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定期連載のトピックス

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Vol.25 Theme : デヴィッド・ボウイの初期5年間を振り返る

日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」バックナンバーはこちら

 

 そのあまりにもドラマのような完成された人生や才能を惜しむ声が後を絶たず、逆にこれからボウイに出会おうとする人達には狭き門になっていないかが心配な2016年初春。そんなボウイにも青き時代、未完成ながらも模索し、己の芸術道を極めんとしていた時代が当然あったわけで、今回はそのドラマチックな半生の序章とも言うべき初期5年間を振り返ったコンピ『Five Years』を紐解きながら、あらためて彼の魅力に迫ってみよう。

 

『Five Years』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 ビートルズなんかもそうだけど、現代の感覚で考えるとちょっとにわかには信じ難いような……そう、2~3年のスパンで……いや、ヘタすれば1~2年のスパンで目まぐるしく表現のベクトルを変えることが珍しくなかった60年代や70年代。とはいえリスナーの反応は双刃の剣で、やりようによってはそっぽを向かれてもおかしくないわけで……そこら辺は現代よりシビアかも? そんな振り幅を見事にやり遂げた稀有なアーティスト、デヴィッド・ボウイ。プロとしてのキャリア自体は60年代のモッズBANDとしてスタートしつつも、ヒットに恵まれ英国のリスナー達に広く知られるようになったのは<フォーク期>。

 

  ボブ・ディランのイギリス上陸の影響もありつつ、モッズBANDでプロデビューしたがゆえに複数人数でなければ成し得ない音楽表現への反動なのか? 一人でアコギを抱え、自由に表現することのクールさと利便性を(日本での弾き語りブームも大体バンドブームと入れ替えだし)、ボウイがいち早く察知したことは想像に難しくない。しかしおおよそのフォーク・アーティストが、サイケやブルース等、より泥臭い方向へ進化していく中で、ボウイはフォークとSFを合体。ちょうどアポロ11号が人類初の月面着陸をする5日前にリリースされたのが名曲「Space Oddity」で、アポロ号の快挙を伝えるテレビのニュースや特番で繰り返し使用されることでヒット。まさに英国リスナー達にボウイの名前を刻んだ記念碑的楽曲。

 ヒットを受けてアルバム制作に乗り出したため、アルバム『Space Oddity』は全体的にストーリーテリングな叙情的フォーク・アルバム。しかしSF要素よりはファンタジー的な物語が強く、後年のLIVEでも度々披露していた「Wild Eyed Boy from Freecloud」を代表に、ハリー・ポッターさながらの冒険譚が美しく語られる。

 

『Space Oddity』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そしてビックリするのが次のアルバム『The Man Who Sold the World』。レッド・ツェッペリンやブラック・サバスの台頭を受けてか、何とハードロックな一枚に! とは言ってもツェッペリンやサバスもアコースティック曲があるだけに、泥臭いセブンスのドライブ感と叙情的なアコギの音色は、意外と親和性が高い。結果ニルヴァーナのカヴァーでより認知を広げた隠れ名曲「The Man Who Sold the World」を始め、その後<ハードなギターにPOPな歌物>というグラムロックへの土台が見え隠れする。

 

『The Man Who Sold The World』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 その礎感が一番大きいのが次作『Hunky Dory』で、マニアの中では最高傑作と評する人が少なくない、メロディアスな隠れ名盤。冒頭の「Changes」から変化を恐れぬ宣言を高らかに歌い上げ、名曲「Life On Mars?」ではフランク・シナトラの大スタンダード「My Way」のコード進行をそのまま借用しながらも、全く新しいメロディーとSF的な価値観を加えて、見事オリジナルに昇華(ボウイマニアだったシド・ヴィシャスが「My Way」をカヴァーしたのも頷ける)。そんな代表曲達や「Quicksand」「Kooks」(かのThe KooksはここからBAND名を拝借)といった曲達がフォーク感を、ドライヴィンな「Andy Warhol」や「Queen Bitch」がハードロック感を引き継いでいるものの、POP度がグンと増している。そして佳曲「Oh! You Pretty Things」や「Fill Your Heart」ではボードヴィル風なストーリーテリングが綴られており、これが次作の最高傑作への布石となる……。

 

