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ハイレゾ放談のトピックス

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「20代のうちにやれることをがむしゃらにトライして、バンドの可能性を広げたかった」とNICO Touches the Walls のVo.&G. 光村龍哉(以下、光村)は語る。2014年は、ベスト盤『ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ ベスト』を発表し、2度目の日本武道館公演も成功させ、2015年には、彼らにとって初のハイレゾ版を含むアコースティック・アルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』を発表するなど、精力的に動いてきた。新章に向け、ニュー・シングル「まっすぐなうた」を発売し、全国ツアーを終えたばかりだが、その勢いのまま、9月2日に「渦と渦」をリリース。彼らの今の歌への思いが、ハイレゾの音で、より鮮明に届けられる!

インタビュー&テキスト:古城久美子

 

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(イラスト:牧野良幸)

 

――ベスト盤から、今回のシングルに至るまでにアコースティック・アルバムを出されていますよね。これはどういうきっかけだったんですか?

光村 アコースティック・アルバムは、自分たちの可能性を広げる目的で作ったんですけど、自分たちの芯というんですかね、本来バンドがどうあるべきか?というのが浮かび上がってきて、手応えがありました。純粋に自分たちが積み重ねてきたものが何かというと、やっぱり「歌」。メロディ、言葉なんですよね。それをわかって、すごく肩の力が抜けたところがあって。6月に出た「まっすぐなうた」は3分ちょっとという、今までになく早い曲ができて、今回リリースされる「渦と渦」とセットで、歌に込めるエネルギーみたいなものが、すごく爆発したなと思って。

――アコースティック・アルバムは、これまでの楽曲をアコースティック・バージョンで録った作品でしたが、やはり違いましたか?

光村 違いますね。よくも悪くも素っ裸になるというか。エレキだったら、エフェクターで音を調整していくんですけど、一切ない。僕らも、純粋にプレイヤーとしての進化がそれぞれ問われる経験でした。歌い方に関しても、一度、録音している曲を歌い直すわけですが、アコースティックで、周りの音が削ぎ落されている分、同じ歌い方をしてもダメで。エレキの場合だとデカい声出して、高い音もワーっと出せるんですけど、アコギと合わせると過剰過ぎてしまう。テクニックでもごまかせないし、歌い方も一から考え直したり、裏声を使えるように練習したり。ベスト盤も出している身分で言うのもなんなんですが……アコースティック・アルバムで、初めて歌の特訓しました(笑)。
対馬祥太郎(Dr. / 以下、対馬) あの経験は、ドラムもベースもそうだし……今一度みんな基礎に返るというか。そう思わせる何かがあったよね。 光村 グルーヴ感がすごく問われるからね。

――そういう意味では、日本武道館のライブを拝見しても思ったんですが、バンドの底力が格段についていて、アコースティック・アルバムでも出せているのでは?

光村 あの武道館って、今、振り返ると、自分たちの中では過渡期、そのど真ん中にあったライブで。バンドの勢いはある種自信があったし、さらなるバンドの可能性を考えて、アコギ1本で弾き語るコーナーもやったんですよね。その日は、実験のつもりでやっていたんですけど。

――チケットも完売していましたね。

光村 9000人入っていたんですよね。でも、その9000人の前でも、アコギ1本でも届いている手応えがあった。それがなかったら、「アコースティック・アルバムは辞めよう」と言っていたと思う。そういう1つ1つの実験を経て、この1年くらいで、バンドの引き出しというか、懐も深くなったのかなと思います。

 

■「渦と渦」のウリは、バンドの芯となる歌

――芯は「歌」だというところで、バンドは?

古村大介(Gt. / 以下、古村) バンドの中で、「歌」を中心にして、曲のアレンジもみんな同じ意識で向かいました。みっちゃん(光村)の歌があって、じゃあ、バンドはどういう温度感がいいのか? さらに歌はどうあるべきか?そういうやり取りが充実していて。だから、武道館以降目まぐるしかったですね。「ここはこうしなきゃ」とか、問題点も含めどんどん出てきたんですよね。でも、まだその途中でもあり、バンドの芯があった上で、進むべき道にどんどん近づいているところというか。
坂倉心悟(Ba. / 以下、坂倉) この2年くらい、みんなの中で自分たちの可能性を考えた時に、芯になる強いものって「歌」だと共有してきて。その中で、ライヴやアコースティック・アルバムを通して、自分の演奏にしても、やればやるほど課題が見えてくる。それは、いつもそうなんですけど、やればやるほどっていうのが正直なところで、基礎的なことも含め自分を見直す期間にもなったし、やればやるほど続けなきゃなって思いました。それを意識していく中で、やはり歌やメロディが一番の武器だなという実感が、今回の全国ツアー(5/21〜7/19、15カ所17公演)を通しても身体に入ってきた。自分たちの芯を体現できた時間だったなと思います。

――そして、「渦と渦」にもつながるわけですね。

光村 そうですね。「渦と渦」はBメロのメロディ・ラインと、サビのコード感ができた時に、もう、これはウリにしたいなと。ウリにすべきポイントが歌なんだぞっていうことを自覚してやれたからこそ、自然と沸いてきた。

――この曲、頭の中でループしていますよ。

光村 よかった、よかった。4人の中で狙いがブレていないからこそ、歌に集約されるエネルギーが今までで一番大きなものになったんじゃないかな。5分弱歌いっぱなしですからね。

――確かに。「渦と渦」をハイレゾ音源で聴かせてもらったのですが、王道のロックではありますが、“矛盾だらけの日々に〜”の節では、何重にも音が重なり作り込んであって面白かったです。

光村 そこは、相当こだわって作っていますからね。王道な曲だし、ストレートに作れば、あそこでギターソロがくるんでしょうけど、あまり今までやったことないような、不思議かつ壮大なコーナーをそこに集約しようって。ここ3、4年、コーラスワークもテーマにしていて。ライヴでは、僕がメインで、ドラムの対馬とハモる感じだったんですけど。今、古君(古村)もコーラスにあがってきたので。
古村 がんばっているところです(照笑)。
光村 だから、ライヴで3声でハモったりできるようになってきたから、新しいことをやろうと思って。あの部分だけで、メイン、上、さらに上、さらに上……オクターブ下も入れたな。全部で5パートを不思議かつ壮大に聴こえるように重ねているんですよ。コーラスラインも違ったメロディも組んだり、あそこだけギターもやたら重なっているしね。そこがあるから、その後、激しくなるところが気持ちいいから、音を重ねた甲斐があった。ハイレゾで聴くと解像度が高くなっている分、より聴きやすくなっているのではないですかね。

――ここは時間がかかったのではないですか?

古村 アレンジの時間はかかっています。
光村 7割方がここじゃないかな。他は、ガーッと歌が引っ張っていく感じですよ。

 

■大瀧詠一『A LONG VACATION』『EACH TIME』

――こういう、重ねた音って、特に、ハイレゾだったり、オーディオで楽しめると思いますが、リスナーとしてはいかがですか?

