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■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File12. 夜想曲 第2番(作曲:フレデリック・ショパン)後編

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

前編に引き続き、名曲としての魅力を確認していきましょう。

 

前回は曲の出だし、「ソミー レミ レードー」というメロディーの説明をしました。

続くメロディーは「ソミー (低い)ラ (低い)ラー ミソー ファー」です。【解説ポイント04】 前のメロディーが穏やかだった分、ここで高い「ラ」まで上がったメロディーが、聴いている人の心を強く打ちます。【解説ポイント05】 そしてその切なさを少し引っ張ってから、「ファ」の音に落ち着きます。

さて、和声はどうなっているでしょう。前のメロディの時と違って、ここではメロディーの高まりを和声がしっかりと支えています。 この連載で何度も解説してきた、マイナー主和音を、あえてメジャーにしてしまうことで、心に強い切なさや震えを感じさせる和音が、見事にメロディーを支えているのです。

このメロディのコード進行は、 B B/D♯ D♯dim/E Em です。 今回はDのキーで説明していますから、本来はBmであるべきところが、Bになっています。 そして「ファ」の音に落ち着くまで、その切なさを引っ張っている和音(D♯dim/E)は、最初のメロディで2つ目に独特の雰囲気を醸し出した、あの和音と同じ構造です。【解説ポイント06】(dim=ディミニッシュドと呼ばれる独特の響きを持つ減三和音で、低音が半音でぶつかっている和音構造) これもまた、ショパンの圧倒的なセンスと才能が光るところです。

 

続くメロディー「レー ミー シ ドーラー」も、聴いている人の心を豊かに揺さぶます。【解説ポイント07】 その前の高まりから一度落ち着きながら、「ミーシ」のところではまた悲しみのような切ない感じが心を動かします。とても美しいメロディです。【解説ポイント08】  コード進行を見るとわかるように、また先ほどのBと似た効果をもたらす和音、つまり本来マイナーコードのF♯mであるべきところがメジャーコードのF♯7 になっています。 これは音楽の不思議なところなのですが、多くの人は、ドレミファソラシドという基本の音階の、ソがソ♯になった瞬間、心が切ない感じになるのです。 その効果がここで活かされているわけです。

さらに「ラー」のところも、何とも言えない不思議な雰囲気がしますね。 実はこれもG♯dim、そう、前編で解説した、あの独特の響きを持つ減三和音です。【解説ポイント09】  そして、この「不思議な感じ」に変化したこの表情は、次のメロディーを鮮やかに引き立たせます。 「(低い)ソ (高い)シ ラ ソファミファラシ ドー」というメロディーです。 ここまでの色々な表情の変化を受け止めて16小節のテーマを締めくくるセクションでありながら、低いソが鳴った直後にこれまでで最も高い音程である「シ」まで一気に上がるメロディーが、とても鮮やかに心を揺り動かしてくれます。【解説ポイント10

さらに、ここでもまた特別な和音が力を発揮しています。 「(低い)ソ (高い)シ ラ」を支えるのは、Asus4というコード。これは、和音の3度が4度に上がっているコードで、移動ドで表現すると「ソ・ド・レ」という音で構成されています。普通なら、Aというコードを使う場所です。Aを構成している音は「ソ・シ・レ」です。 ここでメロディーをよく見てみると、 「(高い)シ」が大事なポイントとなっています。「シ」のメロディーに対して、普通の和音「ソ・シ・レ」であれば、全く問題はありません。ところが、ショパンはあえて「ソ・ド・レ」という和音を使っています

これはとても興味深いことです。 なぜなら、「ソ・ド・レ」の「ド」が、メロディーの「シ」と半音違いなので、音がぶつかってしまうのです。 普通、クラシック音楽ではタブーとされる半音のぶつかり……。それを、ショパンは意図的にやっているのです。その結果、最初のメロディーのところで《減三和音とベース音は音がぶつかっていて、本来は無理のある組み合わせになっている》と解説した時と同じように、見事にこの曲独特の雰囲気を醸し出すことに成功しています。

 

