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■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File10. 2つの子守唄「ブラームスの子守唄」(作曲:ブラームス) /「La La Lu」(作曲:ペギー・リー&ソニー・バーク)

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回は 子守唄の名曲、ブラームスが生んだ「子守唄」とペギー・リー、ソニー・バークが生んだ「La La Lu」をご紹介します。

『ブラームスの子守唄』について: この曲は1868年、ブラームスが35才でウィーンで作曲家として高い評価を得始めた頃、友人に子どもが生まれたことから、それを記念して作曲されました。 ブラームスはバッハやベートーベンの音楽を深く敬愛していましたし、彼自身の音楽への高い評価から、ドイツ音楽の「三大B」と呼ばれるなどバッハやベートーベンと並び称されますが、バッハはブラームスより約150年も前、ベートーベンも約60年前に生まれているわけですから、音楽的な背景は2人とは違います。
活動した頃は1800年代の後半ですから、いわゆるロマン派の真っただ中ですね。にもかかわらず、ブラームスの代表作である「交響曲第1番」が「ベートーベンの交響曲第10番」だと言われるように、そして「交響曲第4番」の最後の方で突然バッハのカンタータ第150番の主題をモチーフにした部分が現れるように、古典主義的な要素が強いところが、ブラームスの音楽の特徴といえます。ブラームスはそのため「新古典派」と称されることもあります。
ブラームスの音楽的な特徴としては、彼が崇拝するベートーベンや同じ世代のチャイコフスキーなどと比べると、天才的なメロディーを生むことより複数のメロディーをオーケストレーションする才能が際立っています。交響曲以外にも、ハンガリー舞曲など民族音楽の編曲や変奏曲などで多くの作品を残しているのがその証だとも言えます。
そんな中、私は「弦楽六重奏曲第1番」の第2楽章が大好きです。確かにこの曲もメロディーは比較的オーソドックスなラインで、むしろメロディーを支える和声の美しさが際立っているという傾向はありますが、いずれにしても間違いなく素晴らしい名曲であることは間違いありません。

『La La Lu』について:  この曲はディズニー映画「わんわん物語」の主人公、犬の「レディ」を飼っている女性「ダーリング」が自分の赤ちゃんに歌ってあげる子守唄です。実際に歌を歌っている歌手で作曲も手がけるペギー・リーが、ソニー・バークと共作して生みました。「わんわん物語」の中で、愛情豊かに飼われる「レディ」と飼い主の「ダーリング」、そして生まれたばかりの赤ちゃんへの愛情が美しく描かれるシーンを象徴する子守唄です。

それでは早速、2つの名曲子守唄の魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)

2つの子守唄に共通しているのは、『シンプルで優しいメロディーのくり返し』 です。

『ブラームスの子守唄』では(0:07)、「ミミソー」というシンプルで優しいメロディーでスタートしますが、この「ミミソー」が2回くり返されるところがポイントです。
一方『La La Lu』を見てみますと、これも同じように(00:57)「ミファソー」というシンプルで優しいメロディーが2回くり返されます。
また、どちらもそのくり返しの後に、そのメロディーが少し変化して次のメロディーへ移ります。

『ブラームスの子守唄』では、「ミソ」が再びくり返されたあと、高い「ド」へ一気に上がり、「シーーーララソーー」と降りていきます。
『La La Lu』では「ミファソー」が再びくり返されたあと「ソーラ ソーミー」が受けて、そのまま「ソーソーソーレードーシー」という母性の感じられるメロディーが夢を見るような和音に支えられて展開します。

さて、次の展開も、2つの名曲子守唄が共通する部分です。これもやはり大きな『くり返し』です。

『ブラームスの子守唄』では「ミミソー」が2回くり返されましたが、ちょうどそれと対になるように、「レミファー」が2回くり返されます。(00:17
『La La Lu』では「ミファソー」が2回くり返されましたが、ちょうどそれと対になるように、「ファソラー」が2回くり返されます。(01:18

こういった共通点は『子守唄』という性質から生まれたものでしょう。 子守唄はお母さんが赤ちゃんに語りかけるように歌うものです。

ゆったりとした優しいメロディーで赤ちゃんに語りかける。 くり返すことで、眠りにいざなう。 それをさらに少し変化させながら、再びくり返すことで、さらに安心して眠れる空気を作っていく……。

おそらくそういった『子守唄』という性質が、2つの名曲を支えているのでしょう。

さて、他にも2つの名曲子守唄に共通する特徴があります。

まずどちらも3/4拍子、いわゆる3拍子です。

これは私の解釈ですが、この子守唄での3拍子というのは、2拍子に1拍子が余白として足された結果なのではないかと思います。抱っこをして赤ちゃんをあやす動作を考えてみると、優しく「よし、よし……」と揺さぶったあと、一拍余白が入るのです。どうも、この動作から自然と3拍子の子守唄が生まれているのではないか、と私は考えています。 

