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[3/15]【連載】原田和典の「すみません、Jazzなんですけど...」 第4回『The Honeydripper』Jack McDuff

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 一家そろって見てほしい映画があります。デートでぜひ見てほしい映画があります。クラス全員で見て、ぜひ感想文を発表しあってほしい映画があります。

 最近公開された作品では、『ストレイト・アウタ・コンプトン』(公式サイト)がそれです。ストーリー展開のわかりやすさと面白さ、音楽のかっこよさ、クレンショー・ブールヴァードなどディープなブラック・ミュージック好きなら一度は耳にしたことがあるであろう土地の描写。スクリーン越しに、80年代西海岸のヤバい空気が伝わってくるかのようでした。“いやー、すげえ! 懐かしいけど、古くねえ!”、ぼくの血は思いっきり騒ぎました。

 

 ストーリーのモデルとなったヒップホップ・グループ、N.W.A.が結成されたのは1986年。その2年後に、アルバム・デビューをしました。ぼくの最初のヒップホップ体験は83年のハービー・ハンコック「ロックイット」(アルバム『Future Shock』収録)です。翌年にはタイム・ゾーン(アフリカ・バンバータ)の「ザ・ワイルド・スタイル」やハービーの「メガミックス」といった12インチ・シングルを聴き、夏に北海道・夕張で行なわれたハービーの来日公演でグランド・ミキサーD.ST(現DXT)の“レコードを楽器として使う”技を見て驚き、さっそく家にあるポータブルのプレイヤーでレコードを逆再生したりして、それを自作自演の宅録カセット・テープ(当時のぼくは音楽家も目指していました)にオーヴァー・ダビングしたものです。自分が上京してジャズ雑誌の編集部に入ったのは90年代になろうとしていた頃ですが、まもなく友人を通じてビブラストーンやジャジー・アッパー・カットのメンバー、インタースコープ・レーベルの国内発売元だったレコード会社の担当者などと知り合うことができました。アウトバーンから出ていた「remix」やリットーミュージック「GROOVE」の編集長とも面識ができて、「ジャズとヒップホップ」というテーマで原稿を依頼したり、逆にこちらが「ドロドロ・ジャズ名盤選」(今はスピリチュアル・ジャズという和製英語が定着しているようですが、それはずっと先の話です)を寄稿したりと、「ジャズと、ヒップホップを含むクラブ・カルチャーを一緒にしてワチャワチャ楽しめないかな」という感じで毎日を過ごしていました。

 

 マイルス・デイヴィスがラップを取り入れた『ドゥー・バップ』を吹き込んだのは91年のことです。マイルスはヒップホップの面白さを大いに認めていたようですが、ほかのジャズ・ミュージシャンはどうなのか? その時期、サンプリングされることの多かった面々に、ぼくは直撃取材をしました。バーナード・パーディーやチャック・レイニーやヒューストン・パーソンは「まあ、別にいいんじゃないの。使用料が振り込まれていれば」という感じでした。もちろん渋い顔をした面々もいました。ルー・ドナルドソンは「私の音楽と、ヒップホップやラップは全然関係ない! 私はブルースやビ・バップに取り組んできたにすぎない。なんだい、ヒップホップてのは? あれは音楽か? 誘われたとしてもヒップホップはやらないよ」。そしてジャック・マクダフにも尋ねました。忘れもしない93年の初来日中、京王プラザホテルの彼の部屋で、です。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが当時すでにマクダフは脚が不自由でした。パジャマ姿で寝っ転がる彼へのインタビューです。「ああ、それについてはよく訊かれるよ。だがな、俺の音楽とヒップホップは関係ない。影響を与えたと勝手に解釈されるのも、個人的には全然嬉しくないね」。

 しかしマクダフは初期ラップの名門レーベル、シュガーヒルにアルバムを残しているのです。ラッパーとの交流があったとか、ヒップホップの誕生を手助けしたとかはなかったのでしょうか。ときくと「全然ない。たまたまシュガーヒルから誘いが来たからレコーディングしただけだ。だいたいヒップホップは物騒だよ、shootとかkillとかそういう言葉をガナって……。私の音楽がサンプリングされて、そういう言葉の後ろで鳴っている図を想像するだけでも、いやな気持ちだ」。

 

 マクダフの楽曲はア・トライブ・コールド・クエスト、ピート・ロック&C.L.スムース、ファットボーイ・スリム等にサンプリングされてきました。そんな彼が、若き日に残したアルバムが『ザ・ハニードリッパー』です。1961年の録音ですが、ぼくは80年代にアメリカで復刻されたアナログ盤で長く親しみました。それがいま、ハイレゾで聴けるのですから、天国のマクダフもテクノロジーの進化にびっくり仰天しているはずです。ここで編集部のAさんからの感想を見てみましょう。

「音が立体的に聴こえる! ハイレゾだとより、空間感、配置がわかる。何よりもハモンド・オルガンの音色が気になる。少しこもった感じの(電気の出力が弱かったであるとか、当時の状況も関係しているのだろうか)……」

 

The Honeydripper/Jack McDuff

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■執筆者プロフィール

 

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原田和典(はらだ・かずのり)

ジャズ誌編集長を経て、現在は音楽、映画、演芸など様々なエンタテインメントに関する話題やインタビューを新聞、雑誌、CDライナーノーツ、ウェブ他に執筆。ライナーノーツへの寄稿は1000点を超える。著書は『世界最高のジャズ』『清志郎を聴こうぜ!』『猫ジャケ』他多数、共著に『アイドル楽曲ディスクガイド』『昭和歌謡ポップスアルバムガイド 1959-1979』等。ミュージック・ペンクラブ(旧・音楽執筆者協議会)実行委員。ブログ(http://kazzharada.exblog.jp/)に近況を掲載。Twitterアカウントは @KazzHarada

 

 

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