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[2/4]【連載】津田直士「名曲の理由」 第16回「夜想曲 第2番」前編

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■津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介していきます。

 

File12. 夜想曲 第2番(作曲:フレデリック・ショパン)前編

 

※津田氏が実際にピアノを弾きながら解説しています

 

今回はショパンが1831年頃に生んだ「夜想曲 第2番」をご紹介します。

ショパンは1810年、ワルシャワで生まれました。ピアノ作品が多く、「ピアノの詩人」と呼ばれたりしますが、ピアニスト、作曲家としての才能はかなり非凡で、7才でポロネーズを2曲作曲、8才の時に公開演奏を行い、「第2のモーツァルト」と呼ばれました。
19才の時ウィーンでデビュー、演奏会をした時には既に数多くの作品を持っていたショパンですが、10代で生んだ作品の数々をもとに、その早熟さがバッハやモーツァルト、ベートーヴェンを超える、と言う音楽学者もいます。

この「夜想曲 第2番」も1981年ですから、ショパンが21才の頃に生んだ作品ですね。確かに若いです。

夜想曲、つまりノクターンは一つの楽章からなる、叙情的なピアノ作品のことですが、ショパンは生涯で21曲の夜想曲を残しています。
その中で最も有名なのが、この第2番です。

ところで音楽学者によると、第2番のような初期の作品は、ショパンより30才ほど年上で、夜想曲というスタイルを生んだとされるアイルランドの作曲家ジョン・フィールドの影響が見られる、ということです。確かに晩年の作品、切なさに満ちた夜想曲第19番などはその複雑さと繊細さがショパンの魅力に満ちています。

 

個人的な話になりますが、12月にリリースした私のアルバム『Anming Piano Songs』も、ある意味、夜想曲集と言えます。 左手でコードワークによる伴奏を、そして右手で切ないメロディーを歌うように奏でる、というスタイルで、バッハからいずみたくまで、色々な作曲家の名曲を単一楽章にてアレンジしているわけですから。
おそらくそのためでしょう、今回のアルバムを構想した時、一番最初に選んだ曲は、私がショパンの曲を聴くきっかけとなった「夜想曲 第2番」でした。
クラシック音楽は、現代のロックやポップスにも大きな影響を与えていますが、ポップスのピアノバラード演奏は、夜想曲というスタイルを受け継いでいる、と言えるかも知れません。

 

さて、ショパンは「英雄ポロネーズ」「革命」「バラード 第1番」「雨だれ」「別れの曲」「子犬のワルツ」などを始めとして、多くの人に愛される作品を数多く生んでいますが、残念ながら1849年の10月、長い間彼を苦しませた肺結核のため、39才の若さでこの世を去りました。
しかしクラシックの、特にピアノ作品においてショパンの存在はとても大きく、後世の作曲家、ピアニストに大きな影響を与え続けました。

 

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。
(※以降、メロディーは移動ドで音階を表します)
(※ 原曲のキーはE♭ですが、コードについては参考音源のキーに合わせ、Dで説明します)

 

ショパンは演奏について、ピアノが「歌う」ことを大事にした、と言われていますが、そんな彼らしい、とても美しく「歌う」メロディーです。 メロディは「ソミー レミ レードー」。穏やかで優しいメロディです。【解説ポイント01

 

メロディは穏やかですが、「レミ」のところで和音が何とも言えない雰囲気を出しています。【解説ポイント02
その理由は、減三和音、コードではdim(ディミニッシュド)と呼ばれるコードにあります。このコードの響きが持つ、不安な感じ、怪しい感じを巧みに使っているのです。

しかもこの和音が響く時、ベース音(低音・根音)は前の和音、つまりメロディー「ソミー」 を支える和音のまま変わりません。実はこの和音とベース音は音がぶつかっていて、本来は無理のある組み合わせになっているのです。音楽理論として考えると、本来はタブーに近い和音構成なのです。ところが結果的には、この和音構成にすることで減三和音が持つ雰囲気に加え、さらにこの曲独特の雰囲気を醸し出すことに成功しているのです。

 

私がまだ大学生で、やっとプロのミュージシャンになったばかりの頃でした。私は大好きだったこの曲を、クラシックの譜面からジャズやポップスのコード譜に起こし直そうと試みました。  そして音を分析し始め、曲の2つ目のコードを調べて驚きました。C♯dim/D……コード進行については相当詳しい私でも、見たことがないコードだったからです。「Gm6/Dの間違いではないか……?」と思い、確認しましたが、音符はやはりEdim/Dなのです。もちろん、実際に音の響きを耳で聴いても、C♯dim/Dというコードが持つ独特の響きは、Gm6/Dのような他のコードでは再現できません。私はその和音をさりげなく使うショパンのセンスに、深く感動しました。

後ほど紹介しますが、分析を続けると、ポップスでは一般的に使わない高度なコードの使い方や、ジャズでもなかなか見かけない複雑なテンションコードの解釈が、他にもありました。150年以上前のクラシック音楽には、ジャズやポップスがほとんど使わない複雑なコード進行をいとも簡単に活用しながら、しかも誰もが自然と耳に馴染んで好きになる、そんな普遍的な楽曲がたくさんある……。ショパンをきっかけに、改めてクラシック音楽家に対する畏敬の念が私の中に生まれたのです。

それ以来、「革命」や「英雄ポロネーズ」を始め、ショパンの曲を研究しては、その和音の使い方の凄さに感動し、自分の音楽へ活かせないか試行錯誤したものです。一部の音楽学者が、ある側面ではショパンがバッハやモーツァルト、ベートーベンよりも才能がある、と評する気持ちも、私にはよくわかります。

 

さて、音の話に戻りましょう。「レードー」の「ド」の時にも、和音の持つ魔法が仕掛けられています。 メロディーが「ド」なのに、ベース音(低音・根音)は「シ」つまり半音、下に下がり始めているのです。【解説ポイント03

曲の流れで聴くと全く気になりませんが、この「ド」が鳴っている時の音だけを響かせると、音楽としては成立し得ないほどの不協和音となっています。しかし、あえてショパンがその音を選んでいる理由は、私にもわかります……音楽が、理論ではなくあくまで、作者の心の震えを音に託したものだからです。

まず美しいメロディーがあって、そのメロディーを支える和音が感情をさらに豊かにする。その姿勢で創ろうとすれば、このメロディーが「ド」に落ち着いた時、既に次の和音に向けてベース音(低音・根音)が半音下がり始めるのはとても自然なことなのです。作曲という行為が理論を超えている、そしてそのことで、音楽に詳しくない、理論がわからない、一般の人たちに、作曲家のイメージが正しく伝わる……そんな「名曲の理由」の神髄が、このショパンの夜想曲には宿っているのです。

 

(後編に続く)

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

<<スペシャルインタビューも掲載中>>

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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