テーマに続く、展開のセクションを見てみましょう。 このセクションのポイントは、キーが「D」と「A」のどちらにも聴こえるため、感覚が「Dのキー」と「Aのキー」を行ったり来たりするところです。 バッハを始めとしてクラシックでは、4度上や5度上のキーへの転調が、場面を変えるような効果としてさりげなく、そして巧みに使われますが、ここではそのような効果が実にうまく使われています。 最初の4小節間のメロディーは本来だと「シドレー ミーレ レーラー」なのですが、キーがAに移って「ミファソー ラーソ ソーレー」と歌っているようにも聴こえるのです。【解説ポイント11】 しかし次の4小節間のメロディー「ラシドドド ド シドレード ドーソ」は、G Gmというコード進行も含め、キーは明確にDなのです。【解説ポイント12】ところが次のセクションでは間違いなくキーがAに移ります。 「ドーシーラ ソーミ」というメロディーが、D♯dim B7/D♯ E F♯m というコード進行にのって歌い、【解説ポイント13】  Aのキーのまま、「ファー ミレミ ドー」と落ち着きます。コード進行は、Bm7 E7 A です。【解説ポイント14】 

さて、キーがAに転調してしまったので、テーマのキー、Dに戻らなければなりません。 普通なら、AからA7に移る、などの施しをして、Aがトニックコードではなく、ドミナントコードであることを匂わせるだけでスムースにDのキーに転調できるのですが、ここでショパンはとんでもないコード進行によるピックアップを経てDへの転調に至ります。 なんと、A A♭7 E♭G B/F♯ E7 A7 というコード進行です。【解説ポイント15】 大学生の私は、この部分を分析した時も、ポップスやジャズでもほとんど見ることのない圧倒的な音楽性に驚嘆してしまったのでした。

 

さて、夜想曲 第2番は、終盤にまだ新たな展開があるのですが、誌面の都合もあって、今回の解説はここまでにしておきます。

その名曲性に打たれた大学生当時の私の驚きも含めて、2回にわたってご紹介しました、ショパンの夜想曲 第2番。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンと並ぶ圧倒的な才能を持ちながら、残念ながら夭逝してしまったショパンの名曲を、ぜひ色々聴いてみて下さい。

オーケストラではなく、ピアノだけで伝わる名曲の素晴らしさ……ここにも、名曲の原点があるのです。

 

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File12. 夜想曲 第2番(作曲:フレデリック・ショパン)前編

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回はショパンが1831年頃に生んだ「夜想曲 第2番」をご紹介します。

ショパンは1810年、ワルシャワで生まれました。ピアノ作品が多く、「ピアノの詩人」と呼ばれたりしますが、ピアニスト、作曲家としての才能はかなり非凡で、7才でポロネーズを2曲作曲、8才の時に公開演奏を行い、「第2のモーツァルト」と呼ばれました。
19才の時ウィーンでデビュー、演奏会をした時には既に数多くの作品を持っていたショパンですが、10代で生んだ作品の数々をもとに、その早熟さがバッハやモーツァルト、ベートーヴェンを超える、と言う音楽学者もいます。

この「夜想曲 第2番」も1981年ですから、ショパンが21才の頃に生んだ作品ですね。確かに若いです。

夜想曲、つまりノクターンは一つの楽章からなる、叙情的なピアノ作品のことですが、ショパンは生涯で21曲の夜想曲を残しています。
その中で最も有名なのが、この第2番です。

ところで音楽学者によると、第2番のような初期の作品は、ショパンより30才ほど年上で、夜想曲というスタイルを生んだとされるアイルランドの作曲家ジョン・フィールドの影響が見られる、ということです。確かに晩年の作品、切なさに満ちた夜想曲第19番などはその複雑さと繊細さがショパンの魅力に満ちています。

 

個人的な話になりますが、12月にリリースした私のアルバム『Anming Piano Songs』も、ある意味、夜想曲集と言えます。 左手でコードワークによる伴奏を、そして右手で切ないメロディーを歌うように奏でる、というスタイルで、バッハからいずみたくまで、色々な作曲家の名曲を単一楽章にてアレンジしているわけですから。
おそらくそのためでしょう、今回のアルバムを構想した時、一番最初に選んだ曲は、私がショパンの曲を聴くきっかけとなった「夜想曲 第2番」でした。
クラシック音楽は、現代のロックやポップスにも大きな影響を与えていますが、ポップスのピアノバラード演奏は、夜想曲というスタイルを受け継いでいる、と言えるかも知れません。

