」と、同じリズムを繰り返しながらだんだん下へ下がっていく、シンプルなもの。コード進行も、F♯m7 B/D♯ E△7 のくり返しです。

このセクションがあっさり、ゆったりしていることで、『半音』の力が強く、印象的なこれまでのセクションを引き立たせる効果が生まれています。

 

いかがでしょうか。

映画のラストシーンに向けて創られた「ベンのテーマ」……。

この美しい名曲バラードは、シンプルでありながら半音の力を巧みに使うことで、少年と動物の心温まる触れ合いを表現し、聴いている人の心を優しく震わせてくれるのです。

 

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら
FLAC / DSD

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

FB(Fan Page) : https://www.facebook.com/tsudanaoshi
Twitter : @tsudanaoshi
ニコニコチャンネル:http://ch.nicovideo.jp/tsudanaoshi

 

↓バックナンバーはこちら↓

tsuda_330.jpg

 

Tweet(ツイート)    

tsuda.png

 

■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File12. 夜想曲 第2番(作曲:フレデリック・ショパン)後編

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

前編に引き続き、名曲としての魅力を確認していきましょう。

 

前回は曲の出だし、「ソミー レミ レードー」というメロディーの説明をしました。

続くメロディーは「ソミー (低い)ラ (低い)ラー ミソー ファー」です。【解説ポイント04】 前のメロディーが穏やかだった分、ここで高い「ラ」まで上がったメロディーが、聴いている人の心を強く打ちます。【解説ポイント05】 そしてその切なさを少し引っ張ってから、「ファ」の音に落ち着きます。

さて、和声はどうなっているでしょう。前のメロディの時と違って、ここではメロディーの高まりを和声がしっかりと支えています。 この連載で何度も解説してきた、マイナー主和音を、あえてメジャーにしてしまうことで、心に強い切なさや震えを感じさせる和音が、見事にメロディーを支えているのです。

このメロディのコード進行は、 B B/D♯ D♯dim/E Em です。 今回はDのキーで説明していますから、本来はBmであるべきところが、Bになっています。 そして「ファ」の音に落ち着くまで、その切なさを引っ張っている和音(D♯dim/E)は、最初のメロディで2つ目に独特の雰囲気を醸し出した、あの和音と同じ構造です。【解説ポイント06】(dim=ディミニッシュドと呼ばれる独特の響きを持つ減三和音で、低音が半音でぶつかっている和音構造) これもまた、ショパンの圧倒的なセンスと才能が光るところです。

 

続くメロディー「レー ミー シ ドーラー」も、聴いている人の心を豊かに揺さぶます。【解説ポイント07】 その前の高まりから一度落ち着きながら、「ミーシ」のところではまた悲しみのような切ない感じが心を動かします。とても美しいメロディです。【解説ポイント08】  コード進行を見るとわかるように、また先ほどのBと似た効果をもたらす和音、つまり本来マイナーコードのF♯mであるべきところがメジャーコードのF♯7 になっています。 これは音楽の不思議なところなのですが、多くの人は、ドレミファソラシドという基本の音階の、ソがソ♯になった瞬間、心が切ない感じになるのです。 その効果がここで活かされているわけです。

さらに「ラー」のところも、何とも言えない不思議な雰囲気がしますね。 実はこれもG♯dim、そう、前編で解説した、あの独特の響きを持つ減三和音です。【解説ポイント09】  そして、この「不思議な感じ」に変化したこの表情は、次のメロディーを鮮やかに引き立たせます。 「(低い)ソ (高い)シ ラ ソファミファラシ ドー」というメロディーです。 ここまでの色々な表情の変化を受け止めて16小節のテーマを締めくくるセクションでありながら、低いソが鳴った直後にこれまでで最も高い音程である「シ」まで一気に上がるメロディーが、とても鮮やかに心を揺り動かしてくれます。【解説ポイント10