いずれにしましても、ゆったりとした3拍子のもつ柔らかいリズムが、2つの子守唄に共通しています。

次に和声に注目してみましょう。

実はどちらも「和声が緩やかに移り変わっても、低音がしばらく同じままで続く……」というところが共通しているのです。

先に『La La Lu』を見てみましょう。
テーマである「ミファソー」がくり返される間、(移動ドでの)「ド」「シ」「ラ」「シ」の音が移り変わる和音(このような和声進行をクリシェと呼びます)が展開されますが、低音はずっと同じです。
次のくり返し「ファソラー」でも同じように、(移動ドでの)「レ」「ド♯」「ド」「シ」の音が移り変わる和音が展開されますが、低音はずっと同じです。

次に『ブラームスの子守唄』を見てみましょう。
実はこの曲に至っては、3つの和音が移り変わっていくのに対して、何と、曲中ずっと同じ低音が続いていくのです。

このように、同じ低音が続く理由は、赤ちゃんを安心させて包み込む、母性の持つ力強い安心感というイメージから生まれているのでは、と私は感じます。

また、メロディーの音域はどちらも約1オクターブです。お母さんが優しく語りかける歌ですから、音域がさほど広くないのは当然かも知れません。

そしてどちらの曲も、曲の長さが比較的短く、かつシンプルで優しいメロディーのくり返しが特徴であるため、短くてもちゃんと心を揺さぶる美しいメロディーが、展開部分にちゃんと存在しているのです。

『ブラームスの子守唄』では、低い「ドド」から、高い「ド」へと一気に昇って「ラファソーー」というメロディーが受けとめるところが、心を動かしてくれます。(00:27

『La La Lu』では、後半「ソーファーミーレーミード」と落ち着かせるメロディーが登場した直後、上の「ラ」へ一気に上がって心を動かし、さらにテーマの「ミファソー」と対になるような、けれどずっと高い音域の「ラシドーー」が3回繰り返されて心の高まりを表し、さらに「ソーミーシーラー」と夢のようなメロディーが心を包みこむところです。(01:49

いかがでしょうか。赤ちゃんへの愛情が見事に曲として表現された、子守唄の名曲。
一見、ただシンプルで優しいうた、と思われがちな子守唄にも、名曲ならではの高い音楽性がちゃんと隠されているのですね。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

FB(Fan Page) : https://www.facebook.com/tsudanaoshi
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新年、どうぞよろしくお願いいたします。そちらも2016年になりましたか?

ジャズの楽しさ、面白さ、わかりやすさを、ひとりでも多くの方に知っていただきたい。こんなに素敵でヤバイ音楽を聴かずに死ぬのはもったいないではないか……そう思いながら雑煮を味わい、初もうでの賽銭箱に百円玉を投げたら釣銭も出ず膝もすりむかずという正月でございました。

 

が、スタート第2回目にして、テーマは緊急変更です。編集部のAさんからのお題はなんと、デヴィッド・ボウイの『★』

たぶんCDショップではロックのコーナーに置かれていることでしょう。が、現代ジャズの中堅ミュージシャンがほぼ全編にわたってすさまじいプレイを披露しています。ジェイソン・リンドナー(キーボード)、ドニー・マッキャズリン(テナー・サックス)、ベン・モンダ―(ギター)、ティム・ルフェーヴル(ベース)、マーク・ジュリアナ(ドラムス)、マリア・シュナイダー(編曲)などなど、「よくこのメンバーに目をつけたものだ」と、ぼくはその慧眼に唸るばかりです。

 

★ (Blackstar) /David Bowie

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では誰が慧眼を持っていたのか? ボウイ自身がニューヨークのジャズ・スポットをこまめに巡ってジャズメンたちに声をかけたのか? 違うと思います。ここ数年の彼は、もうすでに体調を崩していたのでしょうか、人前には皆無といっていいほど出ていません。カギを握っているのは、ボウイとは1960年代からのつきあいであるプロデューサーのトニー・ヴィスコンティでしょう。2013年、約10年ぶりにリリースされたニュー・アルバム『ザ・ネクスト・デイ』でも彼は辣腕をふるっていました。大変に充実したアルバムでしたが、トニーは“新しさ”という点にいささかの不満も持っていたようで、「新しいものを作るという意識で作ったのに、なにかしら過去の要素が入っていた」と述べています。そして「『★』は斬新で、まるで別の宇宙からやってきたようだ」と発言を続けています。

