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牧野良幸のトピックス

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第15回:サイモンとガーファンクル(前編)『水曜日の朝、午前3時』~『ブックエンド』

~ハイレゾ配信は洋楽オヤジへの“ギフト”~

 

 サイモン&ガーファンクルのハイレゾが、とうとう昨年末(2015年12月25日)にmoraで配信された。ようやくハイレゾ界に重要なピースが埋まったという感じだ。なので今回は2回に分けてサイモン&ガーファンクルについて書いてみる。

 僕にとってサイモン&ガーファンクルは洋楽への入り口になった存在だ。これは僕だけではなく、70年代始めを中学、高校生で過ごした人なら皆同じだと思う。あの頃は解散したビートルズも人気があったけれど、洋楽初心者は、まずサイモン&ガーファンクルのほうを聴いていた気がする。

 僕もその口で、中学2年生の時、五里霧中で洋楽のヒット曲を追いかけているうちにサイモン&ガーファンクルを知った。初めてまとめて聴くべきアーティストに出会った気がしたものだ。なので1971年の暮れに、当時CBS・ソニーが出した《ギフト・パック・シリーズ》の2枚組ベスト盤を買った。まだビートルズさえ聴いていない。これが僕にとって、生まれて初めて買った洋楽のLPだった。

 赤い箱が印象的だった《ギフトパック・シリーズ》は『サウンド・オブ・サイレンス』から『明日に架ける橋』までの4枚のアルバムから選曲されていた。2枚組4面のS&Gの世界はスキ無しの構成で、レコードを買ってからクリスマスはおろか年末年始、さらにその後の数ヶ月もの間、それこそしゃぶりつくすまで聴き続けたものであった。粗末なサファイア針のステレオ・セットであったが、1秒たりとも耳を離せなかった。

 その後の長いレコード人生を振り返ってみても、この《ギフトパック・シリーズ》を聴いていた時が、一番エキサイティングだったと思う。このレコードで音楽を聴く喜びを知ったからこそ、今も音楽を聴き続けている気がするのである。サイモン&ガーファンクルの《ギフトパック・シリーズ》は、その名のとおり洋楽少年への“ギフト”であった。

 それから44年後、洋楽オヤジのもとにサイモン&ガーファンクルのハイレゾがやってきた。彼らの残した5アルバムに加えて、72年発売の『Greatest Hits』と81年の再結成ライヴ『The Concert in Central Park』を含んだ7アルバムが、FLACの192kHz/24bitという申し分のないスペックで登場したのである。

 申し訳ないけれど、サイモン&ガーファンクルのCDには何の思い入れも持たなかった。しかしハイレゾでは、なぜか44年前の《ギフトパック・シリーズ》を買った時と同じくらいのワクワク感を覚えた。各アルバムについてあとで書くように、ハイレゾでサイモン&ガーファンクルを聴く楽しみは数回聴いただけでは終わりそうもない。それこそ44年前のレコードのように、しゃぶりつくすまで聴いてしまうことは間違いない。今回のハイレゾは、まさに44年ぶりの洋楽オヤジへの“ギフト”だと思う。

 


 

Wednesday Morning, 3 A.M.

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 『水曜の朝、午前3時』という邦題を持つデビュー・アルバム。このアルバムは出世作「サウンド・オブ・サイレンス」のヒット前なので、“S&G前夜”という印象がどうしてもつきまとう。そのせいか《ギフト・パック・シリーズ》のレコードでも、このアルバムからの選曲はなかった。
 しかしこのアルバムは『ブックエンド』や『明日に架ける橋』に劣らず名作だと思う。というか二人のデュエットを堪能しようと思うなら、このアルバムがピカイチといっていい。曲も彼らならではの哀愁のある曲ばかり。全編がフォーク調なのは隠れ蓑で、実は究極の“癒しアルバム”かもしれない。僕の場合、歳を取るとともに聴く回数が圧倒的に増えているのが、この『水曜の朝、午前3時』なのである。
 ハイレゾではヴォーカルがナマナマしくなった。二人の歌う旋律が、時に平行に、時に交差する。その様がアナログ・レコードでも快感だったのであるが、ハイレゾだとさらに際立つ。楽器が少なく余白が多い空間だから、オーディオ的な耳で聴いても面白い。ハイレゾでぜひ揃えておきたいアルバムだと思う。