さらに、ここでもまた特別な和音が力を発揮しています。 「(低い)ソ (高い)シ ラ」を支えるのは、Asus4というコード。これは、和音の3度が4度に上がっているコードで、移動ドで表現すると「ソ・ド・レ」という音で構成されています。普通なら、Aというコードを使う場所です。Aを構成している音は「ソ・シ・レ」です。 ここでメロディーをよく見てみると、 「(高い)シ」が大事なポイントとなっています。「シ」のメロディーに対して、普通の和音「ソ・シ・レ」であれば、全く問題はありません。ところが、ショパンはあえて「ソ・ド・レ」という和音を使っています

これはとても興味深いことです。 なぜなら、「ソ・ド・レ」の「ド」が、メロディーの「シ」と半音違いなので、音がぶつかってしまうのです。 普通、クラシック音楽ではタブーとされる半音のぶつかり……。それを、ショパンは意図的にやっているのです。その結果、最初のメロディーのところで《減三和音とベース音は音がぶつかっていて、本来は無理のある組み合わせになっている》と解説した時と同じように、見事にこの曲独特の雰囲気を醸し出すことに成功しています。

 

テーマに続く、展開のセクションを見てみましょう。 このセクションのポイントは、キーが「D」と「A」のどちらにも聴こえるため、感覚が「Dのキー」と「Aのキー」を行ったり来たりするところです。 バッハを始めとしてクラシックでは、4度上や5度上のキーへの転調が、場面を変えるような効果としてさりげなく、そして巧みに使われますが、ここではそのような効果が実にうまく使われています。 最初の4小節間のメロディーは本来だと「シドレー ミーレ レーラー」なのですが、キーがAに移って「ミファソー ラーソ ソーレー」と歌っているようにも聴こえるのです。【解説ポイント11】 しかし次の4小節間のメロディー「ラシドドド ド シドレード ドーソ」は、G Gmというコード進行も含め、キーは明確にDなのです。【解説ポイント12】ところが次のセクションでは間違いなくキーがAに移ります。 「ドーシーラ ソーミ」というメロディーが、D♯dim B7/D♯ E F♯m というコード進行にのって歌い、【解説ポイント13】  Aのキーのまま、「ファー ミレミ ドー」と落ち着きます。コード進行は、Bm7 E7 A です。【解説ポイント14】 

さて、キーがAに転調してしまったので、テーマのキー、Dに戻らなければなりません。 普通なら、AからA7に移る、などの施しをして、Aがトニックコードではなく、ドミナントコードであることを匂わせるだけでスムースにDのキーに転調できるのですが、ここでショパンはとんでもないコード進行によるピックアップを経てDへの転調に至ります。 なんと、A A♭7 E♭G B/F♯ E7 A7 というコード進行です。【解説ポイント15】 大学生の私は、この部分を分析した時も、ポップスやジャズでもほとんど見ることのない圧倒的な音楽性に驚嘆してしまったのでした。

 

さて、夜想曲 第2番は、終盤にまだ新たな展開があるのですが、誌面の都合もあって、今回の解説はここまでにしておきます。

その名曲性に打たれた大学生当時の私の驚きも含めて、2回にわたってご紹介しました、ショパンの夜想曲 第2番。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンと並ぶ圧倒的な才能を持ちながら、残念ながら夭逝してしまったショパンの名曲を、ぜひ色々聴いてみて下さい。

オーケストラではなく、ピアノだけで伝わる名曲の素晴らしさ……ここにも、名曲の原点があるのです。

 

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

FB(Fan Page) : https://www.facebook.com/tsudanaoshi
Twitter : @tsudanaoshi
ニコニコチャンネル:http://ch.nicovideo.jp/tsudanaoshi

 

↓バックナンバーはこちら↓

tsuda_330.jpg

 

Tweet(ツイート)    

tsuda.png

 

■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File12. 夜想曲 第2番(作曲:フレデリック・ショパン)前編

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回はショパンが1831年頃に生んだ「夜想曲 第2番」をご紹介します。