 

さて、ショパンは「英雄ポロネーズ」「革命」「バラード 第1番」「雨だれ」「別れの曲」「子犬のワルツ」などを始めとして、多くの人に愛される作品を数多く生んでいますが、残念ながら1849年の10月、長い間彼を苦しませた肺結核のため、39才の若さでこの世を去りました。
しかしクラシックの、特にピアノ作品においてショパンの存在はとても大きく、後世の作曲家、ピアニストに大きな影響を与え続けました。

 

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)
(※ 原曲のキーはE♭ですが、コードについては参考音源のキーに合わせ、Dで説明します)

 

ショパンは演奏について、ピアノが「歌う」ことを大事にした、と言われていますが、そんな彼らしい、とても美しく「歌う」メロディーです。 メロディは「ソミー レミ レードー」。穏やかで優しいメロディです。【解説ポイント01

 

メロディは穏やかですが、「レミ」のところで和音が何とも言えない雰囲気を出しています。【解説ポイント02
その理由は、減三和音、コードではdim(ディミニッシュド)と呼ばれるコードにあります。このコードの響きが持つ、不安な感じ、怪しい感じを巧みに使っているのです。

しかもこの和音が響く時、ベース音(低音・根音)は前の和音、つまりメロディー「ソミー」 を支える和音のまま変わりません。実はこの和音とベース音は音がぶつかっていて、本来は無理のある組み合わせになっているのです。音楽理論として考えると、本来はタブーに近い和音構成なのです。ところが結果的には、この和音構成にすることで減三和音が持つ雰囲気に加え、さらにこの曲独特の雰囲気を醸し出すことに成功しているのです。

 

私がまだ大学生で、やっとプロのミュージシャンになったばかりの頃でした。私は大好きだったこの曲を、クラシックの譜面からジャズやポップスのコード譜に起こし直そうと試みました。  そして音を分析し始め、曲の2つ目のコードを調べて驚きました。C♯dim/D……コード進行については相当詳しい私でも、見たことがないコードだったからです。「Gm6/Dの間違いではないか……?」と思い、確認しましたが、音符はやはりEdim/Dなのです。もちろん、実際に音の響きを耳で聴いても、C♯dim/Dというコードが持つ独特の響きは、Gm6/Dのような他のコードでは再現できません。私はその和音をさりげなく使うショパンのセンスに、深く感動しました。

後ほど紹介しますが、分析を続けると、ポップスでは一般的に使わない高度なコードの使い方や、ジャズでもなかなか見かけない複雑なテンションコードの解釈が、他にもありました。150年以上前のクラシック音楽には、ジャズやポップスがほとんど使わない複雑なコード進行をいとも簡単に活用しながら、しかも誰もが自然と耳に馴染んで好きになる、そんな普遍的な楽曲がたくさんある……。ショパンをきっかけに、改めてクラシック音楽家に対する畏敬の念が私の中に生まれたのです。

それ以来、「革命」や「英雄ポロネーズ」を始め、ショパンの曲を研究しては、その和音の使い方の凄さに感動し、自分の音楽へ活かせないか試行錯誤したものです。一部の音楽学者が、ある側面ではショパンがバッハやモーツァルト、ベートーベンよりも才能がある、と評する気持ちも、私にはよくわかります。

 

さて、音の話に戻りましょう。「レードー」の「ド」の時にも、和音の持つ魔法が仕掛けられています。 メロディーが「ド」なのに、ベース音(低音・根音)は「シ」つまり半音、下に下がり始めているのです。【解説ポイント03

曲の流れで聴くと全く気になりませんが、この「ド」が鳴っている時の音だけを響かせると、音楽としては成立し得ないほどの不協和音となっています。しかし、あえてショパンがその音を選んでいる理由は、私にもわかります……音楽が、理論ではなくあくまで、作者の心の震えを音に託したものだからです。