 

Sounds Of Silence

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 『サウンド・オブ・サイレンス』は、ギター・デュオとしてデビューしたサイモン&ガーファンクルがエレクトリック楽器を随所に加えていったアルバム。大ヒットしたロック調の「サウンド・オブ・サイレンス」もここに収録されている。
 でも完成度が高いのはやっぱりフォーク路線の曲で、「木の葉は緑」「キャシーの歌」「4月になれば彼女は」などだろう。ハイレゾではギターの音はひき締まり、弦の硬質感を伝える。聴く前は、どこかぬるま湯的な倍音を期待していたのであるが、ハイレゾの、厳しさをたたえたギター音はサイモン&ガーファンクルの余情性を際立たせる気がした。そうかと思えば、逆にロック路線の曲で温かみを感じた。「リチャード・コリー」のふくよかなエレックトリック・ギターの響きに「おっ」と思う。
 『サウンド・オブ・サイレンス』に限らず、他のアルバムでも感じたことであるが、ハイレゾでは全体的に音の輪郭が鮮明になり、肉厚になっている。そのせいでバスドラやベースによるリズムの食い込みがとても感じられるのが特徴だ。それから今まで気付かなかった音に惹かれる瞬間も多い。「木の葉は緑」や「とても変わった人」のタンバリン(?)の「ちゃりん」という音もキラキラと輝く。

 

Parsley, Sage, Rosemary And Thyme

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 『パセリ・セージ・ローズ・マリー・アンド・タイム』は、前作『サウンド・オブ・サイレンス』を経て、完成した“サイモンとガーファンクルのサウンド”に仕上ったアルバムと思う。本作と『ブックエンド』『明日に架ける橋』の3作はそれぞれに個性的で甲乙つけがたい。そのなかで、このアルバムの特徴を一言でいうなら「幻想的」であろうか。
 ハイレゾの音は、これも他のアルバムと同じく引き締まった輪郭、それていてふくよかな音である。アナログ盤では淡彩画のように夢幻的だった「夢の中の世界」もハイレゾではクリアになった。特に筋肉質なギターの連打が印象的。それでも夢幻的な雰囲気が健在なのは、この曲が単にムードで仕上ったものではなく、クリアな歌唱と引き締まった演奏の上に仕上ったものだということを認識させられた。
 新たに気付いたことと言えば、レコードではオマケ扱いで聴いていた(失礼)「7時のニュース/きよしこの夜」も、ハイレゾではヴォーカルと、ニュースを読み上げるアナウンサーの声の絡みが緊張感を持つ。アナログ盤では今ひとつ感じなかったこの曲の「実験性」を、ハイレゾでようやく実感した次第である。

 

Bookends

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 『ブックエンド』の特徴を一言でいったら、A面の「トータル性」と、B面の「最新録音技術による楽曲集」。この“二色丼”がLP『ブックエンド』だった。
 それをハイレゾで聴いてみると「アメリカ」ではバスドラがズンズン、とくる。「パンキーのジレンマ」でもベースがくっきり。繊細なメロディの下に、かようなリズムがうごめいていたとはビックリ。何度も書くように、ハイレゾでは輪郭がクリアなのでリズムが埋もれない。サイモン&ガーファンクルの抒情的な楽曲を肉厚なリズムで聴くのは、レコード時代にはなかったオツな楽しみ方だと思う。
 ハイレゾでの解像度の高さは、老人の声をコラージュした「老人の会話」でも威力を発揮する。声の向こうにヤカンが沸騰しているようなボコボコという音が鮮明に聴こえて、これまたLPを聴くのとは違う印象を受けた。
このようにハイレゾだと面白くて、どの曲も聴き飽きない。44年前のレコードのように、しゃぶりつくすまで聴いてしまう、と書いた気持ちも分かってもらえるかと思う。

 

残りのアルバムについては後編で書くので、どうぞお楽しみに。

 

 

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【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。
 
 
 
 

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第14回:ヴェルディ:歌劇『リゴレット』から「女は気まぐれ」

~聴けば「元気100倍」になるオペラ~

 

