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牧野良幸のトピックス

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第28回: U2『アクトン・ベイビー』

〜U2の傑作がハイレゾでさらなる新局面!?〜

 

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 ポップ・ミュージックのアーティストといえども表現者であるからには、自らの意思でスタイルを変えていくことが必要だろう。音楽の鮮度を保つには、古い服を脱ぎ捨てて新しい服に着替えることが時には必要だ。

 ただ難しいのは「前のほうが良かった」と言われることだ。アーティストにとっては酷な話である。そもそもデビュー時の音楽にインパクトがあったのだから、今日の人気を勝ち得たのである。その音楽を捨てて、もっと素晴らしい音楽を作れと言われてもねえ。言うは易し。簡単にできることではない。

 

 しかしアイルランドのバンド、U2は『アクトン・ベイビー』でのイメージ・チェンジ後も大活躍している。1991年に『アクトン・ベイビー』が出た時、多くのU2ファンがその変貌に戸惑ったと思う。それまで社会問題や政治問題を扱う正統派ロックだったU2が、当時流行のエレクトリック・ビート、テクノ、打ち込み(懐かしい言葉)などを導入した音楽へと、それまでとは正反対ともいえる路線に舵を切ったのだ。

 彼らの名声が決定的になった『ヨシュア・トゥリー』を追いかけずに、『アクトン・ベイビー』で新たな道を選んだU2はすごい。音楽的に苦し紛れの路線変更をするバンドは多いけれど、U2の場合はまったく違う。自らの欲求のまま。ファンにさえ媚びない姿勢は表現者として本物だ。

 

 そのU2の『アクトン・ベイビー』がハイレゾになった。通常盤とボーナス・トラックを含んだデラックス・エディションの2種類ある。

 

 さっそく聴いてみたけれど、1曲目の「Zoo Station」から放出される音にウットリした。CDで『アクトン・ベイビー』を聴き込んでいた時は、前衛的なエレクトリック・サウンドにばかり気を取られていたけれど、ハイレゾでは音の鳴り方が“ハイ・ファイ”である。聴いていて非常に心地良く、美しくも思う。

 音楽のタイプは違うけれども、連載の第17回で書いたマイケル・ジャクソンの『オフ・ザ・ウォール』のハイレゾの、凄まじい音の出方を連想させるものがある。とくに音が立体的に伸びてくるところが快感だ。大げさに書くなら、前方にサラウンド空間があるかのような空気感である。本作は2chであるけれども。

 

 実のところ最初の予想では、『アクトン・ベイビー』をハイレゾで聴いたら、オリジナルCDが発売された当時の衝撃がナマナマしく蘇るのではないかと思っていた。

 

 しかし、ハイレゾの音が僕を運んでくれたのは、昔の『アクトン・ベイビー』の世界ではなく、別の『アクトン・ベイビー』の世界だった。もちろん音楽自体の素晴らしさは変わらないけれども、オーディオ的な妙味が加わることで、『アクトン・ベイビー』は新たな局面を迎えた気がする。

 

こうなるとU2のデビュー時のアルバムもハイレゾで聴きたいし、『アクトン・ベイビー』以降のアルバムもハイレゾで聴きたくなるのであった。U2のアルバムが引き続きハイレゾでリリースされていくことを期待したい。

 

 U2
『Achtung Baby』

通常盤 / デラックス・エディション

 


 

牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

 

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第27回:ドン・マクリーン「アメリカン・パイ」

〜AB両面のシングル、収録アルバムも素晴らしく〜

 

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 CD世代の人は分からないと思うが、アナログ・レコードの時代、シングル盤は誰もが通る道であった。まずはシングルで自分の好みのバンドやシンガーを見極めて、清水の舞台から飛び降りるくらいの決心で最初のLPを買う。これが通過儀礼だったと思う。

 ただシングル盤でヒットチャートを追いかけるのは、それはそれで素晴らしい聴き方である。僕の場合はちょうど70年代の初頭で、ポール・モーリアの「エーゲ海の真珠」とか、ミッシェル・ポルナレフの「シェリーに口づけ」などが思い出深い。