まず美しいメロディーがあって、そのメロディーを支える和音が感情をさらに豊かにする。その姿勢で創ろうとすれば、このメロディーが「ド」に落ち着いた時、既に次の和音に向けてベース音(低音・根音)が半音下がり始めるのはとても自然なことなのです。作曲という行為が理論を超えている、そしてそのことで、音楽に詳しくない、理論がわからない、一般の人たちに、作曲家のイメージが正しく伝わる……そんな「名曲の理由」の神髄が、このショパンの夜想曲には宿っているのです。

 

(後編に続く)

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

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【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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年始の訃報以来、ますますその偉大な足跡に注目の集まるデヴィッド・ボウイ。

moraでは連載陣に特別寄稿を依頼。その追悼記事をまとめました。

 

元ジャズ雑誌編集長、原田和典さんによる『★』レビュー
http://blog.mora.jp/2016/01/18/harada-jazz-02.html

若手ジャズミュージシャンを多数起用したことでも注目を集める新作にして遺作『★』の聴き所を解説。

 

「今さら聴けないルーツを掘る旅」連載中の日高央さんによる『★』レビュー
http://blog.mora.jp/2016/01/28/hidaka24.html

新作からも存分に感じ取ることができる、そのロックスピリット溢れる“生き様”にフォーカスしたレビュー。

 

デヴィッド・ボウイの初期5年間を振り返る。~ベスト盤『Five Years』とともに~
http://blog.mora.jp/2016/02/03/hidaka25.html

日高央さんによる特別寄稿の第2弾。きらびやかなスターとしての絶頂期に至るまでの、フォーク/ロック期のボウイについても知ることができます。

 

 

デヴィッド・ボウイ 配信一覧はこちらから

 

 

 

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Vol.25 Theme : デヴィッド・ボウイの初期5年間を振り返る

日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」バックナンバーはこちら

 

 そのあまりにもドラマのような完成された人生や才能を惜しむ声が後を絶たず、逆にこれからボウイに出会おうとする人達には狭き門になっていないかが心配な2016年初春。そんなボウイにも青き時代、未完成ながらも模索し、己の芸術道を極めんとしていた時代が当然あったわけで、今回はそのドラマチックな半生の序章とも言うべき初期5年間を振り返ったコンピ『Five Years』を紐解きながら、あらためて彼の魅力に迫ってみよう。

 

『Five Years』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 ビートルズなんかもそうだけど、現代の感覚で考えるとちょっとにわかには信じ難いような……そう、2~3年のスパンで……いや、ヘタすれば1~2年のスパンで目まぐるしく表現のベクトルを変えることが珍しくなかった60年代や70年代。とはいえリスナーの反応は双刃の剣で、やりようによってはそっぽを向かれてもおかしくないわけで……そこら辺は現代よりシビアかも? そんな振り幅を見事にやり遂げた稀有なアーティスト、デヴィッド・ボウイ。プロとしてのキャリア自体は60年代のモッズBANDとしてスタートしつつも、ヒットに恵まれ英国のリスナー達に広く知られるようになったのは<フォーク期>。

 

  ボブ・ディランのイギリス上陸の影響もありつつ、モッズBANDでプロデビューしたがゆえに複数人数でなければ成し得ない音楽表現への反動なのか? 一人でアコギを抱え、自由に表現することのクールさと利便性を(日本での弾き語りブームも大体バンドブームと入れ替えだし)、ボウイがいち早く察知したことは想像に難しくない。しかしおおよそのフォーク・アーティストが、サイケやブルース等、より泥臭い方向へ進化していく中で、ボウイはフォークとSFを合体。ちょうどアポロ11号が人類初の月面着陸をする5日前にリリースされたのが名曲「Space Oddity」で、アポロ号の快挙を伝えるテレビのニュースや特番で繰り返し使用されることでヒット。まさに英国リスナー達にボウイの名前を刻んだ記念碑的楽曲。

 ヒットを受けてアルバム制作に乗り出したため、アルバム『Space Oddity』は全体的にストーリーテリングな叙情的フォーク・アルバム。しかしSF要素よりはファンタジー的な物語が強く、後年のLIVEでも度々披露していた「Wild Eyed Boy from Freecloud」を代表に、ハリー・ポッターさながらの冒険譚が美しく語られる。

