最新のトピックスへ Facebook Twitter

牧野良幸のトピックス

Tweet(ツイート)    

makino01.jpg

 

第23回:ドゥービー・ブラザーズ「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」

〜あの軽快なリズムはカッコよかった〜

 

 アメリカンロックの人気バンド、ドゥービー・ブラザーズのアルバムがハイレゾでどっと配信された。それで今回取り上げるのは、1978年の『Minute by Minute』から「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」である。

 

 今日まで幾多の変遷を繰り返してきたドゥービー・ブラザーズであるけれども、彼らの最大のヒット作はやはり78年の『Minute by Minute』だと思う。なにせ〈第22回グラミー賞最優秀レコード賞〉に輝いた名盤だ。ヒットシングル「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」も〈グラミー賞最優秀楽曲賞〉を受賞した。

 

 

 ワイルドなイメージのドゥービー・ブラザーズが、グラミー賞というセレブな賞を取ったことに当時はビックリしたものである。しかしそれもそのはず、『Minute by Minute』も、シングル「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」も都会的で洗練された曲だった。今なら「AOR」と言えばすむのであるが、ともかくドゥービーはマイケル・マクドナルドが加入して数年前とはかなり違うバンドになっていたのだった。

 その「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」。当時は「ある愚か者の場合」という邦題がつけられていたけれども、実際はグラミー賞以上のインパクトがあったと思う。とにかくあの、タタタン、タタ、タタタン、タタという軽快なリズムが斬新で、めちゃめちゃカッコよかったのだ。その影響かどうかわからないが、当時は洋楽から日本の歌謡曲まで、いろいろなところで似たようなリズムを聴いた記憶がある。

 

 続く80年の『One Step Closer』もマイケル・マクドナルド色が出た作品だ。実のところ僕が初めて本格的にドゥービーを聴いたのはこのアルバムだった。NHK-FMが新譜紹介で、LPをまるごと流したのをエアチェックしたのだ。

 

 

 この年の春、僕は大学を卒業したものの就職せずドロップアウト(当時はフリーターという便利な言葉はなかった)。先のことを思うと不安な夜もあったが、そんな時も『One Step Closer』を聴いていると心強くなって、絵描きになりたいという夢を失わずに過ごせたのだった。思い出深いアルバムである。

 

 しかし僕にとっては最高のドゥービーでも、その変貌を誰もが受け入れたわけではなかった。
 ある日先輩ロックファンに「ドゥービーは『Minute by Minute』や『One Step Closer』が好きです」と言ったところ、「今のドゥービーが好きじゃねぇ…、ドゥービーは昔のほうがドゥービーでしょ」と冷や水を浴びせられたことがある。

 

 確かに僕だって70年代初頭はロック小僧を始めていたからドゥービー・ブラザーズの活躍は知っていた。『The Captain and Me』からは「チャイナ・グローブ」も大ヒットしていた。しかし食わず嫌いというか、ジャケットのイメージから泥臭いバンドに思えてレコードを買うまでにいたらなかったのだ。

 

 

 続く『What Were Once Vices Are Now Habits』も『ドゥービー天国』という邦題がついていたものだから、「“天国”という言葉は荒っぽいなあ」とこれまたスルー。さらに次の『Stampede』ではジャケットの乗馬姿に、またしてもアメリカ南部のイメージに捕われてスルーしたのだった。

 

 

 

 

 

 しかしである。新生ドゥービーが好きになったあと、それら初期のアルバムを聴くとそんなに泥臭くないと思ったのである。「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」「チャイナ・グローブ」など、当時の大ヒット曲は実にノリがいい。例のタタタン、タタ、タタタン、タタと同じくらいノリがいい。今では「ドゥービーは昔のほうが」という言葉にも賛同していていて、どうしてあの頃聴かなかったのかなあと思う。まあ当時は“愚か者の”高校生だったのだろう。

 