光村 僕は、最近、ナイアガラ(大瀧詠一のレーベル)ものばかり聴いているので、大瀧さんの本を読みながら、この曲はどうやってレコーディングされたのか?って想像したりしていますよ。『A LONG VACATION』とか『EACH TIME』なんかはフィル・スペクターばりのウォール・オブ・サウンドで、同じ音をいっぱい重ねて自然な残響感を出している。そういう音の重なりもそうですが、余韻みたいなものも意識して聴くことが増えたかな。どういう部屋で鳴っているか想像したり……。
坂倉 僕は基本的に家でもヘッドホンやイヤホンで聴くので、そこで目を閉じて、気持ちがいい音を聴きたいタイプで。それでいくとハイレゾが一番好きかもしれないですね。音の重なりが美しいとか、奥行きがすごく気持ちいいんですよね。ロックのバーーンと音が面になってくるものも、もちろん気持ちがいいんですけど、また違う味わいというか。好みだなー。
古村 僕は、ハイレゾだと、自分が演る側だとしても、演った意味みたいなものがダイレクトに聴こえるので、そういうのが楽しい。だから、ハイレゾだと重ねがいがある。普段、俺ら、楽器をやっていて、楽器耳で聴いちゃうところもあるんですけど、その耳だと、ハイレゾは何を聴いても楽しいなと思ってしまいますね。

――ハイレゾだと制作者の意図がより見えますよね。先ほどの音を重ねている部分は、大変だったろうなとも思いましたし。

光村 ただ、僕らは96kHz/24bitのハイレゾ版も作り始めたのがアコースティック・アルバムからなので、それからは実はレコーディングにあまり時間がかかってないです。ミュージシャン的な観点でいくと、自分で聴いている耳の感覚に近いから、パッと鳴った音の時点で納得できるという、そういうよさはあるかな。アコギなんかは如実で。ホントにたっぷり身体に響く音だと思うので、「渦と渦」のカップリングで「僕は30になるけれど」という曲は、自分がアコギを弾いている時の感覚と近くてびっくりしましたね。

――演奏で聴いてる音とこうして聴いている感覚が近いということですね。

光村 そうですね。この曲は、たまたま、ドラムをタイトな音にしようという作戦を立てていたから、小さな部屋で録ることになって、いつもドラムを録っている大きな部屋が空いたんですよ。それで、アコギをその部屋で1人で録ったんですよ。それで、せっかく広い部屋だから響きも録ろうと思って、いつもだとマイクを立てても2本とかなんですけど、4、5本立てたんですよ。そしたらアコギ1本、1人で弾いているだけなのに、アコギの音に包まれているような感じがして。本当に部屋の中で聴いているみたいな感じがすごくわかった。通常、そういう広がりを出すときは、もう一度アコギで同じことを弾いてダブらせて、左右、音の広がりを持たせるというようなことをやるんですけど。「これ1本でいいじゃん!」って。その感じがね、ハイレゾだとより出ている。僕のあのときの感動が蘇りますよ。

――そのアコギの音をこちらも体験できるという……。

光村 アコギだけでなく、人の声も同じですけどね。僕の声も特にクセがあるというか。レンジが広いので、ハイレゾになると、僕のクセみたいなものがよりくっきりはっきり見えてくる。そのクセも、わざと出している部分もあって、わざとらしいところは、わざとらしく出ているから。

 

■気持ちはスペシャルズでしたが……ハイレゾ先生は厳しい!

――矢野顕子さんの「ラーメンたべたい」をスカ調でカバーしていますが、どうしてこの曲を選んだんでしょうか?

対馬 ラーメンが大好きで(笑)。
光村 NICOのソウルフードなので。各地廻ると、その土地の名物とか食べさせてもらってありがたいんですけど、何日か経つとラーメンが食べたくなる。今回も、ツアー中にすごくラーメンが食べたくなって、「カバーしようか」って。ま、でも、スカって、バンドであまりやっていなかったんですけど、裏打ちのギターがハイレゾになると、なんちゃってでやっている感じがバレちゃってて。気持ちはスペシャルズだったんですけど。

――(笑)。

対馬 やってるときはノリノリ。
光村 ミックスしている時もね、「おお、スカの空気作ってんじゃん」と思ってたんですけど。ハイレゾになった瞬間、お調子もの感が出てて(笑)。厳しいですね、ハイレゾ先生は。

――(笑)。今の、バンドがノッている感じも出ていますから。そういう、バンドのいい時期にハイレゾのフォーマットが出てきたとも思いますが。

光村 僕らは、アコースティック・アルバムというわかりやすいところから入れたというのはあるけど、まだまだ研究しがいがあるなって思うんです。エンジニアの方ともしょっちゅう議論して。レコーディング終わっても、スタジオで遅くまで、いろんなアンプとか、96kHz/24bitが48kHz/24bitになったらどうなるかとか試してて。それで夜更かししちゃって。ホンッと、いろいろとやりようがあるなって。ハイレゾって、とても器の大きなメディアなんですよね。だから、デカい部屋に住んでいるのと同じで、どういうインテリアで彩るか、個性が出てくる。研究のしがいがあるフォーマットだなと思います。

――ストリーミングサービスも出てきて、音楽も、いろんなフォーマットで提供される中で、ハイレゾのような技術革新が音作りにも影響していくわけですね。

光村 選択肢のひとつですよね。
対馬 アコースティック・アルバムを作った時にレコード盤も初めて作って、CD、ハイレゾと、それぞれに味と雰囲気があって音の差をスゴく感じました。ハイレゾは、いい意味でみんなの音がちゃんと分離してよく聴こえるなと。演っている本人にはハイレゾだと恥ずかしいところもあって。ああ、そこも……というところまで、よく聴こえちゃったりするから(笑)。

――いろんな音がクリアに(笑)。

光村 まあ、レコーディングの環境は、ずっと僕らはハイレゾだったわけで、そこで、みんなで吟味して納得して満足して、今までだとCDの音源に圧縮してきた。だから、ミュージシャンの気持ちを知るみたいな、そういう瞬間を聴きたい人には、ひとつの選択肢になりますよね。僕もイチ音楽ファンとして絶対知りたいので。

 

■ジョン・メイヤーのアコースティック音とマイケル・ジャクソンのシンセ音

――音楽ファンなら、ハイレゾはマニアックに楽しめますよね。具体的に感動した作品ってありますか?

光村 僕が、最近感動したのはジョン・メイヤーの『パラダイス・バレー』というアルバムです。アコースティックの楽器の分量が多いというのもあるんですけど。

――アナログレコーディングというより、現代レコーディングされたもののハイレゾ版ですね。

光村 そうですね。ちょうどCD盤を先に買っていて、いいアルバムだなと思っていたものの、ハイレゾで聴いたら、さらに、この人たち楽器ウマいなって。CDでは、衝動が押さえつけられていたんだっていう感動がありました。僕らも、まだもうちょっと慣れないとな。マイケル・ジャクソンのアルバムを聴いたときに思ったのが、結構、迫力があるなと。自分の中では繊細なフォーマットだと思っていたんですけど、こんなにパワーがあって、派手なんだって。

――アナログでシンセを録音するという贅沢なことをしているので、それが煌びやかな表現になっていて、『スリラー』とか本当にすごいんですよね。シンセやストリングスが思いもよらないことになっているパターンは、薬師丸ひろ子さんの「探偵物語」(大瀧詠一作曲)のような歌謡曲もスゴいです。

光村 ハイレゾもいろんな解釈があるから、何を持ってヨシとするのかは、やはり研究ですよね。

――山下達郎さんはロックは48kHz/24bitがベストだとも(引用元:ナタリー)。

光村 そこは僕も感じるところがありますね。だからこそハイレゾはハイレゾでアレンジしたいというのもありますね。マニアックになりすぎるかな(笑)。

 

■選択の幅が広がって、音作りはもっと自由になる!

――ハイレゾで、バンドの可能性を感じるところもありますか?

光村 すごく、機材も好きだし、レコーディングも実験するのが好きだし、かつ、本当に、ケーブル1本、電圧だけでも変わるから、こだわっている部分が如実に反映されるというのは、こだわりがいがあるなって思います。だから、自分たちもより、こだわるポイントがはっきりしてくるのかなと。選択の幅が広がって、自由な分、自分が居心地がいいポイントをより自由に選びやすくなったなと思うので、その中でまた進化していければいいなと思います。既に、現時点で、改良したいポイントがいっぱいあるので。

――おお、例えば、どういうところ?

光村 歌というポイントで考えると、もっと目の前で歌っているように聴こえるんじゃないかなと思うんです。どこまで前に出せるかというのは、過渡期にある気がしていて。他にも、いろいろあるんですよ。Neve(RUPERT NEVE DESIGNS社)の卓(=レコーディングで使用するミキサー)で録ってみたいとか、この機材使ってみたいとか。あと、全部ライン(=マイクを通さずに直接つないで録音すること)で録ってみたいとか。もう、本1冊分くらい語れそう(笑)。そういうのが好きなのは僕だけなんですけど。
対馬 いろいろやってみたいというのはあって、そこで起きる化学反応もあるので。「いいね、それ!」って。
光村 そういう意味では、嫌がるメンバーがいないのがありがたい(笑)。
古村 自分で、いろいろ気づかされる環境にあるので、そこは肝に銘じつつ……。
坂倉 でも、やったことが報われるというか。ちゃんと違いがわかるというところでは、楽しみが増えますよね。だから、ハイレゾって楽しみばっかりかな。ただ、キリがなくなっちゃって、違うところにいっちゃってるんじゃないのっていうような、それだけは気をつけようかな(笑)。

――このあとは、日本武道館が控えていますね。

光村 今度は、大阪城ホールもあるので。自分たちとしては、もっといろんな人を巻き込んでいきたいし、いろんな場所に行って、その思いが伝わればいいなと思います。

――ライヴ音源も、ぜひハイレゾで出してください!