 

『Space Oddity』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そしてビックリするのが次のアルバム『The Man Who Sold the World』。レッド・ツェッペリンやブラック・サバスの台頭を受けてか、何とハードロックな一枚に! とは言ってもツェッペリンやサバスもアコースティック曲があるだけに、泥臭いセブンスのドライブ感と叙情的なアコギの音色は、意外と親和性が高い。結果ニルヴァーナのカヴァーでより認知を広げた隠れ名曲「The Man Who Sold the World」を始め、その後<ハードなギターにPOPな歌物>というグラムロックへの土台が見え隠れする。

 

『The Man Who Sold The World』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 その礎感が一番大きいのが次作『Hunky Dory』で、マニアの中では最高傑作と評する人が少なくない、メロディアスな隠れ名盤。冒頭の「Changes」から変化を恐れぬ宣言を高らかに歌い上げ、名曲「Life On Mars?」ではフランク・シナトラの大スタンダード「My Way」のコード進行をそのまま借用しながらも、全く新しいメロディーとSF的な価値観を加えて、見事オリジナルに昇華(ボウイマニアだったシド・ヴィシャスが「My Way」をカヴァーしたのも頷ける)。そんな代表曲達や「Quicksand」「Kooks」(かのThe KooksはここからBAND名を拝借)といった曲達がフォーク感を、ドライヴィンな「Andy Warhol」や「Queen Bitch」がハードロック感を引き継いでいるものの、POP度がグンと増している。そして佳曲「Oh! You Pretty Things」や「Fill Your Heart」ではボードヴィル風なストーリーテリングが綴られており、これが次作の最高傑作への布石となる……。

 

『Hunky Dory』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そう、言わずと知れた大名盤『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』、通称『ジギー・スターダスト』。これまでのボウイの音楽性を全て内包しながらも、他の追随を許さぬほど激POPな仕上がりに。<5年後に破滅を宣告された地球(「Five Years」)を救いに、火星より舞い降りたロックスター(「Starman」「Ziggy Stardust」)>……というコンセプトもあり、映画のサントラのようにストーリーが断片的に語られ、それを彩るメロディやアレンジの素晴らしさにグイグイと引き込まれてしまう……客観的に聴いても大名盤なのは間違いないが、おそらく映画や演劇的な風景描写や(「Moonage Daydream」「Suffragette City」)、その後のLIVEでのシアトリカルな表現で(「Rock 'N' Roll Suicide」)、ジギーの良さがリスナーの中でもどんどん上書きされてしまうのが、このアルバムのスゴイところ。ハイレゾの高音質なら、その豊潤なアレンジをたっぷりと堪能出来る。機会があればお試しあれ。

 

『The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 そしてそのジギーのツアーで訪れたアメリカから大いなるインスパイアを受けた『Aladdin Sane』は、さながら米国版ジギーの様相。SF色は影を潜め、代わりに語られるのは探偵小説のようなハードボイルド(「Watch That Man」)、郊外の狂気(「Drive-In Saturday」「Panic in Detroit」)、ドラッグ漬けのスター(「Aladdin Sane」「Cracked Actor」)etc……それらがハードなギターとジャジーなピアノという、一見ミスマッチな組み合わせながら、絶妙なトリップ感を味合わせてくれる傑作。名曲「Time」や「Lady Grinning Soul」でのメロウなバラッド感も良いアクセントとなり、お子様向けと思われていたグラムロックを芸術の域に押し上げたのは間違いない。

 

『Aladdin Sane』
(FLAC|192.0kHz/24bit)

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 結果ショービズ界のカルトヒーローとして君臨したボウイは、トリックスターな振る舞いに疲れ果て、若き日に慣れ親しんだ名曲カヴァー集『PinUps』を制作して一息つく。お馴染みThe Whoを2曲も取り上げるのはさすがモッズ出身(「I Can't Explain」「Anyway, Anyhow, Anywhere」)。同じく2曲取り上げたヤードバーズ始め(「I Wish You Would」「Shapes Of Things」)、英国ビートBANDの歴史を凝縮したアルバムで原点を確認したボウイは、その後また怒涛の70年代後半へと旅立つことになる……。

 

 ざっと振り返ったボウイの初期5年間……もちろん彼の代表作『ジギー・スターダスト』の冒頭を飾る「Five Years」から命名されたコンピレーションだが、たった5年でこの振り幅の広さよ!

