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[1/27]【連載】松尾潔のメロウな歌謡POP 第4曲目

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第4曲目:Perfume「マカロニ」(2008)

 

 録画したものの未見だった昨年末の「NHK紅白歌合戦」を、1月も下旬の今ごろになってようやく観ました。年末の慌ただしさから距離を置いたこの時期に観る紅白もなかなか一興ですよ。明菜、聖子、ひろ子という80年代アイドルの巨星たちが番組に勢ぞろいすることの特別感。なかでも中森明菜の出演シーンは、テレビを観てるだけで事件の目撃者になったような、ざらりとした感触を久々にあたえてくれました。やっぱり目が離せないチャームの主だなあ、明菜さんは。

 いっぽう、お三方よりぐんと若いaiko、浜崎あゆみ、倖田來未といった30代の歌姫たちの落選も目立ちました。音楽界そして芸能界の最上層に身を置きつづけることの困難をあらためて感じさせます。浜崎と倖田に関しては、紅白の常連であると同時にレコ大受賞者でもありますし(浜崎は2001年から3年連続、倖田は2005年)。ぼくはここ数年のあゆの佇まいを好ましく思っているので(とりわけ宇多田ヒカル曲のカバーは出色でした)、特にそう思ってしまうのかもしれませんが。
 

 そんな諸行無常を感じさせる紅組勢力図の中で、気がつけば中堅という言葉が似合う安定感を身につけていたのがPerfumeの3人、大本彩乃(のっち)、樫野有香(かしゆか)、西脇綾香(あ〜ちゃん)です。まず歌唱前の紹介テロップに付された出場回数に目を疑いました。7回目。え、7回目! Perfumeが?彼女たち、スターになってからそんなに経っちゃったの? 「ポリリズム」からもうそんなに経っちゃったか、と。

 その存在が広く知られるきっかけとなったのは2007年9月リリースの「ポリリズム」ですが、それより前から感度の高いアイドルファンや音楽ファンの間では、作詞作曲からマスタリングにいたるまでの音まわりをひとりで仕切るプロデューサーの中田ヤスタカとセットでPerfumeは注目されていた模様。テクノアイドル、テクノプロデューサーなんて騒がれたりして。ですがぼくはPerfumeを観たこともなければ、中田さんのユニットCAPSULE(カプセル)もまったく知りませんでした。「ポリリズム」でNHKとACジャパン(当時は広告公共機構)の、つまりはNHKと全民放による共同キャンペーン(リサイクル啓発)という大舞台に出てきたときも、見慣れない女の子たちだけどずいぶんな大抜擢だな、事務所どこだろう?と訝しく思ったくらいで。ま、アミューズだったんですけど。

 アミューズといえばそりゃアナタ、昭和の名花、女性3人組アイドルの頂点とされたキャンディーズの伝説的マネージャー・大里洋吉さん創業の事務所ですからね。それを知っている以上、Perfumeをテクノアイドルと分類する以前に「平成版キャンディーズ」として見てしまうのは自然なことでございましょう。彼女たちが2002年に広島のローカルアイドルとしてインディーズでデビュー、2005年にはメジャーデビューしていたと知り、その意外にも長いキャリアに驚いたのはかなり後になってからです。
 

 蓋を開けてみれば「ポリリズム」はみごと週間7位のヒットを記録し、その後も超のつくロングセラーとなりました。ひとつ前のシングル「Fan Service[sweet]」が31位どまりだったことを考えれば、7位という数字が示す飛躍ぶりもよくわかろうというもの。大抜擢、つまり大勝負のタイミングできちんと結果を出したPerfumeと中田ヤスタカの快進撃はここから始まったといえるでしょう。「ポリリズム」の余韻が残るなか翌2008年1月に発売されたシングル「Baby crusing Love」は堂々の3位。そして4月のアルバム『GAME』でついに1位。これで一気に来ました! 何がってPerfume+ヤスタカの波が。黄金期が。『GAME』は暮れの日本レコード大賞優秀アルバムを受賞したほか、大晦日には紅白に初出場して出世曲「ポリリズム」を披露しています。