ぼくは2014年にシングル発売されたボウイとマリア・シュナイダー・オーケストラの共演「スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)」(本作の4曲目に収録)を聴き、「ジャズメンがロック歌手の伴奏をしている」のではなく、ボウイとインプロヴァイザーたちが混然一体となって“サムシング・ニュー”を作り出しているところに唸りました。そしてこの世界観をアルバム1枚に広げたら、空前絶後の傑作になるのではないかと夢想しました。そして今、手元に『★』があります。期せずしてボウイ最後のメッセージになってしまったこともあり、世界中で空前の売れ行きを示しているそうです。ということは、何千何万のひとの耳に、あのサックス・ブロウや、あの叩きまくりが届いているわけです。そのうちの1割が、ドニ―の『Fast Future』、マークの『Family First』など各メンバーのソロ・アルバムを買ってくれたら、それだけでもジャズ界全体のセールスは大いに上向きになるのです。

ぼくはロックも大好きですし、学生の頃は無謀にも「ロック・バンドで武道館に立って女にモテまくる人生」を夢見ていました。「スペース・オディティ」をカヴァーしたり、その関連で(というわけもないですが)BOØWYの曲もやりました。ボウイのアルバムでは『ロジャー』に鳥肌が立つのですが、「じゃあ君はロック側にいるのか、ジャズ側にいるのか」と問われた場合、過去の自分の仕事量における割合を顧みるに、「ジャズのひと」なのです。だからこのアルバムをきっかけに、ジャズそのものに対する注目がさらに高まってくれ、と心から願います。

参加者にだって、「この反響をジャズにフィードバックさせたい」という気持ちはあるはずです。別にこのアルバムをきっかけに、100%ロックに転身するミュージシャンがいるとも思えません。たとえばジェイソン・リンドナーは駆け出しの頃、ジャズ・ピアノの生きる伝説であるバリー・ハリス(今年87歳)に奏法を師事しました。小さな、30人も入れば息の詰まるようなジャズ・クラブで、4ビートのモダン・ジャズを熱く演奏しているところを、ぼくはかぶりつきで味わいました。が、そのままなら、グリニッチ・ヴィレッジの穴倉のようなライヴ会場を訪れたマニアックなリスナーの間で“すごい”といわれて終了です。エレクトリック楽器によるダンス・ミュージックにも精力的に取り組み、様々な分野のミュージシャンと交流し、いくつものプロジェクトで才能を発揮したことが、ジェイソンとボウイ側の距離を近づけたのでしょう。今や彼は、“David Bowie Keyboardist Jason Lindner”として世界的なカルチャー誌「ローリング・ストーン」のウェブサイトにロング・インタビューが掲載されるほどの存在になりました。数十人の前でしんねりむっつり、かたくなに旧式のジャズをやっているだけのミュージシャンに果たして、そんな機会が訪れるでしょうか?

ロック・ミュージシャンとジャズ・ミュージシャンのコラボレーションは過去、いくらでもありました。ロッド・スチュアートの一連の『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』のように、“ロックの人”が“ジャズ関連の古典”を歌う企画もずいぶん増えたような気がします。80年代半ばには、ポリスの無期限活動停止に入ったスティングが、ブランフォード・マルサリス、ケニー・カークランド(ともにウィントン・マルサリス・クインテット)、ダリル・ジョーンズ(マイルス・デイヴィス・バンド。90年代前半からはローリング・ストーンズ)、オマー・ハキム(ウェザー・リポート)とバンドを組み、目の覚めるようなサウンドを届けてくれたのも忘れがたいところです。ボウイもデヴィッド・サンボーンのサックスを採用したり(梅津和時はRCサクセションに関するインタビューで、「忌野清志郎と自分のコラボレーションは、ボウイとサンボーンのそれを参考にした」というようなことを語っています)、『アラジン・セイン』から『リアリティ』まで断続的ではありますがマイク・ガーソン(名門ジャズ・レーベル“コンテンポラリー”にアルバムあり)のピアノをフィーチャーしていました。が、それらは「ボウイのサウンドの中で、ジャズ系ミュージシャンが、それに当てはまるよう音を出している」という感じでした。でも、繰り返しますが、『★』はガチです。レコーディングがどういう手順で進んだのか(ジャズメンたちとボウイが一度でも顔を合わせたのかすら)不明ですが、個人的にはジャム・セッションの空気、やるかやられるかの殺気を強く感じました。

情報を入手して「これはすげえアルバムになりそうだ」と直感したぼくは無理を言ってこの作品を解禁前に聴かせてもらい、発売されてからも1日1回のペースで楽しんでいますが、とにもかくにも、デヴィッド・ボウイ氏は最後の最後に、ジャズに対してすごく嬉しい貢献をしてくれました。この恩をどう返していくか。「生きているジャズ」を追う者すべての課題だと思います。そして、今を呼吸するジャズメンの新作が、次々とハイレゾ化され、より多くのリスナーに届くことを願ってやみません。