『Hunky Dory』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そう、言わずと知れた大名盤『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』、通称『ジギー・スターダスト』。これまでのボウイの音楽性を全て内包しながらも、他の追随を許さぬほど激POPな仕上がりに。<5年後に破滅を宣告された地球(「Five Years」)を救いに、火星より舞い降りたロックスター(「Starman」「Ziggy Stardust」)>……というコンセプトもあり、映画のサントラのようにストーリーが断片的に語られ、それを彩るメロディやアレンジの素晴らしさにグイグイと引き込まれてしまう……客観的に聴いても大名盤なのは間違いないが、おそらく映画や演劇的な風景描写や(「Moonage Daydream」「Suffragette City」)、その後のLIVEでのシアトリカルな表現で(「Rock 'N' Roll Suicide」)、ジギーの良さがリスナーの中でもどんどん上書きされてしまうのが、このアルバムのスゴイところ。ハイレゾの高音質なら、その豊潤なアレンジをたっぷりと堪能出来る。機会があればお試しあれ。

 

『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そしてそのジギーのツアーで訪れたアメリカから大いなるインスパイアを受けた『Aladdin Sane』は、さながら米国版ジギーの様相。SF色は影を潜め、代わりに語られるのは探偵小説のようなハードボイルド(「Watch That Man」)、郊外の狂気(「Drive-In Saturday」「Panic in Detroit」)、ドラッグ漬けのスター(「Aladdin Sane」「Cracked Actor」)etc……それらがハードなギターとジャジーなピアノという、一見ミスマッチな組み合わせながら、絶妙なトリップ感を味合わせてくれる傑作。名曲「Time」や「Lady Grinning Soul」でのメロウなバラッド感も良いアクセントとなり、お子様向けと思われていたグラムロックを芸術の域に押し上げたのは間違いない。

 

『Aladdin Sane』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 結果ショービズ界のカルトヒーローとして君臨したボウイは、トリックスターな振る舞いに疲れ果て、若き日に慣れ親しんだ名曲カヴァー集『PinUps』を制作して一息つく。お馴染みThe Whoを2曲も取り上げるのはさすがモッズ出身(「I Can't Explain」「Anyway, Anyhow, Anywhere」)。同じく2曲取り上げたヤードバーズ始め(「I Wish You Would」「Shapes Of Things」)、英国ビートBANDの歴史を凝縮したアルバムで原点を確認したボウイは、その後また怒涛の70年代後半へと旅立つことになる……。

 

 ざっと振り返ったボウイの初期5年間……もちろん彼の代表作『ジギー・スターダスト』の冒頭を飾る「Five Years」から命名されたコンピレーションだが、たった5年でこの振り幅の広さよ!

 飽きっぽいということではなく、おそらくメディアに祭り上げられることで短命に終わるショービズの掟を、自らを刷新することで打ち破ろうと模索したのだろう。そんな若き日々の記録が克明に刻まれ、アルバムのみならず、その生涯を通じて<変化を恐れない>ことを発信し続けたデヴィッド・ボウイ。支持されるということは、表現者としては同じ物を求められてしまうという宿命も理解した上で、周到に、時に大胆に、その期待を見事に裏切り続けてきた。もちろん90年代頃には時代の変化に上手く対応しきれない時期もあったが、後輩達のバックアップや、かつての盟友ミック・ロンソン(初期5年間を支えた名ギタリスト。彼についてはいずれ単独で掘り下げたい)や、トニー・ビスコンティ(初期5年間と後期10数年を支えたプロデューサー)との再会など、数々のドラマを経て健在ぶりを示し、そして文字通りスターマンとなってしまった彼の、試行錯誤した若き日々は、必ずや多くの人に生きるヒントをもたらす作品揃い。この機会に青きボウイもチェックしていただきたい。

 


 

【日高央 プロフィール】

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。

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第16回:サイモンとガーファンクル(後編)『明日に架ける橋』〜『セントラルパーク・コンサート』

〜ハイレゾが僕の新しい『グレイテスト・ヒッツ』〜

 

 前回は1971年暮れにベスト盤を買って、サイモン&ガーファンクルの世界に踏み込んだことを書いた。翌72年になると、僕はベスト盤だけでは飽き足らずオリジナル・アルバムを揃えるようになった。ちょうど中学2年生から中学3年生に進級した頃である。

 買ったのは『パセリ・セージ・ローズ・マリー・アンド・タイム』『ブックエンド』『明日に架ける橋』。当時は中学生がLPを買うのは大変だったから『水曜日の朝、午前3時』と『サウンド・オブ・サイレンス』は友人から借りて録音した。そのかわりに発表されたばかりのポール・サイモンの初ソロ『ポール・サイモン』とマニアックな『ポール・サイモン・ソング・ブック』も買ったのだから、72年の夏休みが終わるころには、僕の“S&G収集”はほぼ完了したと言っていい(『卒業』だけ見送った)。