 ヴェルディの歌劇『リゴレット』には「女は気まぐれ」という曲がある。一般に〈女心の歌〉と呼ばれる有名な曲だ。たとえ知らない人でも、いちど聴けばメロディを覚えてしまうだろう。

 この曲は第3幕で女好きのマントヴァ公爵が歌う。歌詞は「女の気持ちは、風に舞う羽のように移り気だ」といった内容で、今も昔も変わらない(?)女心を歌ったものである。これぞイタリア・オペラと言わんばかりの、明るく、あっけらかんとしたメロディだ。ここには移り気な女心に悩む男の姿などみじんもない。むしろ楽しんでいるかのようである。好色なマントヴァ公爵が歌ってこそのアリアであろう。

 歌詞のことはひとまず横において、僕はこの「女は気まぐれ」の軽快なメロディが大好きである。けっしてこの曲を軽んじているわけではない。それどころか、細かいことを気にしないで、大らかに生きる勇気をもらえる貴重な曲だと思っている。聴いたり、口ずさんだりするだけで元気が出てくるのである。

 しかし「女は気まぐれ」の聴き所は軽快さだけではない。それを説明するためには、オペラのあらすじを簡単に書く必要があるだろう。

 道化師のリゴレットはマントヴァ公爵に仕えていた。そのマントヴァ公爵は女好きで、リゴレットの娘ジルダにも、貧しい学生といつわって言い寄っていた。そんなとき、マントヴァ公爵の家臣たちは、リゴレットを笑い者にするため、ジルダを彼の愛人と勘違いして誘拐してしまう。

 怒ったリゴレットはマントヴァ公爵の館に向かい、娘を無事取り戻す。そして復讐を誓うのだった。リゴレットは殺し屋にマントヴァ公爵の殺害を依頼する。そうとは知らず、マントヴァ公爵が嵐の夜に居酒屋で歌うのが、この「女は気まぐれ」なのである。

 しかしジルダはマントヴァ公爵を愛していた。ジルダは殺人の計画があるのを知ると、マントヴァ公爵の身代わりとなって、殺し屋に身をゆだねるのである。そうとは知らないリゴレットは、殺し屋から死体が入った袋を受け取る。恨みを晴らして勝利に酔うリゴレット。

 とその時、遠くから聞えてくるのが、またもマントヴァ公爵の歌う「女は気まぐれ」である。死んだはずのマントヴァ公爵が、なぜ生きている? 「女は気まぐれ」が能天気なメロディなだけに、この場面は劇的だ。同じ曲でありながら180度違う効果を生み出すヴェルディの手腕は見事である。

 ちょっとオペラの話で熱くなってしまったが、やはり僕が言いたいのは、「女は気まぐれ」を聴くと嫌なことは忘れて元気が出る、ということである。

 ハイレゾではマリア・カラスが歌う『リゴレット』が配信されている。1955年録音(モノラル)とあってオーケストラこそ固めの音質だけれども、オペラを問題なく楽しめる音質である。特に声楽は最新録音と劣らないクオリティで聴ける。ジルダのマリカ・カラス(ソプラノ)やリゴレットのティト・ゴッビ(バリトン)など、20世紀を代表する歌手が豊かな音質で蘇る。マントヴァ公爵を歌うのは、地中海に降り注ぐ太陽のように明るい声のジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール)だ。ハイレゾなら声の艶も際立って、「女は気まぐれ」を聴くとそれこそ元気100倍である。

 

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Verdi: Rigoletto (1955 - Serafin)/Maria Callas
(FLAC|96.0kHz/24bit)

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【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。
 
 
 

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第13回:「旅の宿」よしだたくろう

~ハイレゾで、ふたたび拓郎に影響されそうな~

 

 moraのハイレゾ配信は、邦楽、洋楽、ジャズ、クラシック、アニソンと賑やかである。ずらりと並ぶジャケットを見ていると、つくづくハイレゾも一般的になったものだなと感慨深い。

 そのなかでも僕の場合、特に感慨深いのは邦楽だ。日本のアーティストが外国のアーティストとまったく同等に輝いている。ハイレゾに限らず、今の日本の音楽界には洋楽も邦楽もない、ということをつくづく感じる。