 


 

■執筆者プロフィール

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原田和典(はらだ・かずのり)

ジャズ誌編集長を経て、現在は音楽、映画、演芸など様々なエンタテインメントに関する話題やインタビューを新聞、雑誌、CDライナーノーツ、ウェブ他に執筆。ライナーノーツへの寄稿は1000点を超える。著書は『世界最高のジャズ』『清志郎を聴こうぜ!』『猫ジャケ』他多数、共著に『アイドル楽曲ディスクガイド』『昭和歌謡ポップスアルバムガイド 1959-1979』等。ミュージック・ペンクラブ(旧・音楽執筆者協議会)実行委員。ブログ(http://kazzharada.exblog.jp/)に近況を掲載。Twitterアカウントは @KazzHarada

 

 

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■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File09. 「見上げてごらん夜の星を」(作曲:いずみたく)

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回は いずみたくさんが生んだ名曲 「見上げてごらん夜の星を」をご紹介します。

この曲はもともと、同名の夜間高校生の青春を描いたミュージカルのために創られた作品で、初演は1960年。台本・演出の永六輔さんもまだ20代、いずみたくさんはこの作品がミュージカル処女作ということですから、戦後日本、最初期のエンターテインメント、ミュージカルの先駆けですね。
そんなミュージカルの劇中主題歌であるこの曲が、いずれ日本の名曲のスタンダードになるわけです。ミュージカルに懸けたお二人の意気込みとエネルギーに感動します。

素晴らしいミュージカルだからでしょう、日本のミュージカルのスタンダードとなり、何度か再演もされています。
その最初の再演が1963年、坂本九さんの熱い希望から実現した坂本九主演による公演で、この時オリジナルの「見上げてごらん夜の星を」がシングルレコード化され、高い評価を得て第5回日本レコード大賞の作曲賞を受賞します。

既に「上を向いて歩こう」が大ヒットしていた坂本九さんですが、この1963年は「上を向いて歩こう」がアメリカのビルボードで3週連続ヒットとなった記念すべき年でもあります。
その笑顔のそのものの、優しさ溢れる歌で多くの人の心を明るくした坂本九さんは、歌の他にも俳優や司会など幅広く活動する当時の大スターでありながら、福祉活動、慈善活動を積極的に行うなど、人格者としても尊敬される存在でした。
しかし残念ながら1985年の日本航空123便墜落事故に遭遇し、43才という若さでこの世を去りました。
残されたこの「見上げてごらん夜の星を」や「上を向いて歩こう」、「明日があるさ」など数々の作品はスタンダードとなって未だに歌い継がれています。

「見上げてごらん夜の星を」は、発表10年後のフォーリーブスによるカバーから平井堅や槇原敬之によるカバーなど、非常に多くのアーティストやシンガーによるカバー作品が発表されています。作曲をしたいずみたくさんも生涯で1万5000作もの作品を残した素晴らしい作曲家で、「太陽がくれた季節」や「世界は二人のために」、「ふれあい」などは、僕の大好きな作品です。

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
 (※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)

まず最初は「ソーミーミミーミファソー…」と美しく上がるメロディーを、泣きたくなるような、甘く切ない和声が支えます。
聴いている人がなぜそういう気持になるのか?その理由は2つ目の和音にあります。

本来マイナーつまり「ラ・ド・ミ・ソ」であるべき和音が、メジャーつまり「ド♯」の音を含む「ラ・ド♯・ミ・ソ」という和音になっているからです。和音を構成する「ド・ミ・ソ」の次が「ド♯・ミ・ソ」になっているわけです。このコンビネーションが絶妙なんですね。
しかも、よく見るとここまでの4小節で常に「ド♯」が重要な役割を果たしています。

そして「ファ」よりひとつ高い「ラ」の高まりを持って「ラソファーファ」とメロディーが降りてきて 今度は「レーレ♯ーミー」と半音が印象的なメロディーで上がっていきます。
続いて下の「ラソ」から始まる安定感のある「ラソレーミファファーソミーー」というメロディーを、和声が暖かく包みます。
ところがそのあと突然、切ない感じの和声が響き(0:35)その和音に支えられながら「ドドシ」というメロディーが低い「ラ」へ降り、一気に高い「ラ」へと昇ります。ここはこの曲のクライマックスだといえるでしょう。
そして、このクライマックス、メロディーでいうと「(低い)ラー(高い)ラー ミファソーソファーー」 を支える和音は、テーマのメロディー、歌詞も「見上げてごらん」の「ん」にあたる部分と同じ和音です。

