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[4/2]【連載】津田直士「名曲の理由」 第7回 小林亜星のメロディー

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File04. 「ひみつのアッコちゃん」「魔法使いサリー」他(作曲:小林亜星)
 
今回は 小林亜星さんが生んだ「ひみつのアッコちゃん」他、複数の曲をご紹介します。
 
 
 
作曲家 小林亜星さんについて
 
小林亜星さんは、CMやアニメなどの曲を50年以上にわたって数多く生み出している、作曲家の大御所です。 初期の作品がレナウン「ワンサカ娘」やブリヂストンのCMソング「どこまでも行こう」だということでわかる通り、1960年代の初頭から作曲家として活躍を始められていますから、1961年生まれの私が幼少時代に小林亜星さんの曲に馴染んでいたのは、ごく自然なことだと思います。
 
ただ、多くの作品を手がけ、名を成している作曲家の大御所という方はたくさんいらっしゃいますが、幼い頃の私にとって、また、名曲マニアの私にとって、小林亜星さんの存在は、少々特別なものでした。(幼い頃の私にとって特別な存在であったことは、だいぶ後で分ったことですが……)
 
それが今回この名曲の理由で小林亜星さんをご紹介する根拠でもあります。

基本的にこの連載ではひとつの作品(名曲)を取り上げてご紹介する、という方針なのですが、今回は特別に、ひとつの名曲ではなく、その名曲の理由を探るためにいくつかの作品を見ながら、解説を進めていきたいと思います。

その、特別に複数の作品をご紹介するわけも、小林亜星さんの特別な存在にあります。
 
 
 
私の記憶 そして謎の魔法使い 小林亜星
 
記憶の限り、私が生まれて最初に「曲」で心を惹かれたのは、「バラが咲いた」でした。この名曲を生んだのは、やはり小林亜星さんと同じく私が心から尊敬する作曲家、浜口庫之助さんなのですが、「バラが咲いた」に惹かれてから、まだ小学1年くらいの私でも、「フォークソング調」というサウンドの印象は明確に胸に残ったようです。「自分はこういうものに心を惹かれるんだな」といった感覚は、当時、ちゃんとありました。
 
そしてちょうどその頃、テレビでよく流れていたのが、ブリヂストンのCM「どこまでも行こう」でした。
おそらく「フォークソング調」というところで気になったのでしょう、「どこまでも行こう」が「バラが咲いた」と同じように自分にとって「心惹かれる曲」だ、ということに気づくのに、さほど時間はかかりませんでした。
 
当時の私は小学1年くらいですから、当然子ども向けのアニメを観ます。
当時、いくつか観ていたアニメの中で、「スーパージェッター」や「キングコング」の主題歌が僕の心をつかんでいました。もちろんその頃の私は、そのうち「キングコング」の曲を生んだのが「どこまでも行こう」と同じ作曲家、小林亜星さんだとは知りません。
 
同じ頃テレビのCMで、なぜ自分がその歌に惹かれるのか不思議で、よく口ずさんでいたものがありました。「ブルーダイヤ」です。まったく明るいメロディーなのに、心に微かな切なさを感じていたのです。明るいのなぜか切なさを感じる、という意味では、ちょうど「バラが咲いた」「どこまでも行こう」「キングコング」と共通したものがありました。
 
しかしこれもまた、当時の私が「ブルーダイヤ」の曲を生んだのが小林亜星さんだと知ることはありませんでした。(これは何年か後のことですが、私は「チェルシーの唄」が大好きで、これもまた小林亜星さんの曲なのでした)
 
さて、ちょうどその頃、私の2才年上の姉が好きでよく観ていたのが、アニメ「魔法使いサリー」でした。まだ「巨人の星」や「タイガーマスク」が始まっていなかったからでしょう、姉と一緒に観るうちに、私も大好きになっていきました。
 
そうすると、またまた「キングコング」と同じようなことが起きます。
番組が始まると同時に流れ出す主題歌が、どんどん好きになっていくのです。
そして、この「魔法使いサリー」の主題歌で、今思うと私は『マイナーキー(短調)の曲の魅力』に気づき始めたのでした。そんな大きな役割を果たしたこの歌を作曲したのが、これもまた小林亜星さんだとは、やはり小さな私は知りませんでした。
 
やがて「魔法使いサリー」が終わり、新番組として「ひみつのアッコちゃん」がスタートしました。
この番組に、小学2年になっていた私の心は完全につかまれました。
 
極端なことをいえば、私は “アッコちゃん” を好きになってしまったのです。
 
そして同時に、その主題歌にも私は心を奪われました。

番組が始まり、主題歌が始まると、まるで初恋のように切なく、あたたかい、たまらない気持ちになって、真剣に主題歌を聴いたものでした。
 
そして、この「ひみつのアッコちゃん」の歌を通して、また再び私の知らないところで、目に見えない魔法の力によって私の心を奪い、ある音楽的な魅力を私に教えていたのが、「作曲家 小林亜星」だったのです。
(大先輩ですが、以降はいったん、通常の敬称略にて記載させて頂きます)
 