 こんなことを書くと、若い人たちは「何を当たり前のことを」と思われるかもしれない。しかし僕がレコードを聴き始めた70年代初頭までは、音楽の良し悪しは別として、邦楽は洋楽より一歩下がったところに見られていた。ポップスであれクラッシックであれ、日本人のレコードは、ジャケットを見ただけで、申し訳ないけれど「ダサいなあ」と思っていたのだ。

 そんな状況を変えたのが吉田拓郎だった(当時は“よしだたくろう”)。1972年の「結婚しようよ」の大ヒットである。当時、僕は中学三年生でビートルズに夢中だったにもかかわらず、まるで日本にもビートルズがデビューしたかのような興奮を覚えた。吉田拓郎はそれまでの、洋楽中心だった日本の音楽マーケットと、リスナーの心を一新したと思う。

 今回取り上げた「旅の宿」も同じくらい衝撃的だった。「ゆかたの〜キミィは〜」とか「俳句でもひねって〜」とか、日本の歌謡界から最も離れたところにいる男(テレビ出演の拒否など)が歌うには、ずいぶんと日本風で、逆にそれが吉田拓郎の大胆不敵さを感じて、中学生には“大人びた行為”と思えたものである。

 そして僕たち中学生が(というか日本中の若者が)もっとも拓郎の影響をうけた“大人びた行為”といえば、ギターであった。昨日まで、教室でバカ話をしていた級友が、突如ギターを弾きだした。おまえは剣道ばかりだったろ、音楽に興味があったの? 野球部のお前が、なんでギターを弾き始めるの?

 ギターを弾きだす男子は、それこそタケノコのようにあらわれた。給食後の休憩時間ともなると、下駄箱の横で、花壇の前で、女子の目を気にしながら「ゆかたの〜キミィは〜」と歌うのである。もちろん僕もギターを始めた。しかし初歩的なハードルであるFのコードでつまづき、タケノコの一つにさえなれなかった。以後はずっと音楽は“聴くだけ”の男である。

 今ハイレゾで「旅の宿」を聴くと、そんな頃を思い出す。アルバム『元気です。』収録の「旅の宿」はシングル・ヴァージョンと違って、ギターとハーモニカだけのシンプルな演奏である。ハイレゾでは解像度も申し分なく、ギターのアルペジオの装飾音がグッと身に染みる。

 やっぱり拓郎はいい。ハイレゾで聴いていると、この歳でふたたび吉田拓郎の影響を受けそうである。今度こそギターに挑戦してみようか、とも思う。女子は周りにいないけれど。

 

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よしだたくろう『元気です。』
(FLAC|96.0kHz/24bit)

「たどり着いたらいつも雨降り」「旅の宿」など収録

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【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。
 
 
 

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第12回:「マイ・ウェイ」フランク・シナトラ

~ハイレゾを聴きながら、妄想で歌い上げる「マイ・ウェイ」~

 

 「マイ・ウェイ」は、カラオケで歌ったら最高に盛り上がる曲である。と同時にヘタクソが歌えば大やけどをする曲でもある。中途半端な歌唱力でマイクを握ったら、場がシラケるのを通り越して、憎しみの目で見られる可能性が高い。よほど自信のないかぎり、シロウトは「マイ・ウェイ」には手を出さない方が身のためであろう。

 しかし「マイ・ウェイ」を聴くのなら話は別だ。僕みたいなシロウトでも、どんどん聴いていい。というか何度も繰り返し聴きたくなるのが「マイ・ウェイ」である。実際には歌わないが、頭の中で「マーイ、ウェーイ!」と歌い上げる自分を妄想してしまう。自己陶酔を極めるために、何度も繰り返して聴く。人前で歌わないのだから、せめて頭の中だけでは歌わせてほしい。

 その「マイ・ウェイ」、沢山のカヴァーがあるにもかかわらず、今も昔もフランク・シナトラの歌唱で聴くのが好きだ。どこまで歌い上げてもイヤミに聞えないのは、さすがシナトラ。歌手自身に風格があっての「マイ・ウェイ」なのである。