そう、最初のところで
~ 本来マイナーつまり「ラ・ド・ミ・ソ」であるべき和音が、メジャーつまり「ド♯」の音を含む「ラ・ド♯・ミ・ソ」という和音になっている ~
と説明したあの和音です。
どうやらこの曲で表現したかったいずみたくさんの心の震えは、この和声と深く連動したようです。

この曲では、長調なのに甘く切なかったり泣きそうだったり……といった、心に響く豊かな感情を 表現してくれる半音の持つ繊細さが、見事に活かされています。
そんな豊かな表情に満ちあふれているのはこの曲が、ミュージカルの主題歌として生まれたことと無縁ではないでしょう。

以上、8小節で表現される世界が「見上げてごらん夜の星を」の基本的な世界です。
短い中に無駄が一切なく、感動が凝縮された素晴らしい世界です。

さて、歌で1回、続いてインストルメンタルでこの世界が表現された後、展開部分が登場します。   
キーが4度上に転調し、さらにこれまで長調だった世界が短調の世界へ変わります。  
寂しそうなメロディーが悲しい表情の和声に包まれて繰り返されます。 鮮やかな世界の変化もまた、この曲がミュージカルのために生まれたからでしょう。

やがて3回目の繰返しでは、後半がごく自然に希望ある感じへと変化していき、元のキーへ戻ります。
再び基本のテーマが2回表現されて、「見上げてごらん夜の星を」は幕を閉じます。

その理由は『一時的な転調感』にあります。
(厳密に言えば、耳が転調していると感じる状態。楽譜上に転調の表記はない)
D(Bm)のキーが5度上のA(F♯m)のキーに変わっているのです。メロディーが切なく美しく高まるのに合わせて、和音も一時的な転調感すら駆使して切なさを伝えてくれます。

甘く切なく、そして希望に向かう優しさと清らかさがひとつの歌に凝縮された名曲「見上げてごらん夜の星を」は、その世界をミュージカルの主演を通して表現した坂本九さんの笑顔や想い出と共に、これからもずっと多くの人の心を暖めてくれるでしょう。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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Vol.23 Theme : 「そろそろ肉食の時代に揺り返すんじゃね?
 

 

 遅ればせながらあけおめ。遂に4度目の年男を迎えてしまう2016年の一発目は、レミー・キルミスターの訃報を受けてMotörhead(モーターヘッド)をご紹介。そもそもロックを語るのにこんなにふさわしい男はなかなかいないって事に、亡くなってから気付くとは……どんな物でも失ってあらためて気付かされる事ばかり……日々を大事にしなければ。

 そんなシンミリが似つかわしくない輩レミーは、ジャック・ダニエルのコーラ割りを愛飲するアル中にして、天龍や長州力もびっくりのハスキーボイスでスピーディな轟音を奏でる、英国を代表するロックンロールBAND、モーターヘッドのベースVo.にして創始者。歯に絹着せぬ物言いや破天荒な生き様なのに、どこか飄々としたユーモアも忘れない、まさにロックンロールの生きる伝説(だった)。

  そんな彼はもともと、1970年代半ばにサイケデリックでプログレなBAND、HAWKWIND(ホークウインド)のBa.としてシーンに降臨(正確には60年代にROCKIN’ VICKERSというモッズBAND、SAM GOPALというジミヘン的サイケBANDの一員としてデビュー済み)。イギリス版グレイトフル・デッドと称され、サイケでスペイシーなサウンドでなかなかの人気を博したホークウインドだが、北米ツアー中にレミーがコカイン所持の容疑で逮捕され、ツアーをキャンセル。その責任を取らされつつ「そもそも素行が悪い」との理由でレミーは解雇……さすがロックンローラー(笑)。

 ホークウインドが代わりのベーシストとして、同郷ロンドンのサイケBANDピンク・フェアリーズのメンバーを迎え入れると、レミーはここぞとばかりにピンク・フェアリーズの他のメンバーと新BAND、Motörheadを結成。そもそも「モーターヘッド」というBAND名も、レミーがホークウインドとして書いた最後の曲のタイトルから取っており、復讐する気満々。さすがだわレミー(笑)

 そこから2015年まで40年間、紆余曲折ありながらも一貫してラウドで性急で、ハードにドライヴィンするロックンロールを、モーターヘッドとして奏で続けたレミー・キルミスター。ハードロックでもパンクでも、ましてやメタルでもない、でもその全てを内包したかのようなサウンドは充分に革新的だったし、後輩BANDをツアサポに付けてフックアップしたり、大好きなラモーンズに捧げる曲を作ったり、音楽愛に溢れた義理人情っぷりも含めて、全世界のロックンロール・ラヴァーを虜に。代表曲「Ace of Spades」は言わずもがな、ストーンズのカヴァーとかしちゃう意外なセンスも含め、未聴の人は必聴。そして追悼。ありがとうレミー!