 

New Single『渦と渦』

M1. 渦と渦
M2. 僕は30になるけれど
M3. ラーメンたべたい
 

 

NICO Touches the Walls アーティストページはこちら

 


 

NICO Touches the Walls

2004年4月に光村龍哉(Vo, G)、古村大介(G)、坂倉心悟(B)の3人で結成。同年7月に対馬祥太郎(Dr)が加入し、2005年から東京・渋谷と千葉・柏を中心にライブ活動をスタートさせる。2007年11月にミニアルバム『How are you?』でメジャーデビューを果たし、2008年9月に1stフルアルバム『Who are you?』をリリース。2010年3月には初の日本武道館ワンマンライブを開催した。以降もコンスタントに作品を発表し、2014年2月に初のベストアルバム『ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ ベスト』をリリースした。2014年8月には2度目となる日本武道館単独公演も大成功を収めた。2015年2月に新たな試みとなるアコースティックアルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』を発表。同年6月にシングル「まっすぐなうた」を、そして9月2日にニューシングル「渦と渦」をリリースする。

 


 

 

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 今回のハイレゾ放談は、TK (凛として時雨) が登場。実は先日、人気アニメ『東京喰種トーキョーグール』の1stシーズンに提供した「unravel」が、2ndシーズン最終話にて、ストーリーに合わせてTK自ら再アレンジを行ったアコースティック・バージョンが流れて話題となりました。そんなレア・ナンバーが、5月にハイレゾ配信リリースされることが決定。もともと、独自のセンスでエンジニアリング、ミックス、マスタリングなどに携わり、音へのこだわりを感じさせるTKさん。そこで、興味津々だという最新のハイレゾ環境の魅力をいっしょに体験することになりました。作り手でありアーティストならではの視点をお楽しみ下さい。

 

インタビュー&テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 


 

【プロフィール】

凛として時雨:2002年、埼玉にて結成。男女ツインボーカルから生まれるせつなく冷たいメロディと、鋭く変幻自在な曲展開は唯一無二。プログレッシブな轟音からなるそのライブパフォーマンスは、冷めた激情を現実の音にする。TK(Toru Kitajima)は、ボーカル&ギター、ソングライティングを務める。

凛として時雨 公式サイト:http://www.sigure.jp
TK from 凛として時雨 公式サイト:http://tkofficial.jp

 


 

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TK from 凛として時雨

 

――ミックスを自分でやられたり、音へのこだわりがハンパないTKさんだと思いますが、ハイレゾへの興味のきっかけは?

TK ミックスをやっているので音へのこだわりがすごいと思われがちなんですけど、オーディオ的な意味合いではないんです。もともとエンジニアの勉強をやっていたワケでもなく、作品として作りたい音の追求の結果なんです。曲づくりの延長線ですね。たとえばビットレートとかにも興味がありませんでした。自分が違いのわかるものだったり、音として自分が欲しいもの以外にはあまり興味が向かなくて。

――なるほど。

TK 世代的なものもあるかもしれないんですが、僕はあんまりMP3にも抵抗がなくて。自分が高校生のころとかMDだったので、いまだにMDの音とか好きだったりして(笑)。圧縮をしてるので、オーディオ的には良いものではないんですよね。でも、ある種コンパクトに聴きたい音がダイレクトに自分に伝わってくる環境なのかもって思っていて。ものは捉えようですよね。

――はいはい。

TK だからハイレゾ音源として192kHzや96kHzの音源をちゃんと聴こうとすると、自分が今まで聴いていた天井よりもっと上のところに音がくるんですよね。さっきハイグレードな高音質空間でノラ・ジョーンズを、目の前に吸音材と1本100万近いスピーカーしかない状態(笑)で聴かせていただきましたけど、体験したことの無い音で驚かされました。今アナログなレコード文化も盛り上がってきていると思うんですけど、MP3で手軽にたくさん持ち歩くというのもいいですし、LPやハイレゾで違った音の世界を体験するのもありだし、選択肢が広がったってことが音楽文化において素晴らしいなと思いました。

――いろんな楽しみ方が出来ますよね。

TK 僕としては自分がミックスした音源を、絶対録音したままの48kHzで聴いて欲しいとか、96kHzで聴いて欲しいというエゴはないんです。聴いている人が選択できるという環境が良いと思うんですね。余韻や音の定位がはっきりわかりやすいハイレゾを体験することで、音ってこうやって出来ていたんだというところに意識が向くことは面白いですよね。もともとこういう音を圧縮して聴いていたんだという発見にもなりますし。これまでのリスナー環境って、そんな視点に意識が向いてなかったと思うんですよ。そこは音楽業界全体の成長としてとして大きいことですよね。

――ハイレゾウォークマンNW-ZX2をアンプPHA-3とMDR-Z7のヘッドホンで聴かれてましたがいかがでした?

TK MP3やCD音質とはぜんぜん音の聴こえ方が違いますね。さっき僕はマイケル・ジャクソンを聴いてましたけど、たとえば天井が低いほうがコンプ感が強いのでロックとかそういう音源の場合は、曲によっては44.1kHzなど、ハイレゾじゃない音でも良いかもしれないなって。でも、ハイレゾで更に高解像度のまま伝えられることによって、自分としてはミックスのやり方も変えていかないといけないなって気がつかされました。どうしても耳に一番最初に届いてくる音っていうのは、個人的に一番上のきれいな透明感だったりするんですよ。曲の印象や音の印象がすごく透明な感じで聴こえるんですね。なので、いままで歪み感として聴かせたかったものが、透明感が加わってくるので同じ状況で聴くと、お客さんがハイレゾで聴くことを想定してミックスしたくなるな〜と。マニアックな話ですけどね(笑)。

――学生時代に聴かれていたという尾崎豊はいかがでした?

TK 歌の余韻や演奏の息遣いが当時聞いていた音とは別物に感じますね。NW-ZX2というウォークマンのフラッグシップモデルで試聴させて頂いたんですが、そもそも普段自分が聞いているプレイヤーとの音の差が違い過ぎちゃって(笑)。なんでもかんでも高音質というとちょっとオーディオ的な意味合いを強く感じますが、マスター音源に近いということはより本人の声だったり意図していたものに近いということですよね。もう生で聞く事の出来ない歌声であれば尚更ハイレゾというのは限りなくそれに近いものを感じられる1つの選択だと思いました。

 

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(今回、試聴に使用していただいたハイレゾ対応ヘッドフォン)

 

――あと、宇多田ヒカルさんもお好きなんですね?

TK 僕は、凛として時雨をやりながらも最初はあまりロックを聴いていなかったんですよ。最初、ロックを聴き始めたのもLUNA SEAやラルク アン シエルとかをテレビで見たのがきっかけだったりして、いわゆる洋楽は聴いてきませんでした。元々は普通に小室さんの音楽とかJ-POPが好きで今に至りますね。その流れで、宇多田ヒカルさんは今聴いてもですが、当時全てが新しかったですし好きで良く聴いていましたね。それこそ無意識にミックスやマスタリングの音選びもかっこいいなと思って聴いていました。

――このmora readingsというコーナーの第一回目って、宇多田ヒカルの音を作って来たチームが登場しているんですよ。(リンク:宇多田ヒカル・スタッフ、ハイレゾの魅力を大いに語る!

TK あ、そうなんですね。それは気になりますね。

――あと安藤裕子さんもお好きなんですか?