 そんな思い出のシングル盤の中でダントツの存在が、71年暮れから72年始めにかけて大ヒットしたドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」である。

 

 なぜかというと、1曲がシングル盤の片面に収まらないで、A面とB面に分割されて収録された大曲だったからだ。A面が「アメリカン・パイ パート1」、B面が「アメリカン・パイ パート2」。これが中学二年生の“シングル小僧”には「スゲー」となったわけである。

 だから当時はとても長い曲に思えたのであるが、今、オヤジになってから買ったシングル盤が手許にあるので調べてみると、A面が4分13秒B面が4分34秒。合わせて8分47秒である。それほどでもないと思う。長い曲として有名なビートルズの「ヘイ・ジュード」でもシングルの片面に入っていたから、両面に分けなければ入らない、ということだけで凄いと思っていたのだろう。

 ただシングルの印象があまりに鮮烈だったので、LPの『アメリカン・パイ』まで聴きたいとは思わなかった。僕がアルバム全体を聴いたのは、実に21世紀になってからで、輸入盤のCDで聴いたのが始めてである。そこで「ヴィンセント」などの名曲を聴いて、ようやくアルバムの『アメリカン・パイ』も素晴らしいと知ったのだった。 

 ちなみにアルバム収録の(本来の)「アメリカン・パイ」はシングルよりも13秒短い。シングルはレコード面をまたぐのに違和感がないように、切れ目で編集を施しているからだと思う。でもA面のフェイド・アウトとB面のフェイド・インが繋がっていなくて、これも苦肉の策だったのが分かる。いずれにしても「アメリカン・パイ」は聴き惚れてしまう曲なので、アルバムの正規バージョンでもあっという間に終わってしまう。今シングルでは欲求不満になって聴くことができない。

 

 ここでハイレゾの「アメリカン・パイ」の話に入ろう。このエッセイを書くために、シングル盤やCDも取り出して聴いたので、今回はハイレゾの音質の違いが分かりやすかった。

 シングル盤の音は中域から低域に厚味があり、とりあえずはアナログ・サウンドである。ただ“高音質のアナログ・サウンド”までいかないのは、解像度が弱くてモコモコ感があるからだろう。オーディオ・ファイルの言葉で言えば「ダンゴ風」というか。惜しい。

 対してハイレゾやCDの音は、シングル盤のアナログ・サウンドとは大分違う響きである。まずモコモコが消え、すっきりとクリアな音になる。しかしCDではやはりエッジがキツい。ハイレゾはクリアながらも、きめ細やかなサウンドになっている。シングルのアナログ感もこれはこれで嫌いではないが、モコモコ感に気を取られない分、それからアルバム全体を聴き通すなら、ハイレゾの音質がベストだと思う。

 

 Don McLean
『American Pie』

※画像クリックで購入ページへ

 


 

牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

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第26回:クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」

~次世代のバンドだったクイーン~

 

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ハイレゾの「空気感」が壮大なクイーン・サウンドを鮮やかに彩る!

 

 クイーンのデビューが73年ではなく72年だったら……。僕が今も思うことである。音楽に多感な10代、それも10代前半というのは、たった1年の差でも、同じ音楽が非常に違ったものになってしまうものである。その時間差のせいで、僕の場合、あまりうまく出会えなかったのがクイーンだ。

 クイーンが『戦慄の王女(Queen)』でデビューした73年は、ちょうどプログレやハードロック、シンガーソングライターが円熟期の真っ最中だったと思う。当時僕は高校1年生、彼らを追いかけることで精一杯だったから、クイーンに反応する余裕がなかった。マズいことに出だしにつまずくと、なかなかそのバンドに食指が伸びないお年頃でもあった(僕だけの話ですよ)。