 

最大のヒット作にして名盤!
『Ace of Spades』
Motörhead

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【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。

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数々の話題作を世に送り出してきたフライングドッグ。今回はその中でも80年代後半~90年代前半に焦点を当てて、3作品をピックアップ。それらのプロデューサー、ディレクターを務めた、現フライングドッグ代表取締役、佐々木史朗氏に制作秘話を語っていただいた。 取りあげるのはOVA『マクロスプラス』(’94~’95)、劇場作品『MEMORIES』(’95)、OVA『トップをねらえ!』(’88~’89)。当時の現場の雰囲気や、クリエーターたちの息吹を感じてほしい。

取材・構成/鈴木隆詩(ライター)

 


 

 

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制作時のエピソードを語る佐々木さん。

 

 

●菅野よう子が未来の音楽を作った『マクロスプラス』

──『マクロスプラス』のサウンドトラックは、アニメーションでは、菅野よう子さんが初めて一人で手がけられた作品ですね。

佐々木 そうですね。アニメのサウンドトラックでは、まず、溝口肇さんと一緒にやった『ぼくの地球を守って』(’93~’94)があって、その次が『マクロスプラス』です。

──佐々木さんは、菅野さんとどのようにして出会ったのですか?

佐々木 溝口さんのライブに伺って、ピアノを弾いていた菅野さんに「はじめまして」と。その時点で菅野さんはたくさんのCM音楽を手がけられていて、CM音楽界ではすでに有名人でした。才能に溢れた方だったので、『マクロスプラス』の音楽をお願いしようと思って、総監督の河森(正治)さんに菅野さんのCM音楽を聴いていただいたんです。でも、CMには基本的にバトル系の音楽はないじゃないですか。音楽性はすばらしいけど、バトル曲に関しては心配もあるというのが、河森さんの最初の反応で。僕は、他の候補を出すつもりは全くなかったので、ほとんどゴリ押ししたんですね(笑)。

──菅野さんと河森さんは、その後、一緒にいろいろな作品を手がけることになって。

佐々木 もう20年以上の付き合いですよね。『マクロスプラス』はナベシン(渡辺信一郎)が監督で、そこから『カウボーイビバップ』にも繋がっていくわけで。

──菅野さんにとっての『マクロスプラス』は、どのような作品だったのでしょうか?

佐々木 未来の音楽を作るというのが面白かったらしいです。2040年という設定で、バーチャルアイドルが流行っていて。今となっては、バーチャルアイドルはいろいろなアニメ作品に登場しますし、現実でも初音ミクが出てきたりしていますが、当時はかなり先駆的なアイディアでした。ライブでは3DCGを投影した映像が使われるという設定とか、時代をかなり先取りしていたと思います。菅野さんは、いろいろなタイプのシャロンの曲を楽しんで作っていましたね。

──シャロンの曲は4曲入りシングル「The Cream P・U・F」でまとめて聴くことができます。

佐々木 シャロンの曲には観客の洗脳というテーマが明確にあって、それを意識して作られています。山根麻衣と新居昭乃という、全くタイプの違う女性シンガーが、ひとりのキャラとして歌うという形式も珍しいですね。また、シャロンの曲では「Information High」という曲のみ、元電気グルーヴのCMJKさんが作・編曲を担当しており、歌はメロディー・セクストンという女性シンガーが担当しています。

──新居昭乃さんは劇中歌「VOICES」も歌われています。

佐々木 「VOICES」はヒロインのミュン・ファン・ローンが歌手を諦める前に歌っていた曲ということで、物語の重要なモチーフになっていました。昭乃ちゃんは当時うちのアニメの主題歌を何曲も歌ってもらっていたし、菅野さんとも知り合いだった事もあって歌ってもらう事になりました。

──サウンドトラックの演奏はイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団です。

佐々木 イスラエルフィルは、世界的な指揮者ズービン・メータとの関わりも深い有名なオーケストラです。僕らとしては、エモーショナルでいいオーケストラなので使ってみたいという菅野さんの要望もあって、テルアビブまで出かけることにしたんですね。実はレコーディングの少し前に現地で爆弾テロが起きて。今だったら中止になっていたと思うんですけど、当時は緩やかだったというか、結局、現地に向かいました。空港のチェックが非常に厳しかったのを覚えています。

──菅野さんは、オケのメンバーに非常に好かれたそうですね。

佐々木 鳴りのいいスコアを書くので評判が高いですし、本人のキャラクターもあいまって、基本的にどのオケにも好かれていましたね。英語はペラペラというわけじゃないんですけど、雰囲気だったりジェスチャーだったり、言葉以外のものを使って伝えるのがうまいというか、コミュニケーション力はとても高い方です。感覚的かつ本能的で、「どひゃ~」とか「わ~っ」とか擬音語を使って説明するのも、昔も今も変わってないです。

──レコーディングはいかがでしたか?