ショパンは1810年、ワルシャワで生まれました。ピアノ作品が多く、「ピアノの詩人」と呼ばれたりしますが、ピアニスト、作曲家としての才能はかなり非凡で、7才でポロネーズを2曲作曲、8才の時に公開演奏を行い、「第2のモーツァルト」と呼ばれました。
19才の時ウィーンでデビュー、演奏会をした時には既に数多くの作品を持っていたショパンですが、10代で生んだ作品の数々をもとに、その早熟さがバッハやモーツァルト、ベートーヴェンを超える、と言う音楽学者もいます。

この「夜想曲 第2番」も1981年ですから、ショパンが21才の頃に生んだ作品ですね。確かに若いです。

夜想曲、つまりノクターンは一つの楽章からなる、叙情的なピアノ作品のことですが、ショパンは生涯で21曲の夜想曲を残しています。
その中で最も有名なのが、この第2番です。

ところで音楽学者によると、第2番のような初期の作品は、ショパンより30才ほど年上で、夜想曲というスタイルを生んだとされるアイルランドの作曲家ジョン・フィールドの影響が見られる、ということです。確かに晩年の作品、切なさに満ちた夜想曲第19番などはその複雑さと繊細さがショパンの魅力に満ちています。

 

個人的な話になりますが、12月にリリースした私のアルバム『Anming Piano Songs』も、ある意味、夜想曲集と言えます。 左手でコードワークによる伴奏を、そして右手で切ないメロディーを歌うように奏でる、というスタイルで、バッハからいずみたくまで、色々な作曲家の名曲を単一楽章にてアレンジしているわけですから。
おそらくそのためでしょう、今回のアルバムを構想した時、一番最初に選んだ曲は、私がショパンの曲を聴くきっかけとなった「夜想曲 第2番」でした。
クラシック音楽は、現代のロックやポップスにも大きな影響を与えていますが、ポップスのピアノバラード演奏は、夜想曲というスタイルを受け継いでいる、と言えるかも知れません。

 

さて、ショパンは「英雄ポロネーズ」「革命」「バラード 第1番」「雨だれ」「別れの曲」「子犬のワルツ」などを始めとして、多くの人に愛される作品を数多く生んでいますが、残念ながら1849年の10月、長い間彼を苦しませた肺結核のため、39才の若さでこの世を去りました。
しかしクラシックの、特にピアノ作品においてショパンの存在はとても大きく、後世の作曲家、ピアニストに大きな影響を与え続けました。

 

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)
(※ 原曲のキーはE♭ですが、コードについては参考音源のキーに合わせ、Dで説明します)

 

ショパンは演奏について、ピアノが「歌う」ことを大事にした、と言われていますが、そんな彼らしい、とても美しく「歌う」メロディーです。 メロディは「ソミー レミ レードー」。穏やかで優しいメロディです。【解説ポイント01

 

メロディは穏やかですが、「レミ」のところで和音が何とも言えない雰囲気を出しています。【解説ポイント02
その理由は、減三和音、コードではdim(ディミニッシュド)と呼ばれるコードにあります。このコードの響きが持つ、不安な感じ、怪しい感じを巧みに使っているのです。

しかもこの和音が響く時、ベース音(低音・根音)は前の和音、つまりメロディー「ソミー」 を支える和音のまま変わりません。実はこの和音とベース音は音がぶつかっていて、本来は無理のある組み合わせになっているのです。音楽理論として考えると、本来はタブーに近い和音構成なのです。ところが結果的には、この和音構成にすることで減三和音が持つ雰囲気に加え、さらにこの曲独特の雰囲気を醸し出すことに成功しているのです。

 

