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[2/15]【連載】原田和典の「すみません、Jazzなんですけど...」 第3回『We Get Requests』オスカー・ピーターソン

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ジャズの楽しさ、面白さ、わかりやすさを、ひとりでも多くの方に知っていただく連載第3回。

編集部のAさんからの今回のお題は、年季の入ったジャズ・ファンなら誰でも知っている定番中の定番であろうオスカー・ピーターソンWe Get Requests』。moraのジャズ作品売上ランキングで昨年末の月間1位を獲得したので、そのお祝いもこめて、改めてこの作品の魅力を紹介してみよう、というのが今回のテーマです。

 

We Get Requests/The Oscar Peterson Trio

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1964年の録音ですから、今から50年以上も前の演奏です。「そんな古いものが今、なぜ1位に?」という疑問は当然あります。現在の日本のヒットチャートで春日八郎や二葉百合子がゲスの極み乙女。や西内まりやより上位に来ることは100%ありません。が、「新しいものだけが売れる」わけではないのがジャズの世界。LPレコードの時代に評価を確立した作品が、CD化されても聴き継がれ、さらにハイレゾになっても愛され続ける……これはジャズがいかに息の長い(いいかえれば人生を通じて楽しめる)音楽であるかを示すものでありましょう。

『We Get Requests』というアルバム・タイトルには、“リクエスト承ります”的なニュアンスが感じられます。そして、この作品を日本で最初に売るにあたって(1965年)、レコード会社のスタッフは『プリーズ・リクエスト』という邦題をつけました。なんと覚えやすい和製英語でしょう。しかも選曲が親しみやすいのです。64年当時の全米シングル・チャートにランクインしていたボサ・ノヴァ「イパネマの娘」に加え、やはりボサ・ノヴァの代名詞的1曲である「コルコヴァード」、“日本には一度も来たことのない世界最高峰のエンターテイナーのひとり”バーブラ・ストライサンドの名声を決定づけた「ピープル」、同名の大ヒット映画の主題歌である「酒とバラの日々」など、64年当時のファンに大いに親しまれ、今でも時おり耳に入ってくることもあるナンバーを、オスカー・ピーターソンは次々と極上のジャズに料理していきます。もちろんジャズですから即興演奏のパートはありますが、原メロディから極端に離れたプレイはしていません。過度な加熱や香辛料で素材のおいしさを奪い去る、などという野暮なことはしないのです。さすが名シェフ、ピーターソン! 64年のアメリカにおける最大の音楽的トピックであったろう“ビートルズ旋風”から距離を取った選曲をしたのも正解だったかもしれません。

でもこのアルバムは表題に反し、有名曲ばかりで構成されているわけでもないのです。ピーターソン自身の書き下ろしナンバーもありますし、スタッフ・スミスというヴァイオリン奏者が作曲した「タイム・アンド・アゲイン」の存在をこれ以前から知っていた、というファンはウルトラ・へヴィーなジャズ狂だと思います。そして本作に収められたことで、一躍ジャズ好きに広まったメロディもあります。それが6曲目の「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」です。

アナログ盤で、この曲はB面トップに位置していました。レコード針が乗せやすい位置になったということもあるのでしょう、60年代中ごろから普及するいっぽうだったステレオ機器のチェックにも頻繁に使われました。弓弾きから指弾きに替わる時のベース奏者のタイミング、ニュアンス豊かなドラマーのブラッシュ(いわゆる“刷毛”)やシンバルの音色の伸び、そして御大ピーターソンの輝かしいピアノ・タッチが2つのスピーカーから生々しく、立体的に浮かび上がってきたら、そのオーディオ・システムは折り紙付き、というわけです。CD、ハイレゾと器は変わっても、『We Get Requests』をシステム・チェック用に使っているリスナーも多いのではないでしょうか。

Aさんからは「タッチの音や吐息まで聴こえるというのが新鮮に感じました。ベースの音も、エレキ(ロック)に慣れた耳からすると微かに響いてるだけ、というバランスが……」という感想をもらいましたが、吐息まで聴こえるのもまた、この場合は生々しさを加味しています。楽器から少し離れたところに必要最小限のマイクを置いて音楽家に同時演奏をさせ、空気もまるごと同時に捉えてしまおうという感覚。これは「異なる場所や時間で録られた音をミキシングで合わせていく」ポップスのサウンド作りに慣れた方には軽いショックかもしれません。

最後にジャケットの話をしましょう。右側にいるのが御大ピーターソンですが、なぜ他のふたりが演奏しているのに彼は笑顔で立っているのでしょうか? 僕がずっと感じていた疑問は、ピーターソンのライヴ(もう生で見ることは叶いませんが)に接した時に解けました。まずドラマーがひとりで演奏し、続いてベーシストがそれにあわせ、盛り上がったところでピーターソンがピアノのところまで歩んで一礼、そしてプレイを始めるのです。つまりこのジャケットは「ステージに登場し、礼を終えて顔をあげた瞬間」のピーターソンを捉えているのです。また彼のライヴでは、大半の奏者と違って、ピアノがステージ上手(客席から向かって右)にセットされていることも特徴です。その理由としては、ピーターソンの楽器が大型で横幅を取るから(通常は88鍵だが、彼のピアノは97鍵)、そしてベース奏者がピーターソンの左手の動きを見ながらベース・ラインを作ることができるように(=低音のぶつかりあいを避けるため)という配慮があった、と聞いたことがあります。

そう考えつつもう一度、「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」の響きに身をまかせてみませんか?

 


 

■執筆者プロフィール

 

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原田和典(はらだ・かずのり)

ジャズ誌編集長を経て、現在は音楽、映画、演芸など様々なエンタテインメントに関する話題やインタビューを新聞、雑誌、CDライナーノーツ、ウェブ他に執筆。ライナーノーツへの寄稿は1000点を超える。著書は『世界最高のジャズ』『清志郎を聴こうぜ!』『猫ジャケ』他多数、共著に『アイドル楽曲ディスクガイド』『昭和歌謡ポップスアルバムガイド 1959-1979』等。ミュージック・ペンクラブ(旧・音楽執筆者協議会)実行委員。ブログ(http://kazzharada.exblog.jp/)に近況を掲載。Twitterアカウントは @KazzHarada

 

 

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