佐々木 ハードディスクレコーディングがない時代ですし、レコーディングしたホールはマルチテープが使える環境でもなくて、2チャンネルの一発録りでした。もともとオーケストラは、そういう録り方をしていたんですけど。それと、先ほども言った通り、イスラエルフィルは情熱的なオケなので、演奏している時の鼻息が荒いんですよ。ハイレゾでは、オケの鼻息も聴いていただきたいなと(笑)。

──当時ならではの音色もあり、オケの鼻息もありと(笑)。

佐々木 『マクロスプラス』の音楽は、時間もお金もたっぷりかかりましたけど、画期的なものになりました。菅野さんのおかげで『マクロスプラス』が今までにない新しいフィルムになったとも言えるし、手前味噌ですが、この作品によって、アニメの音楽は変わったと思っています。庵野(秀明)さんが原画をやっていて、試写を観に来た時に音楽を誉めていただいたり、業界内からの反響はすごかったですね。

 

MACROSS PLUS ORIGINAL SOUNDTRACK(ハイレゾ)

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●3人の作曲家がこだわり抜いて音楽を作った『MEMORIES』

──『MEMORIES』のサウンドトラックは?

佐々木 『AKIRA』(’88)をやらせていただいた繋がりで、大友(克洋)さんの新しい映画の音楽の制作を、という話がありまして。オムニバスなので、音楽も作品ごとに違う作曲家で、というのがオーダーでした。

──それぞれの作品の作曲家は、どのようにして決まったのでしょうか?

佐々木 『大砲の街』(大友克洋監督)は、こちらに話が来る前から決まっていました。菅野さんに『彼女の想いで』(森本晃司監督)をお願いして、『STINK BOMB/最臭兵器』(岡村天斎監督)は三宅純さんという、CM界の巨匠にやっていただくことになりました。映画版の『彼女の想いで』はオペラの『蝶々夫人』を土台にした作品で、劇中にオペラシーンも出てくるので、それも新たに録って。『最臭兵器』はコメディで、ハードなアクションも出てくるという幅の広い作品だったので、ユルさと激しさの両面を三宅さんにいろいろなジャンルの音楽で表現していただこうと思ったんです。

──さらにプロローグとエンディングを石野卓球さんが担当しました。

佐々木 卓球さんが大友さんの大ファンだということで、快諾していただけました。別のレコード会社からリリースされている方なので、最初はスタッフ同士の話し合いで別名義での参加ということになっていたんです。でも、『MEMORIES』がどれくらい面白いのかとか、その全貌がだんだん分かってきて、石野卓球名義でも構わないという話になって。エンディングの「IN YER MEMORIES」は各作品のサントラをサンプリングしたおもしろい楽曲で、これも当時、庵野さんに「いい仕事してる」って言ってもらいましたね(笑)。

──『彼女の想いで』のサントラは、演奏がチェコ・フィルハーモニー管弦楽団ですね。

佐々木 なぜチェコフィルだったかというと、もちろん弦や金管がすごくうまいオケだというのもあるんですが、5.1chに対応する必要があったからなんです。プラハのドヴォルザーク・ホールはマルチテープで録音できる設備があるので、5.1chに落とせる。それで、日本から西野薫さんという歌姫を伴って、菅野さんたちと一緒にプラハに出かけました。これは、僕は同行していないんですが。

──『最臭兵器』の制作はいかがでしたか?

佐々木 これは国内でのレコーディングで、三宅バンドという感じで、錚々たるミュージシャンが集まっておこなわれました。ドラムが村上“ポンタ”秀一さんと宮本大路さん、ハープが朝川朋之さん、ピアノはポンタさんのバンドPONTA BOXの佐山(雅弘)さん、トランペットはエリック・ミヤシロさん、トロンボーンは村田陽一さん、ベースは(渡辺)等さんと(高橋)ゲタ夫さん、ギターは窪田晴男さんと伊丹雅博さんという知る人ぞ知る豪華メンバーです。なんというか、独特な雰囲気の現場でしたね。

──独特というのは?

佐々木 三宅さんご自身の感覚が、まずは独特で。オシャレで先端を行く音楽をやるんですけど、脱力した感じも得意なんですよね。『最臭兵器』のサウンドトラックは、エレクトリックになったあたりのマイルス・デイビス風のテーマがまずはあって、それに加えてマーティン・デニー風の南国音楽で脱力感を出していただいたり。とにかく、いろいろな音楽が聴けるのが『最臭兵器』なんです。

──『大砲の街』に関しては?

