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[12/10]【連載】津田直士「名曲の理由」 第9回「G線上のアリア」

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津田直士プロデュース作品『Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~』に収録の名曲たちをご紹介しています。

 

File05. 「G線上のアリア」(作曲:J・S・バッハ)

 

 

※動画内に表示される《X段目》という表記に文中の《X段目》が対応します。

 

今回は J・S・バッハが生んだ名曲 「G線上のアリア」をご紹介します。広く知られているこの「G線上のアリア」は『管弦楽組曲第3番ニ長調』の第2楽章「アリア」が原曲です。1720年頃に作曲されたという説と、もっと後年だという説があるようです。

さて、「G線上のアリア」はバッハの没後100年以上経ってから再評価されました。 もともと『管弦楽組曲第3番ニ長調』の第2楽章「アリア」だった原曲を、アウグスト・ヴィルヘルミというヴァイオリニストが編曲してから世に広まったのです。
この編曲の際、キー(調)がDからCに変更されています。 この変更によりメインメロディーがヴァイオリンのG線(一番低い弦)だけで演奏することができるようになったことから「G線上のアリア」という呼び方が定着していきました。 (今回の私のアルバムではバッハへの想いから「D」のキーで演奏しています)

それでは早速、名曲としての魅力を確認していきましょう。 曲を4小節または8小節ごとに分けて解説していきます。

最初の2小節間、メインメロディーはF♯(長3度)の音が動かずにずっと伸びていきます。 一方、メロディーを支える和声は、豊かな響きと共に低音がゆっくり下がって行きます。
この、低音(ベース音)が下降していく和声進行つまりコード進行は、響きの豊かさと心地良さからポップスの世界でも数多くの名曲を生み出してきました。このように低音の動きとそれに対応する和音の関係は「G線上のアリア」という名曲の素晴らしさを際立たせている、とても大切なポイントです。

3小節目からは、それまで動かなかったメロディーが一気に上へ跳ね上がって細かい音符を奏でながら降りてきます。 そして和声は、メロディーとは反対に、低音が半音で上がっていきます。 4小節目に入るとまた下がっていきます。

1小節目は、再びメインメロディーが音が動かずに伸びていきます(今度はA)。 そして和声もまた低音が下がっていくのですが、《1段目》が明るい表情だったのに対して、こちらはだんだん切ない表情を帯びてきます。 2小節目に入るとメロディーも和声もさらに切なさが増して悲しみの表情にまで変化していきます。

このように、聴いていると切なかったり悲しかったり感じるのにはちゃんと理由があります。 それは本来Bmであるべき和音がBというメジャーの和音になっているからなのです。 メジャーな響きの和音なのに切なさを感じるのは、マイナーである次の和音、Emへ向かわせる力が強く働く和音だからです。 しかもこの和音は本来、キー(調)であるDにはない響きなので、少し特別な響きであり、それが心により強く切なさを生み出すのです。

3小節目から4小節目にかけては、メロディーが1~2小節目とよく似た動きをします。 しかし和声は逆にどんどん明るくなっていきます。このように明るい、切ない、悲しい、といった和音が生み出す表情の移り変わりがこの曲の大きな特徴で、その移り変わりの美しさが、メロディーの美しさをさらに引き立たせているのです。

また、この《2段目》ではメインメロディーが伸びている間にカウンターメロディー(サブ的なメロディー)が2回とも登場しますが、このメロディーがメロディーを追いかけるような手法の美しさは、バッハの作品のいたるところに見られる、大きな特徴であり魅力です。

1小節目でキーのホーム的な和音(トニックコード=D)に落ち着くのですが、何と途中からAのキーに転調してしまいます。

このような一時的な転調をバッハは好んで使いますが、それによって曲がつまらない感じにならず、常に輝いて聞こえるのです。この部分は終わり方を除くとほぼ《1段目~3段目》と同じです。

1小節目で転調したAのキーからスムースにDのキーへ戻りつつ、2小節目からは《2段目》の2小節目と同じ和音の働きにより、メロディーと共にどんどん切なくなっていきます。 3小節目からは悲しい表情に染まり、メロディーはその切なく悲しい表情を強くしていきます。

そして《8段目》に入ると、悲しみ満ちたメロディーがどんどん上がっていくことで、悲しい感情がピークに達し、やがてBmというマイナーのキーで曲が一度落ち着きます。つまり、本来はメジャーキー(長調)の曲なのですが、ここでは一時的にマイナーキー(短調)の曲に変化しているわけです。

ところが一転してここからは再びメジャーキーに戻ります。 その大きな変化が唐突に聞こえないのは、さりげなくAのキーに転調しているからなのです。
1小節目に登場するEという和音は、本来のキー、DにおいてはEmというマイナーの和音であるべきなのですが、あえてEというメジャーの和音にすることで明るい響きを得ることができ、さらにEという和音は本来Aのキーの重要な和音なので、ごく自然にAのキーに転調しているわけです。

ここでは、和音が2拍ごとに変わり、メロディーがその動きに乗るようにして奏でていきます。 1小節目ではごく普通の和声ですが、2小節目で感情が高まる感じになり、3小節目ではさらに感情が高まり切なさも加わり、4小節目で悲しみに至ります。 この間、低音の動きは上へどんどん上がっていきますし、メロディーも同じように上がっていきますから、感情の高ぶりが見事に聴いている人に伝わります。 いわばここは曲のクライマックスだと言えるでしょう。 カウンターメロディーも美しく奏でながら和声と共に変化していきます。 ちなみに4小節間で変化していくこの表情は素晴らしく、その和声の移り変わり、つまりコード進行は低音(ベース音)が下降していく進行と同じように、後世の音楽でたくさん引用されています。 このコード進行が上手に活かされている曲で代表的なのは、「We Wish You a Merry Christmas」でしょう。

最後に《10段目》で展開した切なく、悲しく、高まっていった世界を、優しく収めるようにメロディーが大きく動きながら、和声も切なくなったり悲しくなったりすることなく、優しくおおらかな響きによって、曲は終わりを迎えます。 いかがでしょうか。 「G線上のアリア」の『アリア』というのは、叙情的で美しい旋律の、ゆっくりとした曲のことです。 まさにアリアの代表曲ともいえるこの曲を聴いて、心を優しく癒して下さい。

 


 

■津田直士プロデュース作品のご紹介■

DSD配信専門レーベル "Onebitious Records" 第3弾アルバム
Anming Piano Songs ~聴いてるうちに夢の中~

1. G線上のアリア / 2. 白鳥~組曲『動物の謝肉祭』より / 3. ムーン・リバー / 4. アヴェ・マリア / 5. 見上げてごらん夜の星を / 6. 心の灯 / 7. ブラームスの子守歌 / 8. Over The Rainbow / 9. 夜想曲(第2番変ホ長調) / 10. 優しい恋~Anming バージョン / 11. ベンのテーマ /12. LaLaLu

試聴・購入はこちら

 


 

【プロフィール】

津田直士 (作曲家 / 音楽プロデューサー)
小4の時、バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “音の謎” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX(現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュ ース。 ‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony)や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS)、アニメ『BLEACH』のキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書『すべての始まり』や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス「ソニアカ」の講義など、文化的な活動も行う。

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