 
 
小林亜星の生む曲の魅力~名曲の持つとてつもない力
 
動画でご覧頂いたように、小林亜星という作曲家の生むメロディーは、実に滑らかで、ある意味とても素直です。
 
聴いている人のほとんどが、安心してそのメロディーが連れて行ってくれるところへ、安心して身を委ね、そこで出会う情景や生まれる感情を楽しむのではないでしょうか。

そう、その『メロディーが連れて行ってくれる』という力が圧倒的なのが、小林亜星の曲の特徴です。
 
淀みなく、どんどん心が幸せに、そして気持ちよくなるところへ、連れて行ってくれる。
 
では、力づくなのか、というと決してそうではない。
 
私の考えでは、聴く人の気持ちを代弁するかのように、多くの人が「次にここへ連れて行ってもらえたら嬉しい」というところへものの見事に連れて行っていってくれる、共感の強さみたいなものが、その理由なのでは、と思います。
 
その理由はきっと神様にしかわかりませんが、小林亜星が曲を生む瞬間の心の状態に、その答えがあることだけは、名曲を求め続け、自らも作曲家である私にはわかります。

そしてそれはきっと、メロディーが素直な感じがする理由でもあるでしょう。
 
ただ、それだけではそのまま名曲にはなりません。

そこには、やはり目に見えない情感の力が働いています。

その情感を生み出すのは、メロディーの高まりやメロディの持つリズム(譜割り)の微妙な変化と、メロディーを支える和声(コード進行)です。

「ひみつのアッコちゃん」でそのあたりを見てみましょう。
 
 
とても滑らかで、誰のこころにもすーっ、と入るきれいなメロディーが始まり、再びメロディーが繰り返すかと思うと、若干変化して次に進み、落ち着く。
その後、軽やかに高いところへメロディーが上がり、とても切なくなる和声と共にそのフレーズがゆっくり下がりながら繰り返され、その後、光が差すような和声の中、メロディー美しく上りつめる。
再び曲の最初に似たメロディーが始まるけれど、今度はたたみかけるようにゆっくり上へ上っていき、そのままきれいに終わりを迎える。

この曲はGなのですが、歌詞の「シンデレラ姫が現れた・・・」のあたりから、
C~F♯7~Bm~E7~Am7~D7~A9~D7
と展開していくコード進行が、実に美しく、切なく、輝きながらメロディーを支えていきます。
 
専門的な音楽理論でいうと、この辺りの切なさと美しさは、Gの調から一瞬、微かにDの調へ一時転調している効果もあるのですが、それは単なる結果論です。
 
大事なのは、このような瑞々しい音の響きとメロディーが一体となって、聴いている人の心に何ともいえない情感を震わせる、音楽の不思議な力、そしてそこへ滑らかに聴く人を連れて行く、メロディーの力です。
 
小林亜星が「ひみつのアッコちゃん」というアニメのテーマに沿って生み出した情感は、まだ小学2年生だった私の心を見事に揺り動かし、その音の響きの持つ音楽的な力すら、いずれ音楽家となる私に植えつけたのです。
 
これが名曲の持つ、とてつもない力です。
 
 
 
小林亜星が生む、他の曲
 
ここで今度は、「ひみつのアッコちゃん」が登場する少し前に、幼い僕の気持ちを揺り動かした「魔法使いサリー」を見てみましょう。
 
この曲は「ひみつのアッコちゃん」と違って、マイナーキー(短調)の曲です。
 
これは私の個人的な考え方なのですが、圧倒的で素晴らしい名曲を生む、いわゆる天才作曲家は、曲を生む時の心の状態が「赤ちゃん」のようにピュアで無邪気だと思うのです。
 
そうではないと、光のように輝き、生きもののように数多くの人を魅了し、それが永遠に愛されていく、という風にはなかなかいかない、と思うからです。
 
そして、もちろん小林亜星という作曲家も、選ばれた才能を持つ、圧倒的な天才作曲家です。
 
ロッテのガム「Fit's」のCMでもおなじみの、「オオカミ少年ケンのテーマ」のイントロの不思議な言葉や「魔法使いサリー」のイントロの魔法の言葉のように、子どもの心がそのまま歌になったような要素もそうですが、長調は長調らしく、短調は短調らしいのも、音楽に対するピュアさ、無邪気さの表れではないかと、私は考えています。
 
CMの「モクセイの花」は短調の曲で、短調のもつ切なさが光りますし、同じくCMの「酒は大関こころいき」は、メロディーに日本酒らしい雰囲気が溢れいていて、都はるみの「北の宿から」は、演歌の持つ美しさに満ちています。そして「この木なんの木」は校歌のような「正しさ・真っすぐさ」がメロディーと曲全体を大きく包んでいます。
 