 それでようやくハイレゾの話である。

 「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」の入っている『Minute by Minute』はパンチの効いた音で心地良い。ただ昔はひたすらタイトな印象だったけれども、ハイレゾではそこここに、アナログ時代のなごりか、ゆったりとした鳴り方もあって、柔と剛をかねそなえた理想の“グラミー・アルバム”になった気がする。

 『One Step Closer』は前に書いたエアチェックのカセット、その後買った中古LPと、今でもちょくちょく聴くアルバムであるが、僕の再生システムではハイレゾはLPよりも音の厚みがあり、かつ繊細になっている気がした。特にバックコーラスが美しい。これからは思い出のLPよりもハイレゾのほうを聴いてしまうことだろう。

 最後に『The Captain and Me』。
 やはり素晴らしい。マクドナルド加入後の都会的なドゥービーも素晴らしいが、初期の野性味とスピード感は特筆ものであろう。とくにハイレゾでは荒々しい演奏がストレートに届くものだから、すごく躍動感を感じる。サザンロックとか、そういうククリさえ越えた音楽がここにあったのだとあらためて実感した。

 

 ドゥービー・ブラザーズのアルバムは他にも名作がハイレゾ配信されている。合わせて聴いていただけたらと思う。

 

doobie_makino.jpg

 

The Doobie Brothers ハイレゾ配信一覧はこちらから

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

Tweet(ツイート)    

makino01.jpg

 

第22回:ディープ・パープル「ハイウェイ・スター」

~ロック小僧ならハイレゾでノリノリ~

 

 僕のようなオヤジでも70年代初頭はニキビ面の中学生であり、高校生であった。昔の友だち(こちらもオヤジ)に会えば、たちまちロック小僧に戻ってしまうのである。最近も高校生の頃の友人Sとハード・ロックの話で盛り上がった。

 

 「ハード・ロックで一番すごいバンドは何だった?」とS。
 「そりゃあ、ツェッペリンじゃないかな」と僕は言った。しかしSは言うのだった。
 「僕はディープ・パープルだと思うな。ツェッペリンもディープ・パープルのノリノリにはかなわないよ」

 

 Sの言うディープ・パープルのノリノリとは「ハイウェイ・スター」のことを指しているのは、40年以上も前、一緒にこの曲を爆音で聴いた間柄だから一卵性双生児のように分かる。

 

 「ハイウェイ・スター」、流行ったなあ。
 今でこそハード・ロックにはいろいろあって、メタルとか細分化されているけれども、当時はもっと素朴で、ヘヴィにノリノリなのがハード・ロックだった。一度走りだしたらアクセルは踏みっぱなし。その意味で思索的なツェッペリンではなく、ディープ・パープルを一番に上げたSの意見は正直なものだと思う。

 実際、僕も「ハイウェイ・スター」のノリノリにはブッ飛んだものである。
 ただそれは『Made in Japan』の1曲目に収録されている「ハイウェイ・スター」を意味する。Sも頭にあったのはそちらの演奏だろう。ちょうど『Made In Japan』(発売時は『ライヴ・イン・ジャパン』)が発売された時で、二人ともその迫力の虜になっていたからだ。

 

 しかし今回のエッセイに書く「ハイウェイ・スター」は『Made In Japan』収録のものではなく、『Machine Head』に収録されたオリジナルの「ハイウェイ・スター」である。というのも『Made In Japan』が出たせいで、長い間スタジオ録音の「ハイウェイ・スター」はおとなしい演奏と思い込んでいた。それが今回ハイレゾで聴いてみて、とんでもない迫力にビックリしてしまったからだ。

 

deep_purple.jpg

 

 まずはスタジオ録音なのにライヴ感のあるパワーに驚かされる。それがセッション録音ならではのキチンと作られた音場で聴けるのだから、実に心地良いハード・ロックになる。『Made In Japan』の「ハイウェィ・スター」が公衆のまっただ中でのライヴ感としたら、こちらは自分一人でバンドと対峙しているライヴ感である。