 そんなころ『グレイテスト・ヒッツ』が発売されたのだった。収録曲を見て驚いた。それまでCBS・ソニーが出していたベスト盤『サイモンとガーファンクル・グレイテスト・ヒット II』とまったく同じ収録曲、曲順だったからである。これは「ポール・サイモン自身による選曲」と銘打たれた国内企画盤で、日本の洋楽LPチャートではずっと1位を記録していた。古い流行語に例えれば「巨人、大鵬、S&G」と言いたくなるくらい我が国では人気があったレコードだ。

 そこに新しい『グレイテスト・ヒッツ』である。同じ収録曲でもさすがにS&G自身の制作だから凝っていた。ライヴ演奏や新ミックスが含まれていて、新作と呼んでもいい内容だ。この頃は僕のなかでS&G旋風はおさまり、かわってビートルズの大旋風が吹き荒れていたのであるが、ビートルズのレコードを1枚諦めても欲しくなった。かくして72年9月13日に『グレイテスト・ヒッツ』を買ったのだった(LPの解説書に日付を書いたから今も分かるのである)。

 はたして『グレイテスト・ヒッツ』は新鮮だった。なかでもライヴの4曲がスタジオ録音をしのぐ神々しさ。他にも拍手が被せられている曲があり、アルバムとしても聴き飽きなかった。しかし事件はまもなく起きる。ある時、手を滑らせて針をレコード盤の上に落としてしまったのである。バン、バン、バン、ブィ~! 針は豪快なバウンドをしたあと、飛行機が胴体着陸をするようにミゾの上を滑っていった。

 恐る恐る聴いてみると、ライヴの「59番街の歌(フィーリン・グルービー)」でプ、プ、プというキズ音が出る、続く「サウンド・オブ・サイレンス」ではついに針飛びがおきて先に進まない。中学3年生の心がいかに折られたかは、アナログ世代の方なら分かっていただけるだろう。

 にもかからず、僕はこのレコードを聴き続けたのだった。まるで虫歯の痛みを確認するかのように、マゾ的な心でノイズの出る部分を聴く自分がいた。CDや別の中古レコードに買い替えてもよかったのだが、できなかった。大切な小遣いで買ったレコードは可愛いし、傷がついたことで逆にこのレコードから離れられなくなってしまったのだ。

 ここでようやくハイレゾの話になる。そんな病んだリスナー(?)である僕でも『グレイテスト・ヒッツ』はハイレゾだと、まったく自然に聴けるのである。どうしてハイレゾなら聴けるのか。もちろん高音質なところがその大きな理由だろう。しかしそれだけでもないような気がする。ひょっとしたらハイレゾを聴く行為のなかに、アナログ盤を聴く行為に通じるものがあるのかもしれない。そんなわけで今ではハイレゾの『グレイテスト・ヒッツ』が僕の愛聴盤となっている。棚にしまってあるLPもきっと喜んでいることだろう。

 


 

Bridge Over Troubled Water

http://mora.jp/package/43000100/G010001408099M/

 サイモン&ガーファンクルの傑作であるだけでなく洋楽レコードの金字塔。それが『明日に架ける橋』であろう。表題曲「明日に架ける橋」や「ボクサー」など彼らの代表曲と“その他の名曲”からなるアルバムで、ハイレゾでは“その他の名曲”がより高音質となり、アルバムとしての素晴らしさが底上げされている。
 「ベイビー・ドライバー」「ニューヨークの少年」「手紙が欲しい」などが、ふくよかなサウンドで鳴り響くのは、かなり快感だ。ブラスの音も凄い。もちろん「明日に架ける橋」のピアノもイントロから重心の低い音に(僕には)感じられて、ハイレゾで聴く価値が大きいアルバムだと思った。

 

Greatest Hits

http://mora.jp/package/43000100/G010001794833N/

 この『グレイテスト・ヒッツ』については先に書いたので、ハイレゾの話をするなら、「エミリー・エミリー」などのライヴ音源の音質がしっかりした分、アルバムの統一感がいっそうとれた印象になったと思う。スムーズに各曲が流れていく。「ミセス・ロビンソン」や「スカボロー・フェア」などは、なぜかオリジナル盤よりもこのベスト盤で聴く方が好きである。

 

The Concert in Central Park (Live)

http://mora.jp/package/43000100/G010003232888H/

 81年のニューヨーク、セントラル・パークでの再結成コンサート。当時はまだ大物の再結成は珍しかったので、まさか二人が再び一緒に歌うなど夢にも思わなかった。しかし、そんな興奮とはうらはらに演奏はリラックスしたもので、ソロ作品を二人で歌ったりとスタジオ・アルバムにはない魅力がふんだんに含まれている。ジャズ、フュージョン系ミュージシャンのバッキングも時代が80年代になったことを強く感じさせる。
 ハイレゾは野外とは思えないクリアな録音を、やわらかいアナログ風な音で再生してくれる。バンドの各楽器の分離感も良好。「どこがどうハイレゾで良くなった」という力みはなく、それこそ演奏と同じく「リラックスしたハイレゾ化」を感じる音質だと思う。夜な夜な聴くには格好のハイレゾ。

