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[1/13]【連載】松尾潔のメロウな歌謡POP 第2曲目

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第2曲目:キリンジ「エイリアンズ」(2000)

 

 第1回目では昭和の歌謡曲を取りあげましたので、今回はメロウなJ-POPを。最初にご紹介したいのはキリンジの2000年発表のシングル「エイリアンズ」です。

 

 ところで「J-POP」というタームですが、この造語の発信源が1988年に開局した東京の FM局「J-WAVE」であることはご存じでしょうか。まあぼくの体感だと今のような使われかたが定着したのは90年代半ばですけど。とまれ、堀込高樹(69年生)と堀込泰行(72年生)の兄弟デュオとして96年に結成され、1998年にメジャーデビューしたキリンジをJ-POPアーティストと呼ぶことにいささかの躊躇もありません。

 キリンジを聴くたびに痛感するのは、彼らがすぐれた洋楽リスナーであり、文学や映画をふくむサブカルチャー全般に造詣が深いことです。初期の彼らが強烈に発していたサブカルっぽさ(ここでは「シニカル」や「アイロニカル」とほぼ同義)は、それがどれほど弟の泰行さんの美声披露の場になっていたとしても、お兄さんの高樹さんの個性に負うところが大きいように目に映りました。曲名のセンスひとつにしてもそこに現代アメリカ文学(あるいは村上春樹、青山南、柴田元幸といったその紹介者たち)からの影響を見出すのはきわめて自然なことでした。

 

 6枚目のシングル「エイリアンズ」の作詞と作曲をてがけるのは弟の泰行です。編曲をキリンジと共に手がけるのはこの曲のプロデューサーでもある冨田恵一さん。冨田ラボと改名される前のお仕事ですね。選び抜かれた音色とジャズの手法をふんだんに盛り込んだアンサンブルには全く隙がありません。

 ここで描かれる詞世界は純文学的と呼んで差しつかえないもの。「遙か空に旅客機(ボーイング)」「公団」「僻地」「バイパス」「誰かの不機嫌も寝静まる夜」といった歌詞から想像されるのは、東京近郊のありふれたベッドタウンのありふれた夜の情景です。主人公とその彼女は自分らしく生きることに不器用で、ままならなさを抱えたまま日々を過ごしている。

 既存の何物にもしっくり帰属しかねている若者たちの苦悩のありようを「エイリアンズ」と言いきる手際に文学の香りが漂いますが、それを圧倒的に美しいメロディと耽美的ともいえるメロウなサウンドにのせて唄っているのが肝。実際のところ、これだけの詞世界が構築できるのであれば作編曲の仕事が多少おろそかであったとしても「耳で楽しむ純文学」として一定の評価が得られたことでしょう。でも心あるミュージシャンにとっては屈辱的評価でしかない「ブンガク」に堕することなく、あくまでポップミュージックに昇華させたところにキリンジの音楽人としての矜持を強烈に感じます。彼らが同業者から高い評価を受けているのは当然かもしれません。

 恋人にむかってどこか自嘲的に「僕の短所をジョークにしても眉をひそめないで」と海容を乞う主人公を描くことで、キリンジは「自分らしさ」をこじらせたまま成人してしまった若者の甘えを肯定する姿勢をみせます。詞中における「甘え」を音楽としての「甘やかさ」に昇華させる手腕はメジャーデビュー3年目のこの時点で早くも完成の域に達しています。

 甘やかさはサビの「キミが好きだよ エイリアン」で頂点に達しますが、そんな際でも高樹(ん?泰行かな?)がニヒルな色合いで下ハモを唄うことを忘れない。ちょうどお汁粉にひとつまみの塩を加えるように。甘い調べを奏でるキリンジは、がしかし甘いだけではないのです。

 

 オリコン42位、また収録アルバム『3』も18位というキリンジ史上最高位(当時)を記録した「エイリアンズ」がキリンジの代表作であることに異論を唱えるひとはいません。ただ、同年同月に同じ冨田恵一さんプロデュースで世に出たMISIAの「Everything」が200万枚を超す破格のセールスだったことを考えれば、「エイリアンズ」の数字は正直かなり物足りないもの。この曲を偏愛していたぼくも、これが日本のマーケットの限界なのかと落胆を感じずにはいられませんでした。そりゃあ「Everything」がMISIA一世一代の名バラードであることは認めますし、主題歌となったドラマ「やまとなでしこ」の高視聴率は凄まじかったものですが。

 ところが、世に出て15年近く経ったいまでは「エイリアンズ」は結構な数のカバーを生み出しているではありませんか(なかでも秦基博バージョンは秀逸!)。そこにぼくはこの曲のタイムレスな底力をみるのでした。ああ、ちゃんと届いていたんだと。

 

 ちなみに2013年に泰行が脱退したキリンジは複数の新メンバーを加えたバンド編成で再出発、泰行はソロ活動を展開しています。

 

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今回ご紹介した楽曲「エイリアンズ」のご購入は以下から!

3/キリンジ

 

文中で紹介のあった「秦 基博」によるカバーは以下から!(ライブ音源)

アイ/秦 基博

 
 

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松尾 潔 プロフィール

1968 年生まれ。福岡県出身。
音楽プロデューサー/作詞家/作曲家

早稲田大学在学中にR&B/HIPHOPを主な対象として執筆を開始。アメリカやイギリスでの豊富な現地取材をベースとした評論活動、多数のラジオ・TV出演を重ね、若くしてその存在を認められる。久保田利伸との交流をきっかけに90年代半ばから音楽制作に携わり、SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後プロデュースした平井堅、CHEMISTRYにミリオンセラーをもたらして彼らをスターダムに押し上げた。また東方神起、Kといった韓国人アーティストの日本デビューに関わり、K-POP市場拡大の原動力となる。

その他、プロデューサー、ソングライターとしてEXILE、JUJU、由紀さおり、三代目J Soul Brothersなど数多くのアーティストの楽曲制作に携わる。シングルおよび収録アルバムの累計セールス枚数は3000万枚を超す。
2008年、EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲・プロデュース)で第50回日本レコード大賞「大賞」を、2011年、JUJU「この夜を止めてよ」(作詞・プロデュース)で第53回日本レコード大賞「優秀作品賞」を受賞。
NHK-FM の人気番組『松尾潔のメロウな夜』は放送5年目をかぞえる。

近著に『松尾潔のメロウな日々』(スペースシャワーブックス)。

 
 
 
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