 ハイレゾの音質もアナログレコードではないかと思うほどコクがある。配信されているのはFLAC(96.0kHz/24bit)であるが、アナログ・ライクな音を再現することで定評のDSD(DSF)ではないかと錯覚するほどコッテリしている。僕にしてみればハイレゾでスタジオ録音の「ハイウェイ・スター」もノリノリのハード・ロックになった感があった(もともと有名なだけに、気付くのが遅くてスミマセン)。

 

 ちなみに先ほどから書いている『Made In Japan』もハイレゾで出ている。今さら説明するまでもないほどの名盤なので解説は不要だと思うが、ハイレゾでは生まれたばかりのような新鮮な音だ。リッチー・ブラックモアの疾走するギターソロもクリアだから、フレーズの細かいところまで耳がついていける。もちろんクリアになったからといっても、オリジナルのライヴの迫力は健在なので心配無用だ。

 

 ついでに書けば74年作品の『Burn(紫の炎)』もハイレゾで配信されている。『Burn』ではイアン・ギランが脱退して、新生ディープ・パープルとしてのスタートであったが、『Made In Japan』の爆発的人気の余波も手伝って、これも当時のロック小僧には歓迎を持って迎えられたレコードだ。

 なかでもタイトル曲「Burn」は、はやばやと「ハイウェイ・スター」と並ぶ“ディープ・パープル入門曲”の座についたと思う。ひょっとしたら最初にSが言ったディープ・パープルのノリノリは、この「Burn」を念頭においていたのかもしれない。ハイレゾは重たすぎず、軽すぎずで、スピード感のあるサウンドを堪能できる。

 

 今回は僕が当時ディープに聴き込んだ3つのアルバムについて触れたが、『Deep Purple In Rock』や『Fireball』などのアルバムもハイレゾで配信されている。今だにロック小僧の人なら、ディープ・パープルのハイレゾにきっとノリノリになることだろう。

 


 

 

Deep Purple
『Machine Head』

FLAC|96.0kHz/24bit

btn_buy_hires.png

 

 

Deep Purple
『Made In Japan (Remastered)』

FLAC|96.0kHz/24bit

btn_buy_hires.png

Deep Purple
『Burn』

FLAC|96.0kHz/24bit

btn_buy_hires.png

 

Deep Purple ハイレゾ配信一覧はこちらから

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

Tweet(ツイート)    

makino01.jpg

 

第21回:ボブ・ディラン「ブルーにこんがらがって」

~初めての“ディラン体験”は『血の轍』から~

 

 僕がボブ・ディランから1枚を選ぶとすると、どうしても1975年の作品『血の轍(Blood on the Tracks)』になってしまう。今でこそディランのほとんどのアルバムをSACDやアナログLPで持っているが(ブートレグまではさすがに追いかけていない)、長い間、僕の“ディラン体験”といえば『血の轍』だけだったのだ。

 僕が音楽を聴き始めた1970年代初め、ボブ・ディランは伝説的存在だった。しかし当時の洋楽はディランの存在を霞ませてしまうほど絢爛豪華だった。シンガーソングライター、プログレッシブロック、グラムロック、ハードロック、ブラスロック、ラテンロック……。過去を振り返る暇もないほどに毎日新しいロックが生まれていた。それを「新しい」とも思わず、ご飯のように当たり前に聴いていたのだから、いかに「風に吹かれて」で有名な“フォークの神様”といえども興奮しようがなかったのだった。

 この頃はディランも時期が悪かった。なにせ73年にCBSソニーがプッシュしたニューアルバムが『ビリー・ザ・キッド』という映画のサントラだったのだから。アルバム収録の「天国への扉」は今日有名であるが、僕には当時流行ったという記憶がどうもない。それよりも映画に出演したディランの姿ばかりが記憶に残っている。