これらは、生み出そうとする作品に向う際の小林亜星の、心の姿勢のようなものが、どれだけピュアで無邪気なのかが、如実に表れていからだと、私は感じます。
 
さて、話を戻して、そのマイナーキー(短調)の魅力に溢れた「魔法使いサリー」を見てみましょう。
歌の始まりは物語のテーマ(設定)に沿った、呪文です。そしてそのメロディーがそのまま繰り返され、曲が始まります。
 
そして、一度「サリー」という主人公の名前になるところで、一瞬明るい和音に支えられ、世界が明るく、強く光ります。これは聴いている人に鮮やかに「サリー」という主人公の存在が伝わる、素晴らしい展開です。
そして、すぐに同じような「サリー」という繰り返しで短調の感じに戻り、メロディーが短調の切なさを振りまきながら上っていき、そのまま短調らしく美しく収まります。
再び明るい「サリー」のところから繰り返し、「魔法使いサリー」と落ち着き、1コーラスが終わります。
 
テレビの主題歌では、続けて2番が繰り返されますが、歌の最後は「サリー、サリー、サリーちゃん!」という呼びかけにサリーちゃんが応える形で、歌の最後の部分だけ、見事に長調の和音に変化、明るく終わります。
 
「魔法使い」というイメージからおそらく短調の曲となり、けれども主人公のサリーちゃんが少女で明るいキャラクターであることから、「サリー」という言葉のタイミングで明るくなり、さらに最後も明るく締めくくられる、ということなのでしょうか。
 
いずれにしても、何ともピュアで素直な展開です。
 
作曲家小林亜星が、いかに赤ちゃんのような、こどものような、ピュアで無邪気な心によって名曲を生んでいるのか、手にとるように分る作品ですね。
 
 
 
 
小林亜星の作品からわかること、そして私の願い
 
このように見てみると、名曲というものがいかに作曲家の心の状態によって生まれるなのか、ということが分ってきます。
 
これはとても重要なことなのですが、この小林亜星のようにピュアで無邪気な心の状態で曲を生むことができるのは、「何かのマネや、他の作品の何かが伝染ってしまってメロディーが出てくる」のではなく「純粋にゼロから新たなメロディーを生む」ということができる、オリジナリティの溢れた人だけの特権なのです。
 
オリジナリティが薄かったり、ほとんど無かったり、という人が作品を創ろうとすると、なかなか無邪気にはできないものです。
 
そして皮肉なことに、オリジナリティが薄い作品は、結局その生命力が弱いからでしょうか、やがて人の記憶から薄れていき、いつしか忘れ去られてしまうものです。
 
残念なことに、名曲を生むことのできる天才作曲家は、そうなかなか簡単に世の中に現れません。
 
1960年台初頭から名曲を生み続けている小林亜星さん。たまたま私の父と同世代ですからご年齢は実感できますが、嬉しいことに、非常にお元気だそうです。
 
そして、あの名作ドラマ「寺内貫太郎一家」そのままの、強くてこわい、頑固親父そのもの、といったキャラクターの方だそうです。
 
幸い私の父も元気です。これからもどうか、頑固親父そのままで結構ですからいつまでもお元気で、こどものようなピュアさと無邪気さの溢れる名曲を生み出し続けて頂きたいと、心から願います。
 
小林亜星さんの生み出した作品で、知らないうちに音楽の心を育てて頂き、美しい音楽と名曲を愛する音楽家となった私の、感謝を込めた心からの願いです。
 
 
 

 

【津田 直士 プロフィール】

作曲家 / 音楽プロデューサー

小4の時 バッハの「小フーガ・ト短調」を聴き音楽に目覚め、中2でピアノを触っているうちに “ 音の謎 ” が解け て突然ピアノが弾けるようになり、作曲を始める。 大学在学中よりプロ・ミュージシャン活動を始め、'85年よ りSonyMusicのディレクターとしてX (現 X JAPAN)、大貫亜美(Puffy)を始め、数々のアーティストをプロデュース。

‘03年よりフリーの作曲家・プロデューサーとして活動。牧野由依(Epic/Sony) や臼澤みさき(TEICHIKU RECORDS) 、BLEACHのキャラソン、 ION化粧品のCM音楽など、多くの作品を手がける。 Xのメンバーと共にインディーズから東京ドームまでを駆け抜けた軌跡を描いた著書「すべての始まり」や、ドワンゴ公式ニコニコチャンネルのブロマガ連載などの執筆、Sony Musicによる音楽人育成講座フェス『ソニアカ』の講義など、文化的な活動も行う。
 

 
 
moraで 津田直士の音楽を聴くことができます。
 
・プロデューサーとして作曲・編曲・ピアノを手がけた 
DSD専門自主レーベル"Onebitious Records" 『Gradation』 
http://mora.jp/package/43200001/OBXX00002B00Z/
 
・プロデュースを手がける
mora Factory アーティストShiho Rainbow の『虹の世界』『Real』『星空』 
 
 

 
 
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