TK はい。ちなみに、この前弾き語りでご一緒させていただきました。マスターにDSDを使った一発録りのライブ音源『Acoustic Tempo Magic』を出されているじゃないですか? どういった感じで聴こえるかがすごい気になって。さっき聴いたらやっぱりライブでしか感じられない様な空気感や緊張感が、ここまでリアルなまま伝わってくるんだなと耳ですごい感じました。余韻がすごい耳に入ってきますね。あといままで聴いていたCD音源と比べると圧倒的に景色として色が見える感じがありました。天井が高くなってさらにそこに色がつく感じ。僕はイヤモニになる前はライブの時にモニターから爆音出し続けてやってきていたので、結構上のほうの耳は死んでるんですよ(苦笑)。それでもハイレゾ・ウォークマンで聴くと、すごい情報量だなって思いました。普通にちゃんとした耳を持っている人が聴くとよりすごいんじゃないかなと(笑)。

――ははは(苦笑)。そして、上原ひろみさんも聴かれたり。

TK 大好きで聴いていますね。家では歌がない曲を聴くことが多いかもしれません。キース・ジャレットとかもそうなんですけど、テクニカルな部分もありつつ、メロディアスな部分も全部聴こえてくるんですよ。次の瞬間何が起きるかわからないような人たちなので、すごいドキュメンタリー性が強いんですね。その中でぐっとメロディーが心を掴む瞬間っていうのがいろんなところにちりばめられていて。毎回聴いていると、その発見があるのがすごいうれしくて。僕が作っている曲だったり一般的な曲って構成を覚えられるじゃないですか? でもそういうのじゃなくて毎回新しい曲を聴いているような感覚でハっとさせられる感覚なんです。

 

――普段は、音楽を聴く時はどんな環境なんですか?

TK 僕はポータブルだとアップル社の電話を……(笑)。なので全然違う音世界ですよね。だからヘッドホンアンプとかも興味を持ってなかったんです。意外とミックスダウンが終わっちゃうと、聴くときはイヤホンも下も上も出ないもので聴いてましたから。なので、今日はハイレゾはもちろんウォークマンの音の良さにもびっくりしました。

――そして、ヘッドホンもフラッグシップモデルのMDR-Z7と、人気商品のMDR-1Aで聴き比べられてましたね。

TK そうですね。余韻や定位の聴こえ方の違いはもちろん、ヘッドホンで音が届くスピード感が同じ曲でもこんなに変わるってことに驚きました。本当に多様化してきているんだなと思いました。となると、どこに焦点をあてて自分が音を作ればいいのかっていう部分に意識はいきますよね。でも、結局いろんな事を考え始めるときりがなくなってくるので、だったら自分の環境を信じるのが良いかなと思っています。

――より高音質なDSDレコーディングにも興味はありますか?

TK 噂は聴きますね。あれもCDよりも何倍もの情報量というハイレゾという括りになるんですか?

――そうですね。海外のヨーロッパのクラシック方面ですごい盛り上がって、今moraでもDSD配信もスタートしていますね。元はSACDの規格です。

TK DSDの再現性がすごいって話をよく聞きますね。DSDで録ってそれをPCMに変換してやるとどうなるんだろうなっていうのにはすごい興味があって。逆にPCMで録ってDSDにする人もいますよね。どっちが面白いのかなって。最後だけDSDにするほうが楽ではあるんですけど。

――そういう方も多いですね。DSDの雰囲気ってやっぱり出るんですよ。その効果が欲しくてそうやってる方もいますね。ハイレゾで聴きたい音源としてキース・ジャレットをあげていたのは、それこそ音の響きとか余韻とかがわかりやすそうですね。

TK キース・ジャレットは普段よく聴いているので、LPでもMP3でもCDでも全部で体験していますね。なので違いがわかりやすかったです。ライブ音源でいえば、44.1kHzと96kHzの違いのほうが、96kHzと192kHzの違いよりわかりやすいのは何でなんですか?

――ひとつ聞いた話では、アナログテープって40kHzまでらしいんですよ、それを96kHzでカバーできるので。それ以上の192kHzとかになってくると、今度はまたぜんぜん別の話になってきて。50kHzをEQでぐっとあげると、体感上聴いた感じがだいぶ変わるとそういう効果がだんだん出てくる領域に入ってきて、いわゆる別の領域らしいんですね。CDでも50kHzでフィルターかけると音が変わっちゃったりしますし。

TK なるほど。ちなみにハイレゾって何だ?ってわからない人もまだまだ多いと思うんですけど、そもそもハイレゾって分かりやすく言うとどんなものなんでしょうか?

――数値的な定義はありますけど、作り手次第なところも大きいですね。基本的には、スタジオでアーティストさんなり、プロデューサーさん、エンジニアさんがOKした音をそのまま届けられるということですよね。

TK CDが標準で、更に手軽な選択肢としてMP3もあったけど、もっとマスターに近いものが普及できるようになったということですよね。

――料理が冷めないうちに届けられるっていうことですね(笑)。作り手や聴き手がフォーマットを選べるようになったというのが一番ですね。

TK カップラーメンのほうが美味しい場合もありますもんね(笑)。

――CDが生まれたのが約30年前ですから、30年ぶりに新しいフォーマットが普及しつつあるこの1年という感じですね。

TK ここからさらに先のテクノロジーの進化ってどうなるんですかね?

――ハイレゾが普及して、音の良さに気がつくようになると機材や、ミキシング、マスタリングなどレコーディングのやりかたまで変わってくるかもしれませんね。それによって面白い表現が出てきたら楽しいですね。

TK 今ってハイレゾの配信をしているアーティストの方は増えているんですか?

――増えていますね。この1年半くらいで、特に年末からの4ヶ月がすごかったと思います。moraさんが公表しているデータでは、mora売り上げの3割強はハイレゾ音源になったそうですね。

TK 80年代とか、マスターでテープしかないものって多く存在しているじゃないですか? マスターテープから44.1kHzのCDになっていたものがほとんどの中で、それを192kHzや96kHzにするというのは、マスターをまた再生してそれを192kHzや96kHzで録るということですか?

――そうですね。今の状況にあうようなマスタリングをかけて最後24bit/96kHzのパッケージにするっていう流れが多いですね。

TK ビクターのK2HDみたいなハイレゾではない音の音質をアップグレードするような技術はソニーには無いんですか?

――ソニーの場合は機械に入っています。DSEE HXって名前で好きにオンオフができますね。

TK じゃあCD音質な44.1kHzのものがあって、DSEE HXをぽんと押すとハイレゾに近い音になるっていうのは凄い技術ですよね。

――お持ちの音源をハイレゾ相当まで高解像度化して、ハイレゾっぽくするということですね。CDにする時に失われたであろう部分を補完するプロセッシングが機械の中に入ってますね。

TK 簡単にいうと44.1kHzに入っている基音の倍音を計算して出すってことですか?

――おおざっぱにいうとそういうことですね。CDより、MP3とかAACなど圧縮率の高いものにかけると効果が大きいですね。TKさんは、ハイレゾ音源をいままで購入されたことはありますか?

TK あります。この前クラムボンの新作も聴いたんですが、空気感や余韻が全然違うのでとても楽しめましたね。僕もまだそんなにハイレゾ音源を持っていないので、新譜を聴ける楽しみとハイレゾを体験出来るという2つの楽しみがあります(笑)。

――それを聴くハイレゾ環境はどんなプレイヤーだったんですか?

TK ウォークマンは持ってないんですが、家で聴くときはパイオニアのデジタル・アンプとELACのスピーカーですね。もともとはONKYOのコンポで聴いていて、それを軸に最近いろいろアンプとスピーカーを探し始めて、アナログ・アンプも良かったんですけど、もともと使っていたONKYOのアンプがデジタルで、デジタルのほうが立ち上がりの早さだったり、聴いている間に音の変化がない印象があるんです。わりとシャキっとした速めの音が好きなのでデジタル・アンプを使ったシステムでミックス作業だったり音楽を聴いています。

 

――そして、5月にTKさんの作品もハイレゾでのリリースが決定したと。

TK あっ、そういえば(笑)。

――アニメ『東京喰種トーキョーグール』の「unravel」のアコースティック・ヴァージョンですね?