佐々木 これに関しては直接制作にタッチしていないんです。おそらく大友さんと音楽を担当された長嶌寛幸さんが話し合いを重ねて、映像に合わせてオールシンセで音楽を付けていったんだと思います。

──『大砲の街』は全編1カットという、特殊な演出による作品でした。場面が切り替わることなく、カメラが移動していって、物語が進んでいくという。

佐々木 そうですね。フィルム・スコアリング(映像に合わせて音楽を作っていく)をしなければいけない作品だったので、大変だったのではないかと思います。『MEMORIES』のサウンドトラックは、各作曲家さんのこだわりと尽力を感じていただきたいですね。これもお金をかなりかけることになってしまって(笑)、いいものができたと思います。

 

KATSUHIRO OTOMO PRESENTS
『MEMORIES』ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK(ハイレゾ)

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●低予算のスタートから、最後はゴージャズになった『トップをねらえ!』

──『トップをねらえ!』は、今回ピックアップした3作品の中では、一番古い作品ですね。

佐々木 庵野さんの初監督作品です。いろいろなところで話してますけど、OVAということもあって、予算のないところからのスタートでして、音楽も基本的にはシンセで作って、そこに生の弦のカルテットを足すという、なんちゃってオーケストラだったんです。だからこそ、メロディをしっかりしないといけないとか、いろいろな課題がありまして、音楽をお願いした(田中)公平さんには、ご迷惑をおかけしました。

──このインタビューで庵野さんのお名前がすでに何度か挙がってますが、音楽へのこだわりは強い方ですよね。

佐々木 各楽曲に対して、こういうのがほしいと明確なビジョンを持って指示を出される方ですね。たとえば「時の河を越えて…」という曲は小松左京の『さよならジュピター』だったり、過去作品へのオマージュが多く含まれているんです。この曲をパクれというわけじゃなく、あくまでイメージ指定で(笑)。そうすると、公平さんはただ指示通りにやるのではなく、いろいろと考えを盛り込んでくるといった感じで。最初は意思の疎通がうまく行かない部分もありましたが、話数が進み、だんだんお互いの仕事のやり方が分かってくると、うまくキャッチボールできるようになっていきました。

──日高のり子さんと佐久間レイさんが歌ったボーカル曲も、既存曲へのオマージュになっていて。

佐々木 あの頃、庵野さんはおニャン子クラブにハマっていたんですよ(笑)。「トップをねらえ!~FLY HIGH~」はうしろ髪ひかれ隊を意識しているし、「元気でね」は「じゃあね」を意識して、でも、決してパロディという事ではなく。

──遊び心ですよね。

佐々木 そもそもタイトルが『トップガン』と『エースをねらえ!』の合わせ技ですからね。でも、内容はパロディ作品かと思いきや、実はちゃんとしたSFで。最初はとりあえず4話まで作る予定だったのが、6話まで作れることになったんです。しかも売れたので、お金をかけてもいいことになって。4話までは16ミリフィルムだったのが、5話と6話は35ミリなんですよね。

──もちろん音楽にも予算が回ってきて。

佐々木 生のオーケストラが使えるようになりました。ですから、サウンドトラックも後半に行くにつれてゴージャスになっています。あ、ここからお金を使えるようになったんだ、と思って聴いていただければと(笑)。

──『トップをねらえ! 音楽集』の配信版は、当時リリースされた2枚のサントラCDを新たに編集したものです。

佐々木 CDにはドラマパートも収録されていたので、音楽だけを抜き出して編集したのが配信版です。ラスト近くに、交響詩「GUNBUSTER」という曲が収録されていますが、これも聴きどころですね。それまでの曲のメロディが次々に出てきてドラマを振り返る、10分越えの長い曲です。

──最後に、今回語っていただいた3作品に共通するものがあるとすれば、なんでしょうか?

佐々木 音楽でフィルムを盛り上げていく快感が強くあった作品ということですね。『トップをねらえ!』は最初はコミュニケーションがうまくいかなかったのが、映像と音楽のキャッチボールができるようになって、シーンに音楽を当ててぴったりハマった時の快感が本当に大きかった作品です。また、こんな作品をやりたいという思いが、『マクロスプラス』や『MEMORIES』に繋がっていって。それぞれの作品の監督も、音楽に対する感覚が面白くて。そういう方々とたくさん仕事ができたのは幸せでしたね。

 

トップをねらえ!音楽集(ハイレゾ)

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【プロフィール】

佐々木史朗(ささきしろう):株式会社フライングドッグ代表取締役。1982年にビクター音楽産業株式会社に入社。営業部門で3年勤務した後、アニメーション制作のセクションへ。以来、アニメ畑を歩み続ける。2007年にJVCエンタテインメント株式会社内にアニメ専門レーベル、フライングドッグが創立。2009年には社名を変更し、株式会社フライングドッグとなる。

 

 


 

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