 この年、レコ大の本丸である「大賞」を初めて制したのはEXILEでした。受賞曲「Ti Amo」のプロデュースと作詞作曲を手がけたぼくは、レコ大本番を会場の新国立劇場の客席で(最後に名前が呼ばれて登壇するまでは)観るという栄に浴しましたが、ジェロが「海雪」で最優秀新人賞にかがやいた瞬間をぼーっと眺めながら、「ま、裏の新人賞はPerfumeだな」と独りごちたものです。2005年デビューの彼女たちにはもちろん新人賞ノミネートの資格さえありませんでしたが、その実ジェロをふくむ新人賞5組の誰よりも若かったのですから。のっちとかしゆかはハタチになったばかり、あ〜ちゃんにいたってはまだ19歳。その若さでの優秀アルバム賞受賞は最優秀新人賞以上の価値があったかもしれません。

 50万枚近くを売り上げたという『GAME』は、ぼくが初めて手にとったPerfumeのCD でもあります。もとよりマチュアな歌モノを好むぼくですから、成熟を拒絶したロボットのごときボーカル処理が施されたPerfumeの歌を何曲も聴きつづけるのはけして趣味ではありません。でも『GAME』にはぼくの心をつよく鷲掴みする楽曲が1曲収められていました。それが「マカロニ」という一風変わったタイトルの曲です。Perfumeに詳しい知人から聞いたところによれば、先述の「Baby crusing Love」のダブルリード曲として初めて世に出た時からファンの間では名曲と認定済みだったとか。
 

 「マカロニ」は静かな強さをたたえています。溌剌と歌い踊るタイプの楽曲ではない。かといってスローバラードでもない。ミッドテンポでメロディをじっくり聴かせるタイプの楽曲です。まず思い浮かべたのはフランスの人気エレクトロ・デュオ、ダフト・パンクの「Something About Us」。2001年のヒットアルバム『Discovery』収録のメロウチューンです。いや「思い浮かべた」という表現は正確ではないな。「ポリリズム」の時点で中田ヤスタカがアンダーワールド〜ダフト・パンク以降のミュージシャンであることは明白だったのですから。初めから彼らの影響をさがし出そうとしてぼくは「マカロニ」に向きあっていたのかもしれません(ちなみにアンダーワールドは2012年のロンドン五輪開会式の総合演出を務めた映画監督のダニー・ボイルと親密であることでも知られ、実際に同開会式では音楽監督を任されたイギリスのユニットです)。

 ダフト・パンクの「Something About Us」の価値が高いのは、編曲やミキシングなど音の意匠を剥ぎとっても「うた」としての普遍的魅力が残るから。詞と曲だけでも「よいうた」として成立する。日本でもJUJUがこの曲をアコースティックにカバーして、アレンジを変えても名曲の評価に傷がつかないことを実証しています。このお洒落な美女は脱いでも着替えても美女だと。

 同様の価値は「マカロニ」にもあります。フォークギター1本でも気持ちよく歌える普遍的かつ上質なラブソングなのだから。初々しいカップルのなにげない情景が淡々と描かれてこのうたは始まります。主人公の女の子には暖かみを帯びた観察眼があり、ふたりのぎこちない所作を「そんな空気もいいよね やわらかいよね」とつつみ込むやさしさもある。母性? そうかもしれませんね。

 Fm7→Gm7→Cm7というAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)ではわりとポピュラーなコード進行がえんえんと循環するトラックは、人懐っこいベースの音色とコード弾きに徹したエレクトリック・ピアノが印象的。装飾的になることを避けるかのように引き算で表情を演出してゆきます。案外この種のトラックにはR&Bスタイルの情熱的なボーカルもフィットするものですが、無論Perfumeはそんな橋は渡りません。あくまでノンビブラート唱法でフレーズの終わりを短く手堅くまとめました。それゆえ禁欲的な雰囲気も生まれ、主人公カップルは性行為におよんでいないのではないかという妄想をかきたてます。まあ当時のPerfumeの3人の実年齢も大いに関係しているでしょうが。
 