 

 

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【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。

2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

 

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■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File11. Over The Rainbow (作曲:ハロルド・アーレン)

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回は、ハロルド・アーレンが1939年頃に生んだ「Over The Rainbow」をご紹介します。

 

『Over The Rainbow』(日本語タイトルは「虹の彼方に」)について
この曲は1939年にアメリカで公開されたミュージカル映画『オズの魔法使い』で主役のジュディ・ガーランドが歌うシーンが有名な劇中歌です。同年、アカデミー歌曲賞を受賞して大ヒットしました。その後、美しいメロディーが評価され、スタンダードナンバーとして世界中でカバーされています。

ハロルド・アーレンはアメリカの作曲家で、多くのジャズ歌手にカバーされている「Blues in the Night」や「GET HAPPY」、「Happiness Is a Thing Called Joe」などのヒット曲を始めとして、映画や舞台の音楽を中心に、500以上の作品を残しています。

ちなみに、この『Over The Rainbow』は全米レコード工業会(RIAA)と全米芸術基金(NEA)により「二十世紀の1曲」に選ばれ、投票の結果、第一位となっています。まさにスタンダードナンバーを象徴するような楽曲ですね。

 

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)

 

まず最初は、冒頭、低い「ド」から高い「ド」へ一気にあがるメロディーがこの曲の一番の特徴です。

メロディーというは本当に不思議なもので、たった7つの音、(低い)「ド」(高い)「ド」「シ」「ソ」「ラ」「シ」「ド」だけで、人の心が動くのです。
そこには理屈も理論もありません。でも、そのメロディーを生んだ人に心の震えや感動がなければ、決して聴く人の心を打つことはないんですね。

メロディーを生む人にとって、心の震えや感動は、生きている、いわば生命のようなものです。
一方、7つの音の羅列は、もともとは当然、生命のように生きているものではありません。メロディーを生んだ人が、メロディーというかたちでその命を吹き込むことができた、と確信した瞬間から、そのメロディーは命を宿すのです。

とても不思議なことです。確かに不思議ですが、少なくともそのメロディーが聴く人の心を打ち、揺り動かすことで、まさに曲を生んだ人の命がちゃんと生きて伝わっていることが証明されるのです(そういう意味で、この「ドードー シーソラ シード」というメロディーは、とても強い命を持って生まれたのだ、と言えるでしょう)。

 

さて、「ドードー シーソラ シード」という命が溢れたメロディーの後すぐに、それを受けるようなメロディー「ドーラーソー」が続きます。 「ドードー シーソラ シード」というメロディーに対して、最初の音は同じ「ド」で始まりながら、同じリズムで今度は「ラ」まで上がります。 でもこれは最初のメロディーの高い「ド」より少し低い音程ですから、緊張感は緩和されて柔らかい印象になります。

その後も、「シーソラ シード」というメロディーと比べると、「ソー」とひとつの音だけが伸びていて、ゆったりとした感じがします。
つまり突然、誰もが心を動かされる7つの音のつながりで始まったメロディーが、少し柔らかい感じの3つの音に変化してつながり、受けとめるような感じになっているわけですね。

こういったメロディーの音程の違いとメロディーの持つリズムの違いによって、聴いている人がどのような印象を受けるか、どんな気持になるか、というところが、その曲を名曲にさせているひとつのポイントなのです。

 

続きを見てみましょう。
最初のメロディー「ドードー シーソラ シード」と、ちょうど対になるような「ラーファー ミードレ ミーファ」が登場します。

メロディーのリズムは全く同じ。でも音程は全体的に5度くらい低くなっています。
その結果、最初のメロディーよりもずっと優しく、愛情のある感じが聴いている人に伝わります。

さらに続くメロディーは、「ラーファー ミードレ ミーファ」の後半、「ミードレ ミーファ」と同じリズムで音程が1度ほど低い「レーシド レーミ」となり、その後「ド」で落ち着きます。

以上、たった8小節で、聴く人の心を動かしてしまう……まるで名曲の象徴のようなメロディーだといえるでしょう。

 

さて、実はこの曲が名曲である理由には、さらに和声の素晴らしさもあるのです。
最初のメロディー「ドードー シーソラ シード」の和声を見てみましょう。

参考の音源はキーがAですから、コード進行はこうなります。(私のピアノ演奏は、ジャズ的なアプローチを交えて少し複雑なコードを使っていますが、ここでは原曲をもとにシンプルなコードを記載しています)