 その後もクイーンは74年に『クイーンII(Queen II)』、そして『シアー・ハート・アタック(Sheer Heart Attack)』を発表。ここらでようやくクイーンが力ずくで僕の中に入ってくることになる。「キラー・クイーン」の大ヒットである。まるでバンドのテーマソングでもあるかのように、FMで耳にタコができるくらい聴いた。

 この頃を境にプログレ、ハードロック、シンガーソングライターは衰退を始め、変わりにクイーンが第一線に踊り出たのは、僕も認めるところだった。購読していた『ミュージック・マガジン』の表紙もクイーンが多くなった記憶があり、日本では女の子にアイドル的に人気が出てきたのを横目で見ていた。そして傑作『オペラ座の夜(A Night at the Opera)』(75年)を発表。シングル「ボヘミアン・ラプソディ」の大ヒットはクイーンの人気を決定的にした。というか唯一無二のものにした、と言うべきか。

 唯一無二。これはクイーンの音楽を初めて耳にしたときから感じていたことだった。ハードロックのような迫力、プログレのような展開、そして何より複雑なコーラスワーク。こんなに70年代ロックの特色を、ひとつのバンドが完璧に兼ね備えたことはないはずである。

 最初にクイーンのデビューがもう少し早ければと書いたが、今思えばクイーンは僕には新しい音楽、次世代のバンドだった気がする。当時クイーンを他のバンドより一周遅れているようにとらえていたのは、ひとえに僕の“老耳”のせいだったと思う。「ボヘミアン・ラプソディ」にしても、オペラ的な構成を「すげぇな!」と思ったのにかかわらず、その真価を認める勇気をもたなかった。

 とはいえ僕もクイーンには影響されまくっているのである。「ボヘミアン・ラプソディ」のあとも、「バイシクル・レース」「フラッシュ・ゴードンのテーマ」「レディオ・ガ・ガ」などのその後のヒット曲はいやでも覚えた。これらを無視できる音楽ファンはいなかっただろう。クイーンの音楽は独特なのにメロディは聴き心地がいいのである。さらにはフレディ・マーキュリーのイメージ・チェンジも重なって、クイーンは80年代も“唯一無二”化していくのであった。

 そんな僕にとって今回クイーンのハイレゾ化が始まったことは嬉しいかぎりである。今なら客観的にクイーンを聴くことができる。

 僕が多感な時にスルーしてしまった初期のアルバムを、今回ハイレゾで聴いてみると、クイーンはデビュー作から一貫したスタイルを取ってきたなあと思う。『戦慄の王女』『クイーンII』『シアー・ハート・アタック』と作品を重ねるにつれて、彼らが登り調子になるのが分かる。その頂点はもちろん傑作『オペラ座の夜』で迎えるわけであるが。

ハイレゾの音の特色は一言でいって空気感につきると思う。つまりスピーカーから飛び出す際に、音のまわりに余白が感じられて心地良い。クイーンはステレオを極限まで利用した音作りなので、空気感があるとより立体的な音響となり劇的に効果が高まる。もちろんハイレゾの音自体が太いことは言うまでもない。これまでの音質を体験するのは当時、高校生の僕のオーディオ装置ではまったく無理だったと思うから、オヤジになってクイーンを聴くのも悪くない。ハイレゾであの頃の“100倍返し”の音で聴こうと思う(笑)。

もちろんクイーンの絶頂期は『オペラ座の夜』以降も続く。今後も中期、後期のアルバム、そしてベスト・アルバムもハイレゾ化されていくというから楽しみである。

 

 ハイレゾ配信中!