私がまだ大学生で、やっとプロのミュージシャンになったばかりの頃でした。私は大好きだったこの曲を、クラシックの譜面からジャズやポップスのコード譜に起こし直そうと試みました。  そして音を分析し始め、曲の2つ目のコードを調べて驚きました。C♯dim/D……コード進行については相当詳しい私でも、見たことがないコードだったからです。「Gm6/Dの間違いではないか……?」と思い、確認しましたが、音符はやはりEdim/Dなのです。もちろん、実際に音の響きを耳で聴いても、C♯dim/Dというコードが持つ独特の響きは、Gm6/Dのような他のコードでは再現できません。私はその和音をさりげなく使うショパンのセンスに、深く感動しました。

後ほど紹介しますが、分析を続けると、ポップスでは一般的に使わない高度なコードの使い方や、ジャズでもなかなか見かけない複雑なテンションコードの解釈が、他にもありました。150年以上前のクラシック音楽には、ジャズやポップスがほとんど使わない複雑なコード進行をいとも簡単に活用しながら、しかも誰もが自然と耳に馴染んで好きになる、そんな普遍的な楽曲がたくさんある……。ショパンをきっかけに、改めてクラシック音楽家に対する畏敬の念が私の中に生まれたのです。

それ以来、「革命」や「英雄ポロネーズ」を始め、ショパンの曲を研究しては、その和音の使い方の凄さに感動し、自分の音楽へ活かせないか試行錯誤したものです。一部の音楽学者が、ある側面ではショパンがバッハやモーツァルト、ベートーベンよりも才能がある、と評する気持ちも、私にはよくわかります。

 

さて、音の話に戻りましょう。「レードー」の「ド」の時にも、和音の持つ魔法が仕掛けられています。 メロディーが「ド」なのに、ベース音(低音・根音)は「シ」つまり半音、下に下がり始めているのです。【解説ポイント03

曲の流れで聴くと全く気になりませんが、この「ド」が鳴っている時の音だけを響かせると、音楽としては成立し得ないほどの不協和音となっています。しかし、あえてショパンがその音を選んでいる理由は、私にもわかります……音楽が、理論ではなくあくまで、作者の心の震えを音に託したものだからです。

まず美しいメロディーがあって、そのメロディーを支える和音が感情をさらに豊かにする。その姿勢で創ろうとすれば、このメロディーが「ド」に落ち着いた時、既に次の和音に向けてベース音(低音・根音)が半音下がり始めるのはとても自然なことなのです。作曲という行為が理論を超えている、そしてそのことで、音楽に詳しくない、理論がわからない、一般の人たちに、作曲家のイメージが正しく伝わる……そんな「名曲の理由」の神髄が、このショパンの夜想曲には宿っているのです。

 

(後編に続く)

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

FB(Fan Page) : https://www.facebook.com/tsudanaoshi
Twitter : @tsudanaoshi
ニコニコチャンネル:http://ch.nicovideo.jp/tsudanaoshi

 

↓バックナンバーはこちら↓

tsuda_330.jpg

 

Tweet(ツイート)    

tsuda.png

 

■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File11. Over The Rainbow (作曲:ハロルド・アーレン)

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回は、ハロルド・アーレンが1939年頃に生んだ「Over The Rainbow」をご紹介します。

 

『Over The Rainbow』(日本語タイトルは「虹の彼方に」)について
この曲は1939年にアメリカで公開されたミュージカル映画『オズの魔法使い』で主役のジュディ・ガーランドが歌うシーンが有名な劇中歌です。同年、アカデミー歌曲賞を受賞して大ヒットしました。その後、美しいメロディーが評価され、スタンダードナンバーとして世界中でカバーされています。

ハロルド・アーレンはアメリカの作曲家で、多くのジャズ歌手にカバーされている「Blues in the Night」や「GET HAPPY」、「Happiness Is a Thing Called Joe」などのヒット曲を始めとして、映画や舞台の音楽を中心に、500以上の作品を残しています。

ちなみに、この『Over The Rainbow』は全米レコード工業会(RIAA)と全米芸術基金(NEA)により「二十世紀の1曲」に選ばれ、投票の結果、第一位となっています。まさにスタンダードナンバーを象徴するような楽曲ですね。