 翌74年にはディラン初の全米1位となる『プラネット・ウェイブス』、そしてライヴ『偉大なる復活』も発売されたのだけれど、いかんせんこれらはCBSソニーから発売されなかったせいか惹き付けられなかった。(『プラネット・ウェイブス』はのちにCBSソニーから発売され、ハイレゾ配信もあり。これもいいアルバムです)。

 

 そしてようやく75年の『血の轍』である。レコード会社も再びCBSソニーになって、ロック雑誌に載った広告が派手だった気がする。あの頃のCBSソニーの広告って、他社を引き離してワクワクするものがあったのだ。

 しかしインパクトがあったのは広告だけではなく、ディランの音楽そのものだった。それまでちょいちょいカジっていたディランは、どうも音楽的興奮にかけると思っていたのであるが、『血の轍』にはディランらしからぬ(?)ポピュラーで親しみやすいメロディが沢山あったのである。つまり70年代ロック小僧にも、すんなりと聴けるアルバムだったのだ。

 といってもレコードを買ったわけではない。当時僕は高校3年生。『血の轍』はたぶんNHK-FMの「サウンド・オブ・ポップス」で放送されたのではないかと思う。新譜のLPを全曲放送することで有名な番組だ。僕としてはオープンリール・テープにとりあえず録音してみたわけであるが、これがすごく良かったのだ。特に最初の「ブルーにこんがらがって(Tangled Up in Blue )」。ディラン独特の単調な展開ながら、ぐいぐいと引込まれる緊張感のある音楽だった。「ブルーにこんがらがって」だけでノックアウトされたと言っていい。

 しかし、そのあともいい曲が続く。「運命のひとひねり(Simple Twist of Fate )」「愚かな風( Idiot Wind)」などなど。あえて邦題で書くのは、各曲につけられた日本語タイトルがなんとも詩的で、曲とピッタリ合っていたからである。バンドのサウンドも絢爛豪華な70年代ロックのまっただ中に登場したにもかかわらず、まったく遜色ない出来だった。

 

makino_bob_dylan.jpg

 

 しかしこの『血の轍』のみで僕の“ディラン体験”は終わってしまうのである。
 先に書いたようにディランのアルバムをほぼ揃えるのは、実は21世紀を迎えたSACDでリリースされた時だ。他のアルバムを聴きこんでみると、あの頃はやっぱり子どもだったなあと思う。今では『血の轍』以前のフォーク調の作品、ロックに転向した頃の作品も素晴らしいと思う。『血の轍』以降の今日にいたるまでのアルバムも、もちろんディランらしさがあって好きである。

 ただ、こうしてディランの全部が好きになっても『血の轍』は特別な一枚だ。やはり高校生の時に回転するオープンリールを眺めながら聴いた印象は強い。社会人になった時は中古のアナログレコードを買い求めた。オヤジになった頃はSACDハイブリッド盤で買い求めた。『血の轍』との付き合いは長いのだ。

 

 そして今はハイレゾでの付き合いになった。それも高音質なSACDと同じDSD(DSF)での配信である。音をビシッとクリアに表現するPCM系のflacもいいけれど、オリジナルの音の濁り、厚味までも伝えるDSD(DSF)がやっぱりディランには合う。

 DSDのハイレゾを聴いてみると、やっぱり「ブルーにこんがらかって」が格別である。アコースティック楽器が多様されているけれど、へんに胃もたれしないで、ナチュラルに広がるところがハイレゾならではだ。ディランのヴォーカルも明るくのびやか。もちろん、次の「運命のひとひねり」も聴いてしまう。そしてそのあとの曲も、これまた昔どおり聴いてしまう。

 ひっきょう『血の轍』のアピール度は昔と変わらない。だから、初めて“ディラン体験”をする若いリスナーに、僕としては『血の轍』をおススメしたい。そしてそのむこうには数々の歴史的アルバムがハイレゾで用意されている。よかったらそれらも聴いてみてほしい。