TK 去年リリースした「unravel」のアコースティック・ヴァージョンを最終回の挿入歌として作って欲しいというお話を頂いたんです。たまたま録るときにトラック数も少なかったので88.2kHzの32bitで録っておいたんですね。元々はリリースの予定も無かったんですが、冗談っぽくハイレゾでも配信できるねって身内で話してたんです。そうしたら、反響が大きかったみたいで、僕も興味を持っている良いタイミングだったのもあって初めてハイレゾで配信しようということになりました。バンド(凛として時雨)ではまだハイレゾ化をやってないんですが、CDを最終形として考えるかどうかで音の作り方が全然変わって来ますよね。

――別物な感覚として受け止めているのですね。

TK 今回はソロで弾き語りというのもあって、歌の響きだったり、隙間を活かしたアレンジになってます。なのでハイレゾで聴いても面白いのかなと思って。リバーブ感だったり、声の倍音や息遣いとかも綺麗にでてますね。初めてハイレゾで聴いてもらいたい音ができた感じなんです。

――今後またハイレゾを想定したレコーディングであったりリリースっていうのは?

TK そうですね。いつもは48kHzですが、やっぱり96kHzや88.2kHzで自分で録るとなると機材面の問題があるんです。トラック数が半分になっちゃったりとか。録りながらミックスでプラグインもどんどん挿していくのでどうしてもPCのスペックの問題にも直面してしまいます。そうなってくるとプロツールスで誰か外部のエンジニアの方にお願いしてという感じになるので、そういう難しさはあるんですけど、バンドとしてやってみたいアプローチではありますね。ハイレゾって名前は聴いたことあるけど、たとえば時雨がやりはじめたから試しに聴いてみようかなとか、そういった形で自分たちが誰かにとって新しい扉を開けられるミュージシャンになれればいいなって思いはあります。僕も好きなアーティストのリリースがきっかけで聴いたのもあって、そこは先導してやっていきたいですね。

――それこそフェス好きな若いリスナーの子たちは、まだまだハイレゾ文化に縁遠い方が多そうですね。ライブ的なリアルな視聴体験がハイレゾで出来ることを考えると、TKさんの行動によってリスナーの触れられる機会が増えると面白いですよね。

TK 時雨だと、僕も声の成分ってすごい上の周波数が多いので、ハイレゾになると情報量の多さが逆に心配ではあるんですが(苦笑)。なのでいままで耳障りだったものが、更にエッジーに(笑)。そこも含めて、音の新たな選択肢として楽しんでもらえれたら嬉しいですね。

 


 

TK from 凛として時雨、自身初のハイレゾ音源!

『unravel (acoustic version)』
(TVアニメ『東京喰種トーキョーグール√A』挿入歌

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凛として時雨 moraアーティストページ

TK from 凛として時雨 moraアーティストページ

 

 

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 近年、急激に期待が高まっている高音質ハイレゾ・シーンにおいて、J-Pop、J-Rock界で開拓者的アクションを行うクラムボンのミトさんと、人気アニメ『ラブライブ!』でハイレゾ市場を広げたレコード会社ランティス系列の制作会社アイウィル所属の音楽プロデューサー、佐藤純之介さんによるハイレゾ雑談を実現。お互いが気になるハイレゾ作品をカードのように出し合い、魅力についてフェチ的に語り合うという対決方式でお届けします。音楽への愛に溢れ、マニアックながらも、ついつい聞き耳を立てたくなるトークを、完成したばかりの代々木ハイレゾBAR『Spincoaster Music Bar』からお届けしましょう!

インタビュー&テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 


 

【プロフィール】

ミト(クラムボン):クラムボン(Clammbon)は、原田郁子、ミト、伊藤大助の3人による日本のバンド。1995年結成。ミトはバンドリーダー。1975年生まれ。ベース、ギター、鍵盤、その他を担当。
https://twitter.com/micromicrophone
http://www.clammbon.com
最新作『triology』好評配信中! ご購入は⇒こちら

佐藤純之介(音楽プロデューサー):レコード会社ランティス系列の制作会社アイウィルの音楽制作部。1975年生まれ。自称カリスマ機材系男子にして音楽司書、テクノポップ考古学者にして三宿のトーマスドルビー。 https://twitter.com/junnoske_suite
http://www.iwill-music.co.jp

ふくりゅう(音楽コンシェルジュ):1976年生まれ。音楽ライター、エディター、音楽プランナー,WEBプランナー、選曲家など多岐にわたり活躍。近著は「ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本」。
https://twitter.com/fukuryu_76
http://bylines.news.yahoo.co.jp/fukuryu/

 


 

■ミト(クラムボン)×佐藤純之介、二人の出会いのきっかけ

――それでは、お二人の出会いのきっかけから。

ミト 佐藤さんが手がけられていたプロダクト(楽曲)を、ほとんど自分で買っていたんです。その中の1曲を「Amazonで2009年に自分が買ったトップワンをあげてくれ!」という趣旨の企画で、麻生夏子ちゃんの「Programming for non-fiction」を選びまして。方や、いろんなアーティストが洋楽だ邦楽だとあげている中で、ひとりだけアニソンをあげて大問題になって(笑)。そうしたら、Twitterで「あの曲のプロデュースをやっている僕です!」って声をかけられたんですね。すぐに会うことになりました。

佐藤 三茶に飲みに行って、最初の10分でTM NETWORKの話題で盛り上がって(笑)。

ミト 10何時間くらいずっとTMの話をしてましたよ(笑)。

――その後、雑誌『サウンド&レコーディング・マガジン』のTM表紙号で、対談もされてましたよね。

佐藤 サンレコでTKの次にページ数多かったですから(笑)。機材というか、音色の話で会話ができるという。

ミト あの対談をそのまま載っけたら、本になる内容だよね。

――なるほどです。ミトさんはなぜハイレゾにハマることになったのですか?

ミト 以前、僕と音楽業者の二人でハイエンド・オーディオシステムに作り替えたバーがありまして、クラシックを爆音でかけるイベントをやっていたんです。基本的にはCDをかけてたんですけど、中休み的な感じで24bit/48kHzで作っていた僕らのマスターをかけたんです。そうしたら、お客さんがみんなびっくりしたワケですよ。「すごい音が良いぞ!」という話になって。音の良さがこれだけわかりやすくお客さんに届くんだというのがあって、じゃあこれハイレゾで出せたら面白いなと思ったら、たまたまそこにいたお客さんのひとりが高橋健太郎(音楽評論家)さんだったんですよ。偶然も偶然で。彼が「実はototoyでハイレゾをやろうと思っているんだけど」という流れで、「じゃあプロトタイプとして僕らのヤツを出しますか?」ってなって。でも普通にハイレゾで出すだけだと面白くないから、「無料配信しましょうよ!」って出したのが2009年の「NOW!!!」なんです。なので、わたしのマイワークの基礎中の基礎というのは「NOW!!!」の24bit/48kHzというのが最初ですね。

――その後、e-onkyoやototoy、moraが配信でマーケットを広げて、ソニーのハイレゾ・ウォークマンNW-ZX1が決定打となって、市場が広がったというワケですね。

 

■ミトに聴く、最新クラムボン・ハイレゾ・ワークス

――moraで購入出来るクラムボンのアイテムとしたら、「yet(24bit/96kHz)」と「サラウンド-出戻Re-mix-(24bit/96kHz)」ですね。他にも高音質でアナログやBlu-rayオーディオでも盤を出されていますが、今回moraでのハイレゾ化はシングル的な感覚なのでしょうか?