 サビに入ります。入り口の「これくらいのかんじで いつまでもいたいよね」というフレーズ、これがもうたまらない。まずノート(音符)の連なり=メロディとしてのすばらしさ。「これくらい」の「く」から「ら」にかけての跳躍度の高いメロディには、何度聴いても心を揺さぶられますね、ぼくは。

 くわえて詞としての素晴らしさにも目を向けなければ「マカロニ」の評価は成立しません。サビ始めの「これくらい」は曲の進行に応じて「どれくらい」と変わり、いったん「これくらい」に戻り、一転「わからない」と着地する。ほら、こうやって4つを並べるだけで恋愛の諸相を語りつくすことができるでしょう? そのことは、10代のリスナーにも、恋がもはや遠い花火に思えてしまう既婚者にも無理なく理解できるはず。この一見平易な4つの言葉を等間隔に配することで生まれる深みこそが歌謡POPのケミストリー。

 曲中で最も多くの肺活量を要するメロディは大サビ部分です。最も高い体温を感じさせる箇所でもあります。ここに中田ヤスタカは「最後のときがいつか来るならば それまでずっとキミを守りたい」という歌詞をあたえました。そうか、やっぱりこの子(主人公)も別れの気配を感じているのだな……。ぼくが「Ti Amo」で不倫の恋から抜け出せない女主人公にあえて「未来(あした)を見たくない」「生きてく覚悟はできてる」という矛盾を語らせた構図と似ているかも、と当時ふと感じたことを今でもよく憶えています。「マカロニ」には覚悟より諦観という表現が似合うぶん、よりクールな印象を受けますが。

 ここでの中田さんの仕事は、いわゆる「知性」ではなく「ポップミュージック的知性」がなければできないこと。「うた」だからできること、とも言えます。ポップミュージックづくりの現場で求められる知性のあり方は、一にも二にも「ストリートワイズ」なんです。「ワイズ」ではなく。「マカロニ」はそのよき手本でしょう。体現者としてのPerfumeの表現力も申し分ないし。
 

 すぐれた絵は少し離れて見ると新しい発見があるものですが、すぐれた音楽もまた「引き」で接してみることが大切ではないでしょうか。リリースからある程度の時間が流れると「マカロニ」はちがった表情を見せはじめました。当初ダフト・パンクを想起させた音意匠も、いまのぼくにはむしろボズ・スキャッグスがTOTOと作りあげた「Miss Sun」(1980年リリースだが、実際の制作は1977年といわれている)や、ユーミン流AORの極北「夕闇をひとり」(1981年)あたりが描く音景色と連なっているように感じられます。マカロニの穴の向こうにひろがる景色は存外に奥深いものでした。

 

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今回ご紹介した楽曲「マカロニ」はこのアルバムに収録!

Perfume『GAME』

 

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松尾 潔 プロフィール

1968 年生まれ。福岡県出身。
音楽プロデューサー/作詞家/作曲家

早稲田大学在学中にR&B/HIPHOPを主な対象として執筆を開始。アメリカやイギリスでの豊富な現地取材をベースとした評論活動、多数のラジオ・TV出演を重ね、若くしてその存在を認められる。久保田利伸との交流をきっかけに90年代半ばから音楽制作に携わり、SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後プロデュースした平井堅、CHEMISTRYにミリオンセラーをもたらして彼らをスターダムに押し上げた。また東方神起、Kといった韓国人アーティストの日本デビューに関わり、K-POP市場拡大の原動力となる。

その他、プロデューサー、ソングライターとしてEXILE、JUJU、由紀さおり、三代目J Soul Brothersなど数多くのアーティストの楽曲制作に携わる。シングルおよび収録アルバムの累計セールス枚数は3000万枚を超す。
2008年、EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲・プロデュース)で第50回日本レコード大賞「大賞」を、2011年、JUJU「この夜を止めてよ」(作詞・プロデュース)で第53回日本レコード大賞「優秀作品賞」を受賞。
NHK-FM の人気番組『松尾潔のメロウな夜』は放送5年目をかぞえる。

近著に『松尾潔のメロウな日々』(スペースシャワーブックス)。

 
 
 
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