 


 

~今回紹介した一枚~

BOB DYLAN
『Blood on the Tracks』(邦題:血の轍)

DSD(DSF)|2.8MHz/1bit

btn_buy_hires.png

 

BOB DYLAN ハイレゾ配信一覧はこちらから

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

Tweet(ツイート)    

makino01.jpg

 

第20回:ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』

~今も“現在進行形の傑作”~

 

 今年は発売50周年ということで『ペット・サウンズ』が盛り上がっている。この4月にブライアン・ウィルソンが来日して『ペット・サウンズ』の再現ライヴをおこなうとも言う。もちろんハイレゾでも『ペット・サウンズ』は盛り上がっていて、MonoバージョンMonoとStereoの両方を収めたヴァージョンが配信されている。

 今日ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』は、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と並んでロック史上最も重要なアルバムとして評価されている。しかしこの2作品の受け入れられ方はまったく対照的であったようである。『サージェント・ぺパーズ』は発売と同時に傑作の評価を得たが、『ペット・サウンズ』が傑作と評価されるには長い時間が必要だった。

 僕個人にしても『サージェント・ペパーズ』が好きになるには1秒とかからなかったが、『ペット・サウンズ』が好きになるにはそれなりの歳月を要した。初めて聴いた時は自分が不感症になってしまったのかと思うくらいポップス的な興奮が起きなかったものである。演奏は恐ろしく個性的なのに、音楽として強く自己主張してこないのだ。

 “へそ”が抜け落ちているというか、自分が幽体離脱して聴いているような錯覚さえ覚えた。それでいてラストの電車と踏切、犬の鳴き声で現実世界に戻されてしまうのだから、音楽的カタルシスが最後まで宙ぶらりんなのである。それが僕の『ペット・サウンズ』の最初の頃の印象だ。つまり世間が傑作と言うわりには取っ付きにくかったのである。

 しかしこの「取っ付きにくさ」こそが『ペット・サウンズ』を『サージェント・ペパーズ』以上に深く、永遠なものにしている気がするのである。言わば“現在進行形の傑作”であろうか。だから『ペット・サウンズ』を好きになるのに時間がかかってしまった僕から、初めて聴く人にアドバイスをするとしたら「どうか、しばらく聴き続けてみて」という事である。ある時、視界が開けて猛烈に好きになる瞬間がくるから(最初から好きになる人は問題なし)。

 一旦『ペット・サウンズ』が好きになると、このアルバムはもう“底なし”である。何度聴いても飽きない。というか聴けば聴くほど、世界は拡張され新たな魅力を発見する。さっき幽体離脱と書いたが、このアルバムにはどこか“幽玄の世界”があるような気さえする。

 

Pet_Sounds.jpg

 

 ためしにライヴ盤『Live In London』(ハイレゾ配信あり)で『ペット・サウンズ』収録の「Wouldn’t It Be Nice」「God Only Knows 」などを聴きくらべてみてほしい。これらはライヴだと完璧にかっこいい西洋風ポップスである。曲自体の良さをあらためて認識するのであるが、ここには『ペット・サウンズ』で聴くときの“幽玄”な趣きはない(演奏にブライアン・ウィルソンが参加してないことは考えないことにする)。

 どちらがいい悪いではなく、『ペット・サウンズ』というアルバムは世界でたった一つしかない音響世界ということだ。もともとハイファイな音ではないけれど、その音さえもこのアルバムの命である。ハイレゾではStereoヴァージョンのほうが、多様な使用楽器が耳に入りやすいし、音のまわりの空間も広めなので、ハイレゾの効果が感じられると思う。

 しかしMonoにはMonoの世界がある。オリジナルの音がそうだから、いわゆるMono特有のガツンとした音はハイレゾでもあらわれないが(そうなったら『ペット・サウンズ』でなくなってしまう?)、ハイレゾだとベースの音はしっかり出てくるし、Mono特有の光臨のように一点放射であらわれる音が魅力だ。MonoとStereo、どちらを聴くにしても、または両方聴くにしても、アナログLP、CDときて、ハイレゾが“現在進行形の傑作”を引き継ぐ器となるだろう。

 


 

ステレオ音源とモノラル音源を同時収録!