ミト そうですね。「サラウンド-出戻Re-mix-(24bit/96kHz)」は、菅野さんのリミックスというか、菅野さんのアレンジした「サラウンド」を、僕がリミックスしたっていうややこしいやヤツが入ってます(笑)。

佐藤 もう弦が素晴らしくて。CDでもMP3でも、良いものは良いというのは大前提なんですけど、やっぱりこだわった環境で聴いたときの感動の倍増感はすごかったですね。

ミト ワイドレンジは確実に違いますね。ストリングスのステレオ感というか、サラウンド感ですね。

佐藤 クラムボン自体も前回のアルバムと比べてレコーディングのメソッドというか、アウトプットをどうするか。作り方も変わったように感じましたね。

ミト そうかもしれない。フォーマット自体も32bit floating/96khzなんですけど、よりハイスペックな状態に対応できるように考えています。実際Pro Toolsも内部処理は64bit対応になったわけじゃないですか? どこまで読解して吐き出せるかっていうこだわりですね。わたしたちはエンジニア同士でもあるから、32bit floatingの状態で聴く時には、それをダウンコンバートした時に、どれくらいレンジアウトするのかな?ということを気にしていますよね。

佐藤 いわゆるマスタリングの段階で、どう自分たちが聴いてきた音楽が変化するか?というのはすごいシビアに見てます。

ミト あと24bit/96khzでマスターを作るというのが通例化したというのも大きいかも。それによってちょっとした問題も起きてるんですけどね。

――ほぅ、それは?

ミト それを語ると業界にご迷惑が……(苦笑)。例えばハイレゾで「yet」を出したり、純之介さんが出している作品って、たぶん世で言う一般的な「ハイレゾで出そう!」という感覚とはまったく違うんですよ。

――あぁ、そこは大事なポイントなのですね。ちなみにハイレゾ化でいう、ミトさんならではのこだわりとは?

ミト 今回シングルのハイレゾ化することによるこだわりでいえば、ストリングスのレベルですね。ハイレゾならば壮大に広く聴かせられるんです。そしてこれはアルバムで3人バージョンを収録するということを前提の上で作っています。しかもシングルですし、菅野さんが絡むんだったら、もはや菅野さん主役でいいんじゃないかって思ってました。「もっとストリングスをあげてください!」って言うとエンジニアさんがすごく困った顔するんですよね。「こんなに上げたらバランス崩れちゃうような気がするんですけどね」って。でもハイレゾ化で聴かせられるのはその臨場感だから。それを体感できるという意味合いでミックスしているんです。

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佐藤純之介さん(左)とミトさん(右)。

 

■ミト 1作品目: 花澤香菜「Make a Difference」

――では、本題に入ります。ミトさんワークスでオススメなハイレゾ楽曲は?

ミト 花澤香菜さんの「Make a Difference」ですね。ワイドレンジ幅は、シンセを使っているということもあるんですけど、圧巻です。そして、これはフェチ寄りな話になりますが、花澤さんの声がより輪郭として二次元を超えていく感がすごくありました。リアルで間近な声……ハイレゾの良さはそれですよね、結果的には。

佐藤 「Make a Difference」という曲では、実はシンセでお手伝いをしているんです。ハイレゾだハイレゾだって言っているのに、使っているサンプラーとかシンセが12bit/22khzとかなんです(笑)。なのでローレゾ感をハイレゾで再現したことも面白かったですね。

ミト アート・オブ・ノイズを、今に再現したみたいな状態ですよね。

佐藤 ハイレゾのアート・オブ・ノイズは存在していないですからね(笑)。

ミト それをうちらが代弁したみたいな感じだよね(笑)。

佐藤 しかもそれが声優さんの作品というところが面白いと思います。

――お二方で話すと、常にそういう特別な会話になるの?(苦笑)。

ミト ごめんなさい、これの何が特別なのかさえもわからない(苦笑)。

佐藤 どこがマニアックなのかすら判断できないですよね(笑)。

 

■「リアルサウンド」でバズったミトのインタビュー記事

――そういえば、先日は音楽情報サイト「Real Sound」での、音楽評論家の小野島大さんによるインタビュー記事『クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」』が、大きくバズりましたよね。

ミト バンド的にはたいしたことを喋っているつもりはないんですよ。今の今まで活動してきて、こういったバンド内変革や、接触はずっとお話ししてますし。フォーカスされたポイントの問題かなと。でも、みんなが興味を持ってくれたので全然それでいいかなと思っています。

――ちょうど昨日、ミトさんが「Real Sound」の記事で絶賛されていたじん(自然の敵P)さんと会ってたんですよ。彼は実はクラムボン・ファンでもあって。人気曲はもちろん、アルバム『2010』が好きだと語っていました。2011年に『カゲロウプロジェクト』が始まる前に、聴いていたみたいです。

ミト 俺は『2010』を出した後に、じんさんの作品を聴いて、もうげんなりしちゃったんですよ。うちらのリリックがどこまで当時の時代とかけ離れているか。だから逆に言えば、こちらこそインスパイアされているっていう。

――あのインタビューで名前があがったことを、すごい謙遜されてましたよ。

ミト 本当ですか? 今度ぜひお逢いしたいですね。彼の作品はとっても好きなんです。

 

佐藤純之介 1作品目: TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND『TRINITY SEVEN : MAGUS MUSIC ARCHIVE』

――それでは佐藤さんワークスでオススメなハイレゾ楽曲は?

佐藤 2013年の10月に「ラブライブ!」のアニメシリーズのハイレゾ盤を出したんですけど、その時って、いわゆるスタジオで作った24bit/48khzのマスターをそのまま配信したんですよ。ミトさんが冒頭に話していたBARで24bit/48khzマスターを流したら良かったってのと同じ実験的な試みですね。すごく評価された部分もある一方で「24bit/48khzってフォーマットは果たしてハイレゾなのか?」みたいな論争もあって。

――いまでこそソニーが、24bit/48khz以上であればハイレゾと規定しましたもんね。

佐藤 当時は過渡期でした。それで、オーディオ・マニアが求める音圧感とか、広がり感をいろいろ研究した上で、マイワークスとして挙げたいのが『トリニティセブン』というアニメのサウンドトラックで『MAGUS MUSIC ARCHIVE』という作品をmoraさんでアルバム2枚組(1枚目2枚目)でリリースしているんですけど、実はこれミックスダウンまで自分でやっているんです。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDが音楽を作って、声優さんの声をサンプリングして、それをまた楽曲に昇華するという形をとったんです。

――それはまたこだわりな制作スタイルですね。

佐藤 今でいうハイレゾ・ウォークマンなNW-ZX1やNW-ZX2や、人気のAK240とか、あの辺を含めたポータブル機器でも十分なレンジ感、音楽的な太さだったりグルーブ感を感じられることを前提にミックスしました。ビンテージシンセサイザーを使いながら、Pro Toolsの中で32bit floating/96khzですべて作って、ミックスをやって、最終的にCDと実はマスタリングをハイレゾ版では別々の人に頼んでマスタリングした作品なんですね。そんな意味では、今流通しているハイレゾ機器に完全にカスタマイズしたというか、オーディオにこだわる人たちにも喜んで貰える作り方を意識しました。僕の自信作です。アニメ音楽プロデューサーでミックスまで自分でやる人って現状ほぼいないんですね。最初に立てた自分のコンセプトとか意思を、徹頭徹尾突き通せたかなという作品なので、ぜひ聴いてほしいです。

 

■こだわりのポータブル機器とは?

――佐藤さんは、ポータブル機器や、ハイエンドなインナー・イヤー・ヘッドホンへのこだわりや、所有数がすごい多いじゃないですか? きっかけは?

佐藤 ハイレゾ配信をはじめたタイミングではイヤホンは1台しか持ってなかったですし、その当時はポータブル・プレイヤーもiPodを使ってました。もともと「ハイレゾ配信をしませんか?」という話を持ってきてくれたのは、オーディオ・ライターの野村ケンジさんという方で。その方に協力していただきハイレゾ分野でどんな曲が人気あるんだとか、マニアが納得する機器はどれだとか、どんな音源が求められているのか?いうのを完全にリサーチしたんですよ。なので気がついたらプレイヤーもイヤホンもいっぱい増えていました。こういうのって自分で試さないとわからないんですよね。

――凄い数をお持ちですよね。しかも、ケースに入れて持ち歩ける体制をされていて。歩くハイレゾ・エヴァンジェリストですよね。

佐藤 オーディオ雑誌の方とか、ユーザーの方とか、それこそ家に2000万円くらいのオーディオを組んでいるマニアの家にいって実際に曲を聴いてもらって、この音源の何がダメなんだとか、どこが良いんだとか、それこそPro Toolsを持ち込んで、こういうバランスだったらいいのかとか、評論家の人、ライターの人、ショップのオーナーの方とかに話を伺いまくったんです。その中で自分的に納得のいく手段をまとめて、それをノウハウに、ミックスやマスタリングなど、自身の制作の哲学にしている感じです。

――ミトさんはポータブルではどんな機器を使われているんですか?