 飽きっぽいということではなく、おそらくメディアに祭り上げられることで短命に終わるショービズの掟を、自らを刷新することで打ち破ろうと模索したのだろう。そんな若き日々の記録が克明に刻まれ、アルバムのみならず、その生涯を通じて<変化を恐れない>ことを発信し続けたデヴィッド・ボウイ。支持されるということは、表現者としては同じ物を求められてしまうという宿命も理解した上で、周到に、時に大胆に、その期待を見事に裏切り続けてきた。もちろん90年代頃には時代の変化に上手く対応しきれない時期もあったが、後輩達のバックアップや、かつての盟友ミック・ロンソン(初期5年間を支えた名ギタリスト。彼についてはいずれ単独で掘り下げたい)や、トニー・ビスコンティ(初期5年間と後期10数年を支えたプロデューサー)との再会など、数々のドラマを経て健在ぶりを示し、そして文字通りスターマンとなってしまった彼の、試行錯誤した若き日々は、必ずや多くの人に生きるヒントをもたらす作品揃い。この機会に青きボウイもチェックしていただきたい。

 


 

【日高央 プロフィール】

ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。

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第16回:サイモンとガーファンクル(後編)『明日に架ける橋』〜『セントラルパーク・コンサート』

〜ハイレゾが僕の新しい『グレイテスト・ヒッツ』〜

 

 前回は1971年暮れにベスト盤を買って、サイモン&ガーファンクルの世界に踏み込んだことを書いた。翌72年になると、僕はベスト盤だけでは飽き足らずオリジナル・アルバムを揃えるようになった。ちょうど中学2年生から中学3年生に進級した頃である。

 買ったのは『パセリ・セージ・ローズ・マリー・アンド・タイム』『ブックエンド』『明日に架ける橋』。当時は中学生がLPを買うのは大変だったから『水曜日の朝、午前3時』と『サウンド・オブ・サイレンス』は友人から借りて録音した。そのかわりに発表されたばかりのポール・サイモンの初ソロ『ポール・サイモン』とマニアックな『ポール・サイモン・ソング・ブック』も買ったのだから、72年の夏休みが終わるころには、僕の“S&G収集”はほぼ完了したと言っていい(『卒業』だけ見送った)。

 そんなころ『グレイテスト・ヒッツ』が発売されたのだった。収録曲を見て驚いた。それまでCBS・ソニーが出していたベスト盤『サイモンとガーファンクル・グレイテスト・ヒット II』とまったく同じ収録曲、曲順だったからである。これは「ポール・サイモン自身による選曲」と銘打たれた国内企画盤で、日本の洋楽LPチャートではずっと1位を記録していた。古い流行語に例えれば「巨人、大鵬、S&G」と言いたくなるくらい我が国では人気があったレコードだ。

 そこに新しい『グレイテスト・ヒッツ』である。同じ収録曲でもさすがにS&G自身の制作だから凝っていた。ライヴ演奏や新ミックスが含まれていて、新作と呼んでもいい内容だ。この頃は僕のなかでS&G旋風はおさまり、かわってビートルズの大旋風が吹き荒れていたのであるが、ビートルズのレコードを1枚諦めても欲しくなった。かくして72年9月13日に『グレイテスト・ヒッツ』を買ったのだった(LPの解説書に日付を書いたから今も分かるのである)。

 はたして『グレイテスト・ヒッツ』は新鮮だった。なかでもライヴの4曲がスタジオ録音をしのぐ神々しさ。他にも拍手が被せられている曲があり、アルバムとしても聴き飽きなかった。しかし事件はまもなく起きる。ある時、手を滑らせて針をレコード盤の上に落としてしまったのである。バン、バン、バン、ブィ~! 針は豪快なバウンドをしたあと、飛行機が胴体着陸をするようにミゾの上を滑っていった。