 

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)

 

まず最初は、冒頭、低い「ド」から高い「ド」へ一気にあがるメロディーがこの曲の一番の特徴です。

メロディーというは本当に不思議なもので、たった7つの音、(低い)「ド」(高い)「ド」「シ」「ソ」「ラ」「シ」「ド」だけで、人の心が動くのです。
そこには理屈も理論もありません。でも、そのメロディーを生んだ人に心の震えや感動がなければ、決して聴く人の心を打つことはないんですね。

メロディーを生む人にとって、心の震えや感動は、生きている、いわば生命のようなものです。
一方、7つの音の羅列は、もともとは当然、生命のように生きているものではありません。メロディーを生んだ人が、メロディーというかたちでその命を吹き込むことができた、と確信した瞬間から、そのメロディーは命を宿すのです。

とても不思議なことです。確かに不思議ですが、少なくともそのメロディーが聴く人の心を打ち、揺り動かすことで、まさに曲を生んだ人の命がちゃんと生きて伝わっていることが証明されるのです(そういう意味で、この「ドードー シーソラ シード」というメロディーは、とても強い命を持って生まれたのだ、と言えるでしょう)。

 

さて、「ドードー シーソラ シード」という命が溢れたメロディーの後すぐに、それを受けるようなメロディー「ドーラーソー」が続きます。 「ドードー シーソラ シード」というメロディーに対して、最初の音は同じ「ド」で始まりながら、同じリズムで今度は「ラ」まで上がります。 でもこれは最初のメロディーの高い「ド」より少し低い音程ですから、緊張感は緩和されて柔らかい印象になります。

その後も、「シーソラ シード」というメロディーと比べると、「ソー」とひとつの音だけが伸びていて、ゆったりとした感じがします。
つまり突然、誰もが心を動かされる7つの音のつながりで始まったメロディーが、少し柔らかい感じの3つの音に変化してつながり、受けとめるような感じになっているわけですね。

こういったメロディーの音程の違いとメロディーの持つリズムの違いによって、聴いている人がどのような印象を受けるか、どんな気持になるか、というところが、その曲を名曲にさせているひとつのポイントなのです。

 

続きを見てみましょう。
最初のメロディー「ドードー シーソラ シード」と、ちょうど対になるような「ラーファー ミードレ ミーファ」が登場します。

メロディーのリズムは全く同じ。でも音程は全体的に5度くらい低くなっています。
その結果、最初のメロディーよりもずっと優しく、愛情のある感じが聴いている人に伝わります。

さらに続くメロディーは、「ラーファー ミードレ ミーファ」の後半、「ミードレ ミーファ」と同じリズムで音程が1度ほど低い「レーシド レーミ」となり、その後「ド」で落ち着きます。

以上、たった8小節で、聴く人の心を動かしてしまう……まるで名曲の象徴のようなメロディーだといえるでしょう。

 

さて、実はこの曲が名曲である理由には、さらに和声の素晴らしさもあるのです。
最初のメロディー「ドードー シーソラ シード」の和声を見てみましょう。

参考の音源はキーがAですから、コード進行はこうなります。(私のピアノ演奏は、ジャズ的なアプローチを交えて少し複雑なコードを使っていますが、ここでは原曲をもとにシンプルなコードを記載しています)

A C♯m A7 

まず、明るい主和音が、低い「ド」から高い「ド」へ一気にあがるメロディーの高まりをしっかり支え、
続く「シーソラ シー」までを、主和音が前進した感じのするC♯m が支え、
次の「ド」でコードが A7 になった瞬間、陽が当たるように明るさが差し込みます。

これは次に登場するDというコードの登場を促す力を持った和音です。そのため、陽が当たるような明るさを感じるのです。

続く「ドーラーソー」を支えるコード進行は、D A/C♯です。「ドーラー」を、世界が展開した感じのする Dという和音が支え、「ソー」でまた主和音に戻ります。

 