ミト ソニーのNW-ZX1です。イヤホンはFitEar。それは普通に業者として買い入れてますね。もともと、日本のステージ用のインナー・イヤー・モニターとして一番のシェアがあるし、僕らもユーザーなんですよ。

――たしかに、インナー・イヤー・モニターの世界ではライブをされるアーティストが一番身近な世界ですよね。

佐藤 FitEarさんが面白いのが、社長がアニソン大好きで、アニソンにあわせてチューニングしているモデルもあるんです。

ミト 月一や月二のペースで、須山社長とオーディオ・チームが集まる会があるんですよ。そこで集まって何をやっているかってのは企業秘密なんですけど、須山社長のアニソン愛はハイレゾ界隈でも如何無く発揮されているんですよ。

――ハイレゾ・シーンで面白いと思うのが、日本のインフラな音楽周りってiTunesやAmazonなど海外勢に持ってかれているなか、ポップミュージックにおけるハイレゾって、日本中心で盛り上がっている気がするんですけど。

ミト 厳密にいうと、ヨーロッパのクラシック方面がすごいんですけどね。

佐藤 DSDが多いですね、あっちはね。

ミト 2008年とか10年代入る前に、24bit/96kHzでクラシックは普通に発売していたんですよ。ようするにあまたのオーディオ・ユーザーたちが好んで買い入れていたんですね。それがカジュアルにシフトしたきっかけは、クラブ系だったりテクノ・レーベルなんです。まさに配信サイトBeatportがそうですよね、Beatportが完全にハイレゾにシフトして。だけどおっしゃる通り、カジュアル・ジャンル、ポピュラー・ミュージックというマーケット市場での流通の多さは、確実に日本が優位だと思いますね。

――なるほどです。あ、トークが横道にそれすぎて、もう時間があまりないですね(汗)。それではミトさんオススメな80s90sハイレゾ楽曲を教えてください。

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■ミト 2作品目: 薬師丸ひろ子「Woman "Wの悲劇"より」

ミト 1984年にリリースされた薬師丸ひろ子さんの「Woman "Wの悲劇"より」がめちゃくちゃ良かったんですよ。当時アナログで聴いていた曲なんですけど、CDパッケージになった瞬間に音像が奥まったんです。元がアナログテープというかアナログマスターだったろうから、ダイナミックレンジをとろうとすると音像が後ろになってしまう。こと16bit/44.1kHzだとそれがすごい顕著なんです。なのであの時代の作品って、CDで聴くのをけっこう敬遠していた時期があったんですよ。あとはエレドラのタムの大きさですけど、当時めっちゃでかかったんですよ。だからコンプで抑えられ歌がどんどん遠くなったり、オケが遠くなっていたんですね。それと同じように、ストリングスを使ったバラードで最大にサビでダイナミクスを持って行くような曲でも、いつもオケが遠い印象だったんです。今回、それが解消されていたんですね。この曲はミニマルというか、ピアノからフォルテに向かう音圧がスムーズだし、すごく音像も生き生きしてるんですよね、ハリがあるし。それは媒体の容量が多いからということなんですよ。あともうひとつ、これは蛇足な話ですけど、C-C-Bの「Romanticが止まらない」がこの前ハイレゾで出たんですけど、C-C-Bのシモンズのタムあるじゃないですか?あのタムがでかすぎていつも後ろに鳴っていた他の音が全部前に来るようになったんです。だからシンセの音がめっちゃ良い音で聴こえていて。

佐藤 もとのマスターもアナログテープでしょうしね。

ミト で、やっぱりレコードで聴こうとしても薬師丸さんのとかは、もう古いのでクラックルがのっちゃってるというか、けっこう使ってるから針乗っけるとノイズが、S/Nがあまり良くなかったんですよね。なので、よりまた後ろに行ってしまうという問題が解消されたんですよ。

――面白い。じゃあ佐藤さんは、80s90sでオススメなハイレゾ作品は?

 

佐藤純之介 2作品目: TM NETWORK『TWINKLE NIGHT』

佐藤 ここはやっぱり1985年にリリースされた、TM NETWORKのミニアルバム『TWINKLE NIGHT』ですね。アナログ・マスター・テープからハイレゾ用にリマスタリングされているんです。アナログの素のテープの音からのマスタリングというところで、やっぱり当時のCDのマスタリングって、もちろん大好きな音ではあるんですけど、技術的に今よりもいろいろとDAコンバーターの性能とか解像度が高性能ではなかった時代のマスタリングなワケですよ。で、今この現代の最新のデジタル技術で復元したTM NETWORKのアナログ音源というのが『TWINKLE NIGHT』ですね、DAコンバーターをデジタルにする時に、不要なものが削られず、立体感が残りつつ音圧もありつつ、ちゃんと小室さんのコーラスのひとつひとつまで聴こえるんですね。さっき花澤さん「Make a Difference」の時にお話したローファイの機材をハイファイで録音してたんですけど、まさにそれで、当時の機材のローファイな音がローファイのまま入っているんですよ。それをちゃんと聴き取れるというところで何回聴いても飽きないですね。

ミト 輪郭がはっきり見えるようになったんですよ、ようするに。しかも2曲目の「組曲 VAMPIRE HUNTER D」とか、SEの爆発音がしっかり聴こえるんですよ。これがCDだと余韻が鳴らせなかった。

佐藤 やっぱり広がり感とか音圧感とかが無理ないし、音圧があるのにダイナミック・レンジが損なわれていないっていうところで、やっぱりTMのハイレゾは画期的ですね。特に初期のものは変化が大きいので。

 

■ミト 3作品目: スフィア『Third Planet』

――では、最後はアニソン・テーマで1曲ずつピックアップお願いします。

ミト えーと、どこ入ったらいいんだろう。(佐藤さん)どれ挙げます?

佐藤 僕は『ラブライブ!』かなと思っているんですけど。

ミト じゃあ私は避けましょう。どうしようかな? わたしはアニソン周りだと声優さんの声をリアルに感じ取れるという意味でスフィアをあげようかな。一番3rdアルバム『Third Planet』が、密度がある音源がそろっていますね。あの時のスフィア音源には、彼女たちのみずみずしさと決意のしっかりした部分がすっごい聴こえてくるんです。いち声優ファンとしてもすごいし、その周りで作っている黒須(克彦)くんだったり、みんなが作り上げたトラックの良さが、アニソンという垣根を越えた部分で、しっかりクオリティ高く聴こえているというのは素晴らしいと思います。

――佐藤さんが担当されている作品ですね。

佐藤 がんばって良かった(泣)。

ミト 他で言えば、アニソンってテンポの速さだったり展開や情報量の多さに特徴がありますが、それがハイレゾだと可能な限りマックスで入れられるんですよ。だからテンポの速い曲とかがハイレゾになるとアドバンテージが凄いんですよ。それこそアニメ『境界の彼方』のOPである茅原実里さんの「境界の彼方」みたいなテンポの速い曲とか、アニメ『艦隊これくしょん -艦これ-』でいったらAKINOさんの曲(「海色」)とかね。ああいうギターのメロディックでハイパーな感じとかが過不足無くスコーンって前にくるんです。そういった部分がスフィアの作品にも入っているので、おすすめかな。

佐藤 乃木坂のソニーのマスタリング・スタジオでやっていただいたんですけど、レベルの管理とか方向性を事前に打ち合わせをしっかりやらせて頂いて、すごい良かったですね。

ミト あのみずみずしさは素晴らしいなと思います。

佐藤 スタジオで作った音を、まぁ変えてほしくないと言うと嘘なんですけど、良くしてもらえる分には良いんですけど、悪くしないでほしいという気持ちが作り手の正直な気持ちなんですね。いかに意思の疎通をはかって作業するかということに、時間をかけた思い出があります。