 恐る恐る聴いてみると、ライヴの「59番街の歌(フィーリン・グルービー)」でプ、プ、プというキズ音が出る、続く「サウンド・オブ・サイレンス」ではついに針飛びがおきて先に進まない。中学3年生の心がいかに折られたかは、アナログ世代の方なら分かっていただけるだろう。

 にもかからず、僕はこのレコードを聴き続けたのだった。まるで虫歯の痛みを確認するかのように、マゾ的な心でノイズの出る部分を聴く自分がいた。CDや別の中古レコードに買い替えてもよかったのだが、できなかった。大切な小遣いで買ったレコードは可愛いし、傷がついたことで逆にこのレコードから離れられなくなってしまったのだ。

 ここでようやくハイレゾの話になる。そんな病んだリスナー(?)である僕でも『グレイテスト・ヒッツ』はハイレゾだと、まったく自然に聴けるのである。どうしてハイレゾなら聴けるのか。もちろん高音質なところがその大きな理由だろう。しかしそれだけでもないような気がする。ひょっとしたらハイレゾを聴く行為のなかに、アナログ盤を聴く行為に通じるものがあるのかもしれない。そんなわけで今ではハイレゾの『グレイテスト・ヒッツ』が僕の愛聴盤となっている。棚にしまってあるLPもきっと喜んでいることだろう。

 


 

Bridge Over Troubled Water

http://mora.jp/package/43000100/G010001408099M/

 サイモン&ガーファンクルの傑作であるだけでなく洋楽レコードの金字塔。それが『明日に架ける橋』であろう。表題曲「明日に架ける橋」や「ボクサー」など彼らの代表曲と“その他の名曲”からなるアルバムで、ハイレゾでは“その他の名曲”がより高音質となり、アルバムとしての素晴らしさが底上げされている。
 「ベイビー・ドライバー」「ニューヨークの少年」「手紙が欲しい」などが、ふくよかなサウンドで鳴り響くのは、かなり快感だ。ブラスの音も凄い。もちろん「明日に架ける橋」のピアノもイントロから重心の低い音に(僕には)感じられて、ハイレゾで聴く価値が大きいアルバムだと思った。

 

Greatest Hits

http://mora.jp/package/43000100/G010001794833N/

 この『グレイテスト・ヒッツ』については先に書いたので、ハイレゾの話をするなら、「エミリー・エミリー」などのライヴ音源の音質がしっかりした分、アルバムの統一感がいっそうとれた印象になったと思う。スムーズに各曲が流れていく。「ミセス・ロビンソン」や「スカボロー・フェア」などは、なぜかオリジナル盤よりもこのベスト盤で聴く方が好きである。

 

The Concert in Central Park (Live)

http://mora.jp/package/43000100/G010003232888H/

 81年のニューヨーク、セントラル・パークでの再結成コンサート。当時はまだ大物の再結成は珍しかったので、まさか二人が再び一緒に歌うなど夢にも思わなかった。しかし、そんな興奮とはうらはらに演奏はリラックスしたもので、ソロ作品を二人で歌ったりとスタジオ・アルバムにはない魅力がふんだんに含まれている。ジャズ、フュージョン系ミュージシャンのバッキングも時代が80年代になったことを強く感じさせる。
 ハイレゾは野外とは思えないクリアな録音を、やわらかいアナログ風な音で再生してくれる。バンドの各楽器の分離感も良好。「どこがどうハイレゾで良くなった」という力みはなく、それこそ演奏と同じく「リラックスしたハイレゾ化」を感じる音質だと思う。夜な夜な聴くには格好のハイレゾ。

 

 

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【牧野 良幸 プロフィール】

1958年 愛知県岡崎市生まれ。1980関西大学社会学部卒業。

大学卒業後、81年に上京。銅版画、石版画の制作と平行して、イラストレーション、レコード・ジャケット、絵本の仕事をおこなっている。

近年は音楽エッセイを雑誌に連載するようになり、今までの音楽遍歴を綴った『僕の音盤青春記1971-1976』『同1977-1981』『オーディオ小僧の食いのこし』などを出版している。

2015年5月には『僕のビートルズ音盤青春記 Part1 1962-1975』を上梓。

 

マッキーjp:牧野良幸公式サイト

 

 

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