The Beach Boys
『Pet Sounds』

(FLAC|192.0kHz/24bit)

btn_buy_hires.png

 

The Beach Boys ハイレゾ配信一覧はこちらから

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

Tweet(ツイート)    

makino01.jpg

 

第19回:AC/DC『Rock or Bust』

~まさに“悪魔のハイレゾ”、アンガスのギターに魂を売り渡しそう~

 

 AC/DCはオーストラリア出身のロックバンドであるが、アメリカン・ロックのテイストがあり、ハード・ロックでもある。しかしそんなカテゴリー分けが必要ないほどに、アンガス・ヤングのリード・ギターがバンドの顔となっている。アンガスのギター・リフが始まっただけで、盛り上がるのだ。

 そんなAC/DCのハイレゾがついにmoraから登場した。2014年作品『Rock Of Bust』がFLACの96kHz/24bitで配信されたのだ。しかしこんなことを書くと、AC/DCのライヴではおなじみの赤い角を付けた熱狂的ファンにこう言われそうである。「おい、そこのオーディオ野郎、AC/DCをハイレゾで聴く必要があるのかよ!?」と。

 そう言われるとスピーカーの前で腕組みをしながら聴いている僕としては返答に困ってしまう。確かに熱狂的なノリを誘うAC/DCの音楽に高音質が合うだろうか、必要だろうか、と。

 しかし実際にハイレゾを聴いてみると杞憂であった。アンガスのギターのザラっとしながらも厚味のある音がじつに気持ちいいのだ。ハードではあるが、ちょうどカステラのように適度な密度なのがハイレゾならではだろう。僕はクラシックも好きで室内楽をたまに聴くのであるが、弦楽器の豊かな響きと同じくらい、豊かな響きをアンガスのギターに感じた。

 

acdc_makino.jpg

 

 ギターと言えば、このアルバムにはアンガスの兄であり、リズムギターを受け持つマルコム・ヤングが健康上の理由で参加していない。しかしマルコムのかわり参加している、ヤング兄弟の甥スティーヴィー・ヤングのリズムギターもハイレゾでは心地良い。あとドス、チャス! ドス、チャス!と刻むドラムもハイレゾでは重厚感がたっぷり。ブライアン・ジョンソンのヴォーカルも相変わらず一途に歌い込んでいく。

 つまるところAC/DCのドライヴ感はこのハイレゾでも健在なのだ。「Rock or Bust」「Play Ball」「Rock the Blues Away」……次々とあらわれる“金太郎飴”的な曲に引込まれる。ハイレゾの音もこれまた“金太郎飴”的にどの曲でも効果満点。8曲目の「Baptism By Fire」などは、どちらかと言えばクラシック向けのスピーカー・B&W804で鳴らしているにもかかわらず、“大スタジアムのノリ”なので思わず拳を上げてしまう。このハイレゾなら赤い角を付けた熱狂的ファンも満足してくれるのではあるまいか。

 それにしてもハイレゾで聴くアンガス・ヤングのギター・プレイはやはり素晴らしい。まさに“悪魔のハイレゾ”。こうなると前作『悪魔の氷 (Black Ice)』もハイレゾでリリースしてもらいたいものである。

 


 

好評配信中!

AC/DC
『Rock or Bust』

(FLAC|96.0kHz/24bit)

btn_buy_hires.png

 


 

【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。
 
 
 
mora TOPIC トップへ
moraに戻る
Facebookページへ
mora公式Twitterページへ
ページトップへ
▲ページの先頭へ戻る