A C♯m A7 

まず、明るい主和音が、低い「ド」から高い「ド」へ一気にあがるメロディーの高まりをしっかり支え、
続く「シーソラ シー」までを、主和音が前進した感じのするC♯m が支え、
次の「ド」でコードが A7 になった瞬間、陽が当たるように明るさが差し込みます。

これは次に登場するDというコードの登場を促す力を持った和音です。そのため、陽が当たるような明るさを感じるのです。

続く「ドーラーソー」を支えるコード進行は、D A/C♯です。「ドーラー」を、世界が展開した感じのする Dという和音が支え、「ソー」でまた主和音に戻ります。

 

さて、次はここまでのメロディーの対になるような「ラーファー ミードレ ミーファ」ですが、メロディーがリズムは同じ、音程が5度ほど低い、という分りやすい「対」の感じであるのに対して、和音は違います。
これまでの和声進行から、ぐっと叙情的な和声進行に変わるのです。

「ラーファー」を支えるのは、D Dm
先ほども登場した、世界が展開した感じのする Dというコードが支えながら、突然そのままマイナーコードであるDmに変化することで、とても切ない感じになります。

続く「ミードレ ミーファ」を支えるのは、 A/E F♯7
まず一度主和音に戻りながら、次の F♯7で、心が泣きたくなるような感じに、強く揺さぶられます。
これは、本来 F♯m というマイナーコードであるべきところが、メジャーコードになっているために、起きる現象です。

(実はこの連載では、これまでもこのコードの魅力を何度も取り上げています。このコードが効果的に使われている曲は、今回私がピアノ演奏したアルバム『Anming Piano Songs』全12曲中、7曲……。実に、半分以上で使われているんですね。それほど強い効果のあるコードが、この絶妙なタイミングでメロディーを支えているのです)

続く「レーシド レーミ」を支えるのは、 B7 E7、そして「ド」で主和音 A に落ち着きます。
このB7も、本来ならBm7というマイナーコードであるべきなのですが、そこをあえてメジャーコードにすることで、夢を見るような感じを強調しているのです。

先ほど書いたように、7つの音のつながりでメロディーが直接心を揺さぶる前半4小節に対して、後半4小節のメロディーは音程が低く、ずっと柔らかくなります。その分、和声進行は後半の方がずっと叙情的で心を揺さぶる感じになっています。

 

このように、メロディーと和声進行がそれぞれ巧みに交錯して、聴いている人の心を打つために、たった8小節のテーマ部分が、聴いている人を夢の世界へ連れて行ってくれるのです。

まさにこれこそ名曲の理由……という感じがします。

 

この曲には、このテーマの他に、違う展開をするセクションが2回登場します。

メロディーは「ミソ」をくり返し、続いて「ファソ」をくり返し、最後に「ラ」が伸びます。
次に再び「ミソ」をくり返した後、「ファ♯ ラ」のくり返しになりますが、ここでファがシャープしているのは、ここで緩やかな一時転調がなされているからです。

この部分のコード進行は、A G♯7 C♯m です。
そう、一時的にC♯mつまり3度上のキーに柔らかく転調しているのです。

このセクションは、名曲性に溢れたテーマの部分のあと、セリフのような淡々とした世界を展開するのが目的ですから、「ミソ」や「ファソ」を繰り返すように、メロディーはあえてシンプルで単調に抑えているのですが、その流れであえてこの瞬間だけ、一時的な転調を施すことで、ここでまた夢のような世界に、聴いている人を誘ってくれるわけです。

このように、曲のいたるところで「夢の世界に連れて行ってくれるような音楽的な魅力」に満ちているのは、やはりこの曲がミュージカル映画『オズの魔法使』の劇中歌だからでしょう。

ただ一方で、ミュージカル映画『オズの魔法使』に縛られることなく、あらゆる国のあらゆる音楽ジャンルでこの曲がカバーされ、世界中の人たちの心を優しく揺らしてくれるのは、今回、メロディーや和声を見ていてわかったように、そこに名曲の理由がちゃんとあるからなのです。

そして毎回お伝えしているように、その名曲の理由の源は、結局のところ理論でも組み立てでもなく、その曲を生んだ作曲家の心の震えや熱い感情の表れに尽きるのです。

 

生んだ人の心の震えが、そのまま聴く人に伝わる……。
これが名曲の素晴らしさです。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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Vol.24 Theme : デヴィッド・ボウイ追悼『★(Blackstar)』レビュー

日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」バックナンバーはこちら

 

 TwitterでもInstagramでもFacebookでも、あらゆるSNSのタイムラインがいまだにデヴィッド・ボウイで埋まる1月末……ボウイロスの影響の深さはもちろん、「あんたもボウイ好きだったんかい!?」という驚きもありつつ、特に海外の音楽系サイトはボウイの後日談で持ち切り。