さて、次はここまでのメロディーの対になるような「ラーファー ミードレ ミーファ」ですが、メロディーがリズムは同じ、音程が5度ほど低い、という分りやすい「対」の感じであるのに対して、和音は違います。
これまでの和声進行から、ぐっと叙情的な和声進行に変わるのです。

「ラーファー」を支えるのは、D Dm
先ほども登場した、世界が展開した感じのする Dというコードが支えながら、突然そのままマイナーコードであるDmに変化することで、とても切ない感じになります。

続く「ミードレ ミーファ」を支えるのは、 A/E F♯7
まず一度主和音に戻りながら、次の F♯7で、心が泣きたくなるような感じに、強く揺さぶられます。
これは、本来 F♯m というマイナーコードであるべきところが、メジャーコードになっているために、起きる現象です。

(実はこの連載では、これまでもこのコードの魅力を何度も取り上げています。このコードが効果的に使われている曲は、今回私がピアノ演奏したアルバム『Anming Piano Songs』全12曲中、7曲……。実に、半分以上で使われているんですね。それほど強い効果のあるコードが、この絶妙なタイミングでメロディーを支えているのです)

続く「レーシド レーミ」を支えるのは、 B7 E7、そして「ド」で主和音 A に落ち着きます。
このB7も、本来ならBm7というマイナーコードであるべきなのですが、そこをあえてメジャーコードにすることで、夢を見るような感じを強調しているのです。

先ほど書いたように、7つの音のつながりでメロディーが直接心を揺さぶる前半4小節に対して、後半4小節のメロディーは音程が低く、ずっと柔らかくなります。その分、和声進行は後半の方がずっと叙情的で心を揺さぶる感じになっています。

 

このように、メロディーと和声進行がそれぞれ巧みに交錯して、聴いている人の心を打つために、たった8小節のテーマ部分が、聴いている人を夢の世界へ連れて行ってくれるのです。

まさにこれこそ名曲の理由……という感じがします。

 

この曲には、このテーマの他に、違う展開をするセクションが2回登場します。

メロディーは「ミソ」をくり返し、続いて「ファソ」をくり返し、最後に「ラ」が伸びます。
次に再び「ミソ」をくり返した後、「ファ♯ ラ」のくり返しになりますが、ここでファがシャープしているのは、ここで緩やかな一時転調がなされているからです。

この部分のコード進行は、A G♯7 C♯m です。
そう、一時的にC♯mつまり3度上のキーに柔らかく転調しているのです。

このセクションは、名曲性に溢れたテーマの部分のあと、セリフのような淡々とした世界を展開するのが目的ですから、「ミソ」や「ファソ」を繰り返すように、メロディーはあえてシンプルで単調に抑えているのですが、その流れであえてこの瞬間だけ、一時的な転調を施すことで、ここでまた夢のような世界に、聴いている人を誘ってくれるわけです。

このように、曲のいたるところで「夢の世界に連れて行ってくれるような音楽的な魅力」に満ちているのは、やはりこの曲がミュージカル映画『オズの魔法使』の劇中歌だからでしょう。

ただ一方で、ミュージカル映画『オズの魔法使』に縛られることなく、あらゆる国のあらゆる音楽ジャンルでこの曲がカバーされ、世界中の人たちの心を優しく揺らしてくれるのは、今回、メロディーや和声を見ていてわかったように、そこに名曲の理由がちゃんとあるからなのです。

そして毎回お伝えしているように、その名曲の理由の源は、結局のところ理論でも組み立てでもなく、その曲を生んだ作曲家の心の震えや熱い感情の表れに尽きるのです。

 

生んだ人の心の震えが、そのまま聴く人に伝わる……。
これが名曲の素晴らしさです。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

FB(Fan Page) : https://www.facebook.com/tsudanaoshi
Twitter : @tsudanaoshi
ニコニコチャンネル:http://ch.nicovideo.jp/tsudanaoshi