 

戦慄の王女
Queen

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クイーン II
Queen II

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シアー・ハート・アタック
Sheer Heart Attack

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オペラ座の夜
A Night at the Opera

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華麗なるレース
A Day at the Races

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牧野 良幸 プロフィール

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 
 
 

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第25回:ポール・サイモン(後編)『リズム・オブ・ザ・セインツ』~『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』

~『サプライズ』の“サイモン節”にサプライズ~

 

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ポール・サイモン、アルバムのジャケットデザインも毎回個性的。

 

〈前編〉はこちら

 

 ポール・サイモンが2006年に発表した『サプライズ(Surprize)』はサプライズだった。これはシャレではない。本当に嬉しい驚きだったのだ。

 実のところポール・サイモンには、リズム嗜好になった86年の『グレイスランド(Graceland)』あたりから距離を置くようになっていった。やはりソロになった70年代の『ポール・サイモン(Paul Simon)』や『ひとりごと(There Goes Rhymin' Simon0』などのような、大雑把に言ってしまえば、サイモンとガーファンクル時代の流れをくむ音楽が好きだったのだ。
 しかしポール・サイモンは新しい音楽を創造する道を進む。
 『グレイスランド』のあと、90年には『ザ・リズム・オブ・ザ・セインツ(The Rhythm Of The Saints)』を発表。その後も『ザ・ケープマン(Songs From The Capeman)』、2000年になって『ユー・アー・ザ・ワン(You're The One)』と着実にアルバムをリリースしていった。

 そして2006年、僕が久々にポール・サイモンのCDを手に取ったが『サプライズ』だったのだ。赤ちゃんの顔が印象的なジャケット。このアルバムはブライアン・イーノが“ソニック・ランドスケープ”を制作。つまりサウンドにおいて全面参加。フォークや民族音楽のポール・サイモンと、電子音楽のブライアン・イーノという異色の顔合わせが話題だった。

 それでも聴くまでは、あまり期待はしていなかったのである。ポール・サイモンは、まるでパーティー衣裳を替えるかのように、自分のヴォーカル以外のサウンドを取り替えてきた。これまでのアフリカや南米の音楽から、今回は電子音楽へと。ザッツ・イット。それだけだと思っていたのだ。

 しかしこの『サプライズ』は僕にとってサプライズだったのである。
 まず、思った以上にサウンドがブライアン・イーノ色になっていることに驚いた。民族音楽からは真逆の方向だ。しかし、それでいながら、今まで以上にポール・サイモンらしい音楽になっていることに驚いた。

 嬉しいことに、僕はそこに70年代の“サイモン節”をすごく感じたのである。「シュア・ドント・フィール・ライク・ラヴ」などは「僕とフリオと校庭で」のようなノリ。 『サプライズ』は『ポール・サイモン』や『ひとりごと』を聴いていた10代の頃に戻ったかのように、よく聴いたものである。

 それでようやく気づいたのだが、ポール・サイモンのリズム嗜好、そしてアルバムによってサウンド・スタイルをごっそり取り替えていくやり方は、たんに表面的なものではなく、ポール・サイモン自身の音楽が成立するために根源的な方法なのだなあ、ということである。ちょうどレースのF1がエンジンを替えてさらに進化するように、新しいサウンドがサイモンの創造力を発火させる起爆剤になっている気がするのである。

 実際にポール・サイモンの発表する作品が、今日でもアルバム毎に緊張感とスリルがあるのは事実であろう。21世紀になって、かつての洋楽の偉大なアーティストたちが再び活躍しているけれども、ポール・サイモンほど昔に劣らず前向きでクリエイティブな活動をしている人は少ないと思う。
 この6月に発売になったばかりの新作『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』も“新しい作品”だった。今度は「現代作曲家ハリー・パーチの影響を受けパーチ楽器も使用」とか「“アフロ×エレクトロ”のClap! Clap!が参加」とか、またも僕の知らない衣裳をまとって登場したサイモンであるが、これまで以上にクリエイティブ、そしてここにも“サイモン節”が健在なのだからまいってしまう。

 ひっきょう、どのようなサウンド・スタイルであろうとも、ポール・サイモンの音楽は強固な存在なのだ。仮にロバート・フィリップ率いるキング・クリムゾンをバックに起用しても、“サイモン節”は健在なのではないか(笑)。

 

 

■アルバム解説

 

The Rhythm Of The Saints(『リズム・オブ・ザ・セインツ』)

ブラジルの土着的なリズムが情熱的に押し寄せるアルバム。しかしハイレゾではそれが繊細で綺麗に響く。低域の厚みも十分。ポール・サイモンのアルバムはハイレゾでとても充実したものになっていると思う。