 出会った時期にもよるけど、ニューウェーブ全盛期に『スケアリー・モンスターズ』から入って、直後に映画『戦場のメリークリスマス』とメガヒット『レッツ・ダンス』に遭遇した自分にとっては、これほどまでに過去のアーカイブを掘るのが楽しいアーティストもなかなかいなかっただけに(作品毎の表現の振り幅がとにかく広いので)、やはりボウイロスを埋めるのには時間がかかりそう……。

  今回のニュースで出会った人にとっては、最新作『★(Blackstar)』は大人っぽい落ち着いた印象を与えるアルバムかもだけど、これがまたなかなかどうして、ボウイの歴史を俯瞰すると、これはこれでチャレンジングな一枚なので、その辺の解説を踏まえてご紹介。自分の大好きなアーティストが、ただの爺さんじゃなくて、スーパーエキセントリックな男として生涯を全うした事を、少しでも知って欲しいし。

 初めての人に超ざっくり言うけど、ボウイって大きく分けて2つの音楽性があって……<ロックンロール>か<ファンキー>だと思ってて。もちろんアルバム毎に細かく色んな要素が混ざってるから言い出すとキリがないんだけど、クラシック級の名作『ジギー・スターダスト』辺りのグラムロック全盛期のボウイに対するイメージが<ロックンロール>。グラム期を経てアメリカに接近した『ヤング・アメリカン』や『ステーション・トゥ・ステーション』なんかは<ファンキー>。みたいに、おそらく彼自身の中での大まかなモチーフというか、モードとして<ロックンロール>か<ファンキー>かに振り切った作品が点在してるイメージ。もちろんどれも<POP>な仕上がりに抜かりはないけど。俺個人のイメージだけど。

 んで前作『The Next Day』は割とロックンロール寄りだったと思うから、今回はファンキーに振り切ろうと思ったと想像してて。でもそこで今までみたいなファンキーさに行かない捻くれっぷりもボウイの魅力の一つ。現代のファンキーを体現するHIP HOPもこよなく愛する彼ならではのセンスで、ケンドリック・ラマーの傑作最新作『To Pimp A Butterfly』を参考に、現代のジャズ系ミュージシャンを起用することで、新たなダンサブルさを獲得。70歳を目前に、しかも自分の死期が迫ってるって時に、そんなエッジィなチョイス出来る!?

 エッジィなボウイが選んだジャズ・ミュージシャン達は、世界で初めてデータ音源だけで(アナログやCDを発売せずに)グラミーを獲得した新進気鋭のマリア・シュナイダー・オーケストラの面々。キャリアを総括したベスト盤『Nothing Has Changed (The Best Of David Bowie)』にて先行収録された「Sue (Or In A Season Of Crime)」を聴くと、Jazzのロウ(生)な感じでドラムンベースばりのグイグイなリズムと、ボウイのゴシックな歌とメロディーが気持ち良い。しかもこの時点ではケンドリック・ラマーより先にJazzミュージシャンとセッションしてるんだから、ボウイの千里眼おそるべし!

 そして「Sue (Or In A Season Of Crime)」のアルバムver.は、よりリズムを強調したロック寄りな解釈に。聴き比べると面白い。こうして常に今の自分をアップデートする感覚もボウイならではで最高だし、ハイレゾで聴くと演者の息遣いも聴こえてきそうな臨場感が鳥肌モノで、まるで自分もセッション中のスタジオに放り込まれたような緊張感が味わえるから、チャンスがあればお試しあれ。

 個人的なおすすめトラックは「'Tis a Pity She Was a Whore」と「Girl Loves Me」。前者は80年代ボウイが得意とした、煌びやかなアレンジにEMOい泣きメロが気持ち良い佳曲。後者はボウイの十八番、しゃくり上げる歌唱法“ヒーカップ”を駆使してアヴァンギャルドな緊張感を演出。チラリとクラフトワーク的なテクノっぽいミニマル感もあってカッコイイ。どちらも仕上がりは極上にPOPだし、映画や小説の一場面を想起させるような、聴き手のイマジネーションをバチバチに刺激してくれる。

 そしてここ数年のボウイはなぜか、シングルにしっとりした曲を持ってきて、アルバムだとアグレッシヴな曲もある、みたいな打ち出し方を好んでて……前作『The Next Day』しかり、今回の『Blackstar』しかり。それぞれの先行シングル『Where Are We Now?』も『Blackstar』もそういう作りなので、全体の印象が大人っぽくみられがちですが……アルバムにもしっかりバラード? まで行かないにしても、落ち着いたナンバーを配してバランス感も最高。今作では後半の「Doller Days」の美メロにうっとりしつつ、最終曲「I Can't Give Everything Away」でタイトル含め、ボウイの遺言として聴くと涙を禁じ得ないEMOい展開へ。