 

↓バックナンバーはこちら↓

tsuda_330.jpg

 
 

Tweet(ツイート)    

tsuda.png

 

■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File10. 2つの子守唄「ブラームスの子守唄」(作曲:ブラームス) /「La La Lu」(作曲:ペギー・リー&ソニー・バーク)

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回は 子守唄の名曲、ブラームスが生んだ「子守唄」とペギー・リー、ソニー・バークが生んだ「La La Lu」をご紹介します。

『ブラームスの子守唄』について: この曲は1868年、ブラームスが35才でウィーンで作曲家として高い評価を得始めた頃、友人に子どもが生まれたことから、それを記念して作曲されました。 ブラームスはバッハやベートーベンの音楽を深く敬愛していましたし、彼自身の音楽への高い評価から、ドイツ音楽の「三大B」と呼ばれるなどバッハやベートーベンと並び称されますが、バッハはブラームスより約150年も前、ベートーベンも約60年前に生まれているわけですから、音楽的な背景は2人とは違います。
活動した頃は1800年代の後半ですから、いわゆるロマン派の真っただ中ですね。にもかかわらず、ブラームスの代表作である「交響曲第1番」が「ベートーベンの交響曲第10番」だと言われるように、そして「交響曲第4番」の最後の方で突然バッハのカンタータ第150番の主題をモチーフにした部分が現れるように、古典主義的な要素が強いところが、ブラームスの音楽の特徴といえます。ブラームスはそのため「新古典派」と称されることもあります。
ブラームスの音楽的な特徴としては、彼が崇拝するベートーベンや同じ世代のチャイコフスキーなどと比べると、天才的なメロディーを生むことより複数のメロディーをオーケストレーションする才能が際立っています。交響曲以外にも、ハンガリー舞曲など民族音楽の編曲や変奏曲などで多くの作品を残しているのがその証だとも言えます。
そんな中、私は「弦楽六重奏曲第1番」の第2楽章が大好きです。確かにこの曲もメロディーは比較的オーソドックスなラインで、むしろメロディーを支える和声の美しさが際立っているという傾向はありますが、いずれにしても間違いなく素晴らしい名曲であることは間違いありません。

『La La Lu』について:  この曲はディズニー映画「わんわん物語」の主人公、犬の「レディ」を飼っている女性「ダーリング」が自分の赤ちゃんに歌ってあげる子守唄です。実際に歌を歌っている歌手で作曲も手がけるペギー・リーが、ソニー・バークと共作して生みました。「わんわん物語」の中で、愛情豊かに飼われる「レディ」と飼い主の「ダーリング」、そして生まれたばかりの赤ちゃんへの愛情が美しく描かれるシーンを象徴する子守唄です。

それでは早速、2つの名曲子守唄の魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)

2つの子守唄に共通しているのは、『シンプルで優しいメロディーのくり返し』 です。

『ブラームスの子守唄』では(0:07)、「ミミソー」というシンプルで優しいメロディーでスタートしますが、この「ミミソー」が2回くり返されるところがポイントです。
一方『La La Lu』を見てみますと、これも同じように(00:57)「ミファソー」というシンプルで優しいメロディーが2回くり返されます。
また、どちらもそのくり返しの後に、そのメロディーが少し変化して次のメロディーへ移ります。

『ブラームスの子守唄』では、「ミソ」が再びくり返されたあと、高い「ド」へ一気に上がり、「シーーーララソーー」と降りていきます。
『La La Lu』では「ミファソー」が再びくり返されたあと「ソーラ ソーミー」が受けて、そのまま「ソーソーソーレードーシー」という母性の感じられるメロディーが夢を見るような和音に支えられて展開します。

