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[2/12]【連載】津田直士「名曲の理由」 第17回「夜想曲 第2番」後編

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■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File12. 夜想曲 第2番(作曲:フレデリック・ショパン)後編

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

前編に引き続き、名曲としての魅力を確認していきましょう。

 

前回は曲の出だし、「ソミー レミ レードー」というメロディーの説明をしました。

続くメロディーは「ソミー (低い)ラ (低い)ラー ミソー ファー」です。【解説ポイント04】 前のメロディーが穏やかだった分、ここで高い「ラ」まで上がったメロディーが、聴いている人の心を強く打ちます。【解説ポイント05】 そしてその切なさを少し引っ張ってから、「ファ」の音に落ち着きます。

さて、和声はどうなっているでしょう。前のメロディの時と違って、ここではメロディーの高まりを和声がしっかりと支えています。 この連載で何度も解説してきた、マイナー主和音を、あえてメジャーにしてしまうことで、心に強い切なさや震えを感じさせる和音が、見事にメロディーを支えているのです。

このメロディのコード進行は、 B B/D♯ D♯dim/E Em です。 今回はDのキーで説明していますから、本来はBmであるべきところが、Bになっています。 そして「ファ」の音に落ち着くまで、その切なさを引っ張っている和音(D♯dim/E)は、最初のメロディで2つ目に独特の雰囲気を醸し出した、あの和音と同じ構造です。【解説ポイント06】(dim=ディミニッシュドと呼ばれる独特の響きを持つ減三和音で、低音が半音でぶつかっている和音構造) これもまた、ショパンの圧倒的なセンスと才能が光るところです。

 

続くメロディー「レー ミー シ ドーラー」も、聴いている人の心を豊かに揺さぶます。【解説ポイント07】 その前の高まりから一度落ち着きながら、「ミーシ」のところではまた悲しみのような切ない感じが心を動かします。とても美しいメロディです。【解説ポイント08】  コード進行を見るとわかるように、また先ほどのBと似た効果をもたらす和音、つまり本来マイナーコードのF♯mであるべきところがメジャーコードのF♯7 になっています。 これは音楽の不思議なところなのですが、多くの人は、ドレミファソラシドという基本の音階の、ソがソ♯になった瞬間、心が切ない感じになるのです。 その効果がここで活かされているわけです。

さらに「ラー」のところも、何とも言えない不思議な雰囲気がしますね。 実はこれもG♯dim、そう、前編で解説した、あの独特の響きを持つ減三和音です。【解説ポイント09】  そして、この「不思議な感じ」に変化したこの表情は、次のメロディーを鮮やかに引き立たせます。 「(低い)ソ (高い)シ ラ ソファミファラシ ドー」というメロディーです。 ここまでの色々な表情の変化を受け止めて16小節のテーマを締めくくるセクションでありながら、低いソが鳴った直後にこれまでで最も高い音程である「シ」まで一気に上がるメロディーが、とても鮮やかに心を揺り動かしてくれます。【解説ポイント10

さらに、ここでもまた特別な和音が力を発揮しています。 「(低い)ソ (高い)シ ラ」を支えるのは、Asus4というコード。これは、和音の3度が4度に上がっているコードで、移動ドで表現すると「ソ・ド・レ」という音で構成されています。普通なら、Aというコードを使う場所です。Aを構成している音は「ソ・シ・レ」です。 ここでメロディーをよく見てみると、 「(高い)シ」が大事なポイントとなっています。「シ」のメロディーに対して、普通の和音「ソ・シ・レ」であれば、全く問題はありません。ところが、ショパンはあえて「ソ・ド・レ」という和音を使っています

これはとても興味深いことです。 なぜなら、「ソ・ド・レ」の「ド」が、メロディーの「シ」と半音違いなので、音がぶつかってしまうのです。 普通、クラシック音楽ではタブーとされる半音のぶつかり……。それを、ショパンは意図的にやっているのです。その結果、最初のメロディーのところで《減三和音とベース音は音がぶつかっていて、本来は無理のある組み合わせになっている》と解説した時と同じように、見事にこの曲独特の雰囲気を醸し出すことに成功しています。

 

テーマに続く、展開のセクションを見てみましょう。 このセクションのポイントは、キーが「D」と「A」のどちらにも聴こえるため、感覚が「Dのキー」と「Aのキー」を行ったり来たりするところです。 バッハを始めとしてクラシックでは、4度上や5度上のキーへの転調が、場面を変えるような効果としてさりげなく、そして巧みに使われますが、ここではそのような効果が実にうまく使われています。 最初の4小節間のメロディーは本来だと「シドレー ミーレ レーラー」なのですが、キーがAに移って「ミファソー ラーソ ソーレー」と歌っているようにも聴こえるのです。【解説ポイント11】 しかし次の4小節間のメロディー「ラシドドド ド シドレード ドーソ」は、G Gmというコード進行も含め、キーは明確にDなのです。【解説ポイント12】ところが次のセクションでは間違いなくキーがAに移ります。 「ドーシーラ ソーミ」というメロディーが、D♯dim B7/D♯ E F♯m というコード進行にのって歌い、【解説ポイント13】  Aのキーのまま、「ファー ミレミ ドー」と落ち着きます。コード進行は、Bm7 E7 A です。【解説ポイント14】 

さて、キーがAに転調してしまったので、テーマのキー、Dに戻らなければなりません。 普通なら、AからA7に移る、などの施しをして、Aがトニックコードではなく、ドミナントコードであることを匂わせるだけでスムースにDのキーに転調できるのですが、ここでショパンはとんでもないコード進行によるピックアップを経てDへの転調に至ります。 なんと、A A♭7 E♭G B/F♯ E7 A7 というコード進行です。【解説ポイント15】 大学生の私は、この部分を分析した時も、ポップスやジャズでもほとんど見ることのない圧倒的な音楽性に驚嘆してしまったのでした。

 

さて、夜想曲 第2番は、終盤にまだ新たな展開があるのですが、誌面の都合もあって、今回の解説はここまでにしておきます。

その名曲性に打たれた大学生当時の私の驚きも含めて、2回にわたってご紹介しました、ショパンの夜想曲 第2番。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンと並ぶ圧倒的な才能を持ちながら、残念ながら夭逝してしまったショパンの名曲を、ぜひ色々聴いてみて下さい。

オーケストラではなく、ピアノだけで伝わる名曲の素晴らしさ……ここにも、名曲の原点があるのです。

 

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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