 己の死を覚悟しながら新作を準備し、最終曲で“俺は全て諦めるわけにはいかない”と歌い、リリースの2日後ひっそりと天国に召されるなんて……もちろん、ここまでの道のりも決して平坦ではない……相当な覚悟と、表現への欲求。我々には想像もつかない葛藤があったかと思うと、このアルバムの聴き方もより深く味わえるのではないかと……年齢に関係なく、ネガティブな状況に負けるな! と背中を押してくれるステキな作品。この機会に是非お試しあれ。

 

『★(Blackstar)』
David Bowie

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【日高央 プロフィール】

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。

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第15回:サイモンとガーファンクル(前編)『水曜日の朝、午前3時』~『ブックエンド』

~ハイレゾ配信は洋楽オヤジへの“ギフト”~

 

 サイモン&ガーファンクルのハイレゾが、とうとう昨年末(2015年12月25日)にmoraで配信された。ようやくハイレゾ界に重要なピースが埋まったという感じだ。なので今回は2回に分けてサイモン&ガーファンクルについて書いてみる。

 僕にとってサイモン&ガーファンクルは洋楽への入り口になった存在だ。これは僕だけではなく、70年代始めを中学、高校生で過ごした人なら皆同じだと思う。あの頃は解散したビートルズも人気があったけれど、洋楽初心者は、まずサイモン&ガーファンクルのほうを聴いていた気がする。

 僕もその口で、中学2年生の時、五里霧中で洋楽のヒット曲を追いかけているうちにサイモン&ガーファンクルを知った。初めてまとめて聴くべきアーティストに出会った気がしたものだ。なので1971年の暮れに、当時CBS・ソニーが出した《ギフト・パック・シリーズ》の2枚組ベスト盤を買った。まだビートルズさえ聴いていない。これが僕にとって、生まれて初めて買った洋楽のLPだった。

 赤い箱が印象的だった《ギフトパック・シリーズ》は『サウンド・オブ・サイレンス』から『明日に架ける橋』までの4枚のアルバムから選曲されていた。2枚組4面のS&Gの世界はスキ無しの構成で、レコードを買ってからクリスマスはおろか年末年始、さらにその後の数ヶ月もの間、それこそしゃぶりつくすまで聴き続けたものであった。粗末なサファイア針のステレオ・セットであったが、1秒たりとも耳を離せなかった。

 その後の長いレコード人生を振り返ってみても、この《ギフトパック・シリーズ》を聴いていた時が、一番エキサイティングだったと思う。このレコードで音楽を聴く喜びを知ったからこそ、今も音楽を聴き続けている気がするのである。サイモン&ガーファンクルの《ギフトパック・シリーズ》は、その名のとおり洋楽少年への“ギフト”であった。

 それから44年後、洋楽オヤジのもとにサイモン&ガーファンクルのハイレゾがやってきた。彼らの残した5アルバムに加えて、72年発売の『Greatest Hits』と81年の再結成ライヴ『The Concert in Central Park』を含んだ7アルバムが、FLACの192kHz/24bitという申し分のないスペックで登場したのである。

 申し訳ないけれど、サイモン&ガーファンクルのCDには何の思い入れも持たなかった。しかしハイレゾでは、なぜか44年前の《ギフトパック・シリーズ》を買った時と同じくらいのワクワク感を覚えた。各アルバムについてあとで書くように、ハイレゾでサイモン&ガーファンクルを聴く楽しみは数回聴いただけでは終わりそうもない。それこそ44年前のレコードのように、しゃぶりつくすまで聴いてしまうことは間違いない。今回のハイレゾは、まさに44年ぶりの洋楽オヤジへの“ギフト”だと思う。

 


 

Wednesday Morning, 3 A.M.

http://mora.jp/package/43000100/G010000912960X/

 『水曜の朝、午前3時』という邦題を持つデビュー・アルバム。このアルバムは出世作「サウンド・オブ・サイレンス」のヒット前なので、“S&G前夜”という印象がどうしてもつきまとう。そのせいか《ギフト・パック・シリーズ》のレコードでも、このアルバムからの選曲はなかった。
 しかしこのアルバムは『ブックエンド』や『明日に架ける橋』に劣らず名作だと思う。というか二人のデュエットを堪能しようと思うなら、このアルバムがピカイチといっていい。曲も彼らならではの哀愁のある曲ばかり。全編がフォーク調なのは隠れ蓑で、実は究極の“癒しアルバム”かもしれない。僕の場合、歳を取るとともに聴く回数が圧倒的に増えているのが、この『水曜の朝、午前3時』なのである。
 ハイレゾではヴォーカルがナマナマしくなった。二人の歌う旋律が、時に平行に、時に交差する。その様がアナログ・レコードでも快感だったのであるが、ハイレゾだとさらに際立つ。楽器が少なく余白が多い空間だから、オーディオ的な耳で聴いても面白い。ハイレゾでぜひ揃えておきたいアルバムだと思う。