 「マイ・ウェイ」は1969年のヒット曲ということで、シナトラにしてはどこかフォーク・ロック調のアレンジで始まる。しかしストリングスやビッグ・バンドが加わると、やはりショー・ビズ的な風味となる。

 これがシナトラらしいし、「マイ・ウェイ」を不滅のものにしたアレンジとも思うのだが、オーディオ的には同時期のロックと比べると聴き所に乏しい。10代の頃、45回転ドーナッツ盤を聴いている時、僕はいつもそう思っていた。どこか枯れたサウンドで、大円団で味わう陶酔度は120%でも、オーディオ的には「まあ、いいか」だったのだ。

 しかしベスト盤『Ultimate Sinatra』のハイレゾ(FLAC 44.1kHz/24bit)に入っている「マイ・ウェイ」を聴いて、長年の思いも消え去ったのだった。解像度が云々と言うより、音に確固たる“芯”が入った感じだ。シナトラの円熟したヴォーカルに対抗できるほど、伴奏も胸板の厚い音になった気がする。

 ハイレゾの「マイ・ウェイ」を聴いていると、ドーナッツ盤の時以上に陶酔しまくりである。今夜も頭の中で思い切り「マイ・ウェイ」を歌い上げている。妄想を極めるのにも、ハイレゾは効果があるのだなあと知った。

 

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ヒット曲・名演を収録した『アルティメット・シナトラ』
(FLAC|44.1kHz/24bit)

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【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。
 
 
 
 

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第11回:カーペンターズ『シングルズ 1969-1981』

~ハイレゾで僕のメインストリームの音楽に~

 

 カーペンターズは大好きである。しかしカーペンターズを自分の音楽趣味のメインに位置づけると、どこか気恥ずかしく思ってしまうところがあった。やはり「ビートルズやストーンズ、ツェッペリンを聴いてます」と言った方がカッコよかったから。不当な扱いとは分かっていても、いつもは脇に置いて、聴く時だけ「カーペンターズ、大好き」が常だった。

 そんなカーペンターズの『シングルズ 1969-1981』がハイレゾで出たものだから、オーディオ的興味もあって、正面からじっくり聴いてみた。低音の厚味と弾力性が増して、筋肉質なボトムになった印象を受けた。リチャードの施したリマスターの効果もあると思うが、ハイレゾが忠実に再現している気がする。

 「それでは70年代に愛した、カーペンターズの優しい音場が感じられないのではないか」と危惧する方もいるかと思う。でも僕の聴いた感じでは、低域のパワーパップに比例するように、カレンの歌声もふくよかさが増しているし、リチャードのアレンジがより繊細に耳に入ってくるようになった。カーペンターズの世界はそのままに、音が彫刻的に洗練されたと受け止めたい。

カーペンターズの曲はもともと経年劣化するものではないだけに、ハイレゾで聴くとますます名曲として輝く。ビートルズやツェッペリンの曲と比べても遜色ない風格というかフォルムを持ったような気がした。

 「スーパースター」は僕にとって特別に思い出深い曲である。1971年にヒットしたのでシングル盤を買った。初めて聴いたカーペンターズだった。まだビートルズを聴く前で、洋楽のヒットチャートを追いかける中学二年生だった。

 「スーパースター」はカーペンターズにしては珍しく暗い影がただよう曲だ。イントロのオーボエから、ポップスというより、どこかの国の民謡とでも思える古風さがあった。キャッチーなヒット曲を追いかけている中学生にはなじみにくい。なけなしの小遣いをはたいて「失敗したなあ」と思った。

 しかし何度も針を落とすうちに「スーパースター」は輝きだした。良く聴くとメロディは綺麗だし、最後は盛り上がる。そういう流れをつかんだとたん大好きになったのである。

 それでもお気に入りのヒット曲として聴いていたにすぎない。今回ハイレゾで聴いてみると、先に書いたように押しも押されぬスタンダード、それも堂々と自分のメインストリームで聴く音楽と言えるようになった気がする。ハイレゾが彼らの本当の姿を届けてくれたのだろうか。

 

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「イエスタデイ・ワンス・モア」「スーパースター」など名曲の数々を収録!

Carpenters
『シングルズ 1969-1981』


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カーペンターズ 配信一覧

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。
 
 
 
 
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