さて、次の展開も、2つの名曲子守唄が共通する部分です。これもやはり大きな『くり返し』です。

『ブラームスの子守唄』では「ミミソー」が2回くり返されましたが、ちょうどそれと対になるように、「レミファー」が2回くり返されます。(00:17
『La La Lu』では「ミファソー」が2回くり返されましたが、ちょうどそれと対になるように、「ファソラー」が2回くり返されます。(01:18

こういった共通点は『子守唄』という性質から生まれたものでしょう。 子守唄はお母さんが赤ちゃんに語りかけるように歌うものです。

ゆったりとした優しいメロディーで赤ちゃんに語りかける。 くり返すことで、眠りにいざなう。 それをさらに少し変化させながら、再びくり返すことで、さらに安心して眠れる空気を作っていく……。

おそらくそういった『子守唄』という性質が、2つの名曲を支えているのでしょう。

さて、他にも2つの名曲子守唄に共通する特徴があります。

まずどちらも3/4拍子、いわゆる3拍子です。

これは私の解釈ですが、この子守唄での3拍子というのは、2拍子に1拍子が余白として足された結果なのではないかと思います。抱っこをして赤ちゃんをあやす動作を考えてみると、優しく「よし、よし……」と揺さぶったあと、一拍余白が入るのです。どうも、この動作から自然と3拍子の子守唄が生まれているのではないか、と私は考えています。 

いずれにしましても、ゆったりとした3拍子のもつ柔らかいリズムが、2つの子守唄に共通しています。

次に和声に注目してみましょう。

実はどちらも「和声が緩やかに移り変わっても、低音がしばらく同じままで続く……」というところが共通しているのです。

先に『La La Lu』を見てみましょう。
テーマである「ミファソー」がくり返される間、(移動ドでの)「ド」「シ」「ラ」「シ」の音が移り変わる和音(このような和声進行をクリシェと呼びます)が展開されますが、低音はずっと同じです。
次のくり返し「ファソラー」でも同じように、(移動ドでの)「レ」「ド♯」「ド」「シ」の音が移り変わる和音が展開されますが、低音はずっと同じです。

次に『ブラームスの子守唄』を見てみましょう。
実はこの曲に至っては、3つの和音が移り変わっていくのに対して、何と、曲中ずっと同じ低音が続いていくのです。

このように、同じ低音が続く理由は、赤ちゃんを安心させて包み込む、母性の持つ力強い安心感というイメージから生まれているのでは、と私は感じます。

また、メロディーの音域はどちらも約1オクターブです。お母さんが優しく語りかける歌ですから、音域がさほど広くないのは当然かも知れません。

そしてどちらの曲も、曲の長さが比較的短く、かつシンプルで優しいメロディーのくり返しが特徴であるため、短くてもちゃんと心を揺さぶる美しいメロディーが、展開部分にちゃんと存在しているのです。

『ブラームスの子守唄』では、低い「ドド」から、高い「ド」へと一気に昇って「ラファソーー」というメロディーが受けとめるところが、心を動かしてくれます。(00:27

『La La Lu』では、後半「ソーファーミーレーミード」と落ち着かせるメロディーが登場した直後、上の「ラ」へ一気に上がって心を動かし、さらにテーマの「ミファソー」と対になるような、けれどずっと高い音域の「ラシドーー」が3回繰り返されて心の高まりを表し、さらに「ソーミーシーラー」と夢のようなメロディーが心を包みこむところです。(01:49

いかがでしょうか。赤ちゃんへの愛情が見事に曲として表現された、子守唄の名曲。
一見、ただシンプルで優しいうた、と思われがちな子守唄にも、名曲ならではの高い音楽性がちゃんと隠されているのですね。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

FB(Fan Page) : https://www.facebook.com/tsudanaoshi
Twitter : @tsudanaoshi
ニコニコチャンネル:http://ch.nicovideo.jp/tsudanaoshi

 

バックナンバーはこちら

tsuda_330.jpg

 
mora TOPIC トップへ
moraに戻る
Facebookページへ
mora公式Twitterページへ
ページトップへ
▲ページの先頭へ戻る