 

佐藤純之介 3作品目: μ's「No brand girls」(※ハイレゾ配信なし)

佐藤 僕はアニメ『ラブライブ!』で、μ'sの「No brand girls」ですね。要はテレビアニメになってからの挿入歌の一曲なんです。もともと、テレビアニメでの音源は24bit/48kHzで納品しているんですよ。でも、ポータブルのハイレゾ再生機で聴いているうちに、自分は24bit/48kHzに物足りなくなってきたんですよ。もっといけるだろうと思って。実はPro Toolsのマルチの段階からアップコンバートして、そのアップコンバートした中でトラックダウンを全部やり直したんですね。もちろん、やれ20kHz以上がないだあるだって話にはなるんですけど。やっぱり音の広がり感とかダイナミックレンジをすごい拡張した中でミックスができるんです。やっぱり初期に配信した時に9人の声がそれぞれが独立して聴こえるみたいなポイントが評価されたので、ハイレゾ24bit/96kHzの世界でより9人の個性を際立たせる、際立たせるけどユニゾンで歌っているみたいな、そんな聴こえ方をゴールにこだわって作りました。苦労した思い出の曲なんですよ。それが、24bit/48kHzでハイレゾに入ってきた、アニメ好きなオーディオファンの方々に納得して頂けたというのが、僕にとってひとつ自信になりましたね。

ミト やっぱりコールとかあるじゃないですか? 合いの手周りのコールの部分って、奥に行きがちなんですよね。でもハイレゾだとレスポンスが速いから、しっかり聴き取れてなおかつ勢いが消えていかないんですね。特に「No brand girls」はコールのやりとりが命というか、あれの心地よさはすごくありましたよね。

佐藤 ボーカルをとにかく重ねている曲で、ひとり16トラックを9人分声を重ねているんですね。

ミト 今のPro Toolsの最高スペックでも同時再生数が足りなくなるっていうね(笑)。150トラック以上歌に使っているワケですから(苦笑)。

 

■成長した耳でもう一回、同じ曲を新しくして聴いてもらいたいなという気持ち

――音楽好き的に言えば、ケイト・ブッシュの傑作アルバム『THE DREAMING』的な病的なこだわりですよね。

佐藤 ハイレゾでやるとさらに倍になっちゃうんですよ。なのでうちのスタジオはハイレゾ配信で96kHzで9人組をやるようになってから、Pro Toolsの拡張カードを倍に増設したんです。トラック数を増やすために。

ミト 事故ですよもう(笑)。

佐藤 3つあるスタジオのPro Toolsを、全部倍のスペックにしたんですよ(笑)。

ミト Pro Toolsのトラックロール画面とかえげつないですからね。まだ終わらないのかよって(笑)。

佐藤 ハードウェア的なところからの取り組みも、ソフトウェア的な取り組みも全部やっていますね。

ミト 傍から聞いていたらバカだなと思われるかもしれないんですけど、ちゃんと成果として素晴らしいサウンドで聴こえてしまうというのがやっぱりいいんです。

佐藤 それこそ、初期に出した24bit/48kHzでのスタジオ・マスターのまま配信した作品を作り直したいんですよ。24bit/48kHzを聴いていて気づいたんですけど、アニソンでハイレゾって急激に広がった分野じゃないですか? 僕がこの2年間でリスナー的な耳が成長した自覚があるので、ユーザーの方も相当成長したと思うんですよ。その成長した耳でもう一回、同じ曲を新しくして聴いてもらいたいなという気持ちがあって。

ミト ミックス・バッファが64bitにあがるので、そうすると音への解説というか説明がしっかりつきやすいんですよね。余韻だったりなんだったりを。こうしたかったところを結局伝えられなくて、そこにさらに圧縮が加わってしまった部分ってけっこうあるので。

――BUCK-TICK『惡の華』のハイレゾ化は、さかのぼってやりなおしたみたいですね。

ミト 結果が歴然だからすごくいいんですよ。絶対に間違ってないはずです。

佐藤 ミックスのやり直しは時代によっても変わるのと、やっぱりサンプリング周波数をどの周波数でやるかでやり方がぜんぜん違うんですよね。

ミト ワークフローが64bitになって、実はふつうに昔のPro Tools6くらいで混ぜていた音源を立ち上げるだけでもサイズ・バランスがぜんぜん違うんですよね。それをコンディショニングするだけでもぜんぜん違うんです。プラグインの立ち上がりだってぜんぜん違いますし。

 

■耳が良くなったユーザーに「お叱りを受けたい!」みたいな、そんな感じです(笑)

佐藤 リスナーから支持の高い曲に関してはよりアップグレードという形で。CDと前のハイレゾと今のハイレゾを聴き比べるとかというところで耳を鍛えてもらえればと。ユーザーも関係者も含め、この業界の底上げがしたいですよね。底上げをして耳が良くなったユーザーに「お叱りを受けたい!」みたいな、そんな感じです(笑)。言われたら、「待っとけよお前ら!」みたいな(苦笑)。

ミト どんだけドMなんですか(笑)。

佐藤 ハハハ(笑)。そういう流れで192kHzやDSD11.2Mhzで作ってリリースした作品とかもあるので(笑)。

――簡単に一言でハイレゾ化と言ってもいろんな考え方、出し方があるということですね。過去の名盤とかでハイレゾ化されていない作品ってけっこうあると思うんですけど、いかがですか?

ミト 松任谷由実さん、ユーミンは確実に出してもらいたいですね。全時代欲しいですが、個人的に89年とか90年代は、松任谷正隆さんがシンクラヴィア(※シンセサイザーの一種)を使っていたので、かなり極上だと思いますよ。

佐藤 シンクラヴィアは100khzで収録できますからね。

ミト 絶対良いですよね。ユーミンはいろんなところを網羅してるんですよ、アニソンだってそうだし、ポップミュージックとしてもそうだし、洋楽的な発想でもリバイブできる作品もあるのと、あとアイドルとも噛んでますからね。実は相対的な意味で、歴史的価値があると思います。

佐藤 あとはめちゃくちゃベタなんですけどやっぱりビートルズですね。24bit/44.1kHzのUSBは存在してますけど、いわゆる今のクオリティのハイレゾ音質が無いんですよ。どうもいろんなことを調べると、アーカイブは24bit/192kHzでマスターテープをコピーしているという情報があったりするんですけど、世の中には出てないので……。

ミト マスターのコピーがまた果てしなくあるバンドだったりしますからね。

佐藤 やっぱりそういう作品をDSDとかでも聴きたいなと思いますね。

――DSD配信についてのお話も2人に伺いたいですね。

 

■自分がエンジニアをやりはじめてから、何か伝えきれていないという葛藤

ミト DSD配信の話になると、また別の話になりますからね(笑)。それもう1時間以上組まないと少なくとも終わらないですよ。しかも入り口を話すのに1時間ですから(笑)。実はクラムボンで、2003年に『imagination』をDSDで出したかったんですよ。恐らくアーティストで一番最初にソニーへ直談判したのは僕らなんです。でも、ソニー・レーベルで出さないといけないという制約があって、コロムビア所属である俺らは涙を呑み、その後坂本龍一さんが出されたんです。

――ミトさんの中で、音へのこだわりへのモチベーションって何なのですか?

ミト やっぱり当時スタジオを自分で立ち上げたというのが一番でかいですね。そして、自分がエンジニアをやりはじめてから、何か伝えきれていないという葛藤がはじまったんだと思います。

――そしてようやくハイレゾを聴けるプレイヤーが安価に全国の家電量販店で普通に売られる時代となりました。この状況は面白いですよね。また続編インタビューを、良きタイミングでお願いします。

ミト佐藤 そうしましょう(笑)。

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【4/22リリース! お二人の関わった最新作】

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M7「Trace」の作編曲にミトさんが参加
花澤香菜『Blue Avenue』

通常音源ハイレゾ

 

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ユーザーとのコラボから生まれた楽曲!
μ's『ミはμ'sicのミ』

通常音源

 

 

 

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