 

Sounds Of Silence

http://mora.jp/package/43000100/G010000911928G/

 『サウンド・オブ・サイレンス』は、ギター・デュオとしてデビューしたサイモン&ガーファンクルがエレクトリック楽器を随所に加えていったアルバム。大ヒットしたロック調の「サウンド・オブ・サイレンス」もここに収録されている。
 でも完成度が高いのはやっぱりフォーク路線の曲で、「木の葉は緑」「キャシーの歌」「4月になれば彼女は」などだろう。ハイレゾではギターの音はひき締まり、弦の硬質感を伝える。聴く前は、どこかぬるま湯的な倍音を期待していたのであるが、ハイレゾの、厳しさをたたえたギター音はサイモン&ガーファンクルの余情性を際立たせる気がした。そうかと思えば、逆にロック路線の曲で温かみを感じた。「リチャード・コリー」のふくよかなエレックトリック・ギターの響きに「おっ」と思う。
 『サウンド・オブ・サイレンス』に限らず、他のアルバムでも感じたことであるが、ハイレゾでは全体的に音の輪郭が鮮明になり、肉厚になっている。そのせいでバスドラやベースによるリズムの食い込みがとても感じられるのが特徴だ。それから今まで気付かなかった音に惹かれる瞬間も多い。「木の葉は緑」や「とても変わった人」のタンバリン(?)の「ちゃりん」という音もキラキラと輝く。

 

Parsley, Sage, Rosemary And Thyme

http://mora.jp/package/43000100/G010001408100V/

 『パセリ・セージ・ローズ・マリー・アンド・タイム』は、前作『サウンド・オブ・サイレンス』を経て、完成した“サイモンとガーファンクルのサウンド”に仕上ったアルバムと思う。本作と『ブックエンド』『明日に架ける橋』の3作はそれぞれに個性的で甲乙つけがたい。そのなかで、このアルバムの特徴を一言でいうなら「幻想的」であろうか。
 ハイレゾの音は、これも他のアルバムと同じく引き締まった輪郭、それていてふくよかな音である。アナログ盤では淡彩画のように夢幻的だった「夢の中の世界」もハイレゾではクリアになった。特に筋肉質なギターの連打が印象的。それでも夢幻的な雰囲気が健在なのは、この曲が単にムードで仕上ったものではなく、クリアな歌唱と引き締まった演奏の上に仕上ったものだということを認識させられた。
 新たに気付いたことと言えば、レコードではオマケ扱いで聴いていた(失礼)「7時のニュース/きよしこの夜」も、ハイレゾではヴォーカルと、ニュースを読み上げるアナウンサーの声の絡みが緊張感を持つ。アナログ盤では今ひとつ感じなかったこの曲の「実験性」を、ハイレゾでようやく実感した次第である。

 

Bookends

http://mora.jp/package/43000100/G010000991684W/

 『ブックエンド』の特徴を一言でいったら、A面の「トータル性」と、B面の「最新録音技術による楽曲集」。この“二色丼”がLP『ブックエンド』だった。
 それをハイレゾで聴いてみると「アメリカ」ではバスドラがズンズン、とくる。「パンキーのジレンマ」でもベースがくっきり。繊細なメロディの下に、かようなリズムがうごめいていたとはビックリ。何度も書くように、ハイレゾでは輪郭がクリアなのでリズムが埋もれない。サイモン&ガーファンクルの抒情的な楽曲を肉厚なリズムで聴くのは、レコード時代にはなかったオツな楽しみ方だと思う。
 ハイレゾでの解像度の高さは、老人の声をコラージュした「老人の会話」でも威力を発揮する。声の向こうにヤカンが沸騰しているようなボコボコという音が鮮明に聴こえて、これまたLPを聴くのとは違う印象を受けた。
このようにハイレゾだと面白くて、どの曲も聴き飽きない。44年前のレコードのように、しゃぶりつくすまで聴いてしまう、と書いた気持ちも分かってもらえるかと思う。

 

残りのアルバムについては後編で書くので、どうぞお楽しみに。

 

 

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【牧野 良幸 プロフィール】
 
1958年 愛知県岡崎市生まれ。
1980関西大学社会学部卒業。
大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。
近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。
2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。
 
 
 
 
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