 

You're The One(『ユー・アー・ザ・ワン』)

リズム路線がややお休みして、内省的なムードが漂う、どちらかというと昔のポール・サイモンに近いと言えるアルバムかもしれない……しかしここでもハイレゾの音は厚く、太い。

 

Surprise(『サプライズ』) 

エッセイにも書いたとおり、長年の愛聴盤がCDからハイレゾになった。44kHzという低めのスペックが逆にスピード感とワイルド感を殺していないところが好ましい。ブライアン・イーノの巧みな音作りがハイレゾでもやはり光る。

 

Stranger To Stranger(『ストレンジャー・トゥ・ストレンジャー』)

6月に配信になったばかりの新作はエレクトロ路線の混入で、これまで以上にリズムがパワフルになった。ちょうど『明日に架ける橋』の「いとしのセシリア」のようにに、はち切れんばかりの生命力を感じる。ハイレゾは他のアルバムと同じく、厚く太い音なのは当然としても、このアルバムではさらに食い込みがよく、粒立ちのいい音が飛び出してくる。ハイレゾ時代ならではのアルバムだと思う。

 

 

Paul Simon ハイレゾ配信一覧はこちらから

 

 


 

 

【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 
 

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第25回:ポール・サイモン(前編)『ポール・サイモン』〜『グレイス・ランド』

〜『ひとりごと』と片思い〜

 

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アルバム『ひとりごと』のジャケットデザインを思い出色にパロディ…

 

 以前、サイモン&ガーファンクルのハイレゾについて書いたが、嬉しいことにポール・サイモンのソロアルバムもみんなハイレゾになっている。ということで「ハイレゾ一本釣り」でも2回に分けてポール・サイモンを取り上げてみよう。

 さて、ポール・サイモンのソロ作品で一番ポピュラーなのは、たぶん73年のソロ2作目『ひとりごと(There Goes Rhymin' Simon)』ではあるまいか。

 実は自分でもビックリなのだが、僕がリアルタイムでポール・サイモンのレコードを買ったのは、その前のファースト『ポール・サイモン』だけである。正確には『ひとりごと』からの先行シングル「僕のコダクローム」の45回転EPが最後となるわけであるが、どちらにしても『ひとりごと』は当時買っていない。

 『ひとりごと』は友人から借りて、ミルトン・クレイザーがデザインした素晴らしいジャケットを横目に見ながらも、オープンリールに録音してすました。このアルバムが発売になった73年の洋楽界は傑作のラッシュで、僕に『ひとりごと』を買うことを許さなかったのだ。しかしテープで聴くにつけ『ひとりごと』も傑作だとすぐに分かった。完成度、普遍性ならファースト・アルバム以上だ。

 そして僕は『ひとりごと』を買わなかったことを、もっと悔やむことになる。
 当時僕は高校1年生で、一緒のクラスに気になる女の子がいた。その女の子がS&Gの大ファンだったのである。新学期が始まった時の自己紹介では、クラスでたったひとり「サイモンとガーファンクルが好きです」と言ったのがその女の子だった。さらに「ソロになったポール・サイモンも好きです」と付け加えてみんなを微笑ませた。

 73年当時、高校生にもなって「S&Gを好き」というのは“洋楽初心者”を意味した。だから自己紹介ではみんなツッパったものである。ある男子は「T.レックスを聴いています」とクロウトぶり、ある女子は「ストーンズが好きです」と不良ぶった。僕も負けずに「ビートルズが好きです」と胸を張った。しかしこれではメンツがたたないから「エルトン・ジョンにも注目しています」とカッコつけた。本当はポール・サイモンも好きだったのに!

 でもその女の子はメンツなど気にしない。それが逆に新鮮だった。授業の休憩時間に仲良しの女子と「ポールの新しいLP『ひとりごと』、いいよぉ」とか「〈アメリカの歌〉は最高」とか言っているのが耳に入るにつけ、「ポール・サイモンも好きだと自己紹介しておけば良かった」と後悔したものである。そしたら彼女も気にかけてくれていたかもしれない。そうでなくても『ひとりごと』のLPを買っていれば、どこかで話すきっかけになったかもしれない。

 こうして高校生活はむなしく過ぎていった。その後、進級してもずっとクラスは一緒だったから、教室の向こうからポール・サイモンの話が聞えてくるたびに心が動いた。「ポールのライヴ『ライヴ・サイモン(Paul Simon In Concert: Live Rhymin’)』を買ったのよ」と聞けば、彼女の机の前に駆け寄って「それFMから録音したよ。〈明日に架ける橋〉ってああいう歌い方もあるんだね」…などと、どれだけ話たかったことか。

 結局、高校3年生の年末だったか、勇気を出して彼女に手紙を出したら見事にフラれた。そのせいではないだろうけど、その頃発売のLP『時の流れに(Still Crazy After All These Years)』は聴いてもいない(笑)。かくして僕の3年間にわたる片思いは失恋に終わったのである。

 もし彼女と付き合っていたらポール・サイモンの話を随分しただろうなあ、と妄想は膨らむ。もし付き合いが80年代まで続いていて、世界的に話題になった『グレイスランド(Graceland)』を聴いたら、どんな話をしただろう? そしてもし2016年の今も付き合いが続いていたとしたら、「ポールのハイレゾが出たね」、「じゃ『ひとりごと』からダウンロードだね」、なんてシニア同士で話したかもしれない。

 まあ、これは心の中の独り言である。現実はポール・サイモンを一人で聴く中年男がいるばかりだ。しかしハイレゾならそれも楽しいひと時である。

 

 

■アルバム解説

 

 

Paul Simon(『ポール・サイモン』)

 72年発表のソロデビュー作。僕が生まれて初めて買ったポップスのオリジナルLPがこの『ポール・サイモン』だった。それだけに思い入れは強く、アナログLPの音が刷り込まれている。しかしハイレゾの音は絵に描いたようにクリアで力強い。まず「母と子の絆(Mother and Child Reunion)」のベースから太い。でも一番の聴きどころは、ステファン・グラッペリ(ヴァイオリン)とポールのギターでのインスト「ホーボーズ・ブルース(Hobo's Blues)」かも。

 

There Goes Rhymin' Simon(『ひとりごと』)

 エッセイにも書いた73年のセカンド。ハイレゾで聴く「僕のコダクローム(Kodachrome)」は「綺麗だあ」と唸ってしまう音。当時のレコードが庶民的なスマッシュ・ヒットだとしたら、ハイレゾではキャビアのような高級ヒット・チューンになった感じ。「アメリカの歌(American Tune)」は小刻みなバスドラの音も確実になり、ストリングスもコクがあっていい。

 

Still Crazy After All These Years(『時の流れに』) 

 当時は聴かなかったものの、その後中古LPでたしなんだアルバム。ハイレゾの「恋人と別れる50の方法(50 Ways to Leave Your Lover)」はスティーヴ・ガッドのドラムが力強くクリア。アナログがソファーでの男女のムーディー会話としたら、ハイレゾはスポーツクラブでの男女の会話になったみたいな。それにしてもファーストからここまで、アルバム毎にハイレゾの高音質度は増してくる感がある。

 

Graceland(『グレイスランド』)

 ハイレゾ化されている数枚のアルバムを飛ばして、これは86年の作品。アパルトヘイト政策をおこなっていた南アフリカのミュージシャンの参加が問題となったものの、ポールが70年代の輝きを取り戻したかのようにグラミー賞受賞。しかしポールの音楽スタイルは70年代と違って、リズム嗜好が明確になった。ハイレゾはそのリズムを、よりダイナミックに再生してくれる。この傾向はこのあとのアルバムでも続くので、後編をお楽しみに。

 

 

Paul Simon ハイレゾ配信一覧はこちらから

 

